孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  カルザイ政権の将来は汚職・腐敗体質の改善次第

2009-11-20 22:59:13 | 国際情勢

2期目の就任式にのぞむカルザイ大統領
“flickr”より By UK in Afghanistan
http://www.flickr.com/photos/32616504@N03/4118491235/)

【「汚職対策を断固として推し進めなければならない」】
アメリカやISAFなどの軍事的支援にも関わらず、アフガニスタンがタリバンの攻勢を許し泥沼化しつつある原因のひとつが、カルザイ政権の汚職・腐敗体質、それによる国民の離反、復興の停滞にあることは衆目の一致するところです。
2期目を向えるカルザイ大統領も、就任にあたり、汚職対策に取り組むことを表明はしていますが・・・。

****アフガン、カルザイ大統領就任 「断固として汚職対策」*****
アフガニスタン大統領選で再選されたカルザイ大統領の就任式が19日、カブールの大統領府で開かれた。就任演説で大統領は最後の任期となる今後5年間で、汚職対策に取り組み、アフガン軍の能力を強化し駐留外国部隊の撤退を実現させる意向を表明した。
就任を宣誓した大統領は演説で「過去8年の過ちや欠点から学び、(汚職対策を)断固として推し進めなければならない」と述べた。公務員など汚職に関与した者は「訴追され裁きを受ける」と明言し、麻薬対策にも全力を挙げるとした。米国などが求める社会基盤の改善も約束した。
難局の克服には挙国一致態勢が不可欠だとし、大統領選を争ったアブドラ元外相とガニ元財務相を「(閣内に)招き入れたい」と語った。全国の部族の長を集めての「ロヤ・ジルガ」(国民大会議)の早期招集にも言及し、イスラム原理主義勢力タリバンのうち、穏健派に和解を訴えた。(後略)【11月20日 産経】
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この演説で、「日本による5年間で50億ドルの支援」にも言及し、謝意を表しています。
なお、式に招待されたとされる、選挙戦を戦ったアブドラ元外相は出席を拒否しています。国民融和政権に向けてはハードルがありそうです。

【上から下まで蔓延する腐敗・汚職】
世界各国の汚職実態を監視するドイツの非政府組織(NGO)「トランスペアレンシー・インターナショナル」は17日、2009年版汚職度調査を発表しています。これによると、アフガニスタンは、実質的無政府状態が続くソマリアと並んで、世界で最も汚職に犯されている国としてリストアップされています。
調査は企業関係者や専門家が、汚職がないクリーンな状態を10点、汚職がまん延した状態を0点として各国の汚職度を判定したものですが、アフガニスタンは前年の1.5点から1.3点に下がっています。【11月18日 AFPより】

つい最近も、米紙ワシントン・ポストが、アフガニスタンの鉱工業相が銅鉱床開発の見返りに、中国企業から3000万ドル(約27億円)のわいろを受け取った疑いがあると報じています。アメリカ国務省も疑惑の存在を認めています。

*****アフガン:鉱工業相が中国企業から巨額わいろ…米紙報道*****
同紙によると、問題の銅鉱床開発は29億ドル規模で、同国最大の開発事業。アフガン政府に入る年間採掘権料の2億ドルは、昨年の国家予算の約3分の1に相当する。鉱工業相へのわいろは07年12月、アラブ首長国連邦ドバイで支払われたという。
最貧国のアフガンにとり、鉱山資源は数少ない有望な収入源。ケリー米国務省報道官は「アフガン国民の政権への信頼を損なう」と述べ、アフガン政府に徹底調査を求めた。
アフガン戦略見直しを進めるオバマ大統領は18日放映の米テレビで、「次の大統領には何も引き継ぎたくない」と述べ、新戦略は任期中の終戦への道筋を示すものと説明。だが、アフガン政権の腐敗体質が改善されない限り、新戦略の円滑な遂行は期待できないのが現実だ。【11月19日 毎日】
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こうした、政界有力者だけでなく、汚職体質は社会全体に蔓延しており、今日のTV番組でも、道路に設けられた検問所での賄賂が紹介されていました。
正規の額の10倍の金額をトラック輸送のドライバー達が検問所で払っているとのことで、払わないと長時間の積荷検査などでいやがらせをされるとか。しかも、正規の検問所だけでなく、警官などが勝手にあちこちに検問所を作って支払を強要しているそうで、長距離を走るドライバーは100か所以上の検問所での支払が必要になるとも。
賄賂・汚職が社会のシステムとして組み込まれているような国はアフガニスタンだけではありませんが、力を持つ者が勝手に検問所を作って不当な金を絞りとっている状態では、経済の復興など望むべくもありません。

【戦争の原因】
国際支援団体オックスファム(Oxfam)とアフガニスタンの地元団体が共同で、今年1月~4月に14州からランダム抽出した男女704人を対象に行った調査によると、30年に及ぶ戦争の主な要因として70%が「失業」と「貧困」を挙げ、48%が「汚職」と「機能していない政府」と回答しています。
“「The Cost of War(戦争の代償)」と題された調査報告書は、「多くのアフガン人は、(政府や国際社会は)数々の約束をするが、実際に人々が恩恵を受けることはほとんどないと感じている。これが欲求不満や失望を招き、最終的に安定を揺るがしている」と指摘。汚職を撲滅し、経済発展と必要な人に届く支援を確実にするよりよい方法を取るよう国際社会に呼びかけている。”【11月19日 AFP】
「失業」と「貧困」にしても、「汚職」と「機能していない政府」がもたらしているとも言えます

なお、国際的な支援が一般国民の手に届かずどこかへ消えてしまうのは、汚職のほか、援助国に還流するシステムにも原因があるようです。
“New America FoundationのPeter Bergen氏とSameer Lalwani氏は、『New York Times』紙(電子版)10月2日(米国時間)付けの記事で、アフガニスタン政府に支払われた数十億ドルもの対外援助資金は、コンサルタントたちに払う給与や諸経費の形で、あっという間に、援助を行なった国に還流していると指摘している。
一般のアフガニスタン人は、SUV車であちこちを見て回る外国の開発コンサルタントの姿は大勢見かけるものの、ほとんどの場合、開発企業がやって来たことによる実質的なメリットはほとんどないという。”【11月20日 WIRED VISION】

【厳しさを増す国際社会の反応】
カルザイ政権の汚職・腐敗体質については、アメリカも重大な問題と認識しており、米軍出身のアフガニスタン駐在アイケンベリー大使は、2度にわたる大統領あての秘密電文で、アフガンのカルザイ大統領が汚職排除と治安責任を含む実効的な統治に取り組まない限り、米軍を増派しないよう強く進言したとされています。
オバマ大統領の増派の決断が遅れているのは、この進言のせいとも言われています。

また、ヒラリー・クリントン米国務長官は15日、「われわれはアフガニスタンに居続けるつもりはない。アフガニスタンに長期的な米国の国益はない。この点を明確にしておきたい」「現代的な民主主義による機能的な国家をアフガニスタンに築き、多くの素晴らしい手段でアフガニスタンの人びとを助けるなどと吹聴する時代では、もはやない」と、米国のアフガニスタン政策は国際テロ組織アルカイダの撲滅であって、アフガニスタンに民主主義を根付かせることではないと語っています。
数百万ドル規模の民間支援についても、汚職撲滅に進展がみられることを条件とする考えを示しています。【11月16日 AFP】
こうした発言は、アフガニスタンの現状を突き放した発言ともとれますし、アメリカが出来ることに対する現実的判断とも言えます。

ブラウン英首相は16日、来年初めにアフガニスタン支援の国際会議をロンドンで開き、現地の治安権限を2010年から段階的にアフガン治安部隊に移譲する計画を策定すると提案しています。英BBCによると、会議は1月を予定し、国際治安支援部隊(ISAF)の主力である北大西洋条約機構(NATO)加盟国が中心になるそうです。【11月17日 毎日より】

アフガニスタンのことはアフガニスタン自身の手に任せて、なんとか泥沼から抜け出したという思惑が窺えます。
“アフガン軍の能力を強化し駐留外国部隊の撤退を実現させる”というのはカルザイ大統領の掲げる目標でもありますが、やり方次第では、かつての南ベトナムのように、カルザイ政権は一気にタリバンと軍閥が織りなす抗争に呑み込まれてしまいます。

【「アフガンの問題は、私たちアフガン人の責任で、国際社会の責任ではない」】
汚職と腐敗にまみれた政権に、治安を確保する能力は望めません。
カルザイ政権が国際支援のもとに国内治安維持に成功するのか、あるいは、国際社会からも見放され、消滅していくのか・・・政権自身の体質改善の取組いかんにかかっています。

「汚職・腐敗はアフガン政権内だけでなく、国際社会の活動にも存在する。だが、アフガンは私やカルザイ氏の国で、国際社会の国ではない。国民が国を愛していないのに、国際社会の行動を怒れるだろうか。国際社会にしても、アフガン人が自国を支えていないのに、どうしてアフガンを支えられるだろうか。アフガンの問題は、私たちアフガン人の責任で、国際社会の責任ではない。日本が第2次大戦後に自力で復興したように、アフガン人も自分たちで復興する責任を負っているのだ。」【1アフガン・メディア・リソース・センター所長 ハジ・サイード・ダウド氏 11月20日 産経】

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嫌米カナダの変化、日本は? アメリカではarmchair patriotsが集団ひきつけ

2009-11-19 21:55:31 | 世相

(9月16日 オバマ大統領と会談するパーパー・カナダ首相 和やかな会談のように見えます。“flickr”より By US Mission Canada
http://www.flickr.com/photos/us_mission_canada/3926370813/)

