新潟県上越市板倉の蔵:漆喰の白壁が周囲の緑によく映えて美しい。110709
美しい造形の蔵だ。プロポーションが実にいい。妻壁の開口部の上部の庇と両側の袖壁は雪や雨の吹き込みを防ぐためだろうが、この設えはこの地方独特のものなのかもしれない。屋根の雪割り棟は長野県の大町以北、白馬村や小谷村でも見ることができる。
上越市高田の蔵 110709
■ 上越市板倉区で見かけた蔵(前稿)と同様、雨や雪の吹き込みを防ぐために開口部周りを囲っている。この地方の守りの形。
■ 新潟県上越市まで「ゑしんの里記念館」と「小林古径邸」の見学に出かけます。
梅雨が明けていないので天気が気になりますが、日頃のおこないが良い!ので今日は大丈夫、傘はいらないでしょう。^^ 「ゑしんの里記念館」の近くに火の見櫓が立っていることが分かっています。見学ついでに火の見櫓も観察してきます。帰宅してから見学記を書こうと思います。
「ゑしんの里記念館」設計:池原義郎/恵心尼は親鸞の妻、晩年を記念館所在地の板倉で過ごした。
「小林古径邸」設計:吉田五十八/小林古径は上越市出身の日本画家
松本の蔵 110706
■ 松本市内の蔵(しばらく前にもこの蔵の写真を載せました)の外壁に付けられている2段の帯に注目。
本来この帯は鉢巻きのようにぐるっと外壁を一周しているのですが、どうやらその一部が欠落したまま外壁が補修されたようで、帯の断面(小口)を見ることができます(右の写真)。断面の形状からこの帯が単なる飾りではなく水切りであることが分かります。
外壁を伝わって落ちる雨水はこの水切りで外壁を離れて落下します。外壁の汚れや劣化を防ぐための工夫ですね。このような工夫は今の建築にも取り入れることができます。
先人たちの工夫にもっと注目すべきだと思います。
■ 6月の読了本はこの3冊。
『環境デザイン講義』 内籐廣/王国社
**身体も衣服も環境のアイテムです。建築も都市も田園風景も環境のアイテムです。そうしたものすべてを、姿形のあるものとしてどのように解釈し、そしてさらに構築していくか、これが「環境」と「デザイン」を論じていく意味でもあるわけです。**40頁
『日本の建築遺産12選』 磯崎新/新潮社とんぼの本
日本建築史を「垂直の構築」と「水平の構築」という対概念であらためて読み解く、という試み。磯崎さんが取り上げているのは垂直の構築「出雲大社」と水平の構築「伊勢神宮」から水平の構築「代々木オリンピックプール」と垂直の構築「水戸芸術館アートタワー」までの6組。
三十三間堂 200801 柱の単純な反復による「水平の構築」
『天頂より少し下って』 川上弘美/小学館
表題作。 学生結婚をした真琴は三十歳になる直前に離婚した。夫に恋人ができたのが離婚の理由だった。真琴は息子・真幸をひとりで育て上げた。真琴は今四十五歳。いままで何人かの男と恋をしてきた。ある日真琴がバーのカウンターで恋人の涼と飲んでいると、若い男女が扉を開けて入ってきた。男は真幸だった・・・。
朝ごはんを必ず一緒に食べることにしている真琴と真幸。**あれは母さんの恋人なの?(中略)「それより、あの女の子の方こそ真幸の恋人なの」**(190、191頁)こんな親子関係もあり、なんだ。若い作家には書けないかもしれないな、こういう小説。
タイトルの「天頂より少し下って」というのは月の位置のことだと最後に判る。これは真琴の人生の今の位置を暗示する言葉でもあるのだろう。
「一実ちゃんのこと」。 予備校で一実ちゃんと知り合ったあたし。ある日昼食を牛丼屋ですませたあたしたち。一実ちゃんはあたしをお茶に誘う。「私、クローンの生まれだから」と一実ちゃんが話始める・・・。一美ちゃんのお父さんは遺伝子工学の学者で先端のクローン技術の研究に携わっていたのだった(今は転職しちゃったけど)。
星進一のショートSFとどことなく雰囲気が似ているような・・・。川上弘美は学生時代、SF研究会に入っていたそうだから、こんな小説を書いても不思議ではない。
7月はこの本から。
