中国政府が3月26日(08年)にチベットラサの現地取材を一部の外国報道機関に許可した。一部に制限したのは大挙して押しかけられたのではその多人数に応じて取材監視の官憲も私服・制服合わせて多人数配置するか、取材範囲を極端に限定するかいずれかの措置が必要となるからだろう。
どちらの必要性を選択しても、その光景から何を隠蔽しようとしているのか、その意図を読み取られることになる。自由な取材を許可することこそが、少なくとも包み隠さなければならない不都合は何もないことをアピールすることができる。
だが、中国政府の現実はその逆となっている。欧米やアジアなどの外国メディア9社と台湾、香港のメディアが許可を受けたと「時事通信」が伝えている。
もしも中国側に正義があるなら、騒動が起きているさ中でも外国報道機関に取材を許可したであろう。いや、許可・不許可といった手続きを不要とし、自由に現地入りさせていたに違いない。
制限を設けない自由な取材と自由な報道に耐え得ることによって、例えそれが政策に間違いが生じて展開されることとなった事態であっても、民主度を計ることができる。
アメリカは世界から多くの批判を浴びているとは言え、イラクの報道を制限したであろうか。隠そうとすること自体が既に民主主義に反する政治の秘密体質を現している。
取材を許可された報道各社は中国当局に対して「なぜこれまで取材を禁止していたのか、報道の許可を出したとは言え、なぜ許可制としたのか」と最初に問うべきだが、果たして問うことをしたのだろうか。
ブッシュ米大統領が3月26日に中国胡錦涛主席に電話してチベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世との対話を求めたと言う。どのような言葉が交わされたのか、その経緯を知るために「朝日」と「読売」の記事を参考にしたいと思う。まずは「朝日」から。
胡錦涛主席は今回の騒乱は「ダライ・ラマ一派が吹聴する平和的デモ、非暴力行動といったものではな」く、「ひどい暴力犯罪活動」であり、「いかなる責任ある政府も座視できなかったもの」で、我々の対応に間違いはなかったと正当化した。ダライ・ラマとの対話の条件としては「暴力犯罪活動や北京五輪に対する破壊活動の扇動、画策をやめること」と「チベット独立の主張を正真正銘放棄する」ことを挙げた。
「読売」記事は胡主席は「対話再開ができない責任はダライ・ラマ側にあるとの原則的立場を米国に明確に主張し」、対話条件に「チベットなどでの暴力犯罪の扇動・策謀と北京五輪破壊活動の停止」と「チベット独立放棄、祖国分裂活動の停止、チベットと台湾を中国の一部と承認」することを挙げたとしている。
事実の提示は「朝日」も「読売」もほぼ同じだが、解説が「読売」の方が理解しやすい内容となっている。
胡主席の条件提示姿勢を「ダライ・ラマ側が受け入れ不可能な条件を突きつけた」ものと分かりやすく解説している。
胡主席がブッシュ大統領に伝えた上記姿勢はこれまでもダライ・ラマと世界に向けて発信してきたもので、そのことから判断すると、「ダライ・ラマ側が受け入れ不可能な条件」だと十分に知りつつ、いや「受け入れ不可能な条件」を敢えて掲げることでこれまでどおりに「対話」を介さない中国側ペースでチベットの抗議を抑えつけていく対チベット中国化政策を選択すしていくことは間違いないだろう。
対話を行った場合、対話の模様とその内容からどちらの要求に妥当性があるか、ダライ・ラマの口を通して全世界に知れることとなり、その要求を全面的に排除した場合、厄介なことになるからだ。中国が言う「一つの中国」が対等の中国ではなく、中国が支配して一つにする中国だと知れない保証はない。共産党一党独裁を維持する以上。磁石のN極がS極に限りなく吸い付けられていくように決定的にその方向に進むことだろう。それが対チベット中国化政策ということだろうし、当然の経緯としてある現状と言うことだろう。
中国がチベットに必要としているのは「チベット仏教最高指導者」といった存在ではなく、チベット人の上に中華人民共和国主席(=国家主席)を据えつけることなのである。ダライ・ラマとの対話は自らの対チベット中国化政策に反して対話の間、彼を「チベット仏教最高指導者」として扱うこととなり、一時的にであっても「チベット」を突出させることになる。
現在でも暴動を手段にチベットは世界に突出してしまっている。それを武力で抑えつつある今、武力では抑えることができない存在の世界に向けた突出に中国側から手を差し伸べるはずはない。
胡主席がブッシュ大統領と電話会談する前から相手が飲み込めない条件を突きつけることでダライ・ラマとの対話を回避する姿勢を中国の対チベット政策としていて、ブッシュ大統領との電話会談でも同じ姿勢を通したのだから、今後とも同じ姿勢を取り続けるだろう。胡錦涛の訪日時の姿勢も洞爺湖サミットに出席した場合の姿勢も、例え洞爺湖サミットの首脳会議のテーブルにチベット問題が議題として取り上げられようと、同じ姿勢を取り続けるに違いない。
チベット非難、ダライ・ラマ非難が読売記事が伝えているように、「中国による一方的断罪」であったとしても、チベットとダライ・ラマを一貫して悪者に仕立て、中国を善玉に位置づける。例え世界が信用しなくても、また北京オリンピックを滞りなく開催し、滞りなく終了させることができたなら中国にとってはベストだが、例えオリンピック開会式で何らかの支障が起きようと、これまで見せてい姿勢を押し通して「中国絶対」の事実を打ち立てるに違いない。