【治りつつあるカナダの「反米病」】
アメリカという国はとにもかくにも大きな影響力を持つ大国ですから、その周辺国や関係国はアメリカの強い引力に対し、親米という形でなびくか、嫌米・反米という形で反発するか、その色を鮮明にさせることにもなります。
コロンビアのウリベ政権を除いてほとんどすべての国が嫌米・反米を政治的ポーズとする左派政権一色になった中南米諸国も、そうした例でしょう。

一方、北米のカナダは?
普段カナダという国について聞くことは少ないのが実情ですが、経済的にはアメリカと一体ではないかとも想像してしまうカナダにも嫌米的な空気が根強くあるそうです。
しかし、その空気にも最近変化があるとか。

****嫌米カナダがオトナになった?*****
カナダのインテリ層にとって、反米主義は何世代も前から遺伝してきた「持病」のようなものだ。
カナダ人の反米意識は、一部の国にあるようなアメリカへの猛烈な嫌悪感とも、ヨーロッパ人の間に広がるエリート主義的な嘲笑とも違う。呆れ顔で隣人の行為を非難する種類の反米感情で、それはジョージ・W・ブッシュ前大統領の時代に最高潮に達した。
2003年、カナダはイラクへの派兵を求めるアメリカの要請を拒否。カナダのメディアは、ネオコンが率いるアメリカの世界観を辛辣な言葉で非難した。(中略)

ここにきてカナダ人は突然、一気に大人になったようだ。バラク・オバマ大統領の誕生が背景にあるのはもちろんだが、それだけが理由ではない。スティーブン・ハーパー首相がホワイトハウスを訪問する9月16日を前に、カナダは反米主義という慢性病を克服しつつある。
ブッシュ政権時代には、カナダの首相はブッシュと会談するたびにアメリカと「親しすぎる」とメディアに叩かれたものだ。何をもって「親しすぎる」とするのか厳密に定義されたことはなかったが、祖国を愛する指導者ならあらゆる機会を使ってアメリカを怒鳴りつけるべきだ、というのが一般的な感覚だった(攻撃材料は、カナダの道義的な優位性を象徴的に示せるテーマなら、ミサイル防衛からイラク問題、貿易自由化、外交まで何でもありだ)。

しかし、今回の首脳会談は友好的な雰囲気につつまれそうだ。10月に総選挙を控えているにもかかわらず、ハーパーにはアメリカに喧嘩を売るつもりはなさそうだ。
変化の背景として、オバマ人気が一定の役割を果たしているのは間違いない。アメリカではオバマの支持率は低迷気味だが、カナダでは相変わらずロックスター並みの人気を誇る(カナダ人は基本的に国民皆保険が好きだ)。
とはいえ、要因はそれだけではない。親米の保守党に対して愛国主義を掲げていた野党の自由党が、マイケル・イグナティエフを党首に選んだのも変化の後押しとなった。(中略)当然のことながら、イグナティエフの登場によって自由党による反米プロパガンダは影を潜めた。

アメリカ経済の低迷も要因の一つだ。カナダの反米主義を煽ってきたのは、アメリカへの羨望と恐怖心だった。しかしこの1年、経済危機と不動産価格の下落、悪化する一方の雇用情勢に打ちのめされて、アメリカの存在感はすっかり薄くなった。
それに対して、カナダ経済が負った傷は比較的浅い。特に銀行と不動産業界はアメリカと比べて安定性が高い。(中略)
 
もちろん、政策の違いがないわけではない。たとえば、カナダの財界は米政府の景気刺激策に盛り込まれた「アメリカ製品を買おう」という条項に怒り心頭だ。アラスカ沖のボフォート海の漁業権をめぐる論争も勃発している。さらに、カナダ軍が11年までにアフガニスタンから撤退する予定なのに対し、オバマは米軍をさらに増派するかもしれない。
それでも、成熟した民主国家の間にこうした違いがあるのは当然のこと。ハーパーとオバマは冷静さと分別を忘れずに、そうした課題を議論するだろう。
カナダの「反米病」が治りつつある背景には、ワシントンとウォール街の動向が思わぬ形で大きく作用しているようだ。だが、それはカナダ自身が大人になったことの表れでもある。【11月16日 Newsweek】
***********************

【成熟した民主国家の関係】
かなり長い引用になってしまいましたが、記事自体は9月頃に掲載されたもののようです。
この記事が興味深かったのは、カナダの事情のみならず、最近の日本における日米関係に関する論議が思い起こさせられたからです。

日本ではこれまで、極力日米関係に波風をたてない徹底した同盟関係が重視されてきましたが、政権交代以来、鳩山論文の“対等な日米関係”、東アジア共同体構想、そして普天間基地問題などで、波風が立っています。
日米は、政治・経済・軍事を含む包括的な同盟関係にある訳ですから、基地問題のひとつやふたつあってもおかしくないし、そういう問題がないほうが不自然でもあります。

カナダが「反米病」を克服して成熟した民主国家の関係に近づきつつあるとしたら、日本は逆に、徹底した親米路線から“対等な日米関係”を志向する動きにあるようにも見えて興味を感じた次第です。(普天間は何やら迷走していますが)

こうした動きの背景には、やはりオバマ政権の誕生があります。
カナダでもオバマ人気はロックスター並だとのことですが、日本は大統領選挙中から、アメリカ国内以上に大統領選挙への関心が高かったという不思議な国です。

日本に限らず、世界中の国々が総じてアメリカの政権交代、オバマ大統領の誕生を歓迎しました。
何かと喧嘩早く、すぐに銃をぶっ放したがるような前政権に比べて、チェンジを掲げ、対話を重視した、規制の枠組みを超えたような新政権への期待は、アメリカとの間で新しい関係を模索できるのではないかという期待をも生みました。

【「couch potato conservatives(カウチポテトな保守派)」】
しかし、アメリカ国内では、オバマ政権誕生が保守層を刺激したこともあって、医療保険制度問題の論議などをとおして、社会全体ではむしろ保守化の傾向が強まっているようにも見えます。
訪日中の天皇への(いささか芝居がかったような)お辞儀問題は、そうした保守派からの格好の標的になったようです。日本人が連想したのはマッカーサーと昭和天皇の写真でしょうか。

****オバマのお辞儀批判は劣等感の表れ****
日本を訪れた際に天皇にお辞儀したバラク・オバマ大統領をめぐる論争に加わることに、私は少々ためらいを感じている。この行為に激怒している人々は、オバマの言動すべてに不満を募らせており、この一件をそうした感情のはけ口にしているように思えるからだ。逆に、お辞儀に大した意味はないと考える人々は、オバマを熱心に擁護するほどの関心もなく、肩をすぼめて立ち去っていく。

私もお辞儀くらいで大騒ぎするなという意見に賛成なので、これまでこの問題には触れなかった。外国要人の前でお辞儀をしたアメリカ大統領は、オバマが初めてではない。ビル・クリントンも明仁天皇にお辞儀したことがあるし、リチャード・ニクソンはその父の裕仁天皇に、ドワイト・アイゼンハワーはシャルル・ドゴール仏大統領にお辞儀をした。
彼らがお辞儀をしたせいで世界におけるアメリカの立場が劇的に弱まったことなどないし、今回もそんなことにはならない。大統領は礼儀正しさと強大な権力を合わせもてる存在なのだ。
伝統を尊重しなかったり、善意を示すジェスチャーをないがしろにする姿勢を通してしか、権力を誇示できないというのか。親米国の高齢の天皇にお辞儀をしただけで危機にさらされるほど、世界におけるアメリカの地位は危ういのか。私はそうは思わない。

アメリカ外交の方向性について議論するのなら、何の異論もない。外国の指導者に敬意を払いすぎる態度は弱さの告白に等しいという批判もあり、そうした議論には意味がある。だが、必要なのはあくまで具体的な決定や政策をめぐる議論であり、象徴的な役割しかもたない天皇への挨拶の仕方をめぐる議論ではない。
お辞儀をめぐる批判には作為が感じられ、無意味な論争だ。アメリカが実態よりも弱い国という印象を世界に与えるだけだ。【ケイティ・コノリー 11月18日 Newsweek】
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まっとうな意見に思えます。
「armchair patriots(肘掛け椅子に座ったまま机上の空論ばかり言う愛国者)たち」とか「couch potato conservatives(カウチポテトな保守派)」という言葉あるそうです。要するに、何の行動もせずただテレビやパソコンの前にどっかり座ってあーだこーだ文句言っているだけの愛国者気取りの保守派という意味です。
「politicize」(政治問題でないことを政治問題にする)という言葉も。【11月18日 “ニュースな英語”より】
日本を含め、どこの国もこの手相が多いのが困りものです。




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COP15のコペンハーゲン合意に向けて ブラジル・インド・中国の姿勢変化?

