踊りの師匠である女房の日本髪。凡そ半分合成が終わる。あれほど気持ち悪がっていたカツラも慣れてきた。実際見ると、ワックスで固めたように硬い。白粉が着いているのが埃じみて見えるが、そんな状態なので吹いたり叩いたりして取れるというものでない。これ以上汚れないように撮影しては木製取っ手付きの箱に入れている。 髪というのは、独特の光の反射をするもので、特に撮影をするようになってからは、鉛筆で塗ったり色々試した。しかし人形単体なら問題はないが、他の“純毛との共演”の場合はそうはいかない、と気づいたのは太宰治の時である。 本来ならどん底のダメ男にしたいところであったが交通局のフリーペーパーということで、酒タバコはNGである。古今亭志ん生で入稿後に、銚子とコップを湯呑に変えさせられ懲りている。太宰の前号の吉田茂もトレードマークの葉巻が使えなかった。そこで太宰には女だ、ということで、知人の女性に登場してもらった。余談であるが実際は緑が青々としていたのを、配布時期にあわせて紅葉させている。 しかし実物の女性が横にいると、太宰の髪がいかにも粘土じみている。熟考の末、ベランダから頭を突き出し、デジカメで自分の頭を撮影して貼り付けたのは、入稿の朝であった。その後植村直己でも、周囲が純毛だらけなので、再び我が頭髪を使用したのであった。
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