3月18日参議院予算委で民主党の白眞勲議員が昨年末2015年12月28日の慰安婦日韓合意はなぜ文書の形を取らなかったのかと外相の岸田文雄を問い質し、安倍晋三には韓国を訪れたなら元従軍慰安婦に会うつもりはあるかと尋ねた。
両者の答弁は論点をすり替えて辛うじて誤魔化す苦しい内容となっていたが、その苦しさを顔には見せない強かさは流石に海千山千の政治家である。
白眞勲議員「外務大臣は(昨年12月28日の従軍慰安婦日韓合意を)明確且つ十分な確約を得たものであると答弁された。だったら、文書に書いて署名すればよかったのに、何でしなかったんですか」
岸田文雄「今回の日韓合意につきましては昨年12月28日、日韓の外相が直接会い、会談を行い、直談判で内容を確認し、その後日韓の首脳が電話会談を行い、内容を確認した上で共同記者会見に臨みました。
その記者発表に於いて日韓の外相がテレビカメラの前で両国の国民のみならず、全世界に向けてこの合意内容を明言致しました。このことは大変重たいと思います。十分な確約が得られたと我々は受け止めております」
白眞勲議員「お答えになっていないんですね。なぜ文書にしなかったのか聞いているんですよ。例えば2年前の日中首脳会談で合意した日中関係の改善に向けての話し合いというのがあるが、やっぱり文書にしているんですねえ。
今回は15億円程度の日本政府の資金の供出ですよ。日本政府の予算で出すと決めているのに、15億円というのは予算でしょ。国民の税金です。それを口約束で確約してしまうということですか。もう一回お聞かせください」
岸田文雄「要は両国の合意内容を両国がしっかりと確認をし、これを明らかにすることが大切だということです。そのためにどのような形を取るのか。これはそのテーマによって、その場合によって、両国でしっかりと話し合った上で決めるべきことだと思います。
今回の合意に於いては文書にしなかったわけでありますが、先程申し上げまして手続き、そして形を取ることによって、両国の合意確認は十分にできたと受け止めておりますし、明確な、そして十分な形で国際社会からもしっかりと確認をされたものであると認識をしております」
白眞勲議員「ですから、何度も聞くようで申し訳ないのですが、手続き取ってるんだったら、最後は文書でしょう。何で手続き取ったのに文書にしなかったのですか。文書にできない、後ろめたいところがあるんですか。
(岸田が自席て首でも振ったのだろう)そうじゃない。では、理由を教えて下さい。今のは理由になっていない。確約して手続き取って、確認したんだから、文書にしなくていいんです、それはおかしいです。論理的にあり得ないんです。そういうことなんです。もう一回言ってください」
岸田文雄「先程申し上げたように合意の中身を如何に確認するか、しっかり確認できるということが大切だと思います。文書にするというのも一つの形であります。今回のようにこうした公の場で両国の外相が世界に向けて発信する、これも一つの形だと思います。
いずれにせよ、その合意がしっかりと確認され、それを広く知らされる、そのことが大切であります。文書にするというのも一つの形でありますが、今回は両国でしっかりと話し合った上で、こういった形が取られたわけであります。文書にしなかった理由は以上であります」
白眞勲議員「何か理由があったから、しなかったんだと思いますが、言いたくないんだったら、仕方がないと思うんですが・・・・」
そして伊勢志摩サミットに話題を持っていって、サミットに朴韓国大統領をオブザーバーに招いたらどうか、首脳同士が頻繁に合うことで両国関係が改善される、シャトル外交をやった方がいいなどと提案。
そして従軍慰安婦日韓合意でクローズアップされることになった韓国の元従軍慰安婦の話題を取り上げる。
白眞勲議員「(シャトル外交で)韓国に行ったときにですね、安倍総理、元慰安婦のお婆さんと会う予定はありますか。会いたいと思いますか」
安倍晋三「いわゆる慰安婦の問題につきましては昨年の合意によって最終的不可逆的に解決したのであると、このように考えております」
白眞勲議員「いや、質問は韓国に行ったときにいわゆる元慰安婦のお婆さんと会う気がありますか。もう一度お答えください」
安倍晋三「今のご質問でございますが、この問題につきましてはですね、今申し上げましたようにこの合意というのはお互いに相当に議論を進めた中に於いてやっと統一した合意でございます。
