2016年3月18日参院予算委員会で有田芳生民主党議員がヘイトスピーチ問題を取り上げて、岩城光英法相と安倍晋三を問い質していた。
ヘイトスピーチとは何を意味する憎悪表現なのか。人権侵害と一言で言うが、何を目的とした人権の侵害なのだろうか。
「Wikipedia」に、〈ヘイトスピーチ(英: hate speech)とは、人種、国籍、宗教、性的指向、性別、障害などに基づいて個人または集団を攻撃、脅迫、侮辱し、さらには他人をそのように煽動する言論等を指す。日本語では「差別煽動表現」、「憎悪表現」、「差別的憎悪表現」、「憎悪宣伝」「差別的表現」「差別表現」、「差別言論」、「差別煽動」などと訳される。〉と解説されている。
だが、この解説で説明し切れているのだろうか。
少なくとも日本に於ける日本人による朝鮮人に対するヘイトスピーチ(憎悪表現)は憎悪に基づいた攻撃的な存在抹殺願望を全体性としている。
この願望は願望である間はまだ心理面にとどまった攻撃的な抹殺願望でしかないが、願望は常に現実世界に実現させたい衝動をも同時に抱えていることから、願望に潜ませた攻撃性が何かの機会に憎悪をバネとして露出し、実際の攻撃の形を取って存在抹殺行為へと走る危険性を常に背中合わせとしている。
そしてそのような存在抹殺行為を正義としているところに一番の問題点がある。日本人の正義・日本の正義としている。
この危険性が現実化した関東大震災での朝鮮人虐殺、あるいはナチスドイツのユダヤ人ホロコーストはそれらの規模に無関係に存在抹殺性という点で共通し、両者共にそれぞれの国民の正義として行われた。
このような攻撃的な存在抹殺行為をこそ、危機感を持って前以て予防しなければならない危険性であるはずだが、3月18日の質疑にはヘイトスピーチが人権侵害だ何だと言う前に憎悪に基づいた攻撃的な存在抹殺願望に立脚しているという視点も、その願望が何かの機会に現実化する危険性の質についての視点も見受けることはできず、特に答弁側の安倍晋三と岩城光英には危機感を何ら見い出すことはできなかった。
日本のヘイトスピーチが朝鮮人全体に対する、いわば朝鮮民族に対する攻撃的な存在抹殺願望であることの証明を有田芳生議員が取り上げたヘイトスピーチ(憎悪表現)の例から行ってみる。
●2013年2月17日の東京新宿区新大久保でのヘイトスピーチデモに於けるプラカード文字。
「仇(かたき)なす敵は皆殺し」
「朝鮮人皆殺し」
「朝鮮人、首吊れ、毒飲め、飛び降りろ」
この文言全てが特定の朝鮮人ではなく、朝鮮人全体、朝鮮民族そのものを攻撃対象とした存在抹殺願望の表明となっていて、自らの正義としてこれらのことを望んでいる。
●2014年3月23日の東京江戸川区の西葛西でのナチスドイツのハーケンクロイツの旗を掲げたデモ行進。
ナチスドイツのハーケンクロイツ(鉤十字)自体がナチスとして行った全ての表現行為のシンボル(象徴)であり、その凶悪最大の行為がユダヤ人虐殺という形を取った存在抹殺行為なのだから、ヘイトスピーチ(憎悪表現)を行いながらその旗を掲げていたということは憎悪表現の対象者に対する存在抹殺願望の提示=正義行為そのものの表現となる。
●2008年から2011年にかけて朝鮮大学前で3回に亘って在特会の前会長桜井誠の街宣。
「そこにいる朝鮮人の君、殺してやるから出てこいよ。舐めんじゃないぞ、ゴキブリだ。朝鮮人は東京湾へ叩きこめ」
「ゴキブリ」という人間蔑称は後からも出てくるから、その時説明する。
憎悪と軽蔑に基づいた朝鮮人全体に対する存在抹殺願望の表出そのものであり、そうしようとすることを正義として行っている。
●2013年2月17日の新大久保でのヘイトスピーチデモ。このデモの際に毒マスクをつけていたのか。
「新大久保を更地にしてガス室を造れ」の叫び。
叫んでいた言葉にしても毒マスクにしても、毒ガス室に送り込んだユダヤ人同様の運命を味あわせてやるとする意志を見せた存在抹殺願望の露骨な表現であろう。
