透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

813 坂城町上平の火の見櫓

2017-05-21 | A 火の見櫓っておもしろい


813 坂城町上平 撮影日170520

 上田市から坂城町方面に向かって千曲川の左岸側を走って行った。途中で右岸側の方が火の見櫓がありそうだと景色を見て思ったが橋が無い・・・。で、この火の見櫓が見えた時はうれしかった。



錆止め塗装が施され、銀色に輝く屋根と見張り台。蝶の吻を思わせる蕨手。放射状に伸ばされた床下地材。



簡素なつくりの踊り場、短い脚。ホース格納箱と比べればその短さが分かる。



カンガルーポケット(櫓の1面に持ち出した踊り場)。ここで注目は床の外周材の両端を留めているブラケット。手すり材端部の処理の仕方。それから半鐘を吊り下げている腕木のアングル材の先端の形、吊り材の形。一見同じように見える火の見櫓でも細部に注目すると、みんなちがう。

久しぶりに書く。ひのみやぐら みんなちがって みんないい。


 


812 上田市築地の火の見櫓

2017-05-21 | A 火の見櫓っておもしろい


812 上田市築地 撮影日170520

■ おそらくは地元の人しか通行しないであろう狭い道路をゆっくり進んでここに来た。住宅地で周囲に高い建物が無く、遠くからこの火の見櫓が見えたので。4本の脚、4角形の屋根、円形の見張り台。屋根の飾り、2種類のブレース、踊り場の形、そして脚。全形と細部共東信では標準的な形の火の見櫓。







この火の見櫓の梯子段に等辺山形鋼(アングル)が使われている。梯子を登り降りするときは手でこの山形鋼を握ることになるが、強く握ると痛いだろう。これは厳しい。人が直接触れる部材の選択には特に慎重でなければならない。





809 上田市神畑の火の見櫓

2017-05-21 | A 火の見櫓っておもしろい


809 上田市神畑 撮影日170520

■ 松本から三才山、平井寺両トンネルを抜けて上田市のサントミューズへ向かう途中でこの火の見櫓を見かけた。東信でよく見かけるタイプで、4角形の櫓に4角形の屋根、円形の見張り台というごく一般的な組み合わせ。櫓の中間の踊り場も東信ではごく一般的な形のカンガルーポケット。











吉田 博展@サントミューゼ

2017-05-21 | A あれこれ

■ 上田市のサントミューゼは大・小ふたつのホールと美術館、スタジオ、子どもアトリエなどからなる複合施設で2014年(平成26年)10月にオープンした。設計はコンペで選ばれた柳沢孝彦さんと梓設計のチーム。

柳沢さんは真鶴町立中川一政美術館や、東京都現代美術館、郡山美術館などの美術館も手がけている。樋口一葉記念館も柳沢さん。新宿初台の新国立劇場(旧称第二国立劇場)もそう。有楽町マリオンは竹中時代の作品。柳沢さんは高校の先輩で、出身校の教育会館の設計もしている(過去ログ)。

施設名称のサントは蚕都だと以前聞いた。上田は養蚕が盛んだったところで上田紬はあまり知られていないようだが日本三大紬のひとつ。

現在このサントミューゼ(上田市立美術館)で開催中の吉田 博展(会期:4月29日~6月18日)に行ってきた。展示替えが行われることになっていて、22日までの前期展示に火の見櫓のある風景を描いた作品があると聞いたので予定を変更して昨日(20日)出かけた。

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まずは建築について。


①模型写真 敷地の南側(①の右側)を千曲川が流れている。

エントランスホールの一角に模型が展示されていた。模型写真と下の施設案内図で分かる通り、この施設は円形のコリドール(回廊)をメイン動線として美術館と大小ふたつのホール、その他の施設を配置している。コンセプチュアルなプランだ。

