昨12日の昼の1時にNHKが、中国が初の訪中米太平洋軍司令官に太平洋をハワイを境に分割して西の海域を中国が、東の海域をアメリカが管理することを提案したといったニュースを流していた。7時のニュースで改めて詳しく流すと思って待っていたが、全然触れない。ではと次の9時のニュースに期待したが、多分流していなかったと思う。
多分と言うのは、パソコンを叩きながら左耳をそばだてていたのだが、最近老化現象を来たしていて相当当てにならない耳になっているからだ。
そこでNHKのHPを訪問。次の記事に巡り会えた。
≪“中国 太平洋分割管理打診”≫ ”(08年3月12日 13時3分)
<これは、アメリカ太平洋軍のキーティング司令官が、11日、議会上院軍事委員会の公聴会で証言して明らかにしたものです。この中で、キーティング司令官は、去年5月に司令官として初めて中国を訪問し、中国海軍の高官と会談した際に「中国は空母の開発を進めているが、将来、太平洋を分割して、ハワイより東の海域をアメリカが、ハワイより西の海域を中国が、それぞれ管理して情報を共有するというのはどうだろうか。そうすれば、アメリカはハワイの西にまで海軍を配備する労力を省けるはずだ」と真顔で持ちかけられたと述べました。
そのうえで、キーティング司令官は「冗談だったとしても、これは中国軍が抱いているかもしれない戦略的な思考の一端を示している。中国は明らかに影響力が及ぶ範囲を拡大したいと考えている」と述べ、中国が軍備を増強して自国の影響力を拡大しようとしていることに警戒感を示しました。>・・・・
この「太平洋分割」案はアメリカが受け入れるはずもない提案であり、中国側もアメリカが受け入れるはずもないことを承知していたはずである。承知していなかったとしたら、余程の政治オンチか、底なしの大国意識に染まっていたかどちらかに違いない。
第一の理由は太平洋は中国とアメリカだけの海洋ではない。太平洋に接するそれぞれの国の領海を除いた公海は特定の国家の主権に属さず、各国が自由に使用・航行できるエリアと規定されている。中国がそのこと知らないはずはない。それを管理するなどと言うことは特定の国による「海の私物化」を図ることに他ならない。
第二の理由は分割管理に進んだ場合、太平洋共同管理者から外れた日本の海上自衛隊の太平洋上での活動は排除されるか、もしくは中国海軍の価値を海上自衛隊よりも上に置くことになって、日米安保条約は中国の存在によって相対化され、有名無実化しかねない。アメリカがそのような方向を選択すると中国は思っていただろうか。
いくら中国の大国としての存在感が日本を上回る勢いを有していたとしても、自由と民主主義の価値観を共有する日本を差し置いてそれらを共有せざる共産主義一党独裁国家中国に信を置く行為は日本に対するだけではなく、「自由と民主主義」の価値観そのものに対する背信行為であり、アメリカは自らの価値観を自ら裏切る矛盾を犯すことになる。果たして中国はアメリカがそこまですると考えて「打診」したのだろうか。
中国が台湾を軍事攻撃した場合、自らの軍事力で防衛する意志を持つアメリカにとって中国がハワイより西の海域を管理した場合、海で囲まれた島国台湾は四方を中国の自由な管理下に置くこととなって、台湾防衛の障害を自らつくり出すことになる。
中国はそういった計算もできずに提案したのだろうか。
最後に「太平洋分割管理」案は「中国海軍の高官」レベルが持ち出すべき提案ではない。話し合うとしたら、中国国家主席とアメリカ大統領のトップ同士が話し合うべき問題であろう。少なくとも両者が承知をしていて、代理の者が交渉する形でなければ不自然となる重要問題である。
ではなぜ中国はそのような「打診」を行ったのだろうか。中国の「打診」で一つ気づくことは、その影は薄れつつあるもののアジアのリーダーであり、太平洋地域でオーストラリア共々アメリカの最大級の同盟国・友好国である日本の影が一切映し出されていないことである。いわば日本の存在をどこにも置かない「打診」となっている。ここに打診理由のカギがあるのではないのか。