俺たち日本人は毒マスクをつけていて毒ガスは吸わずに済むが、お前たち朝鮮人は毒マスクをつけていないから、毒ガスを吸う側だと相互の存在性の価値に上下をつけて、下の価値に対して抹殺が相応しいと意味づけている。
当然、この願望行為を正義と位置づけていることになる。
●2013年2月24日の大阪市生野区鶴橋(天王寺区と合わせて日本最大のコリアタウンが存在するそうだ)でのヘイトスピーチデモ。
当時14歳の少女「ここは日本です。南京大虐殺を知っていますか。ここから出ていかなければ、鶴橋大虐殺やりますよ」
背後にいた大人たち「そうだ、そうだ」
「大虐殺」とは最悪最大の存在抹殺そのものの直接比喩である。と同時に朝鮮人なる存在性に対して「大虐殺」は許される行為――正義だとしている。
関東大震災では朝鮮人が井戸に毒を投げ込んでいるというデマに現在と比べ物にならない日常普段からの朝鮮人差別意識が憎悪の火を灯されて、気負い、正義の意識に駆られた自警団員や民衆によってたちどころに竹槍等で突いて殺す存在抹殺の虐殺行為に走った。
●3月6日の福岡でのヘイトスピーチの街宣。
「こいつらゴキブリですから、必ず繁殖します。どんなに言っても、朝鮮人というのは頭が悪い。三歩歩いたら忘れる。物を考えることができないんです。騒乱が起きたら、朝鮮人は必ず暴れる。一思いに殺すんです」
「ゴキブリ」は人間にとって一思いに殺し、駆除すべき対象としている。朝鮮人をゴキブリに擬(なぞら)え、駆除すべき存在抹殺の願望を突きつけている。
勿論、正義の行為としなければ、そんなことは望むことすらできない。
どれ一つ取っても朝鮮人全体に対する、あるいは朝鮮民族に対する、本人たちは日本人の正義感からと信じ込んでいる、憎悪に基づいた攻撃的な存在抹殺願望表現以外の何ものでもない。存在そのものを消し去ろうと望んでいるのだから、一般的な意味での人権蹂躙ではないし、差別でもない。同じ人間でありながら、ナチスドイツがユダヤ民族にしたのと同じように朝鮮人・朝鮮民族を抹殺してもいい存在としているのである。
だが、安倍晋三の答弁にしても岩城光英の答弁にしても、ヘイトスピーチが一歩誤ると、何かのキッカケでそれが攻撃的な暴動行為へと激化しない保証はないにも関わらず、一般的な人権蹂躙のレベル、差別のレベルで把えて、だからだろう、ヘイトスピーチの未だなくならない危険な状況を「極めて残念」という感想で括ることができ、その残念な状況が現行法や教育活動・啓発活動で片付くと見ている危機感の希薄さを見せつけることになる。
ヘイトスピーチの危険性はそれが正義だと勘違いした憎悪に基づいた攻撃的な存在抹殺願望という人間感情を成分として成り立たせ、願望は常に現実世界に実現させたい衝動をも併せ抱えているがゆえに、それが群れ(=集団)をなしている以上、正義だと思い込んでいる分、何かのキッカケで願望に潜ませた攻撃性が憎悪をバネとして露出、実際の攻撃の形を取って集団的な存在抹殺行為へと暴発する危険性を常に背中合わせとしているという認識に立たなければ、ヘイトスピーチが関東大震災の朝鮮人虐殺やナチスドイツのユダヤ人虐殺と同質だとする危機感を持つことはできず、安倍晋三や岩城光英のように事勿れな対応しか導き出すことはできないだろう。
参考までに有田芳生議員と安倍晋三・岩城光英の質疑を記載させておく。
有田芳生「人権大国日本を構築するためにヘイトスピーチ問題についてお聞きを致します。多くの方がご存知ありませんけども、イギリス外務省のホームページ、御覧ください。もう何年も前から出ておりますけれども、『日本は民主主義的な国である。ところ(?)上下についての規律ですけども、日本へ行く人、日本は民主主義的な国なんだけども、時折り排外主義的なデモがあるから、それを見たときにはすぐにその場から立ち去ってください』
