透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「コンビニ人間」

2018-09-14 | A 読書日記



 久しぶりに小説を読んだ。

芥川賞を受賞した村田沙耶香の『コンビニ人間』は18ヵ国語に翻訳することが決まっているそうだ。このことを知ったのは何日か前の新聞広告だった、と思う。芥川賞受賞作ということよりも18ヵ国語に翻訳される作品だということで読んでみようと思った。

コンビニで働く人たち、コンビニを利用する人たちの人間模様、そんな予見は外れていた。

主人公の古倉恵子は36歳、独身。コンビニバイト歴18年。

少し奇妙がられる子どもだったことが、次のような出来事で語られる。幼稚園のころ、公園で死んでいた小鳥を母親のところへ持っていき、「お父さん、焼き鳥好きだから、今日、これを焼いて食べよう」と言ったり、小学校に入ったばかりの時、男子のけんかを止めようと、スコップ持ち出して頭を殴ったりした。

こんなことを知ると、恵子は「普通」の人ではないな、と思う。両親は「どうすれば『治る』のかしらね」と相談もする。

やがて恵子は大学生になり、コンビニでアルバイトを始める。**なぜコンビニエンスストアでないといけないのか、普通の就職先ではだめなのか、私にもわからなかった。ただ、完璧なマニュアルがあって、「店員」になることはできても、マニュアルの外ではどうすれば普通の人間になれるのか、さっぱりわからないままなのだった。**(26頁)

事細かに決められたマニュアル通りに振舞い、行動することでしか社会の枠の中に留まることができない恵子。

コンビニでアルバイトを続ける恵子の前に現れた白羽という男も「普通」ではなかった。

**「こういうのって、男の本能に向いている仕事じゃないですね」白羽さんがぼそりと言った。「だって、縄文時代からそうじゃないですか。男は狩りに行って、女は家を守りながら木の実や野草を集めて帰りを待つ。こういう仕事って脳の仕組み的に、女が向いている仕事ですよね」**(55頁)

実は白羽という男も社会の枠の中に自分を納めることができないことに悩み、コンプレックスを抱いていたのだった。

やがてこのふたりが同居生活を始めると世間は「普通」のふたりと見る。彼女の妹は**『お姉ちゃん、本当によかったね。ずっといろいろあって苦労してきたけど、全部わかってくれる人を見つけたんだね・・・!』と感動する。

だが、ふたりが同居するアパートを訪ね、生活ぶりを知った妹は**「お姉ちゃんは、いつになったら治るの・・・?」(中略)「もう限界だよ・・・どうすれば普通になれるの? いつまで我慢すればいいの?」**(130頁)と泣き、顔を伏せる。

二人も「普通」の生活をしようとして、恵子は白羽と面接会場に向かうが・・・。

**「いえ、誰に許されなくても、私はコンビニ店員なんです。人間の私には、ひょっとしたら白羽さんがいたほうが都合がよくて、家族や友人も安心して、納得するかもしれない。でもコンビニ店員という動物である私にとっては、あなたはまったく必要ないんです」**(159、160頁) ふたりは別れる。

**「だから現代は機能不全世界なんですよ。生き方の多様性だなんだと綺麗ごとをほざいているわりに、結局縄文時代から何も変わっていない。少子化が進んで、どんどん縄文に回帰している。生きづらい、どころではない。ムラにとっての役立たずは、生きていることを糾弾されるような世界になってきてるんですよ」**(106、107頁)

この白羽の発言は作者の現代社会に対する認識を示している。この小説のベースにはこのような社会の状況に対する批判的なスタンスがあるだろう。で、普通の人間とは何か、普通の暮しとは? 「普通」とは何か?を読者に問うている。

「普通」に自分を納めることができない者はどう生きて行けばよいのか。コンビニ人間に示されるような社会のマニュアルに従う生き方しかないのか・・・。

これは実によくできた実験小説だ。 


 0914加筆

 


