映画「靖国 YASUKUNI」とNHK「ETV 問われる戦時性暴力」に見る政治家の干渉とその類似性

2008-03-19 10:21:27 | Weblog

 例えどのように「反日」であっても、民主主義の制度に則った「反日」なら憲法が保障する思想・信条の自由に入る。すべての人間が同じ「日本」をイメージするわけではないにも関わらず、自分がイメージしている「日本」に否定的な場合、「反日」だとレッテルを貼る。その偏狭さ・非寛容が罷り通っている。
 
 4月12日から東京と大阪でロードショーされる李纓(リ・イン)中国人監督のドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」が「反日的」内容と聞いたからと一部自民党議員が配給会社に文化庁を通じて試写を求めたのに対して監督と配給側が「検閲のような試写には応じられない」からと全議員を対象とした試写会を開くことに決定、3月12日に行われた試写会には自民党、民主党、社民党の40人の議員と代理出席の40人、計80人が出席したと言う。

 そのイキサツを≪靖国映画「事前試写を」 自民議員が要求、全議員対象に≫(asahi.com/2008年03月09日03時24分)と≪国会議員横槍の「靖国」試写会に80人 偏向指摘も≫
(asahi.com/2008年03月12日23時16分)の二つの記事から見てみる。

 先ず最初に、「靖国 YASUKUNI」が文化庁が指導する独立行政法人管理の芸術文化振興基金から06年度に助成金750万円を受けて製作されていることを問題にしたという。

 同基金は政府出資と民間寄付を原資とし、運用益で文化支援している機関だそうだ。お決まりどおりに幹部は天下りで占められているに違いない。

 「試写」を要請したのは自民党稲田朋美オバサン衆院議員と稲田が会長を務める同党若手議員の勉強会「伝統と創造の会」(41人)。文化庁から「ある議員が内容を問題視している。事前に見られないか」と問い合わせがあったそうだが、勉強会の誰かが言い出して稲田朋美を嗾けたのを受けて会長の立場で代表して言い出したのか、稲田自身が言い出して個人が突出するのを避けるために会全体の要請の形を取ったのかは記事からでは判断できない。

 文化庁清水明・芸術文化課長は「公開前の作品を無理やり見せろとは言えないので、要請を仲介、お手伝いした。こうした要請を受けたことは過去にない」

 稲田「一種の国政調査権で、上映を制限するつもりはない」

 「制限」などできないことを「制限するつもりはない」と言うのは内心の衝動としては「制限し」たい気持を抱えているということなのだろう。

 稲田「客観性が問題となっている。議員として見るのは、一つの国政調査権」
   「表現の自由や上映を制限する意図はまったくない。でも、助成金の支払われ方がおかしいと取
   り上げられている問題を議員として検証することはできる」

 思想・信条に関わることを「国政調査権」を振りかざして調査する。国家をすべてに優先させる国家主義的行為であろう。

 「平和靖国議連」と合同で試写会を開き、試写後に同庁職員と意見交換する予定でいるとのこと。

 配給会社「事実上の検閲だ」
 李監督「『反日』と決めつけるのは狭い反応。賛否を超えた表現をしたつもりで、作品をもとに議
    論すべきだ」

 試写終了後――

 稲田議員「助成金にふさわしい政治的に中立な作品かどうかという一点で見た」
     「靖国神社が、侵略戦争に国民を駆り立てる装置だったというイデオロギー的メッセージを
     感じた」

 自民党島村宜伸衆院議員「一貫したストーリーを見せるというよりは、様々な場面をつなげた映画。
     自虐的な歴史観に観客を無理やり引っ張り込むものではなかった」
 民主党横光克彦衆院議員「戦争の悲惨さを考えさせる映画だが、むしろ靖国賛美6割、批判4割とい
     う印象を受けた」

 自民党稲田と民主党横光の把え方がかなり違うが、歴史認識の立場の違いに応じた解釈なのだろう。

 映画であれ何であれ、如何なる情報媒体を駆使して「靖国神社が、侵略戦争に国民を駆り立てる装置だったというイデオロギー的メッセージ」を出そうが出すまいが思想・信条の自由である。すべての人間にとって同じ「日本」ではないからだ。自分がイメージしている「日本」が絶対的に正しく、そのイメージの「日本」以外は許さないず、自らの「日本」で以ってすべての人間の思想を統一し、支配しようとするのは金正日がしていることと同じ危険な独裁主義となる。例えどのように「反日」であっても、民主義の制度に則った「反日」なら、憲法が保障する思想・信条の自由によって保護される。