美術館には青、ホールには赤のイメージカラーが与えられていて案内図の両施設の輪郭線にこの色を用いているが、分かりにくいのは残念(写真③)。

円形のコリドールの内側は芝生広場になっている。ちなみに金沢21世紀美術館はこのコリドールの直径とほぼ同じ円形(直径約113m)のプラン。

芝生広場の先(模型②の下方)に見えるのが大型の商業施設というのは何とも残念。②を上下反転して千曲川側に広場を向けるという配置計画もあり得たのでは。当然そのようなプランも検討されたのだろうが、この配置にしたのはどのような理由によるのだろう・・・。


②模型写真


③施設案内図


④外壁のパターン

大きな外壁面をストライプな凹凸をつけたコンクリート打ち放しで仕上げている。黒い帯は木。

円弧を描く主動線、コリドール。地元産の木材(カラマツ材)が壁面に多用されている。コンクリートと木材、素材感の上手い表現。







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エントランスホールに入るも、チケット売り場が見当たらない。職員に訊けば、なんとミュージアムショップで売っているとのこと。エントランスホールにチケットカウンターがあるかと思いきや然にあらず。これはどうしたことだろう。制服姿ですまし顔の美女がカウンターにいて、チケットを扱っていないとダメでしょう。高級レストランが大衆食堂並みの対応では、展覧会に入る鑑賞者の気持ちが高まらない。演出として疑問。

施設のリーフレットに館内案内図が載っていないのも不便。複合施設であればなおさらだ。建築も芸術そして文化なのだから基本的な情報(設計者・施工者・設計コンセプト・床面積・開館年月など)も載せて欲しいところ。



さて展覧会。

あのダイアナ妃も、フロイトも吉田 博のファンだっという。夏目漱石の「三四郎」にも作品が出てくるというから、有名な画家なのであろう。が、私はこの画家を知らなかった。

手元にあるリーフレットによると吉田 博は1876年に久留米で生まれ、東京の画塾・不同舎に学び、絵画の素養を身に付けたという。

会場内で流れていたビデオ映像によると、吉田 博は黒田清輝(代表作「湖畔」は美術の教科書に必ず載る)の白馬会に対抗して設立された平洋画会のリーダー。反骨精神旺盛で、自分より絵の上手くない者が国費でフランスに行くなら、自分はアメリカだ、と自費で行ったという。

水彩画、油彩で描いた風景、そして淡い色彩の木版画の数々。多作な作家だったのだろう、前期の展示作品を出品目録で数えると200点以上あった。すばらしいことに水彩で描かれた日本の風景には湿った空気が表現されている。水彩画や確か40歳を過ぎてから始めたという版画の精緻な表現が好い。油彩画にも同じような表現傾向が見られ、細部まで表現してあるが、私は油彩画の場合はもっと大胆にざっくりと描いてある作品の方が好みだ。

目当ての火の見櫓のある風景を描いた「街道風景」という作品は水彩画で、街道の両側に石置き板葺きの切妻屋根の民家が並ぶ絵だった。火の見梯子が道路沿いに立ち、後方にうっすらと描かれた山がある。紅葉した木々から季節は秋だと分かる。

このように道路を中心に配置し、両側の家屋などで遠近感、奥行き感を示す構図を「道路山水」というそうだが、これは繰り返し書いているように私が惹かれる構図だ。道路山水という言葉を覚えておこう。

この絵の民家の破風板は棟で交叉している。吉田は山好きで上高地でも絵を描き、登山もしているから、長野県内の風景かも知れない。街道に妻側を向けている民家もあれば平側を向けているものもある。描かれた場所はどこだろう・・・。

私は会場内の数ヶ所に設置されたケースの中に展示された写生帖に描かれた風景スケッチに特に惹かれ、魅せられた。的確に対象の形を捉え、簡単に着色しているが、これが実に魅力的だった。

画才に恵まれた作家だ。展示替されたらもう一度出かけたい。


「道路山水」的構図 火の見櫓のある風景 須坂市須坂にて