そこで今申し上げましたようにそこで完全且つ最終的に不可逆的に解決をした、そのように考えております。
これからは今後未来についてお互いに議論していきたいと考えているところでございます」
白眞勲議員「まあ、お答えにくいんだったら、しょうがないというふうに思うんですが・・・・・」
最近韓国では北朝鮮との平和的統一の話をする人が多くなっているからと統一後の協力体制を質す質問に移っていった。
岸田に対する質問にしても安倍晋三に対する質問にしてもどうも気の抜けた追及で終わったようだ。
岸田の答弁を読めば、文書化しない方が都合のよい、両国にとってメリットとなる何らかの理由の存在を疑わないということはあり得ない。
そのメリットとは何らかの密約の存在以外に考えることはできない。
岸田自身は「両国の合意内容を両国がしっかりと確認をし」、その内容を「日韓の外相がテレビカメラの前で両国の国民のみならず、全世界のに向けて明言した」から、文書にしなくてもいいと言っている。
だが、公にした合意内容が世間の目から閉ざされた場所で両国間が合意した内容と常に一致するとは限らない。一致するとしたなら、この世界に密約なるものは存在しないことになる。
だが、密約は例に事欠かないぐらいにいくらでも存在する。
当然、岸田文雄が言っていることは国家は間違ったことも、誤ったこともしない、隠し事もしないとする「国家性善説」に立った戯言(たわごと)を振り撒いたに過ぎない。
もし「国家性善説」が通るとしたら、立憲主義の政治原則に基づいて国家権力の恣意的行使を規制する民主憲法は必要なくなる。放っておいても国家は常に性善のみを行うことになるからだ。
マスコミに於ける権力監視の役目も必要なくなる。
成年後見制度に基づいて財産管理能力喪失者の後見人となった弁護士などが被後見人の財産や預金を横領する事件はこの世に存在しないと言うに等しい。
誰が信じるだろうか。
勿論、文書化する場合、密約が存在したとしても、公の目に耐え得る合意内容のみを文書化するのは当然なことで、密約は文書化した合意内容の背後に隠し、文書化した合意内容のみが“真”となるが、いつの日か歴史の検証が入ってその密約が暴かれるとき、密約は文書化した合意内容との比較でその是非が論じられるが、文書化していない場合、正確な比較は行い得ないことになる。
つまり、歴史の検証を回避した非文書化ということもできる。
安倍晋三は従軍慰安婦問題を日本の歴史から抹殺したい意思を根強く持っているから、その意思が歴史検証回避に向かわせたと疑うこともできる。
安倍晋三は直接的な言葉でその意思のないことを表明したわけではないが、例え韓国を訪問しても、元従軍慰安婦に面会して謝罪するつもりはないとする趣意の答弁を行った。
外務省のサイトに《日韓両外相共同記者発表》(2015年12月28日) が載っていて、次のように記述してある。
〈(1)慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり,かかる観点から,日本政府は責任を痛感している。
安倍内閣総理大臣は,日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からお詫びと反省の気持ちを表明する。〉――
従軍慰安問題は「多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題」であり、「日本政府は責任を痛感」、安倍晋三自身も「心からお詫びと反省の気持ちを表明する」日韓合意であったはずだ。
だが、安倍晋三は日本の総理大臣として日本政府を代表、韓国の元従軍慰安婦に直説面会して「多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」「責任」を進んで伝えることも、自身の気持として「心からお詫びと反省」を伝える機会を持つことも考えていない、その程度の日韓合意であることが判明した。
だとしたら、その気持もないのに責任や反省やお詫びの文言を共同記者発表に書き連ねたことになって、そのこと自体がマヤカシそのものとなる。岸田文雄の国民を誑(たぶら)かすに等しい「国家性善説」に立った答弁と言い、二人のマヤカシは目に余る。