■ 『人情裏長屋』 山本周五郎/新潮文庫
いままで山本周五郎の作品には全く縁がなかった。先日カフェバロのYさんに山周もいいですよと言われて推薦本を書店で探したがなかった。で、この本を読んでみたという次第。
推敲を繰り返した結果なのか、作家としての才能なのか、文章に冗長なところがなく、ものがたりは歯切れよく進む。
この本には11編の短編が収録されているが、ユーモアがあっておもしろいと思ったのは「ゆうれい貸屋」。「泥棒と若殿」もいい。ともに落語のようなタイトルだ。
「ゆうれい貸屋」 裏店暮らしの怠け者のところに現れた女のゆうれい。「あたしをかみさんにしてくれるウ」なんて言われて一緒に暮らし始める。**「いいじゃないのゆうれいだって、昼間はだめだけれど、夜だけなら煮炊きだって洗濯だって出来るし、そのほかにも世間のかみさんのすることなら、たいていなことはしてあげるわよ」**(272頁)
ふたり(?)はゆうれいを貸すなどという珍妙な商売を始めるが・・・。
「泥棒と若殿」 若殿が監禁されているボロ屋敷に忍び込んだ泥棒がそのまま屋敷に住みつき、共同生活をする話。泥棒と若殿、身分の違うふたりの友情ものがたり。
藤沢周平や最近読み始めた葉室麟の作品と比べると、どこか乾いた印象で、作中の人物に感情移入がなかなかできなかった。俯瞰的というか第三者的な覚めた読み方になった。表題作「人情裏長屋」を葉室麟が書いたら、それこそ涙、涙のものがたりになっただろう。
更に別の作品も読んでみたい。「山周評」はそれから。
さて、GW後半。久しぶりの村上春樹。 過去ログ ←
読了後に何か書こう。