鴇色の朝

2018-09-13 | E 朝焼けの詩


撮影日時 180913 05:24AM

 今朝の朝焼けは鴇(トキ)色かな。

鴇色の説明をネットで探した。鴇の風切羽の色で、やや紫に近い淡いピンクという説明が見つかった。

こんな淡い色もいいなあと思いながら刻々と変わる東の空の様子を見ていた。


写真を差し替えた。


「世界がわかる地理学入門」

2018-09-12 | A 読書日記



■ 『世界がわかる地理学入門 気候・地形・動植物と人間生活』水野一晴/ちくま新書を読んだ。

**暑いところから寒いところ、乾燥した場所から雨の多い場所まで、世界は多様である。その多様な気候に応じて植物や動物が分布し、人々は厳しい環境と格闘し、工夫をこらし、手に入る生物資源を上手く利用して生活を送ってきた。**(あとがき 309頁)

「地球も小っちゃな星だけど 幸福いっぱい 空いっぱい」 と島倉千代子は歌ったけど、その小っちゃな星の自然のなんと多様なことか、地形のなんと変化に富んでいることか。本当は世界を旅し、直接目にしてこのようなことを実感できればいいのだろうが、それが叶わぬ身ゆえ・・・。

残念なのは写真が小さく、口絵以外カラーでないこと。


 


東雲色の空

2018-09-11 | E 朝焼けの詩


撮影日時 180911 05:22AM

■ 豊かな自然がこの国に暮らす人々の感性を育てたのだろう。色の和名は数多い。

「東雲色」が新聞の色を紹介するコラムに載っていた。

**夜明けの頃に、東の空が白み始め、だんだん色づいていく時の黄赤色を東雲色(しののめいろ)という。**とコラムにある。コラムにはカラーチャートも載っている。

今朝の朝焼けは東雲色。風雅だなあ。





市川三郷町のマンホール蓋

2018-09-09 | B 地面の蓋っておもしろい



 山梨県西八代郡市川三郷町は市川大門町、三珠町、六郷町が2005年に合併して誕生した。これは旧六郷町のマンホール蓋。六郷町は印鑑の町として知られている。緑化火の見を背景にマンホール蓋を撮影した。

全国のマンホール蓋は既に撮り尽くされている。後からこの世界に入りこんだ者として、「火の見櫓を背景にする」という条件を付加してマンホール蓋を撮っている。



蓋の上部は「特定環境保全」、中央には「公共下水道事業」、下部には「六郷町」と、印鑑によく使われる篆書(てんしょ)体で記されている。中央の文字は事業しか読めなかったが、ネットで調べて公共下水道事業だと分かった。

印鑑そのものもデザインされている。確認していないが、中央の帯の上は六郷町の町章だろう。町章も印鑑もない方がデザイン意図がストレートに伝わりやすい。引き算の美学は私の好み。


近くにあった貯水槽の蓋


 


富士川町のマンホール蓋

2018-09-09 | B 地面の蓋っておもしろい

◎ 山梨県の富士川町は2010年に増穂町と鰍沢町が合併して発足した。町には旧増穂町と旧鰍沢町のマンホール蓋があり、ひとつの火の見櫓を背に両方のマンホール蓋を撮ることができた。


撮影日180901



旧増穂町のマンホール蓋には旧舂米(つきよね)学校(現資料館)と町の木・マツ、町の花・アヤメがデザインされ、「ますほ」「おすい」の文字が入っている。


この蓋のすぐ右に旧増穂町のマンホール蓋がある。



旧鰍沢町のマンホール蓋には町の花・サクラと町中を流れる富士川がデザインされ、「かじかざわ」の文字が入っている。合併前の旧町のマンホール蓋を同時に見ることができた。 ともに受枠には武田菱が配されている。


 

 


懐かしいデザインのバス

2018-09-09 | A あれこれ


復元される外堀の芝面が写っている。

■ 松本城の外堀復元計画(現在あるのは内堀)は対象地が自然由来の鉛とその化合物に汚染されていることが判明、芝張りの平面復元に変更された。この計画の模型が松本市役所東庁舎1階のホールに展示されている。

模型の道路には車のリアルな模型が置かれている。地元アルピコ交通の懐かしのバスもあったので、写真を撮った。せっかく撮った写真なので載せておきたい。




懐かしいデザイン


 


「ゴールデンアイ」

2018-09-09 | E 週末には映画を観よう

週末には映画を観よう

■ 本作でボンド役がカッコいいピアース・ブロスナンに変わり(5代目)、Mも女性、ジュディ・デンチに。Mは自分の方針が気に入っていないとみたボンドに向かって「あなたは女性蔑視の太古の恐竜で冷戦の遺物」、「男を死の地に送ることを私が躊躇すると思う?」などと厳しい言葉を浴びせる。それでも、部屋を出ようとするボンドに向かって「生きて戻って」とも言う。このおばさんMはなかなか好い。配役交代が上手くいったと思う。

