夢を見た。日本武道館。何かの世界タイトルマッチのリング上。君が代を歌う歌手が物凄い音痴で吹き出しそうになる。顔をそらして耐えようとするが、周囲の人間は神妙な顔で、館内は水を打ったような静けさである。苦しみながら我慢する。なにしろ「静粛に願います」とたった今リング上からアナウンスしたのは私自身である。しかしメチャクチャ音痴な君が代が続き、苦しみ悶えながら目が覚めた。どうも腹筋の感覚からすると、実際笑いをこらえた節がある。笑いながら目が覚めたことはあるが、笑いをこらえる苦しさで目が覚めるという。こんなバカバカしい目覚め方があるだろうか?おまけに寝てからまだ3時間しか経っていないではないか。 一日の最初がこれでは、今日はおそらく、チャレンジ的なことをする日ではないだろう。河童の甲羅にペーパーをかけて、細部を修正することにした。 私は実在した人間の顔以外は、ほとんど資料を参考にすることはない。亀でもすっぽんでもない甲羅を作っていると、今まで見たことがある、様々な記憶を頭から取り出して作っているのがわかる。今回は甲羅だけに、ほとんどが貝などの生き物であったが、甲羅のふちにそって、ちょっとえぐれたようにしようと思った時はSさん所有のギブソンのギター、レスポールが頭にあったような気がする。 私は励んで覚えたことが一切役に立たず、無意識に記憶に取り込んだ物だけがためになっている。しかしこれは怠け者のいい訳にしか聞こえないところが残念である。 本日も人間の表情を無意識のうちに観察し、取り入れるために酒場へ。なんといっても人間の油断した自然な表情の宝庫である。周囲の人間は、まさか私が人形制作のために勉強しに来ているとは気づいていないであろう。もちろん気取られてはならない。しかし最も肝心なのは、私本人も気づいていないことである。
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