安倍晋三の被災地の格差が進んでいる中での訪問回数の誇示と復興加速の誇示はもうやめた方がいい

2016-03-12 10:27:09 | 政治

 東日本大震災から5年となる2016年3月11日の前日、3月10日、安倍晋三は首相官邸で「記者会見」を行った。いつものパターンを繰返したに過ぎない。

 政権復帰後に訪問した被災地は、東日本大震災2011年3月11日発災から1年8カ月程度しか経過していない2012年12月26日の首相就任の3日後の訪問だから、当然なのだが、至る所無残な光景を残していたこと、そして被災地訪問回数は何回に至ったかを誇示、復興推進のため霞が関の「縦割り」を打破し、「現場主義」を徹底して復興を加速させ、その例をいくつか挙げて、安倍政権下で復興が進んでいることを誇示する、そういったパターンである。 

 安倍晋三「何としても、復興を加速する。その決意のもと、総理就任以来、3年余りで30回近く、被災地に足を運んでまいりました」

 安倍晋三「政権交代した3年前、計画すらなかった高台移転は、ほぼ全ての事業が着工し、この春には、全体の4分の3の地区で造成が完了します。ほぼ全ての漁港が復旧します。7割を超える農地が作付可能となり、9割近い水産加工施設が再開を果たしました」

 民主党政権下、高台移転の構想はあった。だが、被害が余りにも広大な上甚大で、仮設住宅の用地確保から建設、そして完成させ、被災者を学校の体育館等の劣悪な住環境の避難所から仮設住宅に移住させたり、その他の復旧に手一杯で、復興にまで手が回らない状況だったに過ぎない。

 それをさも民主党政権の責任であるかのように高台移転は「政権交代した3年前、計画すらなかった」と言う。

 安倍晋三「先週訪れた福島では、避難生活を送る5人の酪農家が集まって、500頭もの乳牛を育てる、東北最大規模の牧場をオープンしました。出荷が始まったばかりの乳製品を前に、『一日も早く福島が自立して、真っ向勝負ができるよう頑張っていきたい』と、復興への情熱を、私に語ってくれました。

 原発事故で大きな被害を受けた福島は今、太陽光発電やリチウムイオン電池などの関連企業も集まり、未来のエネルギー社会を拓く「先駆けの地」になろうとしている。被災地でも、新しい産業の芽が次々と生まれつつあります」

 東日本大震災発災の2011年3月11日から5年が経過、安倍晋三が首相に返り咲いてから(日本の不幸現象だが)、2年3カ月、持間の経過と連動して復興が進むのは当然である。それが地域に応じて、あるいは被災者が置かれている状況に応じて過不足のない復興なのかを問題としなければならない。

 安倍晋三「復興庁のもと霞が関の『縦割り』を打ち破る。そして、『現場主義』を徹底する。それまでの復興行政を一新し、復興を加速してまいりました」

 言っていることは復興加速には霞が関の「縦割り打破」と徹底した「現場主義」が必須条件となるということである。そして霞が関の縦割を打破し、現場主義を徹底させることができる状況をつくり出したことになる。

 だからこそ、「復興を加速してまいりました」と自信を持って述べることができる。

 大震災2年目を迎えた2013年3月11日の記者会見でも縦割り打破と現場主義に触れている。

 安倍晋三「現場では、手続が障害となっています。農地の買取りなど、手続の一つ一つが高台移転の遅れにつながっています。復興は時間勝負です。平時では当然の手続であっても、現場の状況に即して復興第一で見直しを行います。既に農地の買取りについては簡素化を実現しました。今後、高台移転を加速できるよう、手続を大胆に簡素化していきます。

 これからも課題が明らかになるたびに、行政の縦割りを排して一つ一つきめ細かく手続の見直しを進めてまいります」

 安倍晋三「一方で、被災地の皆さんは、懸命に今を生きておられます。仮設住宅の厳しい生活の中にあっても、互いに声をかけ合って、励まし合っている皆さん。一部ではありますが、復興住宅の建設も進み出しました。被災した工場を再び立ち上げた方もいらっしゃいます。

 その光は、いまだかすかなものかもしれません。しかし、被災者の皆さんの力によって、被災地には希望の光が確実に生まれつつあります。この光を更に力強く、確かなものとしてまいります。全ては実行あるのみです。その鍵は現場主義です」(首相官邸) 

 震災発災から3年目を迎える2014年3月10の前日3月10日の記者会見でも同様である。

 安倍晋三「総理に就任以来、13回にわたり被災地を視察いたしました。昨年春ごろはあちこちで用地確保が難しいという切実な声がありました。特に、いつ、何戸の住宅が再建されるかの見通しも全く立っていませんでした。

 こうした中、安倍内閣におきましては、省庁の縦割りを排しながら現場主義を徹底し、政府一丸となって加速化に全力をあげました。被災地 の抱える課題は制度面、執行面、多岐にわたります。現場主義で用地取得手続の迅速化、そして自治体へのマンパワー支援などきめ細やかに対 応してまいりました」(首相官邸) 
 
 4年目を迎える前日の2015年3月10日の記者会見では「縦割り打破」も「現場主義」にも触れていない。

 つまり2015年3月10日以前に縦割り打破と現場主義を完成させることができた。そして5年目を迎える前日の2016年3月10日に完成を受けた復興の成果を誇ったと言うことなのだろう。

