安倍政権で再び同じ事例が起きた。前後同じ事例であることを示すために、“前”の方は後まわしにして、“再び”の方から見てみる。
バングラデシュの首都ダッカでラマダン(イスラム教の断食月)最後の金曜日の現地時間7月1日午後9時30分(日本時間2日午前0時半)頃、7人の武装集団がレストランを襲撃。客を人質に建物内に立てこもった。
約10時間後の現地時間7月2日午前7時40分前後、治安部隊約100人が突入。銃撃戦は約1時間続き、突入作戦は現地時間7月2日午前8時半前後(日本時間午前11時半前後)に終了。
各マスコミ記事を纏めると、以上のようになる。
安倍晋三は7月2日は北海道での参院選遊説を予定していたが、急遽取りやめて、午前9時過ぎに官邸に入り、記者からの質問を受けてから、午前11時半から国家安全保障会議を開始している。
終了したのは午前11時44分。たった14分間の会議である。
安倍晋三が自然災害等を含めて国家安全保障会議を開く場合にいつも行うように情報の収集、事実関係の確認の指示、さらに関係省庁、あるいは出先機関と、今回の場合は関係各国と緊密に協力して人命第一・人命優先で対応すること等の指示を行った程度なのだろう。
ところが国家安全保障会議の関係閣僚の一人である内閣の要の官房長官である菅義偉が新潟県内2カ所で予定していた自民党候補応援の街頭演説のために午前10時前に新潟に向けて官邸を出発、午前11時半からの国家安全保障会議を欠席、午後6時過ぎまでの約8時間、官邸を空けたと「東京新聞」が伝えている。
午前10時前と言うと、治安部隊約100人が突入作戦を開始した日本時間午前11時半前後(現地時間7月2日午前8時半前後)の1時間か1時間半前ということになる。
勿論、菅義偉にしても安倍晋三にしても他のどの閣僚にしても、治安部隊が突入する時間を知る由もなかったろう。
だが、菅義偉は7月2日午前8時半の臨時記者会見で人質に日本人が含まれている可能性に言及している。午前8時半の段階で菅義偉はその情報を既に把握していた。
上記「東京新聞」は菅義偉のこの欠席に岡田民進党代表が「危機管理への正常な感覚が失われている。官房長官としてきちんと責任を取らないといけない」と問題にしたことを伝えている。
官房長官の午前と午後1回ずつの恒例となっている記者会見の7月2日午後の記者会見は官房副長官の萩生田光一が代理を務めていて、記者からこの危機管理の問題について質問を受けている。
記者「危機管理態勢で伺う。先ほどの記者会見でも危機管理態勢に全く問題なかったと説明していたが、官房長官自らも対応に当たるべきだという意見も出ている。官房長官は先ほど参院選のために新潟に行ったが、批判の声も出ているが」
萩生田光一「朝に事件の概要等々の第一報を受けてから、その対応を相談し、国内でできることの確認をした上で現地からの報告を待って、その後の対処をすることになっていたので、その時点ではその事態の中身についての詳細は分からなかった。その上で今朝も説明したが、内閣法で定める官房長官の出張時の手続きを踏んで私が官房長官の代行として官邸に残っているし、また、安倍首相自らも日程を変更して、官邸におり、外相もいるので、官房長官の出張は何の問題もないということ、お出かけいただいたところだ」――
後段の「内閣法で定める官房長官の出張時」云々は手続きの問題に過ぎない。手続きさえ規則通りを踏んでいれば何も問題はないとすることはできない。そのときに代理を置いて官邸を離れる・離れないの判断の適否の問題が残る。
その適否は前段の発言によって証明されることになる。
「朝に事件の概要等々の第一報を受けてから、その対応を相談し、国内でできることの確認をした上で現地からの報告を待って、その後の対処をすることになっていたので、その時点ではその事態の中身についての詳細は分からなかった」――
要するに日本政府は交渉当事国ではないから、現地では直接的には何もできないという非交渉当事国として担わされている制約を前提に、「国内でできること」は現地から送られてくる情報を追認して、そのことに応じて「国内でできること」を行うことのみで、その後のことにしても、その後の情報に応じて「国内でできること」をすることを確認していたが、菅義偉が新潟遊説に向けて官邸を離れる7月2日午前10時前の時点では、「その事態の中身についての詳細は分からなかった」のだから、「国内でできること」が限られている点も踏まえると、何ら問題はなかったとしている。
このことは木走正水(きばしり・まさみず)なる人物が、どんな人物か知らないが、岡田代表の危機管理上問題があるとする発言を批判して、「民進党」が抱える集団的”病理”を象徴する岡田代表の無理筋な政府批判」と題した8月3日付の「BLOGOS」でも同じことを言っている。
「まず今回のバングラディッシュで発生したテロ事件において、日本政府がこのタイミングで取れる対応は実に限られていたわけです、安倍首相がバングラデシュのハシナ首相と電話会談し「人命最優先で対応を」と要請いたしましたが、他に具体的なすべは何もなかったことでしょう。
