辻原登「韃靼の馬」は今年初めまで日経新聞朝刊に連載されていた新聞小説である。
日経新聞の歴史小説の連載を読むのはあんまり得意ではない。しかも異国の話でちょっと違うのかなと「私の履歴書」から裏面下の部分に一瞥もなく通り過ぎることが多かった。
ところが、ある日目を向けると日本の光景の描写がある。あれ?と思うと、江戸時代の大坂が表現されているではないか?大淀の河口九条に浮かぶ大量の朝鮮船の話に一瞬驚いた。鎖国の日本しかも大坂になんで朝鮮人がいるの?しかも大坂の街を堂々と闊歩するではないか!
そうか朝鮮通信使の話かと思い浮かんだ。歴史教科書で朝鮮通信使の存在をしっていても、どういうものかは知識がない。ときおり新聞の連載部分に目を留めるようになった。
スケールの大きな話である。実際の江戸将軍、新井白石など実在の人物が出てくるのに加えて、朝鮮語に堪能な対馬の武士である主人公阿比留克人がものすごい存在感を示す。ライバルの朝鮮人柳の存在も凄味がある。
今回改めて一冊の本としてのこの本をじっくりと読んだ。すばらしい!
秀吉の朝鮮遠征で、日本軍は朝鮮本土をめちゃくちゃにした。明軍の参戦や秀吉の病気で日本軍は引き揚げたが、朝鮮との関係は最悪であった。そのころ、朝鮮との間に浮かぶ対馬はむしろ日本本土よりも朝鮮に近いこともあり、両国の通商のかなめになっていた。日本から売買代価が銀貨で支払われ、朝鮮からは薬用朝鮮人参が運ばれる。中国には朝鮮から銀貨からつくられた銀が輸出される。朝鮮にとっても重要な銀の存在である。
時は1711年、対馬藩から釜山には大使館というべき倭館がつくられて、主人公阿比留克人が派遣されていた。朝鮮通信使は17世紀初めから交流があったが、30年以上交流が途絶えていた。それが復活して再度朝鮮通信使一行が大挙江戸に向かうことになった。しかし、朝鮮から日本への文書に将軍のことを「大君」から「国王」とするように交渉するよう対馬藩へと命令が出た。朝鮮語に堪能で、対馬独特の和語もできる文武両道に優れる阿比留克人に朝鮮側と交渉する重要な任務が出される。阿比留克人はほとんどの人が知らない「銀の道」という道をソウルまで馬でかけていく。しかし、隠密の任務で行く途中に、日本でいえば警察にあたる監察御史とすれ違うのであったが。。。。
600ページを超す大著である。対馬についての予備知識がなく、改めて地図をみた。日本よりも韓国に近い。これだけ近いのであれば、お互いに交流がされていたのはよくわかる。昔の外国の交流にあたっては言葉についてどういう様にかわされていたのかと思うものであるが、朝鮮語に堪能な人間がいたとしてもおかしくはない。それと同時に人種が入り乱れていたとしても不思議ではない。
何かと韓国との間には恨みつらみのようなものが混在しているようだが、こういう小説を読むともっとお互いに近い存在だったのではと思うしかない。あの民俗学者宮本常一は対馬に行き、600年以上昔からの古文書が各集落に多数残されていることに驚かされたという。戦後間もなくまで日本の中世がそのまま残っていたのだ。今の韓国の「対馬を返せ」議論の貧弱さには笑うしかない。対馬に一度行ってみたい。
登場人物が多彩でみな魅力的である。そこに新井白石などの実在の人物をからめてくる。フィクションでありながら、実在の風景、人物の存在がリアルなものに感じさせ、読む自分のこころをとらえる。大航海時代に突入したあとの東西交流と有史以来続く日朝貿易の経済的な交流のとらえ方が実にうまく書かれていてある意味経済小説にも読めてしまうところにより一層凄味を感じる。
映画化を希望するが、難しいだろうなあ。でも実現したらどんなに素晴らしいことかと思う。
日経新聞の歴史小説の連載を読むのはあんまり得意ではない。しかも異国の話でちょっと違うのかなと「私の履歴書」から裏面下の部分に一瞥もなく通り過ぎることが多かった。
ところが、ある日目を向けると日本の光景の描写がある。あれ?と思うと、江戸時代の大坂が表現されているではないか?大淀の河口九条に浮かぶ大量の朝鮮船の話に一瞬驚いた。鎖国の日本しかも大坂になんで朝鮮人がいるの?しかも大坂の街を堂々と闊歩するではないか!
