3月1日夜7時のNHKニュースで「食の安全」をテーマとした討論会が東京・青山の国連大学で開催されたと伝えていた。中国抜きに世界的な「食品の安全」を語っても意味はないと言うことなのだろう、中国側からも参加していた。現在日中間で問題となっている中国製冷凍餃子の検査を行っている中国政府の食品検査機関・中国検疫科学研究院の秦貞奎院長。体型・顔の雰囲気は冬芝や大田といった公明党タイプである。こう譬えたからと言って、中国嫌いというわけではない。公明党アレルギーにどうしようもなく侵されてはいるが。
秦貞奎、中国製冷凍餃子への殺虫成分混入事件について、「人為的な事件であり、餃子の品質の問題ではない。この点で日中の判断は一致している」
WHO・世界保健機関が中国で実施した食品安全調査関係者、ロジャー・スキナー氏「中国ではそれぞれの省庁が縦割りで仕事をしているようだ。(職の安全に関する)法の改定作業が何年も続いており、省庁間の合意を得るにはかなりの問題がある」
秦貞奎食品検査機関・中国検疫科学研究院長、自席から手を挙げ、発言を求める。「そのような偏った話を各国メディアが集まる公の場でするのは納得できない。我々は中国の実情に応じた国民が受け入れられる遣り方でやっていく」
ロジャー・スキナー氏がどう応じたか、応じなかったか、ニュースでは流さなかった。もしスキナー氏が「中国の実情に如何に応じていようとも、そのことを中国国民がどう受け入れようとも、中国国内で終わる問題ではない。現在の『中国の実情』には世界が納得していないのだ」と反論していたなら、NHKは流したろうから、流さないところを見ると、譬え反論したとしても報道するに値しない反論だったのだろう。
ヒラリー・クリントンが先月25日にワシントンで公演し、<「(中国から)われわれが手にするのは汚染された魚、鉛入りの玩具や毒入りペットフードだ」と述べ、食の安全をめぐり中国を激しく批判した。>と時事通信社がインターネット記事で伝えている。
かくかように中国の問題で終わらないばかりか、一企業の不注意、安全管理欠如といった問題ではなく、多くのケースに亘っているとなれば、低いレベルにある製品の安全管理意識を高める政策構築の責任を負う中国政府の依然として高めることができていない行政上の防止策能力を問題としなければならなくなる。それがロジャー・スキナー氏が言う中国の「縦割り行政」の弊害と言うことなのだろう。
NHKニュースは最後に「自給率の低い日本が中国の食品に頼らざるを得ない中、中国は責任を持って生産して欲しいといった意見が相次いだ」と会場の聴衆の声を紹介してそのコーナーを終えている。
秦貞奎院長が最初に取り上げた殺虫剤入り中国製餃子が「人為的な事件であり、餃子の品質の問題ではない。この点で日中の判断は一致している」点は問題ないとしても、中国公安当局の2月28日の記者会見で発表した「殺虫剤中国国内非混入説」及び「ギョウザ包装紙農薬メタミドホス浸透説」は日本の捜査当局の「中国国内混入説」及び「ギョウザ包装紙農薬メタミドホス非浸透説」と真っ向から相反する事実解明であり、当然、双方共に自分たちの検査結果こそ正しいと譲れないだろうから、感情的な対立の危険水域に進まない保証はない。
元々日本には製品の安全性や偽ブランド品、あるいは急激な軍備増強問題、さらにアジアでの日本の地位を奪いかねない経済大国化への恐れから中国に対する不信感が根強く存在するし、中国も歴史認識の点で日本に根深い不信感を抱いている。小泉元首相の靖国参拝強行では中国で激しい反日デモが起こり、それに対する日本側からの反発で「中国脅威論」が罷り通り、両国間の感情的対立は最悪の状態に達していた。
このように感情的な対立の素地を双方共に抱えている。その素地をフライパンにして冷凍餃子を熱した場合、冷凍が解けて熱くなった状態の対立の再現はそれ程手間はかかるまい。
今回の事件で例え日中間に感情的な対立が生じ、それが餃子問題を超えて中国に嫌日感情が、日本に嫌中感情が共に噴き出るキッカケとなったとしても、原因究明は曖昧な形で決着を見るべきではないだろう。
両国間の良好な関係を優先させて言うべきことを言わずに控えた場合、そのことが悪しき前例となって、言うべきことの効果を疑うことになり(「言っても始まらない」)、逆に相手の言いたい放題を誘発しない保証はないからだ。
中国側が解明した情報・検証結果を日本側のそれと突き合わせて相互に手落ちがないか確認し合うさらなる検証をせずに一方的に自分たちの検査結果を正しいと記者会見するある意味「言いたい放題」を既に見せているのである。
例え日本が食料自給率が低く、その点で中国に依存しているとしても、日中は経済的には運命共同体の関係に進んでいる。日本にとって中国は必要な存在であるが、中国にとっても日本は必要な相互不可欠の関係となっている。日本が中国の存在を消去し得ないように、中国も日本の存在を消去し得ない。そのような関係にありながら、言うべきことを言わない、言いたいことを控える関係は決して成熟した関係とは言えない。
「言うべきことは言う」の中には自分の「非は非と言う」ことも含まれる。「言うべきことは言う」だけが成熟した関係で、「非は非と言う」ことを欠く関係もその中に入れるとしたら、不公平で合理性に反することになる。
