安倍晋三が第一段階は欧州諸国並みに目指すとした同一労働・同一賃金のコストを計算してみた

2016-03-01 09:00:58 | 政治

 安倍晋三が2月28日(2016年)、一億総活躍社会の実現に向けた政府開催の国民対話集会で同一労働・同一賃金について次のように話している。 

 安倍晋三「働き方改革の第一の柱は、日本の労働者の4割を占める非正規雇用で働く方の待遇改善です。

パートタイム労働者の賃金水準は、欧州諸国においては正規労働者に比べ2割低い状況ですが、日本では4割低くなっています。

 このため、同一労働・同一賃金の導入に本腰を入れて取り組みます」

 要するに欧州諸国の2割の給与差を例に取ったということは、第一段階はそれを目指す基準としたことになる。欧州諸国は同一労働・同一賃金を導入しているが、その制度を以てしても正規と非正規間に2割の給与差があるが、日本の4割を改善して、2割差まで持っていくと。

 勿論、安倍晋三は日本を以てして世界の中心を目指すとしているから、EU諸国に追いついたなら、それを追い越して完全なるで同一労働・同一賃金にまで持って行くに違いない。
 
 但し2015年5月12日衆議院本会議での代表質問に対する答弁で同一労働・同一賃金についての自身の考えを述べている。

 安倍晋三「 同一労働に対し同じ賃金が支払われるという仕組みは、一つの重要な考え方と認識しています。しかし、ある時点で仕事が同じであったとしても、様々な仕事を経験し責任を負っている労働者と経験の浅い労働者との間で賃金を同一にすることについて、直ちに広い理解を得ることは難しいものと考えています」

 一見、日本の雇用慣行が同一労働・同一賃金実現に障害になることの指摘であるように見えるが、経験や責任の度合いを賃金決定の考慮に入れなければならないことの謂(いい)であるはずだ。

 この考え方は榊原経団連会長が上記国民対話集会後に記者団に語った言葉と軌を一にする。

 榊原会長「正規社員と非正規社員の格差を是正するため導入するという安倍晋三首相の考え方には賛同する。

 (但し)日本では同じ職務でも、将来への期待や転勤の可能性など様々な立場がある。日本の雇用慣行を十分考慮した上で導入を検討してほしい」(時事ドットコム

 「将来への期待や転勤の可能性」にしても能力や責任と対応させた考え方であって、両者共に落着くところは日本の雇用慣行を下敷きにした同一労働・同一賃金ということなのだろう。

 欧州諸国ので同一労働・同一賃金について「毎日jp」(2016年2月4日 22時31分)が次のように伝えている。 

 〈欧州の同一労働同一賃金制度は、「客観的な根拠によって正当化されない賃金の差」は認めないことが法文化されている。パートタイム、有期契約、派遣などの雇用形態によって複数の法律があり、例えば、欧州連合(EU)のパートタイム労働指令は「パートタイムで労働するというだけの理由では、客観的な根拠によって正当化されない限り、比較可能なフルタイム労働者よりも不利な取り扱いを受けない」と規定している。

 「客観的な根拠」に関し労使間で認識の食い違いがあれば、最終的には裁判で判断される。内閣府によると、学歴や資格が違う場合や、在職期間の違いで認められた例があるという。【堀井恵里子】〉――

 「客観的な根拠によって正当化されない賃金の差」は認めないと言うことは賃金の差は常に客観的な根拠が求められることになる。但し学歴や資格、在職期間の違いを同一労働・同一賃金の例外として客観的な根拠のうちに入れることができることも示してもいる。

 と言っても、学歴・資格・在職期間共に能力という価値観に収斂されていなければならないはずだ。学歴があっても、資格を持っていても、在職期間が長くても、能力に結びつかない人間はザラにいるからだ。

 「客観的な根拠」に例外を設けていることが安倍晋三が言っていたように欧州諸国でも正規・非正規間で2割低いという格差を生じさせている原因となっているのだろうが、日本は日本型雇用慣行を根強い思想として染みつかせているから、欧州の例外を日本型雇用慣行を生かしたり残したりする手段に利用するかもしれない。

