映画とライフデザイン

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映画「こんにちは、母さん」 吉永小百合&山田洋次

2023-09-12 17:35:40 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「こんにちは、母さん」を映画館で観てきました。


映画「こんにちは、母さん」は9月13日で92歳になる山田洋次監督吉永小百合主演で東京向島を舞台に母と息子の交情を描いた作品である。自分にとって大先輩にあたる山田洋次監督は、沢田研二主演「キネマの神様」以来の監督作品である。吉永小百合ももう78歳、永野芽郁のおばあちゃん役だが信じられないくらいに若い。妖怪のようだ。今回は息子役に大泉洋を迎えて、いかにも山田洋次監督作品らしい人情劇としている。

大手会社の人事部長を務める神崎昭夫(大泉洋)は向島の足袋屋の息子だ。父は亡くなり家業は母福江(吉永小百合)が継いでいた。昭夫は妻と大学生の娘舞(永野芽郁)と暮らしていたが、現在別居中で舞は向島の家に入り浸っていた。
母は地元のご婦人たちとボランティアサークルでの活動に励んでいたが、牧師(寺尾聰)も一緒に活動している。実家に寄った昭夫が牧師に接する母親の様子がどこか違うと感じるのであった。

いかにも伝統的な松竹のホームドラマの肌合いだ。
東京スカイツリーを臨む隅田川の言問橋より北側の向島エリアが今回の舞台だ。地下鉄の本所吾妻橋駅から歩くのが普通の行き方か。向島芸者はいまだに数多くいる。両国の相撲取りを含めて着物を着る人たちの足袋の需要がないわけでない。映画では隅田川および周辺が繰り返し映し出される。東京らしい風景で趣きがある。

映画では、美しい未亡人の母の老いらくの恋、リストラで同期のクビを切らなければならない上に家庭不和の息子の苦悩が主な焦点だ。隅田川の岸辺にはホームレスで生活する人たちが大勢いて、そのうちの1人田中泯演じるホームレスをクローズアップする。


ただ、現状東京都の取り締まりで掘立て小屋で野宿するホームレスは大幅に減った。しかも、有効求人倍率がアップして、人手は足りないくらいだ。主人公昭夫のオフィスからは東京駅が見える。そんなロケーションのオフィスがある会社では、最近は以前のようなリストラはないはずだ。他にもリストラ者への通告や解雇の取り扱いなど映画を観ながら、ビジネスの世界にいる身で観ると、絶対おかしいと感じる場面はいくつもある。共同脚本の山田洋次も近年の世間の動きがわかっていないんじゃないかとも思っていた。

実は「こんにちは、母さん」は劇作家の永井愛2001年に作った戯曲である。2001年製作なら、その時点のリストラ状況やホームレスの実態をそのまま戯曲にしたのはよくわかる。でも、現代を基軸にすると、原作内容と変わっているので違和感を感じる。でも、吉永小百合と山田洋次が組むわけだから目をつむっても仕方ないでしょう。

⒈吉永小百合
日曜日の日経新聞を読むと、ギターリストの村治佳織吉永小百合と一緒に2人で海外旅行に行くエッセイが掲載されていた。優しい文章で吉永小百合の楽しむ様子が目に浮かぶ。読んでから颯爽と映画館に向かった。

映画ポスターに写る吉永小百合の表情がかわいい。でも、自分より一回り以上年上である。自分が物心ついた時すでに青春スターだった。地元五反田にも日活の映画館はあったが、両親は関心がなかった。「キューポラのある街」のジュン役から61年も経つ。あの時の少女が東京下町の片隅でこんな感じで育っていると考えても理に合う。川口から向島までは隅田川をたどれば決して遠くはない。

器用な俳優ではない。78歳になっても精一杯こなしている。素敵だ。サユリストと言われる世の男性の老人たちは、この映画で寺尾聰の手を握った時の吉永小百合をみてどう思ったか?気になる。それにしても、隅田川沿いで着こなした夏っぽい薄い水色の着物は良かったなあ。


⒉山田洋次
いかにも松竹のホームドラマっぽい映画を今回も撮り切った。90過ぎてのお仕事お疲れ様でした。映画では前半から松竹っぽいわざとらしいセリフが続く。リズムはゆっくりだ。ただ、山田洋次の作品だと思って観に来た観客は安心してこの世界に入れる。「男はつらいよ」シリーズの特に前期では、渥美清のスピード感あふれる口上でテンポはもう少し早かった。もともと喜劇中心だった山田洋次ミステリーに取り組んだ「霧の旗」という傑作がある。盟友倍賞千恵子悪女を演じて編集もよく、スピード感もある。

でも、90を過ぎた監督に、そんなスピード感を期待する方がどうかしている。吉永小百合という人智を超越した存在と自分が撮りたい作品を撮るという感じだ。もし、両国の花火が今年なかったらまずかったという山田洋次のインタビュー記事を見た。ホッとされたでしょう。完全復活とまでいかないがコロナ制約からの復帰を喜びたい。


⒊寺尾聰
後藤久美子が久々に登場した「寅さん」復帰の映画「男はつらいよ お帰り寅さん」を観た時、アレと思ったことがあった。後藤久美子の劇中の父親役は寺尾聰のはずだ。母親の夏木マリがいるのにどうしたんだろう?その時点で山田洋次、寺尾聰いずれも気にしていたと推察する。それが故での今回の出演だろうか?まあ吉永小百合の相手役の方がいいに決まっている。仏文科の大学教授を辞めて牧師になった設定だ。

寺尾聰が主役を張った中では時代劇の「雨あがる」が大好きだ。ひょうひょうとした雰囲気がいいけど、以前より出番は減った。最近周囲でカラオケタイムに寺尾聰の歌を歌う人が目立つ。大ヒットした「ルビーの指輪」が入っているRefrections には味のあるいい歌が多い。初っ端の「Havana Express 」のノリに身を任せると、勘定が予定外にエスカレートしてしまう。


⒋大泉洋
大泉洋といえば北海道だけど、今回は向島育ちの設定だ。主役的存在の「浅草キッド」は浅草が舞台だった。隣り合わせの向島と続き東京の下町が似合うようになってきた。現在50歳で実年齢相応の役柄だ。年齢差を考慮しても、吉永小百合の実子となってもおかしくない。大学の同窓同期の宮藤官九郎演じる課長がリストラになり、何とかしてくれとからまれる面倒な立場だ。リストラはする方もされる方もしんどい


山田洋次監督の作品は人情ものなので、普通だと冷徹そのものな野郎を人事部長に配役するが、そうはならない。観ると欠点が目立つ映画だけど、終了間際に急に涙腺が刺激された。何かよくわからない。まだまだ山田洋次監督には頑張ってもらいたい気持ちがあったのかもしれない。
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