■ ようやく『金閣寺』三島由紀夫/新潮文庫を読み終えた。今回はこの小説を金閣寺を論じた優れた建築論として読み進んだ。金閣と心中するに至る学僧の心情を追うことはしなかった。
**戦乱と不安、多くの屍と夥しい血が、金閣の美を富ますのは自然であった。もともと金閣は不安が建てた建築、一人の将軍を中心にした多くの暗い心の持主が企てた建築だったのだ。美術史家が様式の折衷をしかそこに見ない三層のばらばらな設計は、不安を結晶させる様式を探して、自然にそう成ったものにちがいない。一つの安定した様式で建てられていたとしたら、金閣はその不安を包摂することができずに、とっくに崩壊してしまっていたにちがいない。**
**金閣は風のさわぐ月の夜空の下に、いつにかわらぬ暗鬱な均衡を湛えて聳えていた。林立する細身の柱が月光を受けるときには、それが琴の絃のように見え、金閣が巨きな異様な楽器のように見えることがある。**
うーむ、これは文学。
**・・・・私はようやく手を女の裾のほうへ辷らせた。
そのとき金閣が現れたのである。**
**みるみる乳房は全体との聯関を取戻し、・・・・肉を乗り越え、・・・・不惑のしかし不朽の物質になり、永遠につながるものになった。
私の言おうとしていることを察してもらいたい。又そこに金閣が出現した。というよりは、乳房が金閣に変貌したのである。**
うーむ、これも文学。学僧には気の毒としか言いようがない。
このところAモードだったが、ようやくBモード、それも小説モードになってきた。次は川上弘美の『古道具 中野商店』を新潮文庫で読む。