制作中の『貝の穴に河童の居る事』は泉鏡花の作品の中でもマイナーな作品である。かつて挿絵他、ビジュアル化された話を私は知らない。編集者から当初打診されたのはある海外作品であったが、食指を動かされなかった。それだったらこれはどうだろう、と私から提案したのだが、結局、あんたがやりたいといったんだから。という形になり、まんまと乗ってしまったのではないか?まあおかげで柳田國男と河童の共演をさせられ有り難いことではある。 しゃがむ柳田と、ひれ伏す河童の目線で目が合いながら、完成してしまうのが惜しい。買い物に出かける。 帰ってくるとK本横の駐車場で男がうつぶせに倒れている。『こういうバカにはもうウンザリ』。怪我したり救急車に乗るたび半べそで連絡してくるKさんにメール。 昨今の居酒屋のホッピーや酎ハイのアルコール分の薄さは噴飯物である。先日経験したことだが、酔うのと醒めるのがバランスを取ってしまい、こうなるとただの御小水の素である。K本でもそんなものばかり飲んでいる輩が、生意気にも「中だけ」などといって焼酎だけを追加。結果、腰を抜かして椅子からずり落ちている。 かつてK本は川並といった、筏職人が飲みにきていた店である。高カロリーな煮込みがご馳走で、アルコール含有量の多さがサービスだった時代から何も変わっていない。きつい肉体労働の後の癒しの一滴とばかりに、女将さんは表面張力一杯にグラスに注いだ焼酎を、確実に客のジョッキに注ぎ入れることが客のためだとひたすら信じている。これがK本である。私は注いでもらうたび、その想いに小さく頭を下げている。 帰宅後常連にメールで訊くと、不躾な若造が金は要らないからと追い出され、外で潰れているところを、危ないので客等が駐車場わきに移動したらしい。もちろんこのボロ雑巾は、二度とK本の敷居はまたげない。
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