映画「TAR」を映画館で観てきました。
映画「TAR」はケイトブランシェットが指揮者を演じて各種女優賞を受賞した作品である。ケイトの新作はほぼ毎回おさえている。前回の「ナイトメアアリー」でもセレブな雰囲気の彼女らしい役柄だった。レズビアンといえば名作「キャロル」の優雅なマダムを思い出す。ここではオーケストラを率いる強烈な個性をもった女性を演じる。監督脚本はトッドフィールドだ。コロナ禍というセリフもあり、現代の設定になっている。SNSやメールといった現代のツールも活用する。
ベルリンフィルハーモニーの首席指揮者リディア・ター(ケイト・ブランシェット)は、恋人である女性のコンサートマスターのシャロン(ニーナ・ホス)と生活して養女のペトラと暮らしている。作曲家としての活動に加えて、若手女性指揮者の育成財団の運営をするとともに、ジュリアード音楽院でも教えている。アシスタントで副指揮者をめざすフランチェスカ(ノエミ・メルラン)はターの秘書役として、シャロンとともに多忙なターの仕事を支えている。そして今はマーラーの交響曲5番の録音に備えてオーケストラの指導にあたっている。
そんな時、ターが以前指導した女性指揮者の卵クリスタが自殺をした知らせが入る。巻き込まれるのを恐れたターはメールの削除をフランチェスカに指示する。
まさにケイトブランシェットの独壇場であった。
2時間半にも及ぶ長時間の最初から最後までほとんどのシーンでケイトブランシェットが絡んでいる。出ずっぱりだ。感情の起伏も激しい。ジュリアード音楽院での実践的講義の場面で超絶長回しもある。セリフも理屈っぽく観念的で、よく覚えたなあと感じる場面だ。これはなかなか難しいシーンだ。しかも、完璧にこなす。
これらのターのセリフの内容を一回観ただけで理解できる人はそうはいないだろう。小林秀雄の随筆「モオツァルト」のような内容だ。カット割が普通の映画のようにされる中盤から終盤と前半戦の長回しとは映画の構成の仕方にも差がある。
フルトヴェングラーやカラヤンという往年のベルリンフィルハーモニーの首席指揮者の逸話が出てくる。特に戦時中、ナチス絡みのフルトヴェングラーの話題が多い。加えて、マーラーの交響曲といえばレナードバーンスタインの十八番であり、作曲家としても活躍したバーンスタインを意識したターの音楽プロフィールにもなっている。
⒈脇役の配置
ケイトブランシェットが独壇場の映画でも、脇役がいないと映画は成り立たない。映画が始まってすぐに、2人の見たことある女優に気づく。ニーナ・ホスとノエミ・メルランだ。いずれもこのブログで取り上げた。ニーナホスはドイツ映画「東ベルリンから来た女」、「あの日のように抱きしめて」で主演を張った。いずれも東西分割が絡んだどんよりした重い映画であった。ノエミ・メルランは2020年の「燃ゆる女の肖像」でレズビアンの関係となる女性画家役で存在感を示した。いい配役だと思う。
自分は男なのでレズビアンの本当の気持ちはわからない。聞くところによれば、嫉妬心はかなり強いらしい。ここでも、それが1つのテーマだ。ケイトブランシェット演じるターはステディな彼女がいても、他にツバをつける。そこら辺の不良オヤジと変わらない。ある程度わかっていて見過ごす部分があっても許せない。強い嫉妬心による葛藤がおきる。見どころの1つだ。それでも、ターは懲りない。若いチェリストに惹かれるのだ。チェリスト役のゾフィー・カウアーは本物だ。すごいプレイを見せつける。よくぞ見つけたものだ。
⒉不安と精神的なアンバランス
映画が継続している間、不安を呼び起こす低音の音がずっと流れる。一瞬隣の映画かと思ったけど違う。ターの性格は激しい。発狂するが如くの激しさはない。それでも、養女のペトラへのいじめに気づき、いじめた相手に対して強く是正をうながす場面が印象的だ。要職に就けば、諸問題が多い。ストレスがたまるのも当然だろう。どんなに偉くても不安に思うことはある。徐々に精神が錯乱する気配がみえる。妙な音を聞いたり、夜うなされる場面が多くなっていく。サイコスリラー的な要素が出てくる。そしてあるピークを迎える。
そんなあたりをケイトブランシェットは巧みに演じる。しかも美しい。
⒊マーラー5番
ヴィスコンティの「ベニスに死す」でマーラーの交響曲5番が流れる。主人公が美少年に強く惹かれていく映像とマッチする。美しい曲だ。最近では映画「別れる決心」のクライマックスでも使われていた。映画の中でも、リハーサル中のオーケストラのメンバーに対して「ヴィスコンティ」という言葉も出てくる。オーケストラのリハーサルシーンなので、長くこの曲が流されることはない。それでも、大画面の音響がいい映画館で観るのが望ましい。コンサート会場では独特の柔らかい音色が響くのが聴ける。
個人的に「エブエブ」は好きではないので、なおのことケイトブランシェットのアカデミー主演女優賞が外れたのは残念に思う。明らかに上だ。ターの転落も示すので上映時間は長くなった。もう少し短くてもいいと思うけど、ケイトブランシェットが起用できて16年ぶりの長編にトッドフィールド監督は気合いが入ったのであろう。