2009-11-18 21:48:32 | 環境

(スモッグに煙る北京 “flickr”より By kevindooley
http://www.flickr.com/photos/pagedooley/386198516/
こうした光景は、昨年9月に北京を旅行した際に私も目にしましたが、翌日にはきれいに澄みきっていたりして、大気汚染によるものなのか、気象現象なのかはよくわかりませんでした。)

【悪化するCO2排出】
温暖化対策が重要な課題となっていますが、現実世界ではむしろCO2排出が増大しています。

****CO2排出:世界で90年比4割増 途上国の石炭利用増え****
化石燃料使用による08年の二酸化炭素(CO2)排出量は世界全体で約320億トンで、京都議定書の基準年(90年)より約4割増となったことが、国立環境研究所などの国際研究チームの調査で分かった。1人当たり排出量も過去最多だった。英科学誌「ネイチャージオサイエンス」電子版に17日掲載された。(中略)
研究チームは「国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が想定した最悪のシナリオに沿った増加スピードだ。経済の回復とともにさらに増加する可能性は高い」と早急な対策を求めている。【11月18日 毎日】
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CO2排出増加の原因は、途上国を中心に排出量の多い石炭の利用が増えていること、また、国際貿易が活発化し、先進国で消費される商品が省エネの進んでいない途上国で生産されていることが指摘されています。
これからみても、途上国・新興国での何らかの削減努力が必要なことは明らかですが、先進国の過去の歴史的責任を重く見て、先進国中心の対応を要求する途上国・新興国と、応分の負担をそれらの国々にも求める先進国との溝が埋まらずにいることは周知のところです。

【コペンハーゲン合意】
12月に開催されるCOP15における法的拘束力がある「ポスト京都議定書」の採択が見送られることが正式に決まりました。

****COP15:ポスト京都採択見送り 閣僚級会合で固まる*****
12月にコペンハーゲンで開かれる国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)で、法的拘束力がある「ポスト京都議定書」の採択を見送ることが16日、当地で開幕した閣僚級準備会合で固まった。議長を務めるデンマークのヘデゴー気候変動・エネルギー相と、気候変動枠組み条約のデブア事務局長が会議の冒頭で各国に示した。今後は、政治的合意文書の作成に向けた協議が本格化する。
先進国と新興国・途上国の対立が続くなか、「ポスト京都議定書」を「来月までにまとめるのは不可能」(小沢鋭仁環境相)となったためだ。政治的文書にどこまで踏み込んだ内容を書き込めるかが今後の焦点となる。
デンマークのラスムセン首相は、各国首脳にCOP15への参加を呼びかけており、政治的文書のとりまとめは最終的には首脳レベルによる調整となる可能性もある。【11月17日 毎日】
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この閣僚級準備会合で、議長国デンマークのラスムセン首相は「ポスト京都議定書」の採択は来年以後に先送りするものの、COP15では、先進国の削減目標、途上国の削減方針、途上国支援の枠組みなどを盛り込んだ「コペンハーゲン合意」の採択を目指す考えを提案、各国は包括的な政治合意の作成に向けて努力を続けることで一致しています。

「コペンハーゲン合意」が成立するどうかは、先進国と新興国・途上国の対立が和らぐかどうかにかかっていますが、とりわけ中国、インド、ブラジルという、途上国側の意向を代弁する形で会議をリードする新興国の対応が注目されます。

【ブラジル:数値目標設定】
ブラジルについては、最近、温暖化対策に前向きな姿勢も報じられています。

****ブラジル:温室効果ガス36%削減へ 20年までに*****
ブラジルのルセフ官房長官は13日、温室効果ガスの排出量について、特別な対策を取らなかった場合に比べ、2020年までに少なくとも36%削減するとの政府目標を定め、来月にコペンハーゲンで開かれる気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)で提案すると発表した。
同国が具体的な数値目標を設定するのは初めて。長官はあくまで努力目標であり、削減義務を負う数値ではないとしている。
COP15に向けた交渉では、中国やインドなど新興国と先進国が排出削減をめぐり対立しており、新興国の一角のブラジルが中期的な目標を定めたことで、停滞している交渉の進展を促す可能性もありそうだ。
有力ブラジル紙フォリャ・ジ・サンパウロ(電子版)などによると、長官は、特別の対策を取らない場合に予測される20年の排出量の36.1~38.9%を削減するとしている。
ミンク環境相によると、世界最大の熱帯雨林があるアマゾン地方では違法伐採の取り締まり強化などで森林の消失面積が大幅に減少しており、ブラジルの対策の多くがこうした施策に依拠しているという。【11月14日 毎日】
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“「地球の肺」とも呼ばれるアマゾンの森林を抱えるブラジルは、これまで森林伐採の削減量の数値目標設定には難色を示していた。アマゾンでは96年から05年までの年間平均で1万9千平方キロの森林が伐採されていたが、政府は昨年末に初めて、2017年までに伐採面積を72%減らすと発表。今回は削減目標をさらに80%まで増やし、2020年のアマゾンの森林伐採を年間4千平方キロにとどめるとしている。
アマゾンでの森林伐採は、焼き畑などによる農耕地の造成が主な原因とされる。政府は、焼き畑をしなくても農作物を作れる方法の指導や、違法伐採の取り締まりを進めている。” 【11月14日 朝日】

切り札のアマゾン熱帯雨林というカードを切ってきた訳ですが、こうした自国対応を背景に14日には、フランスのサルコジ大統領とブラジルのルラ大統領が、先進国に対し、2050年までに地球温暖化ガスの排出量を1990年代の水準から少なくとも80%削減することなどを求める共同文書を採択しています。
世界の2大温暖化ガス排出国である米中2カ国に、コペンハーゲン会議で大きな譲歩を迫る狙いがあるとも報じられています。

【インド:「排出量削減義務を負うべき」】
一方、インドでは、ラメシュ環境相がシン首相に「インドは排出量削減義務を負うべきだ」と方針の大転換を迫ったとする、首相への書簡がスクープされ大きな騒動になっているとか。

****温室ガス削減交渉“壊し屋”に大国の自覚? インド、牽引役狙う****
来月上旬にコペンハーゲンで開催される国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)に向け、多国間交渉の“壊し屋”といわれるインドが、交渉の“牽引役”として存在感を発揮しようとしている。温室効果ガスの排出量削減を義務づけられることに強く抵抗してきたこれまでの姿勢に変化がみられ、国際社会における“真の大国”としての地位の確保に本腰を入れ始めたようだ。(後略)【11月18日 産経】
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環境相の書簡は、“08年6月、政府は気候変動に関する行動計画を策定し、「インドの排出量が先進国を上回ることはない」と宣言した。これは排出量削減をめぐる論議そのものを遠ざけてきた姿勢を返上したものだ。今年のイタリア・ラクイラでの主要経済国フォーラム(MEF)では、産業革命以来の気温上昇を2度以内に抑えることを盛り込んだ首脳宣言に署名した。排出量削減へ国内法を整備する準備も進めており、積極的に関与する動きが目立つ”【11月18日 産経】という、インドの最近の姿勢変化の流れに沿うものです。
ただ、これがスクープされ騒動となるということは、国内に根強い抵抗勢力が存在することも意味します。

【中国:途上国の削減策具体化で合意】
ブラジル、インドとくれば、次は中国です。
****米中、COP15へ協調 温室ガス削減策の具体化めざす*****
訪中しているオバマ米大統領と胡錦濤・中国国家主席が17日、北京で会談し、共同声明を発表した。12月にコペンハーゲンでの国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)でめざす「政治合意」を実効性のあるものとするため、米国を含む先進国の温室効果ガス削減目標と、中国など新興国も含む途上国の削減策を具体的に盛り込むことで一致した。13年以降の枠組み(ポスト京都議定書)に向け、弾みがつく可能性が出てきた。オバマ氏は会談後「我々はコペンハーゲンでの成功に向け努力することで合意した。我々の目標は部分的な合意や宣言ではなく、(ポスト京都の)すべての論点を網羅した合意だ」と明言した。(後略)【11月18日 朝日】
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米中首脳は、デンマーク・ラスムセン首相の政治合意を目指す方針を支持したそうですが、ただ胡主席は、先進国と新興国の責任の違いも強調したとも。

【コペンハーゲン合意への期待】
ブラジル、インド、中国、それぞれこれまでの先進国を非難するだけの姿勢からの転換が窺われます。
国際政治の場でイニシアチブを取りたい思惑もあるのでしょう。
こうした姿勢がコペンハーゲン合意にストレートに結びつくものではないでしょうが、合意形成に向けた期待も若干感じます。

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食料サミット開催  飢餓人口10億人 農業投資拡大で農業生産70%増が必要

2009-11-17 21:58:38 | 国際情勢

Photo credit: ©FAO/Giulio Napolitano
(食料サミットで「新たな封建制」を批判するリビア・カダフィ大佐
“flickr”より By FAO News
http://www.flickr.com/photos/faonews/4108910743/)

【主要国首脳欠席】
世界の首脳級が飢餓状況や将来の食料確保を話し合う「食料サミット」が16日、ローマの国連食糧農業機関(FAO)本部で始まっていますが、これに関連して、主要国の関心の薄さを批判する形で、FAO事務局長がハンストを行うという報道がありました。

****主要国首脳の欠席に抗議?FAO事務局長がハンスト*****
国連食糧農業機関(FAO、本部ローマ)のジャック・ディウフ事務局長は11日、世界的な飢餓問題の深刻さを訴えるため、24時間のハンガー・ストライキを行うと宣言した。
16~18日にローマで開かれるFAOの「世界食料安保サミット」で主要国の首脳が軒並み欠席する見通しとなり、当てこすりとの見方も出ている。
ハンストは14日に行う予定。FAOによると、栄養失調状態に陥っている世界の飢餓人口は今年、10億人を突破しており、事務局長は「飢えに苦しむ人たちとの連帯を強調するため」に、世界の有志にもハンストを呼びかけている。
事務局長はアフリカのセネガル出身。食料サミットには約60か国の首脳が出席する予定だが、主要8か国側は「7月の主要国首脳会議(ラクイラ・サミット)での飢餓対策の合意をなぞるだけで、首脳が集まる意味がない」(外交筋)との意見が強く、議長国イタリアのベルルスコーニ首相を除いて欠席する見通しだ。【11月12日 読売】
*******************
日本からは村上秀徳農林水産省顧問が出席しています。