 「事実」は人それぞれの解釈によって成り立つ。稲田朋美が自らの考えとしている「靖国神社が、侵略戦争に国民を駆り立てる装置」ではなかったとする「イデオロギー的メッセージ」にしても、稲田朋美なる人間が解釈した「事実」に過ぎない。稲田朋美にしたら自分が解釈した「事実」を正しいとするだろうが、「靖国神社が、侵略戦争に国民を駆り立てる装置だった」とする「イデオロギー的メッセージ」にしても、そう解釈する人間にとっては正しい「事実」に当たる。

 「靖国 YASUKUNI」の感想を一つ取っても、それが描く「事実」に対して同じ自民党に所属していながら稲田朋美と島村宜伸の解釈に違いが生じている。それぞれの解釈に応じて「事実」は異なる姿を取る。

 但し自分の「日本」を強制しないという絶対条件つきで批判は許される。批判に対して自分の「日本」を変えるか変えないかはその人の解釈に関わる問題であって、どう解釈を付け加えるかは自由である。

 要するに稲田朋美は「靖国 YASUKUNI」が取り上げている「日本」が自分の「日本」とは違うからと言って、女性に対して使いたくない表現だが、ケツの穴も小さく自分の「日本」に合わせたい衝動に衝き動かされたものの、上映禁止や映画の内容そのものを変えることは言論弾圧者の美名を着ることとなって不都合・不可能だかから、補助金を出したことを攻撃材料に芸術文化振興基金の親玉の位置にいる文化庁を介する形で「審査を厳正にして、反日的な創作に金銭的援助の手を差し伸べるべきではない」とする意思表示で暗に異議申し立ての干渉を行ったのだろう。それを試写後の文化庁の「職員と意見交換する」場で行う。

 問題は文化庁が政治家の「意図を忖度」して少しでも「反日」と受け取れる創作活動には援助を控える、思想・信条の自由を制限することとなる過剰反応で応えるかどうかである。

 もしも上記過剰反応で応えたとしたら、主催者側から「番組提案表」を受け取って「女性国際戦犯法廷」を取材しなら、政治家の圧力を受けて「番組提案表」に反する変更した内容で放送して訴訟を起こされた、いわゆる「NHK番組改編訴訟」で東京高裁が示した判決内容と同じ構図を踏むことになる。

 07年1月30日『朝日』朝刊記事≪番組改変訴訟 NHKに賠償命令 「議員の意図忖度」≫は、「製作に携わる者の方針を離れて、国会議員などの発言を必要以上に重く受け止め、その意図を忖度し、当たり障りのないよう番組を改変した」と高裁の判決要旨を伝えてNHK側の過剰な「自己規制」を解説している。

 ここで言う「国会議員」とは安倍晋三と中川昭一の二人の国家主義者のことで、二人は「靖国 YASUKUNI」に於ける稲田朋美と相互対応し合った関係にあり、同じ役割を担っていると言える。

 同日付の関連記事≪「政治家に過剰反応」認定≫は判決は「NHK側が安倍氏との面会の約束を取り付けたと認定」、中川昭一に関しては「番組放送前にNHK担当者に意見を述べたと認めることは困難」としているが、面会の有無はさして問題ではないだろう。面会だけが望んでいるメッセージを相手に伝える手段とは限らないからだ。直接NHKに向けなくても、第三者に向けてメッセージを発しながら、迂回させる形で間接的にNHKに伝えることも可能である。

 高裁判決はNHKに200万円の支払いを命じたが、最高裁が双方の意見を聞く弁論の期日を今年4月24日に指定したということで、東京高裁判決が見直される可能性が出てきたと新聞は伝えている。
 
 政治家はそこに存在するだけで国家権力を背景に暗黙的な圧力者足り得る。自己のイメージする「日本」に添わないからと言って異なる「日本」を自己の「日本」に同調させようと言葉の圧力をかけるのは自由と民主主義に反する権威主義者がよくすることである。

 政治家がなすべきことは国民の意見を二分三分し、修復不可能としてしまった過去の「日本」を自分たちがイメージする「日本」で統一する意味もない見せ掛けの歴史改竄を行うことではなく、最大公約数の日本人が肯定的なイメージで統一できる未来の「日本」を築いていく努力をすることであろう。解釈に違いをきたさない「日本」と言うことである。