未だイギリスの外務省のホームページに出ている。海外から日本はそのように見られてるんですよね」
質問の際ヘイトスピーチデモを撮った写真をフリップにして紹介することを理事会に諮ったが許可されなかったことを説明。各委員には資料に載せて配ってあるからと断ってから、
有田芳生「私はその現場をすべて見ております。どういう写真がここに提示できないのか。後ほどインターネット上で国民の皆さんに知らせるつもりですけども、例えば私が示そうとした一つの写真は2013年2月17日、東京新宿の新大久保のヘイトスピーチではプラカードに何て書いてあるのか。
『仇(かたき)なす敵は皆殺し』、『朝鮮人皆殺し』
委員の皆さん今見ていらっしゃるでしょう。テレビの方々は見ることができない。もう一つの写真。同じ13年2月17日。新大久保で行われたヘイトスピーチデモ。
『朝鮮人、首吊れ、毒飲め、飛び降りろ』
こういうプラカードを掲げてヘイトスピーチのデモをやっていた。
更に右側の写真で、2014年3月23日、東京江戸川区の西葛西、ナチスドイツのハーケンクロイツの旗を掲げてデモ行進をやっている。何か委員の中にはそのハーケンクロイツっていうのは合成してるんじゃないのかと、(言う)方もいらっしゃったそうですけども、冗談じゃありません。私は現場で全てを見ています。こういうデモが未だ続いているんですよ。
総理、具体的にお尋ねをします。2008年から2011年にかけて朝鮮大学前で3回に亘って在特会の前会長桜井誠、当時の会長ですけども街宣を行いました。こう語りました。『そこにいる朝鮮人の君、殺してやるから出てこいよ。舐めんじゃないぞ、ゴキブリだ。朝鮮人は東京湾へ叩きこめ』
これは未だにインターネット上に映像が流れている。こんなこと許されるんですか。総理、お答えください」
安倍晋三「(原稿読み)一部の国、そして民族や文化を排斥しようという、あるいは憎悪を煽るような過激な言動はですね、極めて残念であり、決してあってはならないと強く感じたところでございます。まさにこれは日本国民、また日本国の品格に関わることであろうと、このように思うところでございます。
えー、人権侵害がですね、認められる場合はですね、当該人物に対して勧告を行っているものと承知をしておりますが、今後はですね、一部の国、民族を排除しようという、そういう言動がなくなっていないということは極めて残念であります。
政府としては一人ひとりの人格が尊重される豊かで安心できる成熟した社会を実現するため、粘り強く様々な対策を講じて参りたいと思います」
有田芳生「法務大臣にお聞きします。先ほどの朝鮮大学の前で3回に亘って行われた在特会、当時の会長による罵詈雑言、差別の煽動、ヘイトスピーチ、これに対して法務省は昨年の12月12日に総理に勧告を出させていますけども、どういう内容ですか」
岩城光英「お尋ねの勧告の内容でありますが、(原稿を読む)元代表者の声が被害者らの生命・身体に被害を加えかねない気勢を示して畏怖させる違法なものであり、被害者らの人間としての尊厳を傷つけるものであるなどと反省し、今後同様の行為を行わないことなどを東京法務局長が元代表者に勧告をしたものであります」
有田芳生「今大臣からお話があったように在特会前会長に対する勧告では人間としての尊厳を傷つける行為に対して今お話になったように、『今後決して同様の行為を行うことのないように』、そう勧告された。
だけど、その前会長はインターネット上でその法務省からきた勧告を破いて、勧告文をネット上でビリビリ、ビリビリ破いた。さらに今後同様の行為を行うことのないように勧告されたにも関わらず、未だヘイトスピーチ、差別の煽動を行っている。3月6日の銀座で先頭に立ってやっておりました。
そうなると、法務大臣を含めた法務省の権威というものが一体どうなるんでしょう。こういう勧告に従わなかった場合ですね、それを放っとくのか、あるいはさらなる対策を取るべきだと私は考えておりますけども、大臣、如何でしょうか」