中国にとって、オリンピックの失敗よりも対チベット中国化政策の失敗の方が遥かに恐ろしいことだろうからである。チベット問題はオリンピックが終了しても引き続いて未解決の問題として横たわるだろうし、対チベット中国化はそこにチベット人が存在する限りどのような手段を以ってしても出口のない支配化となる危険性を残すことになりかねないことぐらい中国当局は百も承知しているに違いない。
中国がチベットとダライ・ラマを悪者とする「中国による一方的断罪」を続けるなら、世界はそれが事実かどうかの検証を行わなければならない。単に今回の暴動の実態を検証して終わるのではなく、対チベット中国化政策がチベット人の精神を抑圧していないか、中国人によるチベット人支配へと進んでいないか、世俗社会に於いて中国文化のチベット文化侵食が強制的に行われていないかを検証すべきだろう。
ダライ・ラマは中国の主権下での外交・国防を除く「高度な自治」を求めているという。あくまでも独立を追求する勢力も存在するだろうが、「高度な自治」とはチベット人をチベット人足らしめる「自治」を言うはずである。強制によるものではない、自然な形でのチベット的なすべてをチベット的なすべてとして維持する「自治」のことであろう。
そのことに反する強制的な中国化が検証の結果世界に知れたとき、「中国による一方的断罪」の正否が暴かれることとなり、悪者の烙印はチベット及びダライ・ラマから中国に移ることになる。オリンピックの失敗があったとしても、遥かに小さな問題と化すに違いない。「高度の自治」でダライ・ラマと今のうちに手を打つ方が賢明ではないか。それが成功したなら、中国内の他の自治区との関係の手本となる。そのような関係を築くことによって、中国にしても少しは民主化していく。
そういう方向に持っていくためには何にもまして実際にどちらが「悪者か」の世界の検証にかかっている。
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≪米大統領、胡主席に対話促す チベット問題≫(asahi.com/2008年03月27日12時01分)
ブッシュ米大統領は26日、中国の胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席に電話し、中国チベット自治区などで起きた騒乱をめぐり、チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世側との対話を迫った。胡氏はチベット人の行為を「ひどい暴力犯罪活動」とし、とダライ・ラマがチベット独立の主張を「正真正銘放棄」するなどした場合には対話が可能、と応じた。
ハドリー大統領補佐官(国家安全保障担当)によると、ブッシュ氏はチベット自治区での「暴力」に懸念を示し、治安当局が自制的に対応する必要があると強調。さらに、「チベット人の苦悩に対処する中国政府の取り組みの一環」として、現在中断中の中国とダライ・ラマの特使による協議を再開する必要がある、と呼びかけた。
これに対し、中国外務省によると、胡氏は今回の騒乱は「ダライ・ラマ一派が吹聴する平和的デモ、非暴力行動といったものではなかった」と指摘。「いかなる責任ある政府も座視できなかったものだ」と対応を正当化した。対話の条件としては「暴力犯罪活動や北京五輪に対する破壊活動の扇動、画策をやめること」も挙げた。
ブッシュ氏はチベット騒乱についてこれまで目立った発言を控えており、チベット支持者の間では失望感も生まれていた。ハドリー氏は台湾総統選が終わったことなどを受けて電話したと説明したが、批判をかわすために電話会談に踏み切った可能性がある。
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≪胡主席がダライ・ラマと対話に条件、米大統領と会談で表明≫(2008年3月27日22時25分 読売新聞)
【北京=杉山祐之】中国の胡錦濤国家主席は26日に行ったブッシュ米大統領との電話会談で、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世との対話再開について、「チベットなどでの暴力犯罪の扇動・策謀と北京五輪破壊活動の停止」をはじめとする条件を示した。
対話に前向きな姿勢を国際社会にアピールしつつ、ダライ・ラマ側が受け入れ不可能な条件を突きつけた形だ。チベット暴動に関する胡主席の発言が公表されたのは初めて。
胡主席は、「実質的対話」を促したブッシュ大統領に対し、「我々は忍耐強くダライ・ラマ側と接触を保ってきた」と強調。条件を満たすことを前提に、「ダライ・ラマとの接触、対話を続けていきたい」と語った。対話再開ができない責任はダライ・ラマ側にあるとの原則的立場を米国に明確に主張したものだ。
ただ、胡主席が対話再開条件で指摘したダライ・ラマ側の「暴力犯罪扇動、五輪破壊活動」は、中国による一方的断罪といえ、ダライ・ラマ側が「罪」を認め、その「停止」に応じることはありえない。
胡主席は、<チベット独立放棄、祖国分裂活動の停止、チベットと台湾を中国の一部と承認――という従来の条件も繰り返し、中国側から歩み寄る姿勢は一切見せなかった。