【飢餓人口10億人突破】
食糧価格が世界的に高騰し、各地で暴動などの混乱がおきたのは昨年前半のことでした。
こうした危機的な事態に対処するため、FAO主催の「食糧サミット」が約150か国の代表が参加してローマで開かれたのが昨年6月でした。

その後の金融危機、世界同時不況のなかで、食糧事情についてはあまり聞かれなくなりましたが、別に事態が好転した訳ではありません。08年前半のピーク時と比べると下がったものの、06年に比べまだ24%も高いという食糧価格の高止まりと経済苦境による所得の制約によって、むしろ状況は悪化しているとも言えます。

国連世界食糧計画(WFP)は9月16日の声明で「多くの人が世界的な金融危機に巻き込まれている。食品価格の高止まりが影響して、購買力が制限されている。そうした状況に加えて、予測のつかない天候が、天候に起因する飢餓をさらに多く生み出している」と述べています。
そのWFPによれば、世界の飢餓人口は2009年に初めて10億人(世界のおよそ6人に1人)を突破し、過去最高水準に上昇しています。

国連食糧農業機関(FAO)、世界食糧計画(WFP)、国際農業開発基金(IFAD)の国連3機関は11月5日、全世界で10億人以上に上る飢餓人口の削減に向けた協調体制を強化することで合意しましたが、世界不況によって資金的には非常に苦しく、WFPは9月時点で、09年度予算67億ドル(約6090億円)のうち、26億ドル(約2360億円)しか確定していません。

【「農業への回帰」】
今回の「食料サミット」の共同宣言においては、政府開発援助(ODA)で農業分野が激減していることを示し、参加国に農業投資を強化するよう訴えています。先進国からの食料輸送が中心だった飢餓救済に関し、かんがいなど技術支援に重点を移して「農業への回帰」を打ち出したものと報じられています。

****食料サミット:「農業への回帰」前面に…支援見直し迫る*****
41項目の宣言は冒頭、現在の食料状況について「飢餓、貧困下にあるのは10億人以上」と記し、「世界人口の6分の1もの人々の命、暮らし、尊厳を傷つける、受け入れがたいものだ」と訴えた。
昨年6月の食料サミットでは、食料価格の高騰や気候変動、先物投資などが飢餓要因に挙がった。だが、今回は長年軽視されてきた農業に焦点を当て、世界に向けて支援の見直しを迫っている。途上国では70年代後半から、新自由主義の下、国際通貨基金(IMF)や世界銀行の指導による構造調整で民営化が進み、農業予算は大幅に削られてきた。
宣言によると、80年にODAの19%だった農業分野が、06年には3.8%に減った。2050年に世界の人口は90億人を超え、食料確保には農業生産を現在より70%増やさねばならないと指摘した。FAOの試算では、将来、農業支援だけで年間440億ドル(約4兆円)が必要という。
国連のミレニアム開発目標は飢餓、栄養不足の人口を2015年までに半減するとしていたが、実現は難しく、宣言からも「2025年に飢餓撲滅」との文言は外された。
参加した首脳陣は途上国が中心で、主要8カ国(G8)からは主催国イタリアのベルルスコーニ首相だけだった。また、ローマ法王ベネディクト16世が開幕演説に加わった。【11月16日 毎日】
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“2050年に世界の人口は90億人を超え、食料確保には農業生産を現在より70%増やさねばならない”というのは、9月23日のFAOが発表した試算です。

****世界の食料生産、2050年までに70%増の必要 FAO****
国連食糧農業機関(FAO)によると、人口増加だけでなく、所得の増加によっても食糧需要は増加すると見られている。2050年までに、穀物生産は現在の21億トンから約10トン増、食肉生産については約2億トン以上増加させ4億7000万トンにする必要があるという。
試算では、「エネルギー価格や各国政府の政策次第では、バイオ燃料の生産増加も農業製品の需要を増加させる」ともされている。

FAOは、主にアフリカや中南米などの途上国では「耕作地を約1億2000万エーカー拡大する必要がある」とも予測している。一方で、「先進国で実際に使用されている耕作地は、バイオ燃料需要で変わってくる可能性があるものの、約5000万エーカーの減少となるだろう」との見方を示した。
世界的に見て、今はまだ将来の人口増加分をまかなうのに十分な土地はあるものの、そうした土地の大半はわずか2、3種類の穀物の耕作にしか適していないのだという。FAOはさらに、化学的・物理的制約や風土病、インフラ不足などの問題もあると指摘した。
FAOは、こうした問題を克服するために「かなりの投資」が必要だとする。その一方で、中東や北アフリカ、南アジアなどのいくつかの国では、「すでに耕作可能な土地の上限に届きつつある」としている。【9月24日 AFP】
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【“強欲”と“新たな封建制”】
国連の潘基文(パン・キムン)事務総長はサミットの開会にあたり、この7割の食糧増産を「気候変動がより激しく予測不能となっている」状況で行わねばならないことを指摘し、「今日の食糧危機は、明日の世界への警鐘だ」との危機感を示しています。

ローマ法王ベネディクト16世は、穀物を投機の手段とする人びとの「強欲」を非難し、「飢餓は世界人口の6分の1に相当する人びとの生命、生活、尊厳を破滅させる受け入れがたいものだ」と述べています。

一方、サミットに参加したリビアのカダフィ大佐が批判したのは、最近アフリカで先進国・中東産油国・中国などの企業が農業用地を買収・借り上げて、自国向けなどの輸出食糧を生産する農地囲い込みの動きです。

****「新たな封建制」と批判=外国人の土地買収で-カダフィ大佐*****
「新たな封建制だ」―。リビアの最高指導者カダフィ大佐は16日に開幕した国連食糧農業機関(FAO)食料サミットでの演説で、外国人による途上国での土地買収の動きをこう批判した。ロイター通信などが伝えた。
カダフィ大佐は「豊かな国がアフリカの土地を買い付け、アフリカの人々の権利を奪っている」と言明。南米地域にも、こうした動きが広がっていくことに懸念を示した上で、「この新たな封建主義と戦うべきだ」と語り、途上国側が対抗措置を講じるよう呼び掛けた。【11月17日 時事】
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この問題は7月23日ブログ「アフリカ  外国企業による農地囲い込み “新たな植民地主義”の批判も」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090723)でも取り上げたところです。
FAOも「農地や水を丸ごと買い上げるのは新たな植民地主義だ」と警告しています。

単なる企業利益の追求だけでなく、食糧安全保障的な面がありますが、進出先の人々が餓えで苦しむときに自国向けに高値で食糧を送り出すという構図は、やはり受け入れがたいものでしょう。


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オーストラリア  ラッド首相、過去の児童施設での虐待に対し公式謝罪

2009-11-16 21:04:04 | 世相

(ラッド首相の謝罪を聞く被害者 “flickr”より By jthommo101
http://www.flickr.com/photos/jthommo101/4108188847/)

【二つの公式謝罪】
今日、時期を同じくして、過去の自国の歴史に対する二つの公式謝罪が報じられています。
ひとつは、イギリスが行った児童の棄民政策。
もうひとつ、オーストラリアでの施設における児童虐待。
この両者は、イギリスからの児童棄民をオーストラリアの施設で受け入れ、これを虐待したという形で連動したものです。
おそらく、謝罪にあたっても、両国の間で調整がなされているのでしょう。

****子供を豪州に棄民=英首相が謝罪へ*****
英スカイ・テレビ(電子版)は15日、白人移民の増加を望んでいたかつてのオーストラリアに対し1940~50年代、英政府が児童施設の子供を選抜しては国策として送り込んでいたとして、ブラウン首相が近く公式に謝罪すると伝えた。
当時の英政府は、児童施設の予算確保に苦しんでおり、豪州の要望は「渡りに船」だった。総勢1万人近い子供がだまされて送り込まれたとみられている。【11月16日 時事】
*************************

子ども時代に英国の貧困家庭や児童施設から「豊かな生活」を約束されてオーストラリアへ渡った移民は、「忘れられたオーストラリア人」と呼ばれています。彼らは国営施設や孤児院に収容され、劣悪な環境の中で肉体的・精神的・性的に虐待を受けたり、農場での労働を強制されたりしたと訴えてきました。
また、食事や教育も十分に与えられなかったと言われています。
なお、イギリスはオーストラリアのほか、旧植民地のカナダや南アフリカにも子供を送っています。

****豪児童施設の虐待でラッド首相が謝罪、被害者50万人*****
オーストラリアのケビン・ラッド首相は15日、1930年~70年ごろに同国内の複数の児童養護施設で子どもたちに対する虐待や強制労働が行われていたとして、この期間に入所していた約50万人に、国家として公式に謝罪した。

「われわれは今日、国家として皆さんに謝罪します。『忘れられたオーストラリア人』である皆さんは、幼少時に何の了承もなく、家族と引き離されてオーストラリアに送られた。申し訳ない」
ラッド首相は、議会に招かれた約1000人の被害者らを前にこのように述べ、肉体的、精神的苦痛、愛や優しさの欠落した「感情的な飢え」について謝罪。「疑問の余地のない悲劇である子ども時代の喪失を謝罪する」と語った。

2004年に上院が行った調査などによると、家庭崩壊や母子家庭などの理由で公営や教会運営の児童施設に送られた子どもたちは、外部の監視のほとんどない国営や教会運営の施設で、体罰や精神的虐待、性的虐待、養育放棄、強制的な下働きなど心身両面での虐待を受けていた。中には、英国から移民として送られてきた子ども7000人も含まれるという。
子どもたちには、食事や教育、医療ケアも満足に与えられなかったという。また、多くは両親や兄弟の顔も知らず、施設間をたらい回しにされていた。自分の名前さえ知らない孤児もおり、子どもたちを番号呼んでいた施設もあったという。【11月16日 AFP】
**************************

