1月5日、日本経済団体連合会(経団連)、日本商工会議所(日商)と経済同友の経済3団体新年祝賀パーティーが都内で開催、3団体にしても〈日本経済復活のカギとして、環境分野への積極的な取り組みやアジアなど新興国の成長を取り込む経営の重要性を指摘〉したとアジア外需頼みなところを披露したらしい。その中心はあくまでも中国であるのは言を俟たない。
「NHK」記事――《“復活のカギ 環境・アジア”》(10年1月6日 5時9分)が伝えている。
経済界も同じアジア外需頼みだと言うのは、前のブログでちょっと触れたが、鳩山首相が経済成長戦略の基本方針で、成長著しいアジアの需要を取り込むことを経済成長の柱の一つに据えて国内総生産(GDP)の2020年度までの平均成長率を名目3%超、実質2%超に押し上げる目標を掲げたが、日本の“成長停滞”に反してアジアを“成長著しい”と対極に位置づけたこと自体がアジアに対する依存状況を表していて、政・財共にアジア外需頼みで足並みを揃えているからである。外需依存の経済構造となっている以上、当然の行き着く先でもある。
新日本石油の渡文明会長は悲観的である。
「現在は分岐点にあり、悪化することも考えられるし、年末ごろに回復して薄日が差すことも考えられる。非常に危機感を持っているのはデフレで、デフレスパイラルという悪循環になっていくことを心配している」
対して三菱重工業の佃和夫会長、新日鉄の三村明夫会長両氏の外需志向の重要性を訴えている。
佃和夫会長「市場の変化は、われわれの予想以上に急激に変化している。市場の中心が先進国から中国、インドを中心とする新興国に変わっており、日本企業は深刻に考えて対応を急がなくてはならない」
三村明夫会長「日本にいるだけでは世の中が縮んでみえる。しかし、中国やブラジル、東南アジアに行けば大きなダイナミズムが存在している」
同じ1月5日の自動車工業団体新春賀詞交歓会でも経済界の外需頼みの姿勢を「NHK」記事――《自動車業界 “新興国重視を”》(10年1月5日 21時17分) が伝えている。
三菱自動車工業益子修社長「これから需要が爆発的に伸びる可能性があるのは新興国で、新興国向けに低価格のクルマをどう開発して生産するかが自動車メーカーが成長するカギになる。中でもインドは中国と並んで人口が多く、将来の成長性は大いに期待できるため、ことしは力を入れていく積極的なメッセージを出したい」
インドでおよそ50%のシェアを占めているスズキの鈴木修会長。
「インドや中国は勿論のこと、アジア全体が成長が見込める市場だ。販売を伸ばすためには日本と風俗、習慣、環境の違いを理解して、その国の環境に合った車づくりをしていくことが欠かせない」――
中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の自由貿易協定(FTA)が1月1日発効、大半の輸出入品目に関して関税が撤廃され、域内人口約19億人の巨大自由貿易圏が誕生、息も絶え絶えな日本を置いてけぼりにアジアは勢いづいている。
その勢いの差が出たのだろう、既にその地位を失っているのか、今年限りの命なのか、少なくともこれまでは外需依存の経済構造で世界第2位の経済大国というメシにありついてきた。今後とも外需依存で経済というメシにあり続けなければ日本は立ち上がれなくなってしまう。
だが、これまでのようにアジアを企業がカネを稼ぐ市場としてのみ把えて、日本の経済の発展の道具としていたなら、過去の戦争を検証・総括して認めるべき過ちは認める潔さを見せず、逆にアジア解放の戦争だった、あるいはインフラ整備や教育制度等に貢献したという姿勢、あるいはアメリカ外需で稼いだカネの力で日本及び日本人を優越的位置に立たせて貧しかったアジアの国々にさも施しをかけるように援助を施して、援助以上の利益を上げてきた思い上がった姿勢がアジアの国々の不信感を募らせたように、アジア外需によって例え日本の経済が救われたとしても、不信感の屋上屋を架けることになるに違いない。
