史跡訪問の日々

幕末維新に関わった有名無名の人生を追って、全国各地の史跡を訪ね歩いています。

「彰義隊」 吉村昭著  新潮文庫

2009年01月17日 | 書評
 待望の文庫化である。新居浜出張の往復の車中で一気に読破した。
 私もこれまで輪王寺宮(のちの北白川能久親王)の足跡を追って、浅草東光院、市ヶ谷の自證院、仙台の仙岳院、更に白石城などを訪ねたが、今回「彰義隊」を読んで、これまで点でしかなかった輪王寺宮の潜伏地が、見事に全て線で繋がった。いつもながら吉村氏の緻密な追跡取材には感心するばかりである。
 「逃避行」の描写は、吉村氏の得意とするところである。「長英逃亡」「桜田門外の変」も「逃避行」を主題とした小説といえるかもしれない。輪王寺宮は、皇族でありながら、泥水に浸かり、医者に変装し、夜陰に紛れて必死の思いで江戸から脱出したのである。
 更には、板倉勝静、小笠原長行、松平定敬らが、奥羽の地に追われ、遂には榎本軍が抗戦する五稜郭まで逃避する姿も描く。老中や京都所司代といった幕府の重職を務めた大名たちが、五稜郭では何の役に立たず、厄介者扱いされていた。維新後の悲哀に満ちた人生は、決して表の歴史では語られることのない隠れた史実である。
 戊辰戦争で朝敵となった輪王寺宮は、生涯その不名誉に悩まされる。ようやく巡ってきた雪辱の機会が、台湾征討であった。しかし、宮はマラリヤに侵され、台南で不帰の人となる。この小説を完成させた吉村氏も、その後1年余りで帰らぬ人となった。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする