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『魔の山』トーマス・マン作 関 泰祐・望月市恵訳(岩波文庫1993年第9刷(上巻)第8刷(下巻))
■ ぼくは北 杜夫の作品が好きでずいぶん読んだが、その北 杜夫が敬愛していたトーマス・マンの作品ということだけで読んだ約1,300ページ(上下巻)もの大作。
ハンス・カストルプは従兄を見舞いにスイス山中のサナトリウムを3週間の予定で訪れるのだが、滞在中に病気にかかり、院長の診察を受ける。すると結核だとわかり、そのまま療養生活を送る羽目に。ぼくはこの長大な教養小説を1994年の10月から11月にかけて読んだ。
**(前略)日常世界から隔離され病気と死が支配するこの「魔の山」で、カストルプはそれぞれの時代精神や思想を体現する数々の特異な人物に出会い、精神的成長を遂げてゆく。『ファウスト』と並んでドイツが世界に贈った人生の書。** 上巻のカバーより(写真)。
この小説の訳者の望月市恵は北 杜夫の『どくとるマンボウ青春記』に出てくる旧制松本高校の教師。松高時代、北 杜夫はある時、事件をひき起こす。交友会の新旧委員の交替の席で酔っぱらってふたりの先生をなぐってしまったのだ。その内のひとりが、望月先生だった。望月先生とはこの事件がきっかけとなって、先生のお宅に出入りするという関係に。おそらく北 杜夫にとって、先生は人生の師だったのでは。その頃の様子を「青春記」から引く。
**松高時代はもとより、大学にはいってからも、アルプスに登った帰りなど、しばしば私は穂高町にある先生のお宅に泊めていただいた。この先生とは、『魔の山』『マルテの手記』などの訳者である望月市恵先生である。**(『どくとるマンボウ青春記』中公文庫 102、103頁)。
「青春記」には次のようなくだりもある。**ところで、高校の寮とは、小規模な一種の『魔の山』ともいえないであろうか。寮生はすべてきたない精神的な病菌に冒されていて、外界とへだてられたむさくるしい寮に起居しているのだ。ダヴォスの療養所のおいても、末期には麻痺とヒステリー状態が蔓延した。西寮の三学期の生活もそれに近かった気がする。**(上掲書104頁)
『魔の山』はただ読んだ、というだけで、その克明な描写を味わうということにはならなかった、と記憶している。
再読するか? もうこの作品を読み通す気力は無い・・・。