またこのような不信感が韓国やタイ、インドネシア等の国々を地政学的要件からだけではなく、中国に目を向けさせる要因の一つとなっているはずである。
アジアを企業がカネを稼ぐ市場としてのみ把えずに、共に栄えるべき連帯社会と把え、そうあるべきなら、連帯社会形成の不可欠条件たる人道意識に立った人間の相互交流に寛大でなければならない。
だが、難民や不法在留外国人に日本は排他的で厳しく、外国人非正規労働者に対する低賃金環境だけではなく、日本の技術を外国人の日本での研修を通して本国に移転するという立派な目的を据えた外国人研修制度は、その目的に反して主として日本人が嫌う安価な3K労働強制の場と化していて、中にはパスポート取上げたり、労働基準法に反した安い残業賃金で時間外労働させたり、最低賃金に満たない給与で労働させたりの人間として扱わない権行為を多くの外国人に加えている。
このような日本国内に於ける外国人労働者に対する処遇はこれまでの日本のアジアの国々に於けるカネ優先・儲け優先の処遇を反映させた国内版であろう。
日本が他のアジアの国々の国民を下に置き、日本人を上に置く態度で接していたなら、表向きはこれまでは兎に角も通用していた関係は鳩山首相が言う“成長著しいアジア”という力関係の変更を受けて表向きも通用しなくなり、アジアの国々から取り残される一方となるに違いない。
日本人が自分たちを上に置いてアジアの国民を下に置いた優越意識を対等な場所に置き換えるのは困難で、時間がかかるだろうが、アジアの成長が今度は逆に日本人をして表向きは対等だと演じて見せざるを得ない場所に追い込むことになるだろう。
日本は紛争などによる迫害を逃れて別の国で暮らす難民を日本に受け入れる「第三国定住」と呼ばれる政策を今年からアジアの国では初めて実施するということだが、決してアジアの国々の国民を対等な人間扱いすることから発した「第三国定住」ではないことはこれまでの難民政策が証明している。
欧米先進国に比較した日本の難民受入れの圧倒的少なさから国連等がもっと多くの難民を受け入れるよう度々要請していた、いわば外圧の延長線上にある「第三国定住」なのは間違いない。
「第三国定住」の対象はタイの難民キャンプで暮らすミャンマーの少数民族で、日本政府は来月にも現地に担当者を派遣して日本での定住を希望する難民の面接を行うということである。
面接での認定要件は犯罪歴の有無や日本での新しい生活への適応性等で、複数の家族で合わせて30人程度を選考、日本への受け入れは秋になる見込みで、政府は入国後の半年間、難民に日本語や生活習慣などの研修を行う団体を選ぶなど受け入れ準備を本格化させることにしていると報道している。
だが、外務省人権人道課の志野光子課長は“外圧”による難民受入れではないと間接的に否定している。
「世界に1000万人以上いる難民を少しでも助けようという人道目的の政策で、日本の役割が期待されている。本国に帰れない難民を隣人として迎えるよう、日本の社会全体に協力を呼びかけたい」
「世界に1000万人以上いる難民」に対して今後3年間で90人の受入れに過ぎないにも関わらず、美しいばかりの「人道目的の政策」、「隣人」扱いだとしている。
だが、決して外務省人権人道課の志野光子課長外っているように「人道目的の政策」でも「隣人」扱いから発した難民受入れでないことは国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のグテレス高等弁務官が昨09年11月20日に東京都内で記者会見し、「日本が受け入れている難民数は少ない。認定制度の見直しを進めて国際的な水準を満たしてほしい」と日本の難民認定が「国際的な水準」に満たないことを批判しているニュースを「msn産経」が「共同通信」の記事として《より多くの難民受け入れを 国連難民高等弁務官》で報道していることが証明している。
その上で、〈日本が2010年度から導入する「第三国定住」によるミャンマー難民の受け入れについては「今後3年間で90人と数は少ないが、アジア初のケースであり、成功すれば難民の定住国としての地位が確立される」と期待を示した。〉とやはりその数の少なさを問題としている。
また、難民認定を申請中の外国人の唯一の公的支援である外務省の「保護費」の支給基準が今年度から厳格化されて5月末で計100人が支給を打ち切られていたと伝えている「asahi.com」記事――《難民申請100人の生活費打ち切り 外務省、基準厳格化》も難民支援に日本が人道的でないことを伝えている。
記事は次のように書いている。(一部抜粋参考引用)
〈保護費は、難民認定を求めて来日した外国人に対して、法務省入国管理局から認定か不認定かの審査結果が出るまでの期間、生活を支える目的で83年度から外務省が続けている制度。外郭団体「難民事業本部(RHQ)を通じて月に1回、1日1500円(12歳未満は750円)の生活費と、1人上限4万円の住居費の合計金額を手渡している。在留資格のない難民申請者には就労許可が出ないため、難民申請者にとっては「命綱」のような存在だ。
外務省人権人道課によると、これまでは難民申請中の外国人は「生活に困窮している」と認められれば一定期間、支給を受けることができた。しかし、今年度から基準を見直し、支給対象を病気が重い人や子ども、妊婦、高齢者に絞り込んだという。
この結果、計100人が対象から漏れた。5月の保護費支給人数は、新規の申請者を含めても174人と、前月の263人から激減した。支援団体には、5月中頃から「家賃を払えずに住居を追われた」などの訴えが急増し、対応に追われている。
同省人権人道課は「生活困窮者にはできるだけ支給したいが、予算が足りず、本当に必要な人の手に届けるために絞り込まざるを得なかった」と説明している。〉――
「予算が足りず」と言っているが、一方で補助金を誤魔化したり、公益法人等の理事長その他に高額すぎる給与を支払ったり、裏金をつくって私的流用にまわしたりの省庁のムダ遣いを放置しながらの「予算が足りず」であり、「本当に必要な人の手に届けるために絞り込まざるを得なかった」の人道的配慮なのである。
いわば削るべきところは削らずに、削るべきないところを削った情け容赦のなさが生じせしめた“計100人の対象漏れ”であって、「本当に必要な人の手に届けるために絞り込まざるを得なかった」が如何に奇麗事の正当化口実か分かろうと言うものである。
また「NHK」記事――b>《インドシナ難民 厳しい生活》(09年12月19日 5時49分) も日本の難民に対する人道上の配慮の欠如を国連の報告書の形で伝えている。
この報告書は日本政府が新たに行う「第三国定住」に役立てる参考材料に国連が過去日本が受け入れてきたインドシナ難民のうち、245人のインドシナ難民を対象に一昨年から今年にかけて行った調査だという。
その結果――
▽日本語を数か月程度の研修でしか学べなかったため安定した仕事に就けず地域社会にも溶け込めない難民の存在。
▽精神を病んで自殺に追い込まれたりしたケース。――等、厳しい生活を送っている現実が浮き彫りになったという。
神奈川県内に住むカンボジア出身の元インドシナ難民、伊佐リスレンさん。
「これから日本に来る難民がもっと長く日本語の研修を受けられるようにするなど、政府に対してより手厚い支援を求めたい」
この程度の人道的配慮は備えているアフターケアでしかない。人道的配慮を下位意識とした日本の外国人政策・難民政策となっている。
こういったことすべてが、いわゆる“外圧”による止むを得ない日本の難民受入れであることを証明し、一般の外国人受入れの構図となっていることを証明している。