そうか朝鮮通信使の話かと思い浮かんだ。歴史教科書で朝鮮通信使の存在をしっていても、どういうものかは知識がない。ときおり新聞の連載部分に目を留めるようになった。
スケールの大きな話である。実際の江戸将軍、新井白石など実在の人物が出てくるのに加えて、朝鮮語に堪能な対馬の武士である主人公阿比留克人がものすごい存在感を示す。ライバルの朝鮮人柳の存在も凄味がある。
今回改めて一冊の本としてのこの本をじっくりと読んだ。すばらしい!
秀吉の朝鮮遠征で、日本軍は朝鮮本土をめちゃくちゃにした。明軍の参戦や秀吉の病気で日本軍は引き揚げたが、朝鮮との関係は最悪であった。そのころ、朝鮮との間に浮かぶ対馬はむしろ日本本土よりも朝鮮に近いこともあり、両国の通商のかなめになっていた。日本から売買代価が銀貨で支払われ、朝鮮からは薬用朝鮮人参が運ばれる。中国には朝鮮から銀貨からつくられた銀が輸出される。朝鮮にとっても重要な銀の存在である。
時は1711年、対馬藩から釜山には大使館というべき倭館がつくられて、主人公阿比留克人が派遣されていた。朝鮮通信使は17世紀初めから交流があったが、30年以上交流が途絶えていた。それが復活して再度朝鮮通信使一行が大挙江戸に向かうことになった。しかし、朝鮮から日本への文書に将軍のことを「大君」から「国王」とするように交渉するよう対馬藩へと命令が出た。朝鮮語に堪能で、対馬独特の和語もできる文武両道に優れる阿比留克人に朝鮮側と交渉する重要な任務が出される。阿比留克人はほとんどの人が知らない「銀の道」という道をソウルまで馬でかけていく。しかし、隠密の任務で行く途中に、日本でいえば警察にあたる監察御史とすれ違うのであったが。。。。
600ページを超す大著である。対馬についての予備知識がなく、改めて地図をみた。日本よりも韓国に近い。これだけ近いのであれば、お互いに交流がされていたのはよくわかる。昔の外国の交流にあたっては言葉についてどういう様にかわされていたのかと思うものであるが、朝鮮語に堪能な人間がいたとしてもおかしくはない。それと同時に人種が入り乱れていたとしても不思議ではない。
何かと韓国との間には恨みつらみのようなものが混在しているようだが、こういう小説を読むともっとお互いに近い存在だったのではと思うしかない。あの民俗学者宮本常一は対馬に行き、600年以上昔からの古文書が各集落に多数残されていることに驚かされたという。戦後間もなくまで日本の中世がそのまま残っていたのだ。今の韓国の「対馬を返せ」議論の貧弱さには笑うしかない。対馬に一度行ってみたい。
登場人物が多彩でみな魅力的である。そこに新井白石などの実在の人物をからめてくる。フィクションでありながら、実在の風景、人物の存在がリアルなものに感じさせ、読む自分のこころをとらえる。大航海時代に突入したあとの東西交流と有史以来続く日朝貿易の経済的な交流のとらえ方が実にうまく書かれていてある意味経済小説にも読めてしまうところにより一層凄味を感じる。
映画化を希望するが、難しいだろうなあ。でも実現したらどんなに素晴らしいことかと思う。