 そのことを政治家の究極の目的としなければ、過去に拘らずに未来を建設的に志向していくという「未来志向」の名が泣く。口先だけの「未来志向」で終わっているからだ。

 現在の「日本」は国民が押しなべて肯定的なイメージで描くことができる「日本」とは程遠い姿をしている。政治家や官僚が自らの責任を果たしていないからだ。現在と未来の「日本」を肯定的な形で創り替えることができないから、過去の「日本」を創り替えて誤魔化そうとする。戦前の日本は美しい国だったんだよ、素晴らしい歴史と伝統と文化を連綿と受け継いできたんだと。

 政治家の他者の思想・信条への有形・無形の干渉も問題だが、干渉を受けてその意図を忖度して過剰反応や自己規制する側の態度も問題としなければならない。稲田朋美等の薄汚い干渉を受けて、文化庁がどういう態度を取るかである。多分、稲田朋美の「意図を忖度」して、影でこっそりと「反日」か「反日」でないかを補助金交付の条件に付け加える「自己規制」を行うことになるのではないだろうか。
 * * * * * * * *
 参考までに――

 ≪靖国映画「事前試写を」 自民議員が要求、全議員対象に≫(asahi.com/2008年03月09日03時24分)
 <靖国神社を題材にしたドキュメンタリー映画の国会議員向け試写会が、12日に開かれる。この映画は4月公開予定だが、内容を「反日的」と聞いた一部の自民党議員が、文化庁を通じて試写を求めた。配給会社側は「特定議員のみを対象にした不自然な試写には応じられない」として、全国会議員を対象とした異例の試写会を開くことを決めた。映画に政府出資の基金から助成金が出ていることが週刊誌報道などで問題視されており、試写を求めた議員は「一種の国政調査権で、上映を制限するつもりはない」と話している。

 映画は、89年から日本に在住する中国人監督、李纓(リ・イン)さんの「靖国 YASUKUNI」。4月12日から都内4館と大阪1館でのロードショー公開が決まっている。

 李監督の事務所と配給・宣伝会社の「アルゴ・ピクチャーズ」(東京)によると、先月12日、文化庁から「ある議員が内容を問題視している。事前に見られないか」と問い合わせがあった。マスコミ向け試写会の日程を伝えたが、議員側の都合がつかないとして、同庁からは「試写会場を手配するのでDVDかフィルムを貸して欲しい。貸し出し代も払う」と持ちかけられたという。

 同社が議員名を問うと、同庁は22日、自民党の稲田朋美衆院議員と、同議員が会長を務める同党若手議員の勉強会「伝統と創造の会」(41人)の要請、と説明したという。同庁の清水明・芸術文化課長は「公開前の作品を無理やり見せろとは言えないので、要請を仲介、お手伝いした」といい、一方で「こうした要請を受けたことは過去にない」とも話す。

 朝日新聞の取材に稲田議員は、「客観性が問題となっている。議員として見るのは、一つの国政調査権」と話す。同じく同党議員でつくる「平和靖国議連」と合同で試写会を開き、試写後に同庁職員と意見交換する予定だったという。

 「靖国」は、李監督が97年から撮影を開始。一般の戦没遺族のほか、軍服を着て自らの歴史観を絶叫する若者や星条旗を掲げて小泉元首相の参拝を支持する米国人など、終戦記念日の境内の様々な光景をナレーションなしで映し続ける。先月のベルリン国際映画祭などにも正式招待された。アルゴの宣伝担当者は「イデオロギーや政治色はない」と話すが、南京事件の写真で一部で論争になっているものも登場することなどから、マスコミ向けの試写を見た神社新報や週刊誌が昨年12月以降、「客観性を欠く」「反日映画」と報道。文化庁が指導する独立行政法人が管理する芸術文化振興基金から06年度に助成金750万円が出ていたことも問題視した。同基金は政府出資と民間寄付を原資とし、運用益で文化支援している。

 稲田議員は「表現の自由や上映を制限する意図はまったくない。でも、助成金の支払われ方がおかしいと取り上げられている問題を議員として検証することはできる」。

 アルゴ側は「事実上の検閲だ」と反発していたが、「問題ある作品という風評が独り歩きするよりは、より多くの立場の人に見てもらった方がよい」と判断し、文化庁と相談のうえで全議員に案内を送った。会場は、同庁が稲田議員らのために既におさえていた都内のホールを使う。

 李監督は「『反日』と決めつけるのは狭い反応。賛否を超えた表現をしたつもりで、作品をもとに議論すべきだ」と話す。
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 ≪国会議員横槍の「靖国」試写会に80人 偏向指摘も≫(asahi.com/2008年03月12日23時16分)