岩城光英「ご指摘のようにですね、勧告の対象者がこれに反する態度を殊更公開していることにつきましては大変遺憾だと思っています。法務省の人権擁護機関に於きましては対象者の行為を違法なものと認定して、そのことを明確に指摘し、反省と同様の行為を二度と行わないことを勧告したものであり、そのことは何ら揺らぐものではありません。
法務省の人権擁護機関としましては今後も同様の人権侵害行為についてはその違法性を指摘し、必要な勧告等の措置を取ってまいりたいと考えております。そしていわゆるヘイトスピーチをなくしていくためには社会全体の人権意識を高め、こうした言動が許されないことだという認識を広く行き渡らせることが結局重要であり、今後引き続きヘイトスピーチは許さないという姿勢を明確に示し、粘り強い啓発活動を通じて強く訴えて参りたいと考えております」
午前中の持間が終了となって、午後の持間に再開、有田議員は午前中に触れたヘイトスピーチに関わる点についてお浚いをしてから改めて質問に入る。
有田芳生「中には毒マスクをしてデモをやっている者もいました。例えば新大久保では、『新大久保を更地にしてガス室を造れ』というようなことまで叫んでおりました。この2013年2月17日の新大久保のデモの1週間後、大阪の鶴橋、2月24日に同じようなヘイトスピーチデモが行われました。
そこでは当時14歳の少女が、『ここは日本です。南京大虐殺を知っていますか。ここから出ていかなければ、鶴橋大虐殺やりますよ』
当時14歳の少女が叫びました。その後ろにいた大人たちは、『そうだ、そうだ』と言いました。これが日本の現実なんですよ。多くの被害者の方々はそう言うことを聞いて、生命が奪われるんではないか、関東大震災のことを思い出した方も多くいらっしゃいました。
しかしそれに対して法務大臣を含め、法務省は適切な対応を取ってくださる中で2014年11月からは啓発活動を強化され、ヘイトスピーチ許さない、そういうポスターも全国に貼られるようになりました。
私たちも取材を続ける現場でヘイトスピーチを許さないという主張をやっておりますが、しかし残念ながら、そういう啓発が続いているにも関わらず、未だ差別の煽動であるヘイトスピ-というものは止んでおりません。
例えば3月6日の福岡でのヘイトスピーチの街宣、どんなことを言っていたか。
『こいつらゴキブリですから、必ず繁殖します。どんなに言っても、朝鮮人というのは頭が悪い。三歩歩いたら忘れる。物を考えることができないんです。騒乱が起きたら、朝鮮人は必ず暴れる。一思いに殺すんです』
これがついこの間、3月6日、福岡でのヘイトスピーチの街宣。福岡だけじゃない。銀座でも行われている。近くまた行われようとしている。岡山でも在特会の前会長が4月に同じような行動を取ろうとしています。
そこで法務大臣、お聞きします。こういった飛んでもない発言、現行法上で人権侵害といえるんでしょうか」
岩城光英「有田委員からご指摘がありましたような言論は人権擁護の上で問題があると思われます。そして一般的に申し上げますと、人権侵害とは特定の者の人権を具体的に侵害する行為を言うものでありまして、人権侵害に当たるか否かは具体的事案を人権擁護機関に於いて十分に調査・検討した上で判断させるべきものであり、ここでお答えすることはこうした意味で困難であります。
いずれに致しましても、こういった言動はあってはならないことと考えております」
有田芳生「つまり結論から言えば、私が縷々紹介したようなヘイトスピーチの言論というものは現行法上では対処できないんです。だからこそ、今日お話しましたように朝鮮大学での乱暴なヘイトスピーチについても現行法上では対処できないから、民事訴訟で京都朝鮮大学襲撃については民事訴訟で、京都地裁、大阪高裁、そして最高裁でも決定しましたけれども、こうした酷いヘイトスピーチ、差別というものは、言論というものは人種差別撤廃条約に基づいて人種差別なんだということで民事の損害賠償の決定が出たんですよ。
