映画「浮き雲」は1996年のフィンランドの異才アキ・カウリスマキ監督作品
97年のキネマ旬報ベスト3となっている。失職した夫婦が彷徨う姿をえがく。
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「シャイン」「イングリッシュペイシェント」という名作よりも上位に評価されている。この映画も見るチャンスを逸していた。ときおり名画座でアキ・カウリスマキ特集をやることがあるが、スケジュール合わない。しかも、レンタルにはなかったし、DVDは高すぎる。今回レンタル化されようやく見れた。
不景気によるリストラで失業した夫婦がドツボにはまっていくパターンは、いつものアキ・カウリスマキ作品と同じパターンだ。美術マルック・ペティレ、撮影ティモ・サルミネンも一緒である。彼の作品にはモノトーンも多いが、これはカラー作品だ。この色彩設計もいかにも彼の作品らしい。我々には同じものを見ている安心感がある。最新作「ルアーブルの靴みがき」でも主婦役を演じたカティ・オウティネンがここでも主演だ。後味がいい心地良い傑作であった。
ヘルシンキの街角に立つ、かつての名門レストラン「ドゥブロヴニク」
ピアノをナットキングコールスタイルで弾きながら歌う歌手が映しだされる。素敵なライブの中食事ができる「ドゥブロヴニク」でイロナ(カティ・オウティネン)は給仕長をつとめていた。店の帰り際に夫のラウリ(カリ・ヴァーナネン)が運転する市電に乗り家路に向かう。夫婦は幸せな生活を送っていた。
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ある日ラウリは不況のため路線廃止となり、リストラされる。妻にもいえないまま退職を迎え、酒の力でようやく告白できたはいいが、今度は再就職もままならない。一方「ドゥブヴロニク」も大手チェーン店に乗っ取られた。オーナーのスヨホルム夫人(エリナ・ロサ)はイロナを呼び、新しい店ではそのチェーンで教育された人員を雇うのだと語る。イロナも失業する。
中年にさしかかったふたりの職探しは、当初の予測より困難に満ちたものだった。それでも、ラウリはロシアへの長距離観光バスの運転手に雇われることが決まった。ところが、健康診断で片耳に異常が見つかり、採用は取り消される。イロナも、やっと見つけた安食堂の仕事が、不正なオーナー、フォルストロム(マッティ・オンニスマー)のおかげで、資金もまともに払われずじまい。怒ったラウリは殴り込むが、逆に袋叩きにされる。
二人は「ドゥブロヴニク」のイロナの同僚メラルティン(サカリ・クオスマネン)の提案で、もう一度レストランに挑戦してみることにした。しかし、銀行へ行ってもどこも相手にしてくれない。自己資金も少ない。車を売って、資金作りのためにカジノに挑むが失敗する。ドツボな状態が続き路頭に迷う。そんな折、偶然スヨホルム夫人に再会するが。。。
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簡潔な映画である。この映画がつくられた96年にはCGなどの現代的映画技術はかなり進化していたわけである。でもアキ・カウリスマキはまったく目を向けない。その世界が逆に心地よく感じさせる。いつもながらぶっきらぼうな登場人物はまったく冴えない。だからといってオーバーな感情表現はさせない。コメディと言ってもおかしくない動きにさえ見えてくる。
自分のようにアキ・カウリスマキが好きな人間には本当にたまらないいい映画だ。
1.アキ・カウリスマキの言葉
「浮き雲」は4割がヴィットリオ・デ・シーカ的世界、3割が自分自身、2割が小津安二郎的世界、1割がフランク・キャプラ的世界で構築されていると本人は語る。つねに作品を共にしてきた盟友のマッティ・ペロンパーに捧げられている。前作「愛しのタチアナ」まで彼が主要な役を演じていた。
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2.限定された配役
黒澤明が三船敏郎、志村喬といった俳優を固定して起用したかのようにアキ・カウリスマキも俳優を限定する。みんな個性的だ。常連のカティ・オウティネンは美人とはいえない。長期間ずっと出演している無口で朴訥な女性だ。どちらかというと年齢の割には若干老け顔で不条理なヒロインを演じるにはもってこい。最新作「ルアーブルの靴みがき」で演じた役はおばあさんと思しき雰囲気だが、まだ50すぎたばかりである。アキ・カウリスマキとは切っても切れない間柄できっとお互いが死ぬまで一緒にやるだろう。
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3.アキ・カウリスマキ節
寡黙で無表情な登場人物、シンプルなストーリー、固定化したカメラワーク、殺風景で簡素な美術、日本の60年代を思わせる舞台背景、室内のブルーとイエローの反対色を巧妙に配した色彩設定、なぜかいつも出てくるオールディーズの音楽。とてつもなくドツボに落とされる主人公の身の上など明らかなパターンがある。でもそれに慣れている自分は逆に安心感をおぼえる。
4.ナットキングコール
冒頭に弾き語りを歌う歌手は明らかにナットキングコールを意識している。
ピアニストを映すカメラワークまで似ているよね。
こんなレギュラー出演者がいるレストランあったらいいな
5.絶望と希望
いつもながら地獄の沙汰に落とされる主人公だけど、いつかはいいことあるんだろうなあ?と映画を見ている。そうでないとさすがに心が穏やかになれない。ここでも終了寸前にようやく光が見える。その見えた光の差し込み方が素敵なのでまたアキ・カウリスマキの作品を見てしまう。
アキ・カウリスマキはすばらしい。
参考作品
97年のキネマ旬報ベスト3となっている。失職した夫婦が彷徨う姿をえがく。
