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2期目の就任式にのぞむカルザイ大統領
“flickr”より By UK in Afghanistan
http://www.flickr.com/photos/32616504@N03/4118491235/)
【「汚職対策を断固として推し進めなければならない」】
アメリカやISAFなどの軍事的支援にも関わらず、アフガニスタンがタリバンの攻勢を許し泥沼化しつつある原因のひとつが、カルザイ政権の汚職・腐敗体質、それによる国民の離反、復興の停滞にあることは衆目の一致するところです。
2期目を向えるカルザイ大統領も、就任にあたり、汚職対策に取り組むことを表明はしていますが・・・。
****アフガン、カルザイ大統領就任 「断固として汚職対策」*****
アフガニスタン大統領選で再選されたカルザイ大統領の就任式が19日、カブールの大統領府で開かれた。就任演説で大統領は最後の任期となる今後5年間で、汚職対策に取り組み、アフガン軍の能力を強化し駐留外国部隊の撤退を実現させる意向を表明した。
就任を宣誓した大統領は演説で「過去8年の過ちや欠点から学び、(汚職対策を)断固として推し進めなければならない」と述べた。公務員など汚職に関与した者は「訴追され裁きを受ける」と明言し、麻薬対策にも全力を挙げるとした。米国などが求める社会基盤の改善も約束した。
難局の克服には挙国一致態勢が不可欠だとし、大統領選を争ったアブドラ元外相とガニ元財務相を「(閣内に)招き入れたい」と語った。全国の部族の長を集めての「ロヤ・ジルガ」(国民大会議)の早期招集にも言及し、イスラム原理主義勢力タリバンのうち、穏健派に和解を訴えた。(後略)【11月20日 産経】
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この演説で、「日本による5年間で50億ドルの支援」にも言及し、謝意を表しています。
なお、式に招待されたとされる、選挙戦を戦ったアブドラ元外相は出席を拒否しています。国民融和政権に向けてはハードルがありそうです。
【上から下まで蔓延する腐敗・汚職】
世界各国の汚職実態を監視するドイツの非政府組織(NGO)「トランスペアレンシー・インターナショナル」は17日、2009年版汚職度調査を発表しています。これによると、アフガニスタンは、実質的無政府状態が続くソマリアと並んで、世界で最も汚職に犯されている国としてリストアップされています。
調査は企業関係者や専門家が、汚職がないクリーンな状態を10点、汚職がまん延した状態を0点として各国の汚職度を判定したものですが、アフガニスタンは前年の1.5点から1.3点に下がっています。【11月18日 AFPより】
つい最近も、米紙ワシントン・ポストが、アフガニスタンの鉱工業相が銅鉱床開発の見返りに、中国企業から3000万ドル(約27億円)のわいろを受け取った疑いがあると報じています。アメリカ国務省も疑惑の存在を認めています。
*****アフガン:鉱工業相が中国企業から巨額わいろ…米紙報道*****
同紙によると、問題の銅鉱床開発は29億ドル規模で、同国最大の開発事業。アフガン政府に入る年間採掘権料の2億ドルは、昨年の国家予算の約3分の1に相当する。鉱工業相へのわいろは07年12月、アラブ首長国連邦ドバイで支払われたという。
最貧国のアフガンにとり、鉱山資源は数少ない有望な収入源。ケリー米国務省報道官は「アフガン国民の政権への信頼を損なう」と述べ、アフガン政府に徹底調査を求めた。
アフガン戦略見直しを進めるオバマ大統領は18日放映の米テレビで、「次の大統領には何も引き継ぎたくない」と述べ、新戦略は任期中の終戦への道筋を示すものと説明。だが、アフガン政権の腐敗体質が改善されない限り、新戦略の円滑な遂行は期待できないのが現実だ。【11月19日 毎日】
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こうした、政界有力者だけでなく、汚職体質は社会全体に蔓延しており、今日のTV番組でも、道路に設けられた検問所での賄賂が紹介されていました。
正規の額の10倍の金額をトラック輸送のドライバー達が検問所で払っているとのことで、払わないと長時間の積荷検査などでいやがらせをされるとか。しかも、正規の検問所だけでなく、警官などが勝手にあちこちに検問所を作って支払を強要しているそうで、長距離を走るドライバーは100か所以上の検問所での支払が必要になるとも。
賄賂・汚職が社会のシステムとして組み込まれているような国はアフガニスタンだけではありませんが、力を持つ者が勝手に検問所を作って不当な金を絞りとっている状態では、経済の復興など望むべくもありません。
