阿智胡地亭のShot日乗

日乗は日記。日々の生活と世間の事象記録や写真や書き物などなんでも。
  1942年生まれが東京都江戸川区から。

NHKの朝ドラ「ブギウギ」で淡谷のり子役をやっている【菊地凛子】さんが出演したアメリカ 映画「バベル」を以前観ました。   再掲載

2023年12月15日 | 音楽・絵画・映画・文芸
2007年05月16日(水)「阿智胡地亭の非日乗」掲載

映画「バベル」  

映画「バベル」を見ました。

 本当に才能があり、今のこの世をシャンと生きている人が他人に伝えたいことを持って書いた脚本、つまり良質の虚構(フィクション)は、

選択のない事実の羅列よりはるかに人に真実を伝える力がある・・・

  映画が終わってエンドクレジットが流れ終わっても、シートから立ち上がる気がおきず、そんなことが頭の中を過ぎりました。

題名は「バベルの塔」の話から来ていますが、人と人が交流する道具である「言葉」をこのように映像化した試みは外に知りません。

この映画を見ると「目と目で通じ合う」や「腹芸」などは島国にすむ幸せな人間たちの、仲間内の思い上がりに過ぎず、いざとなったら何の役にも立たないかもと。

アメリカ、メキシコ、モロッコ、日本それぞれの地で今を生きる人達が、おそらく本人たちはついに一生誰も知らないまま終るのだろうある一つのことでつながる。

よくもこんな映画を作ったものだと思います。

  自分の負けず嫌いの性格からきた軽はずみの行動が兄を死に追いやったモロッコの羊飼いの少年は、例えイスラム法で裁かれても、

生きている限り心の中で兄に対する自分の贖罪の気持ちを持ち続けるしかない。

この映画はエンドマークが出てから、主役から脇役まで、まだまだ一人一人のその後のドラマに思いが行く映画でした。

「映画はエンドマークが出てから始まるのだ」と言う小津安二郎監督の言葉をこの映画でも思い出しました。

菊地凛子さんは実在感のある東京のリッチな家のdeaf女子高校生を見事に演じ切っていました。

今回も何の予備知識もなく見たので、脚本が各国の脚本家の共同作業かどうかも知りませんが、彼女が主役の日本・東京篇だけでも、

今東京で生きる若い連中のある群像を描いて間然するところはありません。

二日酔い気味で見ましたが、ついに2時間25分をぱっちり目を開けて、心地よい緊張感を持続して過ごしました。

シニア料金の千円でこんな楽しみを頂けるなんてありがたいことです。ハンカチ必要です。

   「そんなやさしい甘いこと言うてるけど、あんた一番身近な、ほんとは一番大切な人と心が通じおうているんか?

あんたが好きなんは、ほんまはあんた自分のことだけやろ」、と監督はこの映画で刃を観客に向けてくる。

エンドクレジットに延々と流れるモロッコ、東京、メキシコ、アメリカそれぞれの出演者と撮影クルーの数の多さに驚きました。

映画を見てから監督、脚本家や各地の撮影クルー、信じられない演技をする各国の俳優と多くの素人のエキストラ(下手なプロ以上だ)のことを詳しく知りたくて公式HPを見ました。

こんなに時間をかけて映画のHPをじっくり見たのは初めてです。



なんとメキシコ出身の監督は長編映画の三作目だとか。そして各国での撮影期間は一年を越えたとありました。

こういう各国のいくつかの地域を舞台にする映画を撮る監督は壮大なオペラの指揮者よりもっと「言葉」の問題にもろにぶつかる。

HPで監督が語っている制作時の話がいみじくもこの映画の本質を示しているのも興味深いです。

何しろちょっとした細部の描写(それがまた全てスグレモノ)が全て積み重なって、それが最後に一つになってこちらに迫ってくる・・

この映画は映画の作劇術から言ってもクロサワなどと同等かそれ以上の天才が作った「じつに面白い映画」です。凄い監督が出てきたものだと思います。

映画はお勧めです。

『バベル』日本版劇場予告編

Babel - Trailer


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1 コメント

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阿智胡地亭辛好 様 (こおひいたいむ)
2023-12-15 21:29:33
こんばんは,コメントありがとうございました。

12月もあっという間に半分が終わってしまいました。
時の経過が早いですね~。

私も映画好きの一人ですが,レビューが苦手,長文が苦手な爺さんです。
このようなレビューを書かれる方には頭が下がります。
記事を読ませて頂き,なるほど,こういう見方もあるのかと参考になることばかりですね。
興味深く読ませて頂きました。
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