【「時計の針を戻して過去の苦しみを消し去ることはできない」】
オーストラリアでは、連邦議会上院調査委員会が、過去の「忘れられたオーストラリア人」や「児童移民」問題を調査した一連の報告書を作成しており、これに基づき、8月30日、連邦政府のジェニー・マクリン家族問題担当大臣が、「年内にケビン・ラッド首相が、施設虐待被害者への公式謝罪と被害者福祉の予算を発表する」と声明を出していました。
この際、マクリン大臣は、施設における児童虐待の事実のほか、「孤児は、実際には母親から強制的に引き離され、養親のもとに送られたもので、政府の行為は不適切かつ非倫理的なものだった。政府は、被害者だけでなく、子供を連れ去られた母親達の苦しみを認める」と述べています。【8月30日 日豪プレスより】

ラッド首相は議会で被害者らを前に演説、「わが国の歴史の醜い一章に向き合わねばならない。幼少時代を奪った悲劇に対し、心から謝罪する」「この国を代表して、皆さん全員に向けて語られなかったことを語り、心から謝罪したい」と演説し、数万人から数十万人に上るとされる被害者に「皆さんが苦しみ、適正なケアを受けられず、助けを求める声に先人たちが耳を傾けなかったことをおわびする」と述べています。
首相はさらに、「私が今何を言っても、皆さんの子ども時代を取り返し、時計の針を戻して過去の苦しみを消し去ることはできない」と認めたうえで、「私にできることは、何十年もの間、苦難に負けまいと立派に生き抜いてきた皆さんの精神を称賛することです」と語りかけたそうです。【11月16日 CNNより】

【歴史の醜い一章】
イギリスの棄民政策、「忘れられたオーストラリア人」の問題については、報じられていることしか知りません。
ただ、ラッド首相の自国の“歴史の醜い一章”に向き合う姿勢には感銘を受けるところがあります。
どこの国にも、そして日本にも“歴史の醜い一章”は存在します。
人権とか、自由・平等の理念とか、今では普遍的なものとして受け入れられている価値観が重視されるようになったのはそう古い話ではありません。
また、そうした価値観が適応される範囲も、国家・民族のなかの、更に一部の人々といったように、極めて狭いものでした。
ですから、過去の歴史を現在の価値観から振り返ると、“醜い”面も多々あります。
その歴史と正面から向き合うことはときに困難なことでもあります。

細かく木々1本1本を見ていけば、多くの事象の中には、決して“醜い”とは言えないものも含まれます。中には良い結果をもたらした事例もあるでしょう。また、当時としてはやむを得なかったという側面もあるでしょう。
そうした面に目を向けると、ときに自己弁護的な主張も出てきます。
しかし、大きく森全体を俯瞰すれば、自らの行いに反省すべきところがあったのか、なかったのかはおのずから明らかになります。

ラッド首相は政権交代後、帝国植民地時代とその後の連邦時代を通じての先住民族アボリジニに対する非人道的政策に対する「公式謝罪」も行い、人々の共感を得ました。
政権交代というものが、どういう効果を生むものかを示してくれたとも言えます。
日本の政権交代にあっても、個々の政策にとどまらず、こうした政治の基本姿勢の変化を感じさせるものであってほしいものです。

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中国、帰国を拒否 人権活動家、成田空港で10日間寝泊り

2009-11-15 12:20:47 | 世相

(成田空港内で寝泊まりしている馮正虎氏 “flickr”より By RFAChina
http://www.flickr.com/photos/rfachina/4101587952/)

【映画「ターミナル」】
半月ほど前、国籍を失い空港で暮らすことになった男性をえがいた映画「ターミナル(The Terminal)」(2004年)をDVDで観ました。

“アメリカ、ジョン・F・ケネディ国際空港の国際線ロビー、入国手続ゲートでクラコージア人のビクター・ナボルスキーは足止めされていた。母国のクラコージア(作中の表記はKrakozhia)で、彼が乗った飛行機が出発した直後クーデターが起こり政権崩壊状態に陥った。そのため、彼のパスポートは無効状態となり、入国ビザは取り消されていたのだった。母国に引き返すこともできない中、ビクターはある約束を果たすために空港で生活を始める。”【ウィキペディア】・・・という設定で、出国も入国もできず空港トランジットエリアで暮らすことになる主人公と空港で働く人々との交流、フライト・アテンダント女性との恋、彼を空港から厄介払いしようとする空港管理者との攻防などを描いたラブコメディーです。

なお、似たような実話としては、やはり映画化(「パリ空港の人々」)された、身分証明書の紛失により1988年から18年あまりシャルル・ド・ゴール国際空港で生活したイラン人難民マーハン・カリミ・ナセリさんのケースがあるようです。

【6月以降8回、中国当局再入国を拒否】
海外旅行が好きで空港はときどき利用しますが、言葉の問題もあって海外の空港で右往左往することが多い私は、入国審査のときなど、もしビザに不備があって入国できないと言われたらどうなるのだろうか・・・なんて不安になることも。
そんなこともあって興味深くこの映画を観たのですが、昨日、中国に帰国を拒否され、成田空港で10日間寝泊りを続けている中国人の人権活動家の記事を目にしました。

****成田で寝泊まり続ける中国人権活動家に食料支援*****
成田国際空港で14日、中国政府に帰国を拒否されたため同空港の制限エリア内で10日間も寝泊まりを続ける人権活動家、馮正虎氏に、1週間分の食料が届けられた。馮氏のために香港から食料を持ち込んだのは、チベットの独立を支持する香港の学生活動家、クリスティーナ・チャンさん。インスタント麺や電気ケトル、ビスケットなどを差し入れて、数時間で香港にとんぼ返りした。

馮氏は6月以降、これまでに8回も、中国当局から再入国を拒否されている。今回も自宅のある上海の空港で3日、入国管理局に帰国を拒否され、成田に強制送還された。
国籍を失い空港で暮らすはめになった男をえがいた米映画『ターミナル(The Terminal)』を地でいく馮氏は、帰国の決意を示すため、日本には入国しないと話している。【11月14日 AFP】
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馮正虎(フウ・セイコ)氏は、“地方政府の違法行為および強制立ち退きに焦点を当てた経済評論を書いていた。経済発展の影響で苦しめられた多くの上海の請願者が、正義を求め馮正虎を頼ってきた。馮正虎は彼らの事例を文書にまとめ、訴訟を起こすための弁護士探しを手伝っていた。”【3月23日 アムネスティ発表国際ニュース】という人物で、今年2月、“北京で弁護士に会いに行く強制立ち退きの被害者に同行していたところを7人の上海市警察によって拘束された。警察は、阜外大街近くの国賓ホテルの外で馮正虎を無理やり車に押し込んだ。馮正虎は2月16日に上海に連行された。”【同上】ということです。

その後、3月末に釈放されます。昨年裁判所に海外渡航禁止処分を受けていましたが、上海の警察が出国黙認を示唆。天安門事件20周年にあたる6月4日までのあいだ外国でおとなしくしていてほしいという意味合いだったそうです。本人も休養を兼ねて4月1日に来日しました。

***来日の中国人活動家帰国できず 天安門絡み? 中国当局が拒否****
天安門事件20周年に合わせて来日していた中国人の人権活動家、馮正虎(フウ・セイコ)さん(54)=上海在住=が今月7日と17日の2度にわたり、中国の空港や航空会社から入国や搭乗を拒否され、日本国内に足止めされていることが18日、分かった。
馮さんの関係者によると、馮さんは民主化や人権活動を続け、今年2月には中国の公安当局に拘束された。その後、天安門事件20周年にあたる6月4日をすぎるまで国外に滞在することを条件に釈放され、4月1日に来日した。滞在中は中国の民主化の現状を紹介する活動などを行っていたという。

今月7日、成田空港から上海に向けて帰国の途に就いたが、上海浦東(ホトウ)国際空港で入国を拒否された。理由について、馮さんを取り囲んだ警察当局者は「上司の命令だ」と話し、関西国際空港までの全日空機の航空券を渡され、そのまま日本に行くよう指示されたという。馮さんはやむなく関空に戻った。
17日朝には成田空港から中国国際航空機で再度、帰国しようとしたところ、航空会社が搭乗を拒否。出発ゲートで一夜を過ごしたものの搭乗はできず、そのまま日本に滞在している。
馮さんの関係者によると、航空会社の職員は「上の命令で、飛行機に乗せることはできない」と説明したという。馮さんは「中国は少数の支配者と警察に支配されている。自分の国に帰れないことは信じられないことで、中国の恥だ」と訴えている。
東京入国管理局成田空港支局は「出国審査も通っており、帰国は可能だった。しかし、航空会社の対応には関与できない」としている。【6月19日 産経】
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その後も帰国を試みますが、中国に入国を拒否され、最初の記事にある成田空港での生活というか、パフォーマンスに至っているようです。
なお、馮正虎氏の場合、日本入国はできますので、厳密には空港に閉じ込められている訳ではありません。

【中国陳情事情】
地方行政における法治主義が不十分で、役人・有力者の腐敗・横暴が横行している中国では、強制立ち退きなどをめぐって中央への陳情が盛んになされています。馮正虎氏はこうした中央への直訴を手助けする活動を行っていたようです。
ただ最近は、中央政府もこうした陳情を抑制する方向で動いています。
オリンピックとか外国人の目に触れる機会が多くなると、特に厳しくなるようです。

