575の会

名古屋にある575の会という俳句のグループ。
身辺のささやかな呟きなども。

鎮魂の 「 カサブランカ 」 ⑴ 竹中敬一

2019年03月23日 | Weblog

私と同じ大学の文学部を出て、同じテレビ局に入った同僚のT君が最近、

亡くなりましたが、彼が晩年、自身のブログで過去に見た映画のことを

回想して書いています。

彼は演劇科を専攻していただけに、かなりの映画通でした。

思い出の映画の中の一つが「 カサブランカ 」。

第二次世界大戦の始まった翌年の1942年( 昭和17年 )に公開された

ハリウッド映画。

モロッコのカサブランカを舞台にしたラブロマス映画ですが、日本での

公開は敗戦 間もない1946年 ( 昭和21年 )のこと。

昭和8年生まれの私たちの世代なら中学か高校時代で見たという人が多い

と思いますが、私は大学時代になってやっと見たように記憶しています。

私とちがってT君は高校時代から何度も見ているようで、彼の脳裏に焼き

ついた映画の各シーンが次々と浮かんできて、そのブログは物語の細部に

まで及んで中々 、終わりません。

私の愛読書「 マイ・ラスト・ソング ~ あなたは最後に何を聴きたいか ~ 」

(文春文庫 ) の中でも著者の久世光彦が矢張り「 カサブランカ 」を取り上げて

います。

「 … もしかしたら、私は「 カサブランカ 」の絵コンテを空で完璧に描けるかもしれない。

それくらい、この映画を観に通った。

あるいは 、「As Time Goes By 」を聴きにいった。」


私はといえば、ストーリーの方はウロ覚えで、最初の方の場面のナイトクラブで

黒人( ドゥリー・ウィルソン ) が歌う、つぶやくような「 As Time Goes By 」

だけは今も不思議に時々 蘇ります

久世氏は「 マイ・ラスト・ソング 」の中でこの歌詞の原文と自らの訳を載せてます。


You must remember this 忘れないでね

A kiss is still a kiss 私たちが交わしたほんのひとときき

口づけも、

A sigh is just a sigh ふと漏らした溜息も、それはなん

でもないこと

The fundamental things apply  のようだったけど、時が過ぎてい くにつれて

As time goes by とても大切なものになっていくのね

And when two lovers woo この先、私たちはどんな風になっ

ていくのか、

The still say I love you それは誰にもわからないけど、好き ー


On that you can rely 人の世で、すがることができるのは

       

No matter what the future brings それだけなのよ。

As time goes by


私も映画にスーパーされる日本語訳の字幕などを参考にこの原文を訳そう

と試みましたが、とても難しく、矢張り「 カサブランカ 」のことを知り

尽くした久世氏ならではの名訳だと思います。

久世光彦 ( くぜ てるひこ ) は、私より二つ年下。東大美学美術史卒後 、TBSに入り、

「 時間ですよ 」など数々のテレビドラマの演出家として、又 、小説家 、随筆家としても

知られています。

平成18年 、70歳で亡くなっていますが、「 マイ・ラスト・ソング 」は亡くなる

四年前に書いたエッセイで、副題に 「 あなたは最後に何を聴きたいか 」

とあるように、死に際に一曲だけ聴きたいといたら、どの曲を選びますかというテーマで、

歌謡曲など25曲について書いています。

( クラシックの名曲が入っていないところが面白い )

「 カサブランカ 」の最後の方でこう述べています。

「 ……通俗の歌詞ほど、胸の中で長く尾を曳く。どの歌にも、その向うに、もう帰ることの

できないあのころの自分が見えるのだ。

大切なことはどんどん忘れていくのに、思い出しても仕方がないことまで思い出させる。

歌といものは厄介なものだ。……」

私たち昭和一桁代の世代の気持ちを代弁するかのように言い残して、

久世光彦はこの世を去っていきました。 (つづく)

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