■ 朝井まかてという作家については作品どころが名前すら知らなかった。樋口一葉関連本を何冊も読んでいるので、この歌人の名前は知っていた。中島歌子が波乱の人生を送ってきた人だったことをこの小説で知った。
歌子(登世)と水戸藩士で天狗党に参加した林以徳(もちのり)の運命的な出会い、そして結婚。天狗党の蜂起、賊徒の妻であるからと投獄された登世。凄絶な日々を生き延びて江戸に戻った登世が歌子と名前を変えて和歌の修行に励み歌塾「萩の舎」を主宰する・・・。
なんとも重い歴史小説。
**「何の、わが夫は地を這うてでも、いつか必ず志を全ういたします」
怒りで声が震えるのにも構わず、言葉を継いだ。
「惜しむらくはこの水戸藩でありましょう。内紛で有為の人材を死なせ、無辜(むこ)の妻子を殺戮し、この血染めの土地の上にいかなる思想を成就されるおつもりですか」**(301頁)
役人に向かって言い放ったこの言葉、中島歌子という人は凄い人だと思った。
朝井まかては直木賞を受賞するような作品をものする実力の持ち主。この際、別の作品も読んでみようと書店で探した。
**若い頃は「馬喰町の猪鹿蝶」(カバー表紙のイラスト)と呼ばれ、界隈で知らぬ者の無かった江戸娘三人組も早や三十路前。それぞれに事情と鬱屈を抱えた三人は、突如、仕事も家庭も放り出し、お伊勢詣りに繰り出した。てんやわんやの、まかて版東海道中膝栗毛!** 『ぬけまいる』/講談社文庫のカバー裏面の紹介文を読んでこれはおもしろそうと思い、買い求めた次第。