 だが、第3次安倍改造内閣2015年10月7日発足と同時に復興相に就任した高木毅は翌/2016年1月4日の復興庁の年頭訓示では違うことを言っている。

 高木毅「いまだにやはり被災地へ行きますと、どうしても省庁の縦割りというような話も聞かされております。私たちは復興庁、正に復興の司令塔でございます。それぞれの省庁は一生懸命取り組 んでいただいておるわけでございますけれども、被災地において、やはり縦割りだなというようなことのないように、しっかりとその辺は、正に私たちが横串を刺していくというような考え方も引き続き必要だと いうふうに思います。   

 しっかりと現場主義に徹する、そしてまた、被災地に寄り添う、そして、省庁の縦割りを排除する、そして、私たち復興庁はしっかりと復興の司令塔だというその使命を持って今年1年、そして、今年1年は 正に新しい5年の初年度でございますから、この1年を頑張っていただきたいと、そのように思うところでございます」(復興庁HP) 

 高木毅は決してタテ割り打破ができていない状況、現場主義が徹底できていない状況を訴えている。

 確かに復興は進んでいる。安倍晋三の被災地訪問の殆どが再建を果たしているか、果たしつつあるか、あるいは再建のレールに乗ることができている企業や同業者による共同運営体を対象としていて、復興が進んでいることを目にすることができる。

 だが、朝日新聞社は福島放送が2016年2月27、28両日実施・2016年3月4日報道の「共同電話世論調査」を見てみると、安倍晋三被災地訪問の実態と異なる復興の景色が見えてくる。 

 「復興への道筋」

 「あまりついていない」53%(2012年度調査54%)
 「まったくついていない」9%(2012年度調査38%)

 「ある程度ついた」35%(2012年調査7%) 
 「大いについた」1%(2012年調査0%)

 上記無料記事には2012年調査の「大いについた」が何パーセントか載っていないが、調べてみると、0%である。

 「まったくついていない」が38%から9%。「ある程度ついた」が7%から35%。復興が進んでいる光景を見せている。

 だが、「大いについた」が0%から1%。「あまりついていない」が54%から53%へとほぼ横這いとなっていて、殆ど復興が進んでいない光景を一方では示している。

 これは復興に格差が生じていることの何よりの現象であって、地域や被災者の状況に無関係に過不足のない復興の姿となっていないことを示している。

 いわば安倍晋三が記者会見で誇っている復興状況は生じている格差の上層を対象にした発言に過ぎないことになる。

 経済産業省の東北での出先機関であるの東北経済産業局の今年2016年2月24日発表の《東北地域における産業復興の現状と今後の取組 〜5年を振り返って〜》にも、格差の状況を伝える記述が見当たる。

 〈福島県内中⼩企業・小規模事業者の復興加速化に向けた経営支援のあり方に関する検討会〉

 ○福島県内の中小企業・小規模事業者は、震災後の顧客の喪失や⾵評などにより厳しい状況(※)。
  ※震災前の売上まで回復せず。補助⾦等本業以外の収益で資⾦繰りを維持。実態は⾚字企業が多く、今後、顕在化のおそれ。

 〈検討会における意⾒〜事業者の現状に対する認識〜検討会における意⾒〜⽀援にあたっての現状と課題〜〉

 ○福島県内中小企業・小規模事業者の経営状況は厳しい。
 ○経営者の経営改善への意欲が低い。
 ○特需縮⼩後の影響を認識すべき。阪神淡路大震災より影響大。

 〈グループ補助⾦事業者の売上回復状況〉

 ・平成23〜26年度グループ補助金の交付先8,569者に対しアンケートを実施し、6,097者(71.2%)から回答があった。

 ・全体では、震災前と比べて売上が増加している割合が少しずつ伸びている。44.8%の事業者が震災直前の水準以上まで売上が回復。一方、売上げが半分以下の事業所も30.8%。
 ・業種別によると、水産・食品加工業の回復は他業種と比べて遅れている。
 ・また、卸小売・サービス業、旅館・ホテル業は、売上が増加している事業者と、売上が低下している事業者が2極分化している。
 ・建設業は約6割の事業者が震災前よりも売上が増加している。

 どこをどう読んでも格差が生じていることを伝えている。復興需要で公共事業から民間建設事業まで含めて増え、人手不足が騒がれていながら、震災前の売上以上に伸びている建設業は6割で、あとの4割は伸びていない。旨味は東京に本社を構える大手ゼネコンがかっさらっていっているのだろう。

 2016年1月下旬~2月末に実施した、3月8日報道の「読売新聞世論調査」も格差を伝えている。

 「全体的に見た復興の進捗度」

 「進んでいると思う」51%
 「進んでいない」48%

 見事に二極化している。

 2016年1月現在で5万8948人、6万人近くが未だに仮設住宅での生活を余儀なくされている。この人数は震災発生翌年2012年10月の11万3956人と比べると半分程度だと言うことだが、逆に言うと、5年で半数しか仮設住宅から解放されていないことになり、ここにも住環境の格差、あるいは二極化を見ることができる。

 各調査から見ることのできる復興の状況は安倍晋三が記者会見の度に誇示する復興の様子とは明らかに異なる。記者会見で表に出さず、進んでいるところだけを見せているからに他ならない。都合のいい統計だけを出して、都合の悪い統計は隠す宣伝術は安倍晋三の十八番である。

 いわば訪問回数を誇る程には過不足のない復興とはなっていない。復興が進んでいると同時に格差も進めて二極化現象を生じさせているのだから、記者会見やその他での訪問回数の誇示と復興加速の誇示はもうやめた方がいい。

 歪んだ復興となっている以上、当然、「縦割りの打破」だとか、「現場主義の徹底」だとか言う資格はない。

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