日本人を上に置いた外国人拒絶反応から脱却して、真に対等意識を持って外国人と接する意識がアジアをカネ儲けの場とのみ把えることから免れることができるはずである。
そうしなければ、下に参考引用する記事が描くアジアと日本の関係はますます酷い関係となっていくに違いない。 《中国-ASEANのFTA発効:期待は日本ではなく、中国へ》(サーチナニュース/2010/01/05(火) 11:39)
かけ声だけの鳩山由紀夫首相の「東アジア共同体」と違って、中国は一足先に、この正月、東アジア共同体の第一歩を実現した。それは、ASEAN(東南アジア諸国連合)との自由貿易(関税撤廃)である。
元旦より、中国とASEANの6カ国(タイ、インドネシア、フィリピン、シンガポール、マレーシア、ブルネイ)とが、約7000品目にわたる関税を撤廃した。これによって、人口19億人、GDP6兆ドルという巨大自由市場が、東アジアに誕生した。
この巨大自由市場の誕生は何を意味するのか。私は昨年9月に中国・大連で行われた「夏のダボス会議」の席上で、ASEANの3人のキーパーソンに話を聞いている。彼らはやや興奮気味に、次のように語っていた。
「これほど早期に中国との自由貿易協定がまとまったのは、『原材料ではなくて加工製品を輸出したい』というASEAN諸国の要望を、中国が受け入れてくれたからだ。わが国には300もの民族があり、民族間の対立が最大の問題だったが、皮肉なことに国民の目が一斉に中国に向き始めたことで、民族間の対立が減った」(インドネシアのルトゥフィ経済相)
「わが国は中国の力を借りて内需を拡大し、7%成長を達成する。そして今回中国と始める自由貿易の枠組みを、今後はインド、韓国、オーストラリア、ニュージーランドへと拡大していく。数年のうちにアジア各国は、経済政策の全面的な再設計を迫られることになるだろう」(ベトナムのトゥルン・ハイ副首相兼経済相)
「現在、年間100万人の観光客がわが国を訪れるが、両国の自由貿易と鉄道連結によって、数年内に中国からの観光客は、いまの10倍、すなわち年間1000万人規模に拡大するだろう。2016年には、中国-ASEAN-インドという世界経済の3分の1が一体化し、世界経済は激変するに違いない」(タイのシトヘアモーン通商相)
このように、ASEAN諸国の指導者たちが期待を寄せるのは、もはや日本ではなくて中国なのである。
例えば、一昔前まで「日本のODAが国を動かしている」とまで囁かれたインドネシアでは、今年は必要な鉄鋼の5割以上を中国から輸入する予定だ。シンガポールとマレーシアも、今年最大の貿易相手国は中国となる見込みだ。中国はまさにオセロゲームのように、「ASEAN利権」を日本から、一つひとつ引っ繰り返している構図なのだ。
中国は、広西チワン族自治区の南寧と雲南省の昆明を、ASEAN貿易の拠点に据えている。南寧では1月7日より、温家宝首相が主宰して、「中国ASEAN自由貿易区フォーラム」を開催する。昆明は、メコン河開発によって、インド洋と直結させる狙いである。シンガポール-マレーシア-タイ-カンボジア-ベトナム-南寧、昆明という「中国ASEAN縦断鉄道」も建設中で、5年後には開通する予定だ。
さらに中国は、ASEAN市場で遠望を抱いている。それは、「人民元国際化構想」である。前世紀に日本が成し得なかった「円をアジア共通通貨に」という野望を、今世紀に中国が実現しようというのだ。中国はすでに、計100億ドルに上る「中国ASEAN投資協力基金」を準備しており、今後はASEAN諸国との貿易決済に関して、ドルを介在させない人民元決済の拡大を図っていく。もちろん、台湾・香港・マカオも、「人民元経済圏」に呑み込もうという算段だ。
日本が実態のない「東アジア共同体構想」をブチ上げている間に、東アジアは日本を抜きにして、どんどん先へ進んでいっているのである。(執筆者:近藤大介 明治大学講師 編集担当:サーチナ・メディア事業部) |