****陳情者に神経ぴりぴり=米大統領訪中で当局****
オバマ米大統領がアジア歴訪で中国を訪れるのを前に、中国当局が陳情者に対する警戒を強化し始めた。オバマ氏訪中に合わせ、中国の人権問題を批判したり、抗議行動を起こしたりする動きを抑えようと神経をとがらせているものとみられる。
北京市内では11日夜から、陳情行動を事前察知された市民に対する外出禁止や24時間監視などの措置が取られている。最高人民法院(最高裁)の陳情受付周辺でも、公安当局者による警備が強化された。【11月13日 時事】
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こうした状態では帰国は難しいですが、メディアが取り上げるようになると、メンツを重んじる中国政府としても対応せざるをえなくなるかも。
なお、メンツに関しては、馮正虎氏は「私は2009年4月1日に目立たないように出国し、今回の帰国に際しても目立たないように、家族以外上海の誰にも知らせず、しかも、六四の敏感な日が過ぎてから帰国し、上海当局のメンツを立てました。」とも語っています。

【某国よりは穏便?】
世界では、政府・お上に不都合な人物が投獄・処刑される国は珍しくなく、むしろそうした活動が認められている国の方が少ないぐらいだと思われます。ロシアなどでは人権活動家が不審な死を続けており、治安当局関係者の関与も取り沙汰されています。
それに比べれば、中国政府の“入国拒否”は、“穏便”な措置とも言えるかも。
それにしても、成田空港関係者は「上海でやってくれよ・・・」といったところでしょう。


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パレスチナ  議長・評議会選延期 アッバス議長不出馬表明で事態は不透明

2009-11-14 14:18:29 | 国際情勢

(ベルリンの壁が崩壊して20年、今なおパレスチナを分断する壁 “flickr”より By MissyKel
http://www.flickr.com/photos/missykel/434058651/)

【「全有権者が投票できない以上、実施すべきでない」】
パレスチナ自治政府のアッバス議長は先月下旬、対立するハマスの合意なしに議長・評議会選を来年1月24日に実施すると発表。
更に、今月5日、自身は議長選に出馬しない意向を表明しており、その真意について様々な憶測がなされています。
とりあえず議長・評議会選については、パレスチナ中央選挙管理委員会が、ガザ地区を実効支配するハマスの合意なしには選挙は「実施できない」との判断から延期勧告を行っており、先送りの流れになっています。

****パレスチナ:議長選と評議会選の延期勧告 中央選管****
パレスチナ中央選挙管理委員会は12日、アッバス自治政府議長に対し、来年1月予定の議長と評議会(国会に相当)の両選挙を延期するよう勧告した。AP通信によると、ナセル選管委員長は、自治区ガザ地区を支配するイスラム原理主義組織ハマスが選挙を拒否する現状を指摘。「全有権者が投票できない以上、実施すべきでない」と語った。
アッバス議長は諾否を表明していないが、勧告を受けるとみられている。先のアッバス議長の不出馬表明で情勢は混迷を深めていたが、選挙が先送りされれば、アッバス議長の「任期」も自動延長される可能性が高い。【11月13日 毎日】
*************************

【エジプト調停 頓挫】
対立が続きパレスチナを分断するアッバス議長率いるファタハとハマスの和解については、エジプト政府が仲介役となり、選挙を来年6月まで先送りし、ガザの治安や再建問題で妥協点を探るという内容で調停を試みていました。ファタハはこれを受諾しましたが、ハマスは傘下の武装組織の扱いなどを不満として、また、ハマス内部にも意見の対立があることから、受諾に難色を示していました。

アッバス議長の“議長・評議会選を来年1月24日に実施”発表は、こうしたハマスに譲歩を迫る“揺さぶり”策とも見られていましたが、ハマス側は反発を強め、10月26日を期限としていたエジプト仲介の和解協議は頓挫しました。
協議自体は今後も続くと思われますが、その後の議長の不出馬表明で、先行きは見えない状況となっています。

なお、アッバス議長の任期は今年1月に満了していますが、ハマスの同意なしに延長された経緯があり、ハマスは議長令は無効と反発しています。今回の選挙先送りで、“アッバス議長の「任期」も自動延長される可能性が高い”とのことです。

【「(決意は)駆け引きや策略ではない」】
アッバス議長の不出馬の真意については、政治的に追い詰められていること、入植問題でのアメリカのイスラエルへの譲歩によって“はしごを外された”形になったこと、後継者がいないことを背景にアメリカ側への譲歩を迫る駆け引きに出ているとの見方・・・様々なことが言われています。

****パレスチナ:米の譲歩に失望 アッバス氏不出馬表明*****
パレスチナ自治政府のアッバス議長が5日、次期議長選(来年1月24日予定)に不出馬を表明した背景には、中東和平交渉の停滞やガザ地区を支配するイスラム原理主義組織ハマスとの対立で、政治的に追い込まれていた事情がある。自治区が自治政府の影響下にあるヨルダン川西岸と、ハマス支配下のガザに分断されている現状では、選挙の実施自体も不確定といえ、議長の不出馬表明で先行きの不透明度はさらに増している。

「(米国が)イスラエルの立場を支持したことにとても驚いた」。アッバス議長は5日の演説で、和平交渉を仲介する米国への失望感を吐露した。
イスラエル占領下の西岸や東エルサレム、ガザを将来の独立国家の領土と考える自治政府は、西岸などに散在するユダヤ人入植地問題を重視。和平交渉再開の前提として入植活動の「完全凍結」をイスラエルに迫ってきた。だが、これまで歩調を合わせていたクリントン米国務長官は先月末のエルサレム訪問時、凍結要求を拒否するイスラエルに譲歩して「凍結は前提でない」と言明した。
ハマスのガザ支配を解消できないアッバス議長にとって、求心力の維持には和平交渉での進展が不可欠だ。右派主導のネタニヤフ・イスラエル政権が誕生し、和平の実現に意欲を示すオバマ米政権こそが「頼みの綱」だったが、その米国に「はしごを外された」(外交筋)形となった。
アッバス議長は演説で「(決意は)駆け引きや策略ではない」と強調したが、実際のところ有力な後継候補はおらず、不出馬の「真意」は不明。議長は過去にも、窮地で自身の進退を持ち出したことがある。【11月6日 毎日】
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アッバス議長は、イスラエルとの2国家共存による和平を目指す穏健派で、欧米だけでなく、ペレス大統領らイスラエルの和平推進派の信頼も厚い存在です。
現段階では和平路線を引き継ぐアッバス議長の有力な後継者はおらず、議長が退けば強硬派が台頭することも予想されます。そのため、今回の不出馬表明には、イスラエルや米国から譲歩を引き出すための「捨て身」の戦術との見方もあります。【11月6日 朝日】

【世代交代の動きも】
ただ、人事はいったん表面化すると、本人の思惑を超えて走り出し、後戻りできなくなることもあります。
****パレスチナ:翻意か世代交代か アッバス議長の不出馬表明*****
アッバス・パレスチナ自治政府議長(74)が5日、次期議長選(来年1月予定)への不出馬を表明したことで、早くも「後継者」を巡る観測が出始めている。アッバス氏は翻意に含みを残し、米欧もイスラエルとの和平路線を追求する同氏の続投を望んでいるが、一方で、世代交代はパレスチナの長年の懸案でもあった。今後、水面下での駆け引きが活発化しそうだ。

自治政府筋によると、アッバス氏は不出馬の表明前に、側近に対して自身に代わる議長候補の選定を「指示」していた。同氏が進退を持ち出すのは初めてではないが、中東和平交渉の具体的な進展がなければ、今回は本当に引退する可能性も高いという。
だが、現時点で有力候補はいない。AP通信によると、アッバス氏率いるファタハの若手幹部マルワン・バルグーティ氏(50)が意欲を示しているが、02年にテロ関与の殺人容疑などでイスラエル当局に逮捕されて以来、獄中の身だ。経済通として米欧が信頼するファイヤド首相(57)も取りざたされるが、求心力に欠ける。

故アラファト前議長を継いだアッバス氏は、対イスラエル武装闘争終結を宣言した穏健派。これまで米国やイスラエルは和平交渉の相手として、パレスチナの「総体」でなく穏健な「個人」に執着してきた側面も強く、世代交代は進まなかった。
イスラエル紙ハーレツによると、ペレス同国大統領は4日夜、アッバス氏に電話で「いま去れば、独立国家実現のチャンスは消える」と再考を促した。パレスチナ政局の混迷は交渉相手の「不在」を意味するだけに、和平に消極的なネタニヤフ政権は静観している。【11月6日 毎日】
**********************

なお、クリントン米国務長官は5日、「アッバス議長がいかなる新しい立場についても、協力することを楽しみにしている」と語り、慰留するかどうかについては明言を避けたとも報じられています。

【アメリカの取組も行き詰まり】
アラファト前議長が去り、アッバス議長も身を引くとなると、最悪の場合、自治政府崩壊ともなりかねません。
ファタハ・ハマスの分断状況、イスラエルのネタニヤフ保守政権と合わせて、中東和平はいちからの出直しになりそうです。

****中東和平交渉、再開に向けた米国の取り組みも難航****
2009年11月11日 08:48 発信地:ワシントンD.C./米国
中東和平交渉の再開に向けた米国の取り組みが行き詰まりを見せていることが10日、あらためて明らかになった。
バラク・オバマ米大統領とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は9日午後、ホワイトハウス内で1時間40分あまりにわたって会談を行った。
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区へのユダヤ人入植活動継続に対し米国が反対する姿勢を示したことをめぐって緊張が高まっている中での会談となったが、ネタニヤフ首相は、慣例となっている米大統領との公式行事出席や記者会見も行わず、帰国の途についた。(中略)

ネタニヤフ首相は会談に先立ち、パレスチナ側と直ちに和平交渉を行う用意があるとしていたが、見通しは暗いようだ。
米国に対してはパレスチナ側からの圧力も高まっている。先日、来年1月の議長選に立候補しないことを表明したパレスチナ自治区のマフムード・アッバス議長の側近は10日、米国による中東和平再開の取り組みが停滞し続ける場合は、同議長が辞任する可能性もあると発言した。同議長の辞任は、パレスチナ自治政府の崩壊につながりかねないと見られている。【11月11日 AFP】
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アフガニスタン  遅れるオバマ政権の戦略見直し “チェンジ”するタリバン?