【戦争の原因】
国際支援団体オックスファム(Oxfam)とアフガニスタンの地元団体が共同で、今年1月~4月に14州からランダム抽出した男女704人を対象に行った調査によると、30年に及ぶ戦争の主な要因として70%が「失業」と「貧困」を挙げ、48%が「汚職」と「機能していない政府」と回答しています。
“「The Cost of War(戦争の代償)」と題された調査報告書は、「多くのアフガン人は、(政府や国際社会は)数々の約束をするが、実際に人々が恩恵を受けることはほとんどないと感じている。これが欲求不満や失望を招き、最終的に安定を揺るがしている」と指摘。汚職を撲滅し、経済発展と必要な人に届く支援を確実にするよりよい方法を取るよう国際社会に呼びかけている。”【11月19日 AFP】
「失業」と「貧困」にしても、「汚職」と「機能していない政府」がもたらしているとも言えます
なお、国際的な支援が一般国民の手に届かずどこかへ消えてしまうのは、汚職のほか、援助国に還流するシステムにも原因があるようです。
“New America FoundationのPeter Bergen氏とSameer Lalwani氏は、『New York Times』紙(電子版)10月2日(米国時間)付けの記事で、アフガニスタン政府に支払われた数十億ドルもの対外援助資金は、コンサルタントたちに払う給与や諸経費の形で、あっという間に、援助を行なった国に還流していると指摘している。
一般のアフガニスタン人は、SUV車であちこちを見て回る外国の開発コンサルタントの姿は大勢見かけるものの、ほとんどの場合、開発企業がやって来たことによる実質的なメリットはほとんどないという。”【11月20日 WIRED VISION】
【厳しさを増す国際社会の反応】
カルザイ政権の汚職・腐敗体質については、アメリカも重大な問題と認識しており、米軍出身のアフガニスタン駐在アイケンベリー大使は、2度にわたる大統領あての秘密電文で、アフガンのカルザイ大統領が汚職排除と治安責任を含む実効的な統治に取り組まない限り、米軍を増派しないよう強く進言したとされています。
オバマ大統領の増派の決断が遅れているのは、この進言のせいとも言われています。
また、ヒラリー・クリントン米国務長官は15日、「われわれはアフガニスタンに居続けるつもりはない。アフガニスタンに長期的な米国の国益はない。この点を明確にしておきたい」「現代的な民主主義による機能的な国家をアフガニスタンに築き、多くの素晴らしい手段でアフガニスタンの人びとを助けるなどと吹聴する時代では、もはやない」と、米国のアフガニスタン政策は国際テロ組織アルカイダの撲滅であって、アフガニスタンに民主主義を根付かせることではないと語っています。
数百万ドル規模の民間支援についても、汚職撲滅に進展がみられることを条件とする考えを示しています。【11月16日 AFP】
こうした発言は、アフガニスタンの現状を突き放した発言ともとれますし、アメリカが出来ることに対する現実的判断とも言えます。
ブラウン英首相は16日、来年初めにアフガニスタン支援の国際会議をロンドンで開き、現地の治安権限を2010年から段階的にアフガン治安部隊に移譲する計画を策定すると提案しています。英BBCによると、会議は1月を予定し、国際治安支援部隊(ISAF)の主力である北大西洋条約機構(NATO)加盟国が中心になるそうです。【11月17日 毎日より】
アフガニスタンのことはアフガニスタン自身の手に任せて、なんとか泥沼から抜け出したという思惑が窺えます。
“アフガン軍の能力を強化し駐留外国部隊の撤退を実現させる”というのはカルザイ大統領の掲げる目標でもありますが、やり方次第では、かつての南ベトナムのように、カルザイ政権は一気にタリバンと軍閥が織りなす抗争に呑み込まれてしまいます。
【「アフガンの問題は、私たちアフガン人の責任で、国際社会の責任ではない」】
汚職と腐敗にまみれた政権に、治安を確保する能力は望めません。
カルザイ政権が国際支援のもとに国内治安維持に成功するのか、あるいは、国際社会からも見放され、消滅していくのか・・・政権自身の体質改善の取組いかんにかかっています。
「汚職・腐敗はアフガン政権内だけでなく、国際社会の活動にも存在する。だが、アフガンは私やカルザイ氏の国で、国際社会の国ではない。国民が国を愛していないのに、国際社会の行動を怒れるだろうか。国際社会にしても、アフガン人が自国を支えていないのに、どうしてアフガンを支えられるだろうか。アフガンの問題は、私たちアフガン人の責任で、国際社会の責任ではない。日本が第2次大戦後に自力で復興したように、アフガン人も自分たちで復興する責任を負っているのだ。」【1アフガン・メディア・リソース・センター所長 ハジ・サイード・ダウド氏 11月20日 産経】