■ 一昨日(6月30日)、安曇野市の新本庁舎基本設計プロポーザルの公開プレゼンテーションが行われた。山下設計と地元設計事務所のチームを押さえて、内籐廣さんと地元設計事務所のチームが設計者に選ばれた(7人の審査員によって行われた投票はこの2JVに集中し、4:3となった。この結果が最終結論となった)。
内籐さんたちの提案したシンプルな扇形のプランは計画予定地の西から北に広がる北アルプスの眺望を意識すると共に西側に隣接する老人施設に背を向けない配慮をした結果導き出されたものだと理解した。変形敷地に対してフィットする形でもあるのだろう。既存の施設と一体となって新たな屋外環境を創出できるか、という観点からも妥当な配置に思われる。
新しい庁舎は積極的に木質化(構造は免震RC造)することが提案されていた。木を使うことで親和性を得るというものだった。内装にはもちろんのこと、外装にも積極的に木を使う提案がなされていた。唐松(樹種はこれからの検討課題としていた)の角材の縦型ルーバーを外壁に取り付けるというものだ。
地上部5層の外壁に取り付けられた木製縦型ルーバー、そしてフラットルーフ・・・。外観の印象は昨年(2010年)完成した和光大学の新総合棟によく似ている。この稿を書いていて、外壁に木製ルーバーを付けた実施例が東京は表参道にあることを思い出した。記憶が間違っていなければ設計者は隈研吾さん。
内藤さんたちの計画案は街路景観(ストリートビュー)には唐突、ボリュームが大きくて馴染んでいないという印象を持った。そう、いまのところ街路には歓迎されない形。
外壁に凹凸が無いマッシブな形状は景観にはあまり馴染まないが(低層部を配したり、建物を分節したりしてスケール的に街路に馴染ませるという提案もあった)、外皮面積が少なく、省エネ建築でイニシャルコストの面でも有利なはずだ。
長々と書かないでまとめてしまおう。
この提案はふたつのジレンマを抱えている。これは今日の建築に共通する課題に一般化されるといってもいい。
①西から北に積極的に開いて安曇野の風景を取り込みたい・・・、でもそうすると西日をモロに受け、特に夏の冷房負荷が増す・・・。
②マッシブな形にして省エネ化したい、特に熱の出入りを積極的に押さえたい・・・、でもそうすると周辺の環境に馴染まない・・・。
「安曇野のコンテクスト(総合的な文脈)に同調するサスティナブルな建築」 さてどんな建築ができるだろう・・・。
■ 地球は10数枚のプレートで覆われています。プレートの厚さはおよそ100km。随分厚い、という印象ですが、地球の直径って13,000kmくらいですから、直径130mm、13cmのボールに置き換えると、プレートというか表皮の厚さはおよそ1mm。薄い!!です。しかもひびだらけ・・・。(地球の直径やプレートの厚さは暗算しやすいようにざっくりと押さえました。)
たった10数枚のプレートのうちの4枚が日本列島付近でせめぎあっているんですね。プレートのおしくらまんじゅう。4枚のプレートって、北米プレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレートそれから太平洋プレートです。テレビで何回も見ましたから、まだ覚えています。
3月11日の大地震は北米プレートと太平洋プレートの境界域で起きました。両プレートは相性がよく、強くくっついていて歪が大きくなるまで固着域(アスぺリティ)がなかなか離れないそうで、これが巨大地震の発生理由だといわれています。
6月30日の朝、松本で震度5強の地震が発生しました。震源に近い市の南部では瓦葺屋根の棟瓦が崩れるなどの被害が出ました。シートで養生した屋根があちこちに見られます。棚からものが落ちるなどの被害も出ました。
松本は糸魚川から静岡に至るフォッサマグナの上の地方都市で、フォッサマグナは北米プレートとユーラシアプレートの境界域にありますから、北米プレートが3月の大地震で失ったバランスを取り戻す過程で、昨日の地震が起きたのだ、と素人なりに解釈しています。このところ頻発する地震はすべてそうでしょう、きっと。
そのうちもっと大きな地震が発生するのではないか・・・。心配ですが、まあ、そのときはそのとき。
『津波災害』河田惠昭/岩波新書