2009-11-13 22:18:47 | 国際情勢

(女性抑圧の象徴ともみなされるブルカですが、もともとは畑仕事をしなくてもいい都市生活女性が着用していたこと、農村部女性はたまに町に出かける時にブルカを着用することで男性の視線を気にせず行動できる自由が得られたこと、内戦の混乱から女性の身を守るためにブルカ着用が増加したこと、特に難民のテント生活においてプライバシー確保のためにブルカ着用が増えたこと・・・等々、話は単純ではないようです。タリバンはそうしたブルカ着用拡大を単に制度化しただけとも言えるとか。
ただ、ブルカで身を隠さないと自由が得られないというのは、そうした社会にやはり歪みがあるように思えるのですが。“flickr”より By Yan Boechat
http://www.flickr.com/photos/yanboechat/41496398/)

【カルザイ政権への不信感から増派慎重姿勢も】
アメリカ・オバマ大統領がアフガニスタン増派についてどのような判断を下すか、決定が延びています。
それだけ、判断が難しい問題であるということでしょうが、明確な判断を下せないというイメージはオバマ大統領の支持低下にも影響してきます。
アメリカ大統領たるもの、躊躇は許されない・・・つらい立場ですが、判断を誤るのはもっと許されないことです。

10月28日付の米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は、米政府当局者らの話として、オバマ政権がアフガニスタンの人口集中地域10カ所を重点的に防衛するため、米軍を増派する方針を固めたと報じていました。
これによると、増派される兵力の人口集中地域への重点配備は、住民の安全対策を重視するアフガン駐留米軍のマクリスタル司令官と、大規模増派に反対するバイデン副大統領との折衷案で、タリバンを、米国への直接的な脅威はないとして完全に掃討することは断念し、国際テロ組織アルカイダへの攻撃を強化するというものです。【10月29日 産経より】

米CBSは9日、増派について4万人規模になると報じています。駐留米軍は2010年末までに10万人以上に達し、大半は長期的に駐留を続けるとしています。
AP通信も9日、政権当局者の話として、アフガンの拠点都市10カ所の防御を固めるため、来年1月に追加派兵が始まると報じています。治安の状況をみながら、その後約半年で、段階的に4万人まで増やす選択肢も検討されているという報道でした。 【11月10日 朝日より】

ただ、ここにきて、オバマ米大統領が進めるアフガニスタン戦略見直しが、カルザイ大統領への不信感から最終局面で練り直しを迫られているとも報じられています。
米メディアによると、オバマ大統領は11日に行った戦略見直し会議で、アフガニスタン政府の治安維持能力の確立時期を明示した戦略を提示するよう要求、これまでの増派案の修正を求めたと言われています。
ワシントン・ポスト紙(電子版)によると、アイケンベリー駐アフガニスタン米大使がこの1週間に、カルザイ大統領が汚職排除と治安責任を含む実効的な統治に取り組まない限り、米軍を増派しないよう強く進言する極秘メモを2回にわたりホワイトハウスに送っており、これがオバマ大統領の判断に影響を与えていると見られています。【11月12日 時事より】

オバマ大統領は戦略見直し会議で「米国の関与政策が無制限ではないことをアフガン政府に明示すべきだ」との考えを表明。AP通信によれば、大統領は席上、アフガン政府への治安権限の移譲を念頭に置きつつ、米軍当局が作成した増派計画案への承認を避けたとのことです。【11月13日 産経】

【「米国にとって死活的に重要な利益」】
****アフガン戦略見直しに理解求める=訪日経由地の基地で-米大統領****
アジア歴訪に出発したオバマ米大統領は12日、日本に向かう前に経由地のアラスカのエルメンドーフ空軍基地に立ち寄った。オバマ大統領は約1000人の兵士を前に演説し、「米国を守るため、君たちにふさわしい戦略と明確な任務を与える」と述べた。アフガニスタン戦略見直しに時間をかけ、慎重に判断していることへの理解を求めたものとみられる。
オバマ大統領は「任務を完遂するために必要な装備と支援を与える」と述べる一方で、「米国にとって死活的に重要な利益にならない場合は、君たちの命を危険にさらさない」とも語った。【11月13日 時事】
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「米国にとって死活的に重要な利益」とは何か?
アルカイダなどのアメリカへのテロを企てる勢力を一掃すること、更には、アフガニスタンでのタリバン勢力拡大が核保有国パキスタンを不安定化させ、テロ組織などへの核拡散が広まることを防止することなどが挙げられますが、アメリカの一般国民にとっては、見たこともない国アフガニスタンで多大な犠牲をだしながら戦闘を続けることへの疑念が大きくなっています。

アメリカのABCテレビなどが10月18日までの4日間、全米の1000人を対象に行った世論調査によれば、オバマ大統領のアフガニスタン政策を「支持しない」(47%)と答えた人が「支持する」(45%)を初めて上回り、戦略の見直しを進めるオバマ大統領に対する国民の目が厳しさを増していることを示しています。

先日のTV報道で、大統領選挙でオバマ大統領を熱烈に支持した人々が、アフガニスタンからの撤退を求めて「反オバマ」に転じていることが報じられていました。

「オバマならアフガニスタンから撤退してくれると信じていたのに・・・」・・・・これは、理解できません。
オバマ大統領はイラク戦争に反対したときから、一貫してアフガニスタン・パキスタンでのテロ勢力一掃の方がイラク戦争より重要だと訴えてきており、その意味で、アフガニスタン介入拡大は公約どおりです。

「アフガニスタンなんて、もううんざりよ・・・」・・・・これは、実に正直な意見です。
「“うんざり”とは何事か!勝手にひとの国へやってきて戦争を行い、多くの民間人犠牲者も出したあげく、もううんざりだから帰る・・・というのは、いかにも身勝手、無責任ではないか!」との批判を浴びそうなので、普通なかなか口にできませんが、本音でしょう。

【タリバンが「女性専用の高等教育機関」設置???】
本音ついでに、私個人のアフガニスタンに関する本音を言えば、「原理主義で人権無視のタリバンなんて嫌いだ!アフガニスタン国民の多くもタリバン支配なんて望んでいない。アメリカが何を好き好んでかの地で血を流しながら戦争しているのかは知らないけど、タリバンを一掃してくれるなら好都合だ。うまくやってよ・・・」といったところです。

そのタリバンが柔軟姿勢を見せているそうです。
****タリバン:イスラム法の規制緩和 復権へ支持集めか****
アフガニスタンで勢いを増している旧支配勢力タリバンの指導部が、政権時代にしていた成年男子への長いひげの義務付けや、全国民に対するテレビや映画鑑賞禁止など、イスラム法に基づいた厳格な規制を緩め、事実上容認していることが複数のタリバン関係者の証言でわかった。
米軍主導の掃討作戦やカルザイ政権への国民の反感の高まりを背景に、現実路線に“チェンジ”し、政権奪取に向けた幅広い支持を集める狙いもありそうだ。
また、タリバンはこれまで、女性の高等教育に否定的だったが、指導部の中には、同じイスラム教スンニ派を国教とするサウジアラビアが設立した女子大学のような「女性専用の高等教育機関」の設置にも前向きな意見があるという。

複数の関係者によると、指導部は「命令」でなく、「黙認」の形で全国各地の「影の州知事」を通じ、実効支配地域の住民に通達。ひげをそっても構わないことや、家庭内鑑賞を条件にジャンルを問わずテレビや映画、音楽鑑賞も認めた。条件に従えば、米映画もOKだという。
ただ、衛星放送やインターネットが普及し、米軍などと戦闘中のタリバンは、規制にまで手が回らないのが実情だ。また、ひげが長いと検問に引っかかりやすいといった事情もある。指導部内には依然、厳格な統治を主張する声もあるといい、「変身」は人気取りの方便の可能性もある。
タリバンは96年、戦争に疲れた多くの国民の支持を得て政権の座に就いた。だが、国際テロ組織アルカイダとのつながりを疑う米国が締め付け策を強化。タリバンは情報統制を目的にテレビや映画を禁じ、ひげも規定の長さに満たない男性は伸びるまで外出を認めないなど、極端なイスラム法の適用をしていた。【11月13日 毎日】
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かつてタリバン政権ができた頃のタリバンは、カンダハルあたりの田舎育ちで、カブールのような都市生活も経験したこともなければ、外国人に出会ったこともない(あったとしても、これまた人権などとは縁がないソ連軍兵士ぐらい)、知っているのは部族社会のルールとイスラム神学校で教わったことだけ・・・そういった環境にあったと思われます。