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「シャイン」「イングリッシュペイシェント」という名作よりも上位に評価されている。この映画も見るチャンスを逸していた。ときおり名画座でアキ・カウリスマキ特集をやることがあるが、スケジュール合わない。しかも、レンタルにはなかったし、DVDは高すぎる。今回レンタル化されようやく見れた。
不景気によるリストラで失業した夫婦がドツボにはまっていくパターンは、いつものアキ・カウリスマキ作品と同じパターンだ。美術マルック・ペティレ、撮影ティモ・サルミネンも一緒である。彼の作品にはモノトーンも多いが、これはカラー作品だ。この色彩設計もいかにも彼の作品らしい。我々には同じものを見ている安心感がある。最新作「ルアーブルの靴みがき」でも主婦役を演じたカティ・オウティネンがここでも主演だ。後味がいい心地良い傑作であった。
ヘルシンキの街角に立つ、かつての名門レストラン「ドゥブロヴニク」
ピアノをナットキングコールスタイルで弾きながら歌う歌手が映しだされる。素敵なライブの中食事ができる「ドゥブロヴニク」でイロナ(カティ・オウティネン)は給仕長をつとめていた。店の帰り際に夫のラウリ(カリ・ヴァーナネン)が運転する市電に乗り家路に向かう。夫婦は幸せな生活を送っていた。
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ある日ラウリは不況のため路線廃止となり、リストラされる。妻にもいえないまま退職を迎え、酒の力でようやく告白できたはいいが、今度は再就職もままならない。一方「ドゥブヴロニク」も大手チェーン店に乗っ取られた。オーナーのスヨホルム夫人(エリナ・ロサ)はイロナを呼び、新しい店ではそのチェーンで教育された人員を雇うのだと語る。イロナも失業する。
中年にさしかかったふたりの職探しは、当初の予測より困難に満ちたものだった。それでも、ラウリはロシアへの長距離観光バスの運転手に雇われることが決まった。ところが、健康診断で片耳に異常が見つかり、採用は取り消される。イロナも、やっと見つけた安食堂の仕事が、不正なオーナー、フォルストロム(マッティ・オンニスマー)のおかげで、資金もまともに払われずじまい。怒ったラウリは殴り込むが、逆に袋叩きにされる。
二人は「ドゥブロヴニク」のイロナの同僚メラルティン(サカリ・クオスマネン)の提案で、もう一度レストランに挑戦してみることにした。しかし、銀行へ行ってもどこも相手にしてくれない。自己資金も少ない。車を売って、資金作りのためにカジノに挑むが失敗する。ドツボな状態が続き路頭に迷う。そんな折、偶然スヨホルム夫人に再会するが。。。
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簡潔な映画である。この映画がつくられた96年にはCGなどの現代的映画技術はかなり進化していたわけである。でもアキ・カウリスマキはまったく目を向けない。その世界が逆に心地よく感じさせる。いつもながらぶっきらぼうな登場人物はまったく冴えない。だからといってオーバーな感情表現はさせない。コメディと言ってもおかしくない動きにさえ見えてくる。
自分のようにアキ・カウリスマキが好きな人間には本当にたまらないいい映画だ。
1.アキ・カウリスマキの言葉
「浮き雲」は4割がヴィットリオ・デ・シーカ的世界、3割が自分自身、2割が小津安二郎的世界、1割がフランク・キャプラ的世界で構築されていると本人は語る。つねに作品を共にしてきた盟友のマッティ・ペロンパーに捧げられている。前作「愛しのタチアナ」まで彼が主要な役を演じていた。
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2.限定された配役
黒澤明が三船敏郎、志村喬といった俳優を固定して起用したかのようにアキ・カウリスマキも俳優を限定する。みんな個性的だ。常連のカティ・オウティネンは美人とはいえない。長期間ずっと出演している無口で朴訥な女性だ。どちらかというと年齢の割には若干老け顔で不条理なヒロインを演じるにはもってこい。最新作「ルアーブルの靴みがき」で演じた役はおばあさんと思しき雰囲気だが、まだ50すぎたばかりである。アキ・カウリスマキとは切っても切れない間柄できっとお互いが死ぬまで一緒にやるだろう。
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3.アキ・カウリスマキ節
寡黙で無表情な登場人物、シンプルなストーリー、固定化したカメラワーク、殺風景で簡素な美術、日本の60年代を思わせる舞台背景、室内のブルーとイエローの反対色を巧妙に配した色彩設定、なぜかいつも出てくるオールディーズの音楽。とてつもなくドツボに落とされる主人公の身の上など明らかなパターンがある。でもそれに慣れている自分は逆に安心感をおぼえる。
4.ナットキングコール
冒頭に弾き語りを歌う歌手は明らかにナットキングコールを意識している。
ピアニストを映すカメラワークまで似ているよね。
こんなレギュラー出演者がいるレストランあったらいいな
5.絶望と希望
いつもながら地獄の沙汰に落とされる主人公だけど、いつかはいいことあるんだろうなあ?と映画を見ている。そうでないとさすがに心が穏やかになれない。ここでも終了寸前にようやく光が見える。その見えた光の差し込み方が素敵なのでまたアキ・カウリスマキの作品を見てしまう。
アキ・カウリスマキはすばらしい。
参考作品
![]() | ル・アーヴルの靴みがき |
フランスの港町での人情物語 | |
![]() | 浮き雲 |
失業から這い上がろうとする夫婦を描いたアキ作品 | |