今回の制作の中でも特別な思いがあるのが建長寺の開山、大覚禅師こと蘭渓道隆である。宗時代の中国より持参したというのは間違いで、日本で描かれたらしい国宝の肖像画があり、自賛が書かれているので、生前の作、つまり本人のお墨付きともいえるだろう。他の肖像画、彫刻は死後の作ということもあり、作者と私とは、条件はほぼ一緒である。肖像画のみをもとに立体化を試みた。例によって肖像画には陰影がなく、部分だけ見ては立体感がつかめず、顔全体を見て立体として把握しなくてはならないが、頭部だけでも数ヶ月かかったのは、足りないディテールは、実はどこかで見た、人間の記憶により補完しているはずで、私の人の形状に関する記憶が生かされる。しかし私の辞書に載っていないタイプの顔であった。 結果として、建長寺に数百年伝わる木像と別人になってしまう。その肖像画も建長寺の収蔵品なので良しとした。斜め45度を向いた肖像に、真正面向かせられれば、蘭渓道隆に関する、私の目的のほとんど全てを達成することになる。
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