史跡訪問の日々

幕末維新に関わった有名無名の人生を追って、全国各地の史跡を訪ね歩いています。

「全一冊 小説 吉田松陰」 童門冬二著 集英社文庫

2009年01月15日 | 書評
 描く対象である人物にぞっこん惚れ込むというのが、童門冬二氏の主義なのかもしれない。童門氏自身もこの作品の中で、「単に松陰をエライ、エライと持ち上げるだけが能ではない。やはり松陰も人間だったと考えることも正しい評価につながるのではなかろうか」と書いているが、私が読んで感じた限り、「エライ、エライと持ち上げる」に終始しているという印象が強い。どなたかが松陰のことを「奇矯な校長先生」と評していたが、間違いなくそういう一面もあったと思う。手放しで松陰を絶賛する姿勢には違和感を覚えるのである。
 600ページを超える分厚い文庫本であり、その中で何度も同じエピソードが紹介されていたりして、やや「クドイ」という部分もあるが、吉田松陰ファンとしては堪えられない本であろう。松陰が撰文を書いた烈婦登波の碑を訪ねて、わざわざ豊北の滝部まで車を走らせた私である。この本でも登波のことを紹介しているのにはちょっと感動した。登波といい、高須久子といい、世間の常識に反するところがありながら、何か一つのことをやり通す女性が松陰の女性の好みだったのでは…という指摘は小説家らしい面白い着眼だと思った。

コメント (1)
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