 日本型雇用慣行はまた、学歴や身分・地位・収入の違いで人間の価値を上下に見る日本人の思考様式・行動様式となっている権威主義に関係・基づいている。だからいつまで経っても日本型雇用慣行から抜け出ることができず、延々とした伝統としてきた。
 
 仕事内容も勤続年数も同じか、ほぼ同じでありながら、学歴や年齢や勤続年数で給与に違いが出たりする。勤続年数の1年違いで、大卒と高卒とで大きな違いが出ることもある。学歴の差は能力の違いとして表現しなければ正当性を得ることはできないはずだが、表現できなくても、大卒で採用した給与を基準に上積みされていく。

 どうも日本型雇用慣行にきっぱりと決別することはできない日本型同一労働・同一賃金になるような予感がするが、その理由の一つとして権威主義が大企業優先の思想と結びついていることを挙げることができる。

 自らの利益を大幅に下げてまでして同一労働・同一賃金に快く応じるようには見えない。このことは巨額の内部留保が物語っている。内部留保が大企業の一種のステータスとなっている。その金額を崩したくない思いが先に立ったとしても不思議はない。

 そこで非正規社員と正規社員を同一労働・同一賃金とした場合のコストを計算してみた。勿論、勤続年数や学歴の要素を残した場合、その度合の強さで正確なコストは出てこないが、単純に計算してみる。

 先ず、《労働力調査(詳細集計)2015年10~12月期平均(速報)結果の概要》総務省統計局)から2015年10~12月の正規社員数と非正規社員数を拾い出してみる。   

 正規の職員・従業員 3307万人
 非正規の職員・従業員 2015万人

 次に、《2016年雇用形態別賃金》厚労省)から、雇用形態別の賃金を見てみる。

 正社員・正職員 321.1千円(年齢41.5歳、勤続12.9年)
 正社員・正職員以外205.1千円(年齢46.8歳、勤続7.9年)

 勿論、どちらにも無視できない金額の男女賃金格差が存在するが、あくまでも平均で計算してみる。

 正規社員の年収321万1千円に非正規社員の年収が205万1千円。その格差116万円✕非正規社員2015万人=2兆3780億円。

 欧州諸国並みに2割の格差をつけるとしたら、1兆9024億円。更にここから日本型雇用慣行を加味して1割引くと、1兆7122億円。

 安倍政権が2%分の軽減税率導入で必要とする財源1兆円をどこから持ってくるか未だ決めかねている金額の1.7倍である。あるいは1円の円高への振れで大企業は300億円の営業損失だ、200億円の営業損失だと騒ぐ金額の50倍以上する。

 しかも単年度で済むわけではない。人件費に関わる必要経費として毎年積み上げていかなければならないし、能力の伸長に応じて更に金額は増えるかもしれない。

 これだけのコストをクリアできる同一労働・同一賃金を実現させることができるのだろうか。

 もし大したことのないコストなら、直ちに実現できない同一動労・同一賃金ではないということになる。

 安倍晋三の頭にある同一労働・同一賃金はどのくらいのコストが必要だと計算しているのだろうか。

 計算などせず、参院選だけのことしか頭に入っていないのかもしれない。非正規雇用に期待を抱かせさえすればいいと。

 個人的な考えだが、同一労働・同一賃金は同じ仕事なら、新入社員であろうと勤続年数の長いベテラン社員だろうと、兎にも角にも同一の基本給とする。但し能力の違いがあるなら、あるいは能力の違いが出てきたなら、能力給を、能力や経験の差が生み出す責任の違いが出てきたなら、責任給を加算していく賃金体系を取ったらどうだろうか。

 単に勤続年数、あるいは経験年数に応じて賃金を上げていく年功序列型賃金は廃止する。
 
 と言うことは、大学卒だろうと高卒だろうと、中卒だろうと、年齢や学歴に変わりはなく、同じ仕事に就いたなら、出発点は同一の賃金となる。最初の1カ月勤務で能力の差がでたら、次の月の給与にその能力差を反映させる。

 こういう方式なら、学歴格差はなくなる。学歴が無意味になって、人間単位で人間そのものの価値を見ることになり、日本人が囚われている権威主義の思考様式・行動様式から少しぐらいは抜け出ることができるかもしれない。

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