 <靖国神社を題材にした中国人監督のドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」の国会議員向け試写会が12日夜、都内で開かれ、約80人の議員らが出席した。試写を求めていた自民党の稲田朋美衆院議員は「偏ったメッセージがある」と話し、映画に政府出資法人から助成金が出されたことの是非を、さらに検証し続ける姿勢を示した。

 「靖国」の国会議員向け試写会終了後、記者の質問に答える稲田朋美衆院議員(右)=12日夜、東京・京橋で

 「靖国」の試写会で、上映を待つ国会議員ら=12日夜、東京・京橋で

 会場となった都内のホールには、黒塗りの車が次々と乗り付け、議員らが試写室に入っていった。主催した配給・宣伝会社「アルゴ・ピクチャーズ」(東京)によると、自民、民主、公明、社民の各党派の議員40人と、代理出席で自民、民主、共産、国民新党秘書約40人が出席。計約80人のうち、自民が50人以上を占めた。稲田議員も10分前に会場入りした。入り口には約40人の報道陣が構え、私服警官による警備態勢が敷かれた。

 2時間の試写終了後、報道陣に囲まれた稲田議員は「助成金にふさわしい政治的に中立な作品かどうかという一点で見た」としたうえで、「靖国神社が、侵略戦争に国民を駆り立てる装置だったというイデオロギー的メッセージを感じた」と語った。

 ただ、試写を見た自民党の島村宜伸衆院議員は「一貫したストーリーを見せるというよりは、様々な場面をつなげた映画。自虐的な歴史観に観客を無理やり引っ張り込むものではなかった」とした。また、民主党の横光克彦衆院議員は「戦争の悲惨さを考えさせる映画だが、むしろ靖国賛美6割、批判4割という印象を受けた」と話した。

 映画は4月12日から都内と大阪の計5館で公開予定で、昨年12月からマスコミ向け試写が始まっていた。映画の中で南京事件の写真が使われていることなどから、週刊誌などが「客観性を欠く」「反日映画」などと報道。政府出資の基金から助成金が出ていたことも問題視した。これを受け稲田議員は「助成が適切だったかどうか、議員として検証したい」とし、同議員が会長を務める自民若手議員の勉強会「伝統と創造の会」と、同じく同党議員でつくる「平和靖国議連」との合同の試写会を、文化庁を通じて要請していた。

 監督側とアルゴ社は「検閲のような試写には応じられない」として、逆に全議員を対象に、今回の異例の試写会を開くかたちになった。

 稲田議員は製作会社が出していた助成の申請書類一式も文化庁を通じて取り寄せており、「助成金の要綱なども確認し、適切だったかどうかまた検討したい」としている。13日午前には、自民党本部で文化庁の職員を交え、伝統と創造の会と平和靖国議連との合同で「勉強会」を開く。 >・・・・
 * * * * * * * *
 ≪NHK番組改変訴訟、最高裁が判決見直しか≫(asahi.com/2007年12月21日07時13分)

 <旧日本軍による性暴力をめぐるNHKの番組が放送直前に改変されたとして、取材を受けた市民団体がNHKなどに損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第一小法廷(横尾和子裁判長)は20日、双方の上告受理申し立てを受け入れ、上告審として審理することを決めた。そのうえで、双方の意見を聞く弁論の期日を来年4月24日に指定した。

 上告審で結論を見直す際に必要な弁論を開くことから、取材を受ける側に番組内容に対する「期待権」があることを認めて200万円の支払いをNHK側に命じた二審・東京高裁判決が見直される可能性が出てきた。

 問題となった番組は、NHK教育テレビが01年1月30日に放送した「ETV2001 問われる戦時性暴力」。00年12月に旧日本軍の性暴力を民間人が裁く「女性国際戦犯法廷」を開いた「『戦争と女性への暴力』日本ネットワーク」(バウネットジャパン)が、取材に協力したにもかかわらず当初の趣旨とは異なる番組を制作されたとして賠償を求めた。

 東京高裁は今年1月、バウネット側に番組内容に対する期待と信頼が生じていたのに、NHK側には改変内容を説明する義務を怠った不法行為責任があると判断。NHKに200万円の賠償を命じ、下請け制作の「NHKエンタープライズ21」(当時)と孫請けの「ドキュメンタリー・ジャパン」の2社に、このうち100万円について連帯責任があるとした。>

コメント (1)
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