松本清張没後10年の企画として復刻された短編全集 2002年11月発行(初版は1964年3月発行)
■ オウム真理教の元幹部をかくまっていた元信者の女性が自首して逮捕された。大阪では潜伏していたマンション近くの整骨院に10年以上勤務していたという。このことを新聞で読んで、ある短編小説のことを思い出した・・・。
松本清張の短編全集5『声』におさめられている「顔」。この作品は映画化され、何回かテレビドラマ化もされている。
戦後の混乱期のことだ。井野良吉はある劇団の団員。映画会社から劇団に映画出演の交渉があって、井野はチョイ役で出演することになる。映画批評家にほめられ、映画監督にも気に入られた井野に新たな映画への出演依頼がくる。だが、井野には素直に喜ぶことができない事情があった・・・。 井野は過去に殺人を犯していた。 名声と地位を得るチャンスの到来だ。だが映画出演すれば「あの男」に自分の顔を見られる可能性が高くなる・・・。ジレンマ、葛藤。
大衆酒場で働くミヤ子との関係を断ち切ることができず、殺害を決意した井野。ミヤ子を山陰の温泉に行こうと連れ出したが、列車の中でミヤ子が知り合いの男を偶然見かけて声をかける。井野はミヤ子と一緒にいるところを男(石岡貞三郎)に見られてしまった・・・。
数ヶ月後、北九州の地方紙に事件を報じる記事が載る。**(前略)ミヤ子さんが男と二人連れで山陰線上り列車に乗っていたのを見た人があり、八幡署では、その連れの男が犯人とみて人相など聴取のうえ、捜査に乗りだした。**(106頁) **「ああ、やっぱりそうか。」と覚悟のうえながら、心臓の上を冷たい手でさわられたようにどきりとなった。**(106頁) **ぼくの顔が映画に出る。それを観たら、石岡貞三郎は飛び上がるに違いない。彼が映画を観ないとはどうして保証できよう。**(109頁)
偽名を使って大阪に潜伏していた元オウム信者の女性。彼女もきっと井野と同様の不安を抱えていただろう。いつか自分に気が付く者が目の前に現れるのではないか、と。
棲息地:松本市内田公民館の玄関 観察日20120108
■ 「建築に棲む生き物たち」、今年最初はおめでたい鶴です。松本市内田公民館は古い木造2階建ての建物です。きちんと確認しませんでしたが現在は使われていないと思います。前稿で紹介した火の見櫓の向かいにあります。その玄関の切り妻屋根に付けられている懸魚(げぎょ)に鶴が棲んでいます。
懸魚というのは元々棟木(上の写真よりも下の写真の方が分かりやすいです)や桁の小口をふさいで腐朽を防ぐ目的で付けられたものです。それがこのように装飾的な意味合いが次第に強くなってきたのです。 木造は火を特にきらいますから、中国では魚を吊すことがあったそうです。それが名前の由来と理解すればいいのでしょう。
懸魚ついては既に何回か書いています。鶴の棲む別の懸魚はこちら→過去ログ
棲息地:旧開田村の民家 観察日200904
火除けのために水と書いてあります。
棲息地:坂井歴史民俗資料館の唐破風@筑北村 観察日200912