秘書のマネー・ペニーもサマンサ・ボンドに変わった。彼女がボンドに気があるという設定は変わらず、交わす会話でロジャー・ムーアとのやり取りを思い出した。Qは今まで通り、白髪のおじいちゃん。相変わらずマニアな武器開発ぶり。

今回のボンドガールはロシアの秘密宇宙基地のプログラマーのナターリア。丸顔でショートカット、ミニスカートを穿いたOL風のかわいい子。イメージとは違ってボンドと共に俊敏な走りを見せる。

今回ボンドの敵はヤヌスという犯罪組織で、首領はなんとボンドの元同僚、006のアレックという男。第二次大戦でイギリスが彼の両親の出身地・コサックをソ連に引き渡したために、両親が亡くなったことで、イギリスを恨んでいて、2重スパイをしていたというわけ。

彼はソ連時代の秘密兵器「ゴールデンアイ」を奪って、ロンドンを宇宙から攻撃することを企んでいる。様々な情報というか記録を消去することで世界経済を白紙化、大混乱に陥れるのが狙い。

ボンドとボンドガールはこのとんでもない企みを阻止できるか・・・(もちろんできる)。

ラスト、お決まりの、誰も見ていない場所と思いきや・・・。


 「消されたライセンス」は省略する。


ブックレビュー 1808

2018-09-08 | A ブックレビュー

8月の読了本はこの3冊。

『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』森下典子/新潮文庫

**お茶を習い始めて二十五年。(中略)がんじがらめの決まりごとの向こうに、やがて見えてきた自由。「ここにいるだけでよい」という心の安息。雨が匂う、雨の一粒一粒が聴こえる・・・季節を五感で味わう歓びとともに、「いま、生きている!」その感動を鮮やかに綴る。** カバー裏面の本書紹介文より引用。

著者は秋11月の雨音と梅雨6月の雨音が違うことに気がつく。そして同じ雨なのになぜだろう?と考える。そして気がつく。11月は葉っぱが枯れてしまっていて、雨は淋しげに土にしみ込んでいく。6月の雨音は、若い葉が雨をはね返す音なんだ、と。

豊かな感性を以って感じる四季のうつろい、時の流れ。いいなあ。

『屋根の日本史 職人が案内する古建築の魅力』原田多加司/中公新書

著者の原田氏は檜皮葺師・杮葺師で、国宝・重文などの屋根の修復を多数手がけておられる。

本書で、原田氏は現場で得た直接的な経験・情報(知識)を基にこの国の伝統建築の屋根について、いや、建築そのもについて詳細に論じている。机上で得られる間接的な情報を基にした論考とはやはり違う。 2009年初読

『新 共生の思想』黒川紀章/徳間書店

何年ぶりかの再読。

「共生」をキーワードに広く経済・社会・文化を論じている。これだけ広範な領域を対象に論考した黒川氏はやはりすごい。これ程の知的バックボーンを以って建築設計に取り組んだ建築家を他に知らない。

今夏盛り上がったサッカー・ワールドカップロシア大会、その主要会場だったサンクトペテルブルク競技場は黒川氏の設計。







1069 身延町大島の火の見櫓

2018-09-08 | A 火の見櫓っておもしろい


1069 南巨摩郡身延町大島 甲斐大島駅の近く 撮影日180901


本稿で9月1日の山梨県火の見櫓巡り(釜無川、富士川沿いの市町)の記録の掲載終了。

 もう何年の前のことだが、沢木耕太郎の『深夜特急』を、出てくる都市の位置を世界地図で確認しながら読んだ。移動ルートが分かり、少しだけ旅気分が増した。

今回の火の見櫓巡りの記録も昭文社の分県地図「山梨県」(縮尺1:150,000)で場所を確認しながら書いた。分県地図ではルートの詳細までは確認できないが、概要を掴むことはできる。そうか、ここを通っていたのか・・・。


1066 身延町宮木の火の見梯子

2018-09-07 | A 火の見櫓っておもしろい


1066 南巨摩郡身延町宮木 撮影日180901



■ このような構造を見たことがない。見たことがないものはよく分からない。分からないことは書くことができない。

穴あきの軽溝形鋼を向かい合わせ、丸鋼を溶接して踏桟にしている、という捉え方が合っているのかどうか。上部のSカーブさせた部材は何? 補強のため?