アメリカ太平洋軍のキーティング司令官が話を持ちかけられたのは昨07年5月。その前年の06年9月26日に安倍晋三が日本国総理大臣に就任している。その12日後に小泉前首相の靖国問題で関係が悪化していた中国をまず訪問、その翌日に同じ状況にあった韓国へと行き、いわば一種の手打ちを行った。
安倍は日中首脳会談後の内外記者会見で次のように述べている。「靖国神社の参拝については、私の考えを説明した。そしてまた、私が靖国神社に参拝したかしなかったか、するかしないかについて申し上げない、それは外交的、政治問題化している以上、それは申し上げることはない、ということについて言及した。その上で、双方が政治的困難を克服し、両国の健全な発展を促進するとの観点から、適切に対処する旨述べた。私のこのような説明に対して、先方の理解は得られたものと、このように思う。適切に対処する、と申し上げた中身については、今申し上げたとおりである。」(首相官邸HP/平成18年10月8日)
「靖国神社の参拝についての私の考え」とは、「小泉首相の次の首相も靖国神社に参拝するべきだ。国のために戦った方に尊敬の念を表することはリーダーの責務だ」でなければならない。そう公言していたのだから。また「外国から言われて、参拝すべきでないと言うべきではない」とも言っている以上、「私の考え」は「あなた方が何と言おうと参拝しますよ」の意思表明でなければならない。
しかしこの「私の考え」は後段の「私が靖国神社に参拝したかしなかったか、するかしないかについて申し上げない、それは外交的、政治問題化している以上、それは申し上げることはない」の説明と真っ向から矛盾する。
それに「あなた方が何と言おうと参拝しますよ」はケンカを売りにいくことになる。
多分次のような密約を交わしのではないか。「参拝しないと中国と公に約束したら、私は支持を失って中国との友好な関係が築けなくなる。靖国神社に参拝したかしなかったか、するかしないかについて申し上げない、それは外交的、政治問題化している以上、それは申し上げることはないを表向きの態度とすることを承知してくれたなら、参拝しないと約束できる」
そうとでも疑わなければ、記者会見の言葉の辻褄が合わない。中国は参拝の中止を求めている。答は参拝をするか・しないかのどちらかだから、「靖国神社に参拝したかしなかったか、するかしないかについて申し上げない」では済まないはずだ。
ところが安倍晋三は次の年の07年4月の靖国神社春季例大祭に直接的には参拝はしなかったものの祭壇に供える真榊(まさかき)料として私費から五万円を支出している。
これは参拝をしない代わりの埋め合せ行為・擬似参拝であろう。政治家が暴力団関係者の結婚式に招待を受けているものの公になった場合はヤバイ、参列できないからと代理の者に祝儀を持たせて、祝儀だけ置いてくる。本人は参列しなかったものの、祝儀を届けさせることを通した擬似参列で埋め合わせたことになる。それと似ていて、真榊料として私費五万円を支出することで次の首相として「国のために戦った方に尊敬の念を表するリーダーとしての責務」を擬似的に埋め合わせたのである。間接的参拝と言われても仕方はあるまい。そのことに中国は無神経であったろうか。
そして1ヵ月後の5月、訪中したアメリカ太平洋軍のキーティング司令官に対して中国が「太平洋分割管理」案を打診した。中国が実際に「影響力が及ぶ範囲を拡大したい」衝動を抱えていて、中国の覇権主義をなる程なと思わせる提案に見えるが、それは表向きのみの解釈であって、日本の存在に一切触れずにアメリカのみを相手にすることによって逆に日本を相手にしない構図となっていた――。
これは北朝鮮が6カ国協議で日本を相手にせず、アメリカのみを相手にしている姿勢に通じる。
性懲りもなくあの手この手を使って参拝と変わらないことをする、好きなようにすればいい、日本など眼中にはないのだからとの安倍首相に向けたメッセージだったのではないか。そう思えて仕方がない。
日本が中国に対して外交上主導権を握ることができるケースは反日デモでデモ隊が上海の日本領事館や北京の日本大使館の建物に危害を加えているのを中国政府が黙認していたその姿勢を問題にするときや中国の輸出製品に欠陥があってそれを批判するときぐらいなのは情けない。