だから現行法上では対処できないということから、多くの被害者も困っているという現実があります。総理、伺います。アメリカ国務省は昨年の2月22日に2014年版人権報告書を出しました。そこでも朝鮮学校襲撃事件での判決についても触れられておりまして、人権報告書では在特会についての批判もあります。
総理に伺いたいというのは今年サミットがあります。サミットがあればパク・クネ大統領も来日する可能性もあります。その前後にこのような差別煽動のヘイトスピーチが行われる可能性があるんです。昨年2015年だけども、三重県の四日市市でヘイトスピーチデモが2回ありました。ヘイトスピーチの街頭宣伝、1回ありました。
もう少し広げて関西地区では昨年1年間で69回のヘイトスピーチデモ、街頭宣伝が行われました。せっかく人権大国日本をつくろう、そしてサミットで行われるこの時併せて前後にこうしたデモが行われるなら、日本に対する重大な問題だと私は考えますが、こうしたことを含めて、総理の前半のお答えを聞いておりますと、この2年間位にお答えになったのと殆んど同じなので、昨年の2月に衆議院の予算委員会で公明党の国重委員にお答えしたなったとき、ヘイトスピーチについては用意された答弁ではなく、総理は肉声で語って頂いておりました。
こういった事態を何とかしなければいけないということについて人権大国をつくる、その日本の総理としてどのようにお考えでしょうか」
安倍晋三「(原稿を早く口に読む)いわゆるヘイトスピーチの対応についてはですね、現行法の適切な適用の他に地方自治体の、今もご紹介頂きましたが、公共機関等へのポスター貼り、その際、新聞広告やネット広告の掲出、そして全国の学校を対象とした職員による人権教育の実施など、社会全体に対する各種啓発活動によって差別の解消に(「へ」の読み違えなのだろう)伝えていくよう務めているところでございますが、(やっと顔を上げて)G7サミット、未だアウトリーチの国(G7以外の招待国)をどういう国をご招待するか決めておりませんが、いずれにせよ、G7の国々というのは自由と民主主義、基本的人権、法の支配を尊ぶ、いわばそうした基本的価値を共有する国々の指導者が集まるわけでございますが、そこでですね、排外主義的な声が行われている、あるいは人権が重んじられていないという印象を持たれては大変なことになってくるんだろうと、このように思います。
こうした観点からもですね、(再び原稿読み)今後一人ひとりの人権が尊重される豊かで安心できる成熟した社会を実現するために教育や啓発の充実に立ち向かうべきだと、このように感じております」
有田芳生「残念ながら啓発教育、現行法上では対処できないのがヘイトスピーチなんですよ。だからこそ、全国約300の地方自治体がヘイトスピーチに対処するために国が法整備をして欲しいという声が法務大臣にも届いていると思いますけれども、やはり新しい措置を考えなければいけないということを与野党通じて法整備を考えております。
ですから、サミットを含めて東京オリンピック・パラリンピックに向けてですね、日本を本当に人権を大切にする国だということを形にするために差別を撤廃する宣言を国がやるべきだと思いますが、最後の総理のお気持を率直にお伝え下さい」
安倍晋三「現在、各党・各会派に於いてですね、えー、このヘイトスピーチ、どのように対処していくかということについて熱心なご議論が行われていると、このように承知している次第でございます。
そうした議論の中でですね、また議論を通じて、こうしたヘイトスピーチに対する対応がなされていくことをですね、期待をしていきたいと思います」
質問持間終了。