そうした閉塞的な世界観が、原理主義的な施策強行に影響していたのでは・・・。
その後、カブールのような都市文化、選挙を基盤とした民主主義、ソ連軍以外の外国人・・・そうしたものに触れる過程で、彼らの考えも少しは柔軟になったのでしょうか。
それとも、単なる人気取りのポーズでしょうか。(“ポーズ”であったにしても、ポーズをとるメリットを理解したのであれば、それはひとつの変化でしょうが)

「女性専用の高等教育機関」なんて、タリバンにしては画期的です。
本当にタリバンの姿勢に変化があるのであれば、「タリバンなんて嫌いだ!」という本音部分にも影響してくるところです。まだ、情報が少なすぎて判断できませんが。

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イラン  タブーを破る最高指導者ハネメイ師批判

2009-11-12 20:00:27 | 国際情勢

(11月4日の抗議行動  手首に巻かれた緑色のリボンは改革派のシンボルカラーです。
“flickr”より By netadmin
http://www.flickr.com/photos/36905456@N04/4086488122/)

【抑え込まれる街頭行動】
イランの大統領選挙後のアフマディネジャド政権に対する抗議行動は、ここしばらく表に出ることはありませんでしたが、在テヘラン米国大使館占拠人質事件から30年を迎えた今月4日、改革派のムサビ元首相の支持者数百人がテヘラン市内で警官隊と衝突する混乱もあったようです。

****イラン:テヘランで反政府デモ****
米イランの国交断絶の要因になった在テヘラン米国大使館占拠人質事件から30年を迎えた4日、テヘラン市内で政府主催の反米集会が開かれた。一方、アフマディネジャド政権に反発する市民らも大規模なデモを繰り広げ、警官隊と衝突。警官隊はデモ参加者を警棒でたたいたり、催涙弾を発射するなどして抑え込んだ。
テヘランでの大規模デモは9月下旬以来で、市中心部の大通りなど各地で散発的に起きた。市民らは改革派のシンボルカラーである緑色のリボンを手首に巻き、6月の大統領選で敗れたムサビ元首相の名前を連呼した。

イラン政府は、大統領選直後の混乱の再燃を恐れ、「反米」以外のスローガンを掲げないよう事前に警告。各地に多数の警官が配置され、終日ものものしい雰囲気に包まれた。
一方、米大使館前で行われた反米集会には、各地から動員された学生や保守派の市民ら数千人が参加。「米国に死を」「イスラエルに死を」などのスローガンを繰り返し、米国旗を焼いて気勢を上げた。【11月4日 毎日】
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ムサビ氏や同じく大統領選で破れたカルビ元国会議長はこの日、アハマディネジャド大統領に抗議するデモを支持者に呼び掛けていたそうです。
表面的には、政権側の抑え込みが功を奏して、最近は、抗議行動は大きな広がりには至っていないようにも見えます。

【「この国では、なぜあなたを批判することが許されないのか」】
そうした抗議行動よりも注目されたのは、ある男子学生のタブーを打ち破る行動でした。

****イラン:男子学生がハネメイ師を面前で批判 内外で注目****
言論統制の厳しいイランで、最高指導者ハネメイ師を面前で批判した男子学生が内外で注目を集めている。
AP通信によると、シャリフ工科大で数学を専攻するバヒドニアさん。先月28日、ハメネイ師が同大学で、大混乱を招いた6月の大統領選の正統性について演説した後、質問に立ち、「この国では、なぜあなたを批判することが許されないのか」と詰問。「新聞を読んでも批判記事は見当たらない。国営テレビやラジオは反対派の動きを正しく伝えない」とたたみかけた。
また選挙の開票不正疑惑に反発して拘束された市民らが、刑務所で拷問やレイプの人権侵害を受けたとされる問題で、最高指導者としての責任にも触れ、一連の追及は約20分間に及んだ。ハメネイ師は「批判を禁じた覚えはない」と答え、足早に引き上げたという。

最高指導者を面と向かって批判したという前代未聞の出来事に、反対派市民は「タブーを打破するものだ」と英雄視。これに対し、偽の逮捕情報が流れたり、イタリアの複数の国会議員が「彼の勇気をたたえたい。必要なら亡命を受け入れるべきだ」と発言するなどホットな話題になっている。【11月11日 毎日】
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最高指導者ハネメイ師を敢然と批判するというのは、極めて痛快です。
20年前の天安門事件のとき、戦車の列の前に立ちはだかった青年を思い出します。
また、同時に、今後のこの男子学生の身の上が案じられます。
「批判を禁じた覚えはない」というのであれば、それを実証する対応を政権側に求めたいものです。

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ミャンマー  スー・チーさん軟禁解除も近い・・・との報道も

2009-11-11 21:37:49 | 国際情勢

(スー・チーさん率いる最大野党「国民民主連盟」(NLD)の地方事務所。
“flickr”より By Dave*M
http://www.flickr.com/photos/anhdave/2132065649/
flickrでミャンマーの写真を検索すると、抗議活動の写真はすべて外国でのものです。ミャンマー国内でのそうした抗議活動は圧殺された状況にあります。
まずは、NLDが新体制において一定の基盤を築き、民意を議会に反映させる道筋を得ることが先決かと思われます。)

【「近く自宅軟禁を解かれるだろう・・・」?】
ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんについて、自宅軟禁が近く解かれるのでは・・・との情報が報じられています。

****スー・チーさん 近く解放か 軍政筋明かす****
ミャンマーの軍事政権筋は10日、産経新聞に対し、同国の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが、近く自宅軟禁を解かれるだろうと述べた。具体的な日時は明らかにしなかったが、きわめて近いとの認識を示した。
スー・チーさんをめぐっては、ミャンマーの外務省高官も9日、AP通信に対し、スー・チーさんが解放され、来年中に予定される総選挙にかかわることができるだろう、と述べていた。

オバマ米大統領は15日にシンガポールで開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳との会合で、ミャンマー問題について米国が関与政策へと転換したことを説明し、理解と協力を求める考え。ミャンマー軍政としては、こうした動きを見極めながら、スー・チーさんの解放に踏み切る可能性がある。
今月4日、ミャンマーを訪問したキャンベル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は、首都ネピドーで軍政幹部と会談したほか、最大都市ヤンゴンで、スー・チーさんや、スー・チーさんが率いる最大野党、国民民主連盟(NLD)の幹部らとも会談。米国として、ミャンマー軍政と関係改善に向けた話し合いを行う用意があると明言。スー・チーさんをはじめとする政治犯の解放とすべての当事者が参加した総選挙の実施など、民主化への具体的努力を行うよう軍政側に要請していた。【11月11日 産経】
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来年の総選挙前に軍政側がスー・チーさんを解放するというのは、俄かには信じられない話です。
今ところ、この情報に関しては産経記事しかなく、なんとも判断しようがないところですが、実現の方向に向かうことを期待したいものです。

先日の7日、鳩山由紀夫首相はミャンマー軍事政権のテイン・セイン首相と首相官邸で会談し、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんら「すべての関係者」を来年の総選挙に参加させるよう求めています。
これに対し、テイン・セイン首相は「どのような政党でも、政府と考え方の違う人でも参加できるようになる」と応じています。【11月8日】

また、産経記事にもある15日のASEAN首脳とオバマ米大統領の会談については、明らかにされている共同声明案によると、ASEAN首脳はアメリカ政府のミャンマーへの関与政策を歓迎、2010年のミャンマー総選挙は、誰もが参加できる選挙でなければならないと強調しているそうです。【11月11日 共同】

スー・チーさんは9日、自宅で弁護団と面会し、先週ミャンマーを訪問したキャンベル米国務次官補との会談をセットしてくれた軍事政権への謝意を表明したと報じられています。
これまで軍事政権を批判してきたスー・チーさんがこうした謝意を表明するのは異例のこととされています。
なんらかの動きはあるようにも窺えます。

【新憲法枠組みの中で】
もっとも、仮に総選挙前にスー・チーさんの自宅軟禁が解かれたとしても、スー・チーさん自身の議員立候補など政治活動は制約されるのではないかと思われます。
昨年5月に、サイクロン被害のなかで国際支援を拒否しながら、投票が強行された新憲法によれば、「大統領と議員は外国人の影響や恩恵を受けていてはならない」とされており、英国人と結婚したスー・チーさんは排除される仕組みになっています。

新憲法では、そのほか、大統領については「政治、行政、経済、軍事」の見識が必要としており、軍人を前提としています。また、国会は地域代表院と民族代表院の2院制ですが、各4分の1は国軍司令官が指名することになっており、軍政が実質的に維持されるシステムにもなっています。
さらに、憲法改正には全議員の75%以上の同意が必要ということで、枠組み変更も実際上できない仕組みでもあります。

なお、議員の立候補資格については、犯罪歴のないことが条件となっており、過去に実刑判決を受けた者が多い民主化運動の活動家らの立候補を事実上阻止しています。また、議員立候補者や政党が、外国政府や宗教団体からの支援を受けることも禁じられており、国際社会や仏教界からの干渉も排除されています。

もし、軍政側がスー・チーさんを選挙前に解放するとすれば、こうした何重もの制約で守られた新システムにそれだけ自身があり、ここで国際社会へ民主選挙をアピールすることの方が得策と判断した・・・ということでしょう。

スー・チーさん率いる最大野党「国民民主連盟」は、こうした新憲法を認めない姿勢をとってきていますが、現実問題としてこの枠組みでミャンマーの政治が動き始めるなかでは、枠組みの外で批判するよりは、この枠組みの中にいったん入って少しでも影響力を発揮できる道を選んだほうがいいように思えます。

とりあえずは、15日のASEAN首脳とオバマ米大統領の会談を受けて、ミャンマー側がどのように反応するのかが注目されます。
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