世の中には才能溢れる方がいるものです。最近読んでいる本の著者、原田マハさんはキュレーターであり、綺麗な文章を書く小説家です。そして徹底的に文献を考証する歴史学者です。
新潮社から2016年に出版されて彼女の「暗幕のゲルニカ」という分厚い本を手に取って感動しています。
これは面白い小説ですが画家、パブロ・ピカソの生涯を精確に描いた研究書でもあるのです。
話はピカソの「ゲルニカ」と題する絵画から始まります。モノトーンのおぞましい感じがする絵です。
スぺン内戦でフランコ独裁政権の味方になったドイツ空軍がゲルニカの町を徹底的に爆撃したのです。
スペイン生まれのピカソがこれに怒り「ゲルニカ」と題する絵画を描き、その絵が世界中で有名になったのです。
今日は原田マハ著「暗幕のゲルニカ」の背景になったスペイン内戦の概略を分かり易く簡潔にご紹介したいと思います。
その前に写真をお送りします。
1番目の写真は晩年のパブロ・ピカソです。
2番目の写真は1936年のドイツ空軍のゲルニカ爆撃の直後にピカソが描いた「ゲルニカ」という絵です
3番目の写真はドイツ空軍のゲルニカ爆撃の直後のゲルニカの風景です。
4番目の写真は現在のゲルニカ中心街の風景です。
5番目の写真はスペインに残っているパブロ・ピカソの生家です。
さて原田マハ著「暗幕のゲルニカ」の背景になったスペイン内戦と、それに続くフランコ将軍の36年間の独裁政治には日本人がほとんど関心を示しません。
しかしヨーロッパ世界の本質と多様性を理解し、現在のヨーロッパ連合、EUの将来を考えるために幾つかのヒントを与えてくれると思います。
まず1936年から1939年まで続いたスペイン内戦とは何かを書きます。
この内戦は1931年に王制を廃止した共産主義的な共和政府に対して1936年に武力クーデターを起こしたフランコ将軍一派との戦いだったのです。
共和政府側をソ連とメキシコが軍事支援をして、フランコ将軍一派をドイツとイタリーの独裁政権が実力を用いて支援したのです。
そしてゲルニカをドイツの空軍が爆撃をしたのです。
その一方、アメリカやヨーロッパ諸国の自由を愛する人々が志願兵として共和政府側の戦線で戦ったのです。この国際的な志願兵は「国際旅団」として編成され戦ったのです。
ヘミングウエイなどの有名人などが「国際旅団」を支援し、映画にもなった「誰がために鐘は鳴る」という小説は「国際旅団」を題材にしたものでした。日本では「国際旅団」のロマンとグレゴリーペックとイングリット・バーグマンの愛の物語だけが強調されていますが、この映画はスペイン内戦を主題にした映画なのです。
しかしロマンあふれる「国際旅団」には暗い現実があったのです。この旅団の主体はソ連の国際共産党機関「コミンテルン」から派遣された軍隊だったのです。
そしてこの旅団は55ヶ国から4万人ほどの青年と、2万人に及ぶ医療関係者が志願して参戦したのです。
その隊員の85%が共産党員であり、またその出身階層を見るとインテリが45%、労働者44%などとなっていたのです。
結果的にはフランコ将軍一派が勝利して、全スペインは1939年から1975年までフランコ将軍の独裁政権が36年間も続いたのです。
詳しくは2013年6月16日掲載の拙文、「複雑怪奇なスペイン内戦の、明快至極な説明を見つけました!」にも書いてあります。
以上のようにスペイン内戦とフランコ将軍の独裁はヨーロッパ世界の一大事件でした。
しかし日本人はほとんど関心がありませんでした。
日本からはたった一人が参戦しただけだったのです。アメリカ在住の函館出身の日本人のジャック石井が参戦し華々しく戦死したのです。
国際旅団の総数は延べ6万人と言われていて、その出身国は以下のようになっています。
全体で延べ6万人ほど。
フランス 10000人
ドイツ 5000人
ポーランド 5000人
イタリア 3350人
アメリカ合衆国 2800人
カナダ 2000人
イギリス 2500人
チェコスロバキア1500人
ユーゴスラヴィア 1500人
ハンガリー1000人
メキシコ 1000人
デンマーク 500人
スウェーデン 500人
アイルランド 250人
フィンランド 300人
中国100人
オーストラリア 60人
アルバニア 27人
ニュージーランド 12人
日本 1人
上の表で驚くべきことは「フランコの軍事独裁主義」側を国家として軍事支援していたドイツとイタリアからそれぞれ5000人、3350人も国際旅団側へ参加している事実です。
中国も100人も参加しています。
冒頭にあるパブロ・ピカソは共産主義者🄱ではありませんでした。
しかしフランコ独裁とドイツ、イタリア軍の攻撃に激しく反抗したのです。
そして彼の「ゲルニカ」と題する大作は反戦絵画として世界中で有名になりました。
ピカソは芸術も平和を守るためにあると信じていたqのです。
そして原田マハさんの「暗幕のゲルニカ」にはドイツ占領下のパリの実態やピカソの生活が克明に書いてあるのです。ピカソという巨人に真っ向から取り組んだ力作です。
それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈りいたします。後藤和弘(藤山杜人)