有田芳生が「昨年の2月(23日)に衆議院の予算委員会で公明党の国重委員にお答えしたなったとき、ヘイトスピーチについては用意された答弁ではなく、総理は肉声で語って頂いておりました」と発言しているが、それがどの程度の「肉声」なのか調べてみた。
安倍晋三の答弁のみを記載する。
安倍晋三「一部の国そして民族を排除しようという言動や人種差別のあることは、極めて残念であります。あってはならないことと考えているわけでありまして、先日のホロコースト博物館視察では、先ほど御紹介をいただいたように、特定の民族を差別し憎悪の対象とすることが人間をどれほど残酷なものにしてしまうのか。
ヘイトスピーチにおいてもそうなんです。もしその言葉を自分に向けられたらどんな思いがするのか、自分の子供や家族はどんな感じを持つのかという、いわば想像をめぐらせれば、絶対そんなことはしてはならない、言ってはならないということはすぐにわかるわけでありますが、差別感が憎悪を駆り立て、そうした理性的な思考をとめてしまうということではないかと思います」
安倍晋三「ただいま委員が、実際にあった例として発言を紹介されました。そういう発言があること自体、極めて不愉快、不快であり、残念であります。そういう発言をすること自体が、実は自らを貶めていることになり、そういう発言が行われると日本を貶めることにつながる、私はこのように思います。
他方で、いわゆるヘイトスピーチと言われる言動の規制については、個々の事情、事案の具体的状況を検討する必要があり、一概に申し上げることは困難でありますが、いわゆるヘイトスピーチへの対応としては、現行法の適切な適用のほか、啓発活動により差別の解消につなげていくことが重要であると考えております」
安倍晋三「まず、政府として、ヘイトスピーチや人種差別の根絶に向けて、現行法を適切に適用して対処をしていく、同時に、啓発や教育を通じて社会全体の人権意識を高め、こうした言動は許さないという認識を醸成することによって差別の解消につなげていくことが重要であると考えています。
恐らく、多くの方々は、先ほど御紹介されたような発言に対しては、私もそうですが、強い怒りを持ったんだろう、このように思います。
確かに、委員が御指摘のように、2020年、東京オリンピック・パラリンピックを控えています。そうした言動がいわば街頭で堂々と行われている。日本はまさにみずからの価値を下げることにもなります。そして、そうした発言で多くの人々が傷つけられている、こうした現実を直視しなければならない、このように思います。
安倍内閣としては、今後とも、一人一人の人権が尊重される、豊かで安心できる成熟した社会を実現するために、委員御指摘の点も踏まえまして、教育や啓発活動の充実など、さまざまな施策の推進に努めてまいります」(以上)
「一部の国そして民族を排除しようという言動や人種差別」を「極めて残念」、「あってはならないこと」、「極めて不愉快、不快」の感情レベルで把えて、その本質を何ら認識していない。
感情レベルでのみ把え、彼らにとっての正義性に気づいていないから、「自らを貶め」、「日本を貶める」行為だと勘違いな解釈を施す。ヘイトスピーチを行う者たちは何も理解していないなと却って安倍晋三を軽蔑しているに違いない。
だから、1年経っても、1年前と同様に今回も、「一人ひとりの人格が尊重される豊かで安心できる成熟した社会を実現するため」と同じ趣旨のことを答弁することになる。
このことも危機感のなさを伝えて余りあるが、どこをどう見たら、有田芳生が言うように安倍晋三が「肉声で語って頂いて」いるか理解できない。
もし安倍晋三がその本質性に気づいてヘイトスピーチに危機感を持っていたなら、ヘイトスピーチに関する自分の考えを纏め、用意しているだろうから、自分の答を用意し、原稿を読まずに答弁できる。例え間違わないように原稿を用意したとしても、全面的に頼ることはない。
原稿読みに頼った答弁にもヘイトスピーチに対する危機感のなさが現れている。