映画「TAR」はケイトブランシェットが指揮者を演じて各種女優賞を受賞した作品である。ケイトの新作はほぼ毎回おさえている。前回の「ナイトメアアリー」でもセレブな雰囲気の彼女らしい役柄だった。レズビアンといえば名作「キャロル」の優雅なマダムを思い出す。ここではオーケストラを率いる強烈な個性をもった女性を演じる。監督脚本はトッドフィールドだ。コロナ禍というセリフもあり、現代の設定になっている。SNSやメールといった現代のツールも活用する。
ベルリンフィルハーモニーの首席指揮者リディア・ター(ケイト・ブランシェット)は、恋人である女性のコンサートマスターのシャロン(ニーナ・ホス)と生活して養女のペトラと暮らしている。作曲家としての活動に加えて、若手女性指揮者の育成財団の運営をするとともに、ジュリアード音楽院でも教えている。アシスタントで副指揮者をめざすフランチェスカ(ノエミ・メルラン)はターの秘書役として、シャロンとともに多忙なターの仕事を支えている。そして今はマーラーの交響曲5番の録音に備えてオーケストラの指導にあたっている。
そんな時、ターが以前指導した女性指揮者の卵クリスタが自殺をした知らせが入る。巻き込まれるのを恐れたターはメールの削除をフランチェスカに指示する。
まさにケイトブランシェットの独壇場であった。
2時間半にも及ぶ長時間の最初から最後までほとんどのシーンでケイトブランシェットが絡んでいる。出ずっぱりだ。感情の起伏も激しい。ジュリアード音楽院での実践的講義の場面で超絶長回しもある。セリフも理屈っぽく観念的で、よく覚えたなあと感じる場面だ。これはなかなか難しいシーンだ。しかも、完璧にこなす。
これらのターのセリフの内容を一回観ただけで理解できる人はそうはいないだろう。小林秀雄の随筆「モオツァルト」のような内容だ。カット割が普通の映画のようにされる中盤から終盤と前半戦の長回しとは映画の構成の仕方にも差がある。
フルトヴェングラーやカラヤンという往年のベルリンフィルハーモニーの首席指揮者の逸話が出てくる。特に戦時中、ナチス絡みのフルトヴェングラーの話題が多い。加えて、マーラーの交響曲といえばレナードバーンスタインの十八番であり、作曲家としても活躍したバーンスタインを意識したターの音楽プロフィールにもなっている。
⒈脇役の配置
ケイトブランシェットが独壇場の映画でも、脇役がいないと映画は成り立たない。映画が始まってすぐに、2人の見たことある女優に気づく。ニーナ・ホスとノエミ・メルランだ。いずれもこのブログで取り上げた。ニーナホスはドイツ映画「東ベルリンから来た女」、「あの日のように抱きしめて」で主演を張った。いずれも東西分割が絡んだどんよりした重い映画であった。ノエミ・メルランは2020年の「燃ゆる女の肖像」でレズビアンの関係となる女性画家役で存在感を示した。いい配役だと思う。
自分は男なのでレズビアンの本当の気持ちはわからない。聞くところによれば、嫉妬心はかなり強いらしい。ここでも、それが1つのテーマだ。ケイトブランシェット演じるターはステディな彼女がいても、他にツバをつける。そこら辺の不良オヤジと変わらない。ある程度わかっていて見過ごす部分があっても許せない。強い嫉妬心による葛藤がおきる。見どころの1つだ。それでも、ターは懲りない。若いチェリストに惹かれるのだ。チェリスト役のゾフィー・カウアーは本物だ。すごいプレイを見せつける。よくぞ見つけたものだ。
⒉不安と精神的なアンバランス
映画が継続している間、不安を呼び起こす低音の音がずっと流れる。一瞬隣の映画かと思ったけど違う。ターの性格は激しい。発狂するが如くの激しさはない。それでも、養女のペトラへのいじめに気づき、いじめた相手に対して強く是正をうながす場面が印象的だ。要職に就けば、諸問題が多い。ストレスがたまるのも当然だろう。どんなに偉くても不安に思うことはある。徐々に精神が錯乱する気配がみえる。妙な音を聞いたり、夜うなされる場面が多くなっていく。サイコスリラー的な要素が出てくる。そしてあるピークを迎える。
そんなあたりをケイトブランシェットは巧みに演じる。しかも美しい。
⒊マーラー5番
ヴィスコンティの「ベニスに死す」でマーラーの交響曲5番が流れる。主人公が美少年に強く惹かれていく映像とマッチする。美しい曲だ。最近では映画「別れる決心」のクライマックスでも使われていた。映画の中でも、リハーサル中のオーケストラのメンバーに対して「ヴィスコンティ」という言葉も出てくる。オーケストラのリハーサルシーンなので、長くこの曲が流されることはない。それでも、大画面の音響がいい映画館で観るのが望ましい。コンサート会場では独特の柔らかい音色が響くのが聴ける。
個人的に「エブエブ」は好きではないので、なおのことケイトブランシェットのアカデミー主演女優賞が外れたのは残念に思う。明らかに上だ。ターの転落も示すので上映時間は長くなった。もう少し短くてもいいと思うけど、ケイトブランシェットが起用できて16年ぶりの長編にトッドフィールド監督は気合いが入ったのであろう。