映画「仕立て屋の恋」は1989年のフランス映画、92年キネマ旬報ベストテン第4位
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映画「仕立て屋の恋」は今年映画「メグレと若い女の死」を簡潔な傑作につくりあげたパトリス・ルコント監督の作品だ。お見事な腕前だった。アルフレッドヒッチコックの「裏窓」のように、真向かいのアパルトマンの部屋を覗き見する仕立て屋の男が主人公で、ミステリータッチのシリアスドラマに仕上げている。ふと、パトリスルコント監督の昔の作品をつい観てみたくなる。原作は一連のメグレ警部の物語を書いたフランスの作家ジョルジュ・シムノンによる味わいのある作品「Les fiançailles de M. Hire」だ。
仕立て屋のイール(ミシェルブラン)は自分の部屋から向かいのアパルトマンに住むエリーゼ(サンドリーヌボネール)の部屋を覗き見するのを日課としていた。イールは美しいエリーゼに密かに想いを寄せていたが、エリーゼの部屋に彼氏のエミールが出入りしていた。イールは近隣で起きた殺人事件の犯人ではないかと刑事(アンドレウィルム)に疑われていた。以前性犯罪で捕まった前歴があったからだ。
ある日突然、エリーゼは向かいのマンションから自分へ視線が浴びせられていることに気づく。驚いたが、しばらくしてエリーゼから会いたいという連絡をイールがもらう。イールはエリーゼにある意図があるのを感じる。殺人事件当日のエリーゼの自宅内でのエミールの動きを気付いていると思ったからだ。
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せつない物語だけど傑作である。
イールがまさに裏窓から眺めている光景は異様だ。ネクラな感じがする。頭は若ハゲで見栄えは悪い。逆にエリーゼの部屋からイールを見上げる映像は気味がわるい。アルフレッドヒッチコックの「裏窓」のように眺めている時間が延々と続くと思ったけど、そうではなかった。見られているエリーゼがイールの動きに気づくのである。普通であれば、変態と思われるのがオチだけど、エリーゼには秘密があった。逆に、エリーゼからアプローチが来る。
イールが犯人として疑われている殺人事件にエリーゼの恋人エミールがからんでいるようなのだ。何かを知っているのか感触を確かめようとしている。エリーゼがイールに近づいてから続く2人のやりとりが見どころの一つである。
これからの動きについては言わない。あまりにせつなくて悲しい。
自分だったらイールと違う行動をとるなと思っても、物語だから仕方ない。思い通りにならないどころか、濡れ衣を着せられるのだ。原作者ジョルジュ・シムノンに「それはないよ」と言ってあげたくなる。
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それにしてもサンドリーヌボネールは美しい。この後も長い間フランス映画界で活躍してきた。特に2004年の「灯台守の恋」は海風の荒々しさが伝わる傑作だ。昨年自分一押しの「あのこと」で母親役を演じた。
最近異様に上映時間が長くなっている。あえて時間を長くするがごとくのムダなエピソードを交えすぎだ。映画90分論の蓮實重彦の気持ちはよくわかる。こんな感じで簡潔にまとめるパトリスルコント監督をもっと評価したい。
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映画「仕立て屋の恋」は今年映画「メグレと若い女の死」を簡潔な傑作につくりあげたパトリス・ルコント監督の作品だ。お見事な腕前だった。アルフレッドヒッチコックの「裏窓」のように、真向かいのアパルトマンの部屋を覗き見する仕立て屋の男が主人公で、ミステリータッチのシリアスドラマに仕上げている。ふと、パトリスルコント監督の昔の作品をつい観てみたくなる。原作は一連のメグレ警部の物語を書いたフランスの作家ジョルジュ・シムノンによる味わいのある作品「Les fiançailles de M. Hire」だ。
仕立て屋のイール(ミシェルブラン)は自分の部屋から向かいのアパルトマンに住むエリーゼ(サンドリーヌボネール)の部屋を覗き見するのを日課としていた。イールは美しいエリーゼに密かに想いを寄せていたが、エリーゼの部屋に彼氏のエミールが出入りしていた。イールは近隣で起きた殺人事件の犯人ではないかと刑事(アンドレウィルム)に疑われていた。以前性犯罪で捕まった前歴があったからだ。
ある日突然、エリーゼは向かいのマンションから自分へ視線が浴びせられていることに気づく。驚いたが、しばらくしてエリーゼから会いたいという連絡をイールがもらう。イールはエリーゼにある意図があるのを感じる。殺人事件当日のエリーゼの自宅内でのエミールの動きを気付いていると思ったからだ。
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せつない物語だけど傑作である。
イールがまさに裏窓から眺めている光景は異様だ。ネクラな感じがする。頭は若ハゲで見栄えは悪い。逆にエリーゼの部屋からイールを見上げる映像は気味がわるい。アルフレッドヒッチコックの「裏窓」のように眺めている時間が延々と続くと思ったけど、そうではなかった。見られているエリーゼがイールの動きに気づくのである。普通であれば、変態と思われるのがオチだけど、エリーゼには秘密があった。逆に、エリーゼからアプローチが来る。
イールが犯人として疑われている殺人事件にエリーゼの恋人エミールがからんでいるようなのだ。何かを知っているのか感触を確かめようとしている。エリーゼがイールに近づいてから続く2人のやりとりが見どころの一つである。
これからの動きについては言わない。あまりにせつなくて悲しい。
自分だったらイールと違う行動をとるなと思っても、物語だから仕方ない。思い通りにならないどころか、濡れ衣を着せられるのだ。原作者ジョルジュ・シムノンに「それはないよ」と言ってあげたくなる。
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それにしてもサンドリーヌボネールは美しい。この後も長い間フランス映画界で活躍してきた。特に2004年の「灯台守の恋」は海風の荒々しさが伝わる傑作だ。昨年自分一押しの「あのこと」で母親役を演じた。
最近異様に上映時間が長くなっている。あえて時間を長くするがごとくのムダなエピソードを交えすぎだ。映画90分論の蓮實重彦の気持ちはよくわかる。こんな感じで簡潔にまとめるパトリスルコント監督をもっと評価したい。