映画とライフデザイン

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映画「ブルーバイユー」

2022-02-15 18:58:53 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「ブルーバイユー」を映画館で観てきました。


映画「ブルーバイユー」は韓国系アメリカ人ジャスティン・チョンが自ら脚本、監督、主演を兼ねるアメリカ映画である。韓国では孤児院にいる孤児が養子縁組で外国人に引き取られるケースが多いのを韓国映画「冬の小鳥」で初めて知った。それ以来、養子縁組の題材は「バービー」など韓国映画で何度も観た。今回は国際養子縁組のその後が必ずしもうまくいっているとは限らないことを題材にしている。

幼い頃に養子縁組でアメリカに来た韓国系アメリカ人アントニオ(ジャスティン・チョン)は連れ子のいるアメリカ人女性(アリシア・ディキャンベル)と結婚した。親が移民の手続きをしていなかったせいで強制送還を言い渡され、なんとか回避しようと右往左往するという話だ。


監督兼主演のジャスティン・チョンは実にうまくまとめている。
例によって社会学者が好みそうなアメリカ下層社会が描かれる。ポータブルビデオで撮っているみたいな映像もある。養子縁組に絡んだ移民問題だけが題材ではない。複雑な家族関係に関わる題材も取り上げ、個性あふれる登場人物をチョンは映像に放つが、きめ細かに捌いている。登場人物は映画の途中で徐々に増えてくる。普通だったら、登場人物が多いと頭の整理がつかなくなることが多い。この映画は大丈夫だ。

将棋の駒の特性を知り尽くして指す棋士のようにキャストの個性をうまく活かせる監督とみた。不思議な肌合いを感じる作品だ。

腹立たしくさせる話を連発する。アントニオは窃盗団の友人などの下層レベル以下の人間と付き合い、悪いことをする。常識人が見ると、たぶん呆れるであろう主人公の行動と発言が続く。わざとだろう。観客に嫌気を起こさせるのも、これはこれで意図的なものだろう。半年ごとに里親が変わったこともあるというアントニオが普通に考えるとまともに育つはずがない。そんな嫌な感じが続いても、徐々に監督がいろんなことを計算し尽くしているのに気づき、深みのある映画だと感じるようになる。

⒈強制送還命令と反論
妻には警察官の前夫がいる。娘とはたまに会っているが、強引なので妻も娘も嫌がっている。ある時、偶然スーパーで警察官の相棒といる前夫にバッタリあったときにアントニオが逆らって大暴れ、結局留置される。その時、移民の手続きをしていなかったことがわかり、前科があって心証も悪く強制送還の命令を受けてしまう。

赤ちゃんも産まれる妻も含めて大慌て。でも、弁護士に言わせると、2000年以前に養子縁組でアメリカに来た人たちに同じ境遇の人が多いらしい。弁護費用は5000ドル、ただでさえも金のないアントニオにはすぐにだせない。そこでアントニオは暴挙にでるのだ。


⒉まともじゃない主人公アントニオ
本業はタトゥー師だ。タトゥを彫る場所を借りているけど、場代は滞納したままだ。妻が懐妊して、金が必要なので別の仕事を求職するが、前科二犯でもあり雇ってくれない。

映画を観ているあいだ、こいつ変なやつだなあと思っていた。オイオイ何でこんなことするの?と、まともな教育を受けているようには見えない。ベストセラーになった宮口幸治著「ケーキの切れない非行少年たち」に出てくるような男だ。やることなすことハチャメチャな奴だけど、妻と娘には愛情を持って接している。ここだけは救われる。


⒊アリシア・ディキャンベル
アントニオの妻役には「リリーのすべて」アカデミー賞助演女優賞を受賞しているアリシア・ディキャンベルを起用する。好演だと思う。パーティのシーンで題名になった「ブルーバイユー」を歌う。これがなかなかいい。そういえばディズニーランドの「カリブの海賊」の隣にレストラン「ブルーバイユー」があったなあ。映画では青い入り江という訳を与えていたが、ニューオリンズの街を船から眺める船上でいい感じで歌っていた。


⒋リン・ダン・ファン
金に困っているアントニオが街でタトゥーをやらないかと呼び込みをしていると、1人の上品なアジア人女性が近づいてくる。冷やかしかと思ったら本気でやって欲しいという。手首にユリの花のタトゥーを彫ってあげる。この後重要な存在になっていく。松任谷由実に似た風貌を持つ女性はベトナム生まれだ。この年になるとこういう40代女性がよく見える。

終わった後で配役を確認してリン・ダン・ファンということがわかる。これには驚いたカトリーヌ・ドヌーブ主演「インドシナ」で王女役を、フランス映画「真夜中のピアニスト」でピアノ教師役を演じていて強い印象を残した。自分も感想を残している。フランスが主戦場だけにアメリカ映画で会えるとは思わなかった。魅力的な女性だ。


⒌連れ子が恐れること
連れ子の女の子の使い方がうまい。両親に自分の妹が産まれることを恐れている。両親にとって実の子供が産まれたら自分には愛情がそそがれないのではと心配する。いくつかの場面で見せる心配そうな表情が巧みだ。荒井晴彦の脚本が冴えた日本映画「幼な子われらに生まれ」で、連れ子の少女が浅野忠信と田中麗奈演じる両親に赤ちゃんが産まれるのを恐れる設定を連想した。


最後に向けてはブライアン・デ・パルマ監督の「愛のメモリー」を連想させるシーンがでてきた。お涙頂戴の世界にも見えるが、映画の引用がうまいなということに気を取られていた。

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