かつて中国人強制連行問題で多くの中国人・日本人が証言していただけではなく、外務省自身が終戦直後の1946年に強制連行を真相とする「報告書」を作成していながら、国策として遂行していたのではない、「戦時中の閣議決定による契約とされており、強制連行であったかどうかは分からない」と「契約労働者」に位置づけて、国家機関でありながら「非は非と言う」を欠いた薄汚い誤魔化しを働いていたが、複部数あったその「報告書」の一部が1993年に東京華僑協会に証拠隠滅の焼却を免れて保存されていたことが判明、翌1995年に当時の柿沢外務大臣が公の文書という物的証拠を突きつけられた形で仕方なくだろう、政府として初めて強制連行だったことを公式に認めていることも、「非は非と言う」を欠いた態度=「言うべきことは言う」を欠いた態度の一つに入れることができる。
仕方なくの公式認知だったことは実態は「強制」だったにも関わらず、「半強制的だった事実は否定できない」と、真性の強制を「半」とする罪薄めに現れている。これも「非は非と言う」を欠いた態度なのは指摘するまでもない。
中国に対して長い間侵略戦争と認めなかった態度。そして今なお一部の日本人は侵略戦争と認めていない態度。さらに従軍慰安婦問題で軍の関与を認めない態度も、「言うべきことは言う」成熟した関係に反する「非は非と言う」を欠いた未成熟性と言える。
中国側の「殺虫剤中国国内非混入説」及び「ギョウザ包装紙農薬メタミドホス浸透説」が「非を非と言う」を欠いた未成熟性が原因とした発表だとしたら、日本側のこれまでの「非は非と言う」を欠いた未成熟性が許した中国側の姿勢――日本側の「言いたい放題」に対応した中国側の「言いたい放題」と言えないこともない。
いわば日本側の未成熟性が「言うべきは言う」成熟した関係の相互構築の阻害要因となっていて、その影響を受けた中国側の未成熟性ではないかと言うことである。
ウソつきに対して正直な態度で接することができないように、一方の態度が双方の態度に影響する。日本側の非合理的な態度に応じた中国側の非合理的な態度であり、そのような中国側の非合理性に対抗して日本側も非合理で応じ、相互エスカレートに向かう。
先に例を挙げた小泉元首相の靖国神社参拝強行に対抗する中国側の激しい反日デモと、そのような反日デモに対抗した日本側の感情的な「中国脅威論」・嫌中感情にしても相互エスカレートのプロセスを踏んだケースなのは断るまでもなくい。
冷凍餃子問題に限った場合、中国側が「非を非と言う」を欠いた態度だったとしても、そのことが判明したからと言って、日本の捜査当局に軍配が上がったといった勝ち負けの問題としてはいけない。勝ち負けの問題としたとき、相手も同じ土俵・ルールに上らせることとなり、すべての問題が勝ち負けの執念で扱われることになりかねない。当然のこととして勝ち負けの裏に感情的な対立・反発を火種とすることになるだろう。
また石原慎太郎が中国人の犯罪を「民族的DNAを表示する」と言ったのと同じ文脈で「やはり中国人は劣る」といった人種差別的な蔑みも禁物である。日本人にしたって劣る人間は政治家・官僚を見渡しただけでゴマンといる。あくまでも「言うべきことは言う」=「非は非と言う」成熟した関係の構築と維持を目的とし、その線に添った諸問題の解決にとどめるべきだろう。当然「言うべきことは言う」=「非は非と言う」関係とはそぐわないゆえに如何なる「政治決着」も排除しなければならない。
* * * * * * * *
参考までに――
≪食品安全問題で対中批判=クリントン氏」 (時事通信/2008/02/26-11:15 )
【ワシントン25日時事】米大統領選の民主党候補指名獲得を目指しているヒラリー・クリントン上院議員は25日、当地で講演し、「(中国から)われわれが手にするのは汚染された魚、鉛入りの玩具や毒入りペットフードだ」と述べ、食の安全をめぐり中国を激しく批判した。
クリントン氏は、対中貿易政策でも「ブッシュ大統領は失敗した」と強調。自分が当選すれば、食品の安全や為替問題などを含めて、対中政策を見直すと明言した。
* * * * * * * *
≪NHKニュース・インターネット記事≫(08年3月1日 19時15分)
<討論会は、「食の安全」をテーマに、ベルギーを拠点に活動する民間の財団が東京・青山の国連大学で開きました。中国政府の食品検査機関、中国検疫科学研究院の秦院長やWHO・世界保健機関が中国で実施した食品安全調査にかかわったロジャー・スキナー氏らが出席し、中国製の冷凍ギョーザに殺虫剤の成分が混入していた事件を受けて中国の食品について議論が集中しました。この中で秦院長は、事件について「中国と日本が協力して真相を究明する必要がある」と述べましたが、両国の捜査が対立していることには触れませんでした。そのうえで、「中国は食品の輸出相手国の基準に合わせて農薬を使用している」と述べるなど、生産から加工、輸出に至る各段階で安全管理を徹底していると強調しました。これに対し、スキナー氏は「生産者レベルにまで安全管理の意識が浸透しているとは思えない」と疑問を投げかけたほか「食品衛生行政が縦割りで情報が共有されていないため対策が後手に回っている」と批判しました。このあと秦院長は、「残留農薬が多少基準を超えても直ちに健康被害につながるとは思わない」と発言するなど、討論会では激しい議論が交わされました。討論を聞いた会場の人たちからは、自給率の低い日本が中国の食品に頼らざるをえないなか、中国は責任をもって生産してほしいといった意見が相次いでいました。>