これは別に日本政府だけではない、今回犠牲者を出した国ではイタリア人9人、米国人、インド人も犠牲になられたわけですが、このようなソフトターゲットを狙った海外で起こった突発的なテロ事件に対しては、情報収集以外はどの国も事実上打つ手はなかったわけです」――
要するに非交渉当事国の制約に言及して、菅義偉の官邸留守を擁護している。
但し萩生田光一と木走正水の菅義偉擁護論は実務上の妥当性からのみ見た偏った擁護論となっている。内閣法に則って副官房長官を代理として官邸に残した、国内でききることは限られている、官房長官が官邸を離れる「時点では事態の中身についての詳細は分からなかった」等々、実務面からのみ適否を判断している。
国民の生命財産を与る内閣の一員である以上、テロ集団に拘束され、人質とされてその生命の危険が差し迫った状況に置かれているであろう、それゆえに殺害される可能性も危機管理上想定しなければならない日本人の安否を伝えることになるあらゆる情報に全神経を集中させなければならないときに官邸を留守にした。
日本人の安否よりも選挙応援を優先させたのである。
このような危機管理が、あるいは政府要人としても、存在するだろうか。
最初に安倍政権で再び同じ事例が起きたと書いたが、ブログ題名が「安倍晋三のゴルフ優先の繰返し」となっているから、既にお分かりであろう。何度もブログに書いてきた。
2014年8月20日午前3時頃から40分にかけて広島市の安佐北区や安佐南区を襲った局地的な短時間豪雨は大規模な土砂災害を誘発、災害による死者は関連死3名を含む77名に上った。
8月20日午前3時20分頃には広島市安佐南区山本の住民から住宅の裏山が崩れて、2階建ての住宅の1階部分に土砂が流れ込み、5人家族のうち子ども2人の行方が分からなくなったと消防に通報が入ったという。
広島市消防局は子ども2人のうち1人が午前5時15分頃心肺停止の状態で発見されたと発表。
心肺停止後、4~5分程度で脳は回復不可能な障害を負うと言われているが、2時間近くも土砂に埋まっていていたのだから、既に死んでいたにも関わらず、医師に限ってできる死亡宣言を待つための便宜的な心肺停止だったはずだ。
その後8月20日8時47分発信の「NHK NEWS WEB」が、〈消防が捜索した結果、午前5時15分ごろ、このうち2歳の女の子が見つかり、心肺停止の状態になっていましたが死亡が確認されました。〉と伝えている。
8時47分発信だが、それ以前の死亡確認であるものの、死亡宣言を待つための便宜的な心肺停止だと考えると、心肺停止で発見された時点で最初の死亡者と想定しなければならない。
政府は8月20日4時0分に首相官邸の危機管理センターに情報連絡室を設置、情報収集に当たった。
当然、広島県を通して広島市消防局の最初の死亡者情報を把握していなければならない。
その後、各地で同時多発的に土砂災害が発生、土砂崩れが起きた、住宅が土砂に流されたといった、押しつぶされたといった通報が広島市消防局にもたらされた。
午前6時半、こういった災害発生の通報を受けてのことだろう、広島県は陸上自衛隊に災害派遣の要請を行った。
そのとき安倍晋三は夏休みで山梨県の別荘に滞在、8月20日午前7時26分に富士河口湖町のゴルフ場「富士桜カントリー倶楽部」に向かい、ゴルフを開始した。
勿論、官邸に設置した情報連絡室から安倍晋三に土砂災害の経過を知らせる情報を入れている。
ゴルフを中止したのは午前9時19分。
古屋防災担当相(当時)「最終的に死亡者が出た8時37分とか8分に総理にも連絡をして、その時点ではこちらに帰る支度をしてます」
情報連絡室は8月20日午前3時20分頃に子ども2人が土砂に飲み込まれて、そのうちの1人が約2時間後の午前5時15分頃心肺停止の状態で発見され、そのご死亡が確認された情報は把握していたはずであるし、それ以後も多くの住民が土砂災害に遭遇している情報も把握していなければならないはずで、広島県の午前6時半の自衛隊派遣要請からも、犠牲者が出る可能性を想定しなければならなかったはずである。
だが、古谷が「最終的に死亡者が出た8時37分とか8分に総理にも連絡をして」と、安倍晋三がゴルフを切り上げる時間を最初の死亡者が出る時間としていたかのように言っていることは安倍晋三自身が最初の死亡者が出る時間までゴルフのプレイを猶予させていたからであろう。
それとも、古屋の方から既に死者が出ていることを伝えて、官邸に戻るよう促していたが、安倍晋三の方で8時半までゴルフをさせてくれと要求、仕方なく古屋が最初に死亡者が出たとする時間を安倍晋三がゴルフ場を切り上げる「8時37分とか8分」に無理やり合わせたか、いずれかであろう。
安倍晋三は国民の生命財産を与る内閣のトップに位置している以上、広島市の住民の多くが土砂災害に現在進行形で遭遇し、その生命が危険に曝されているかもしれない刻々の瞬間に於けるそれぞれの安否に情報連絡室に構えて全神経を集中させなければならないときに富士河口湖町のゴルフ場でゴルフクラブを握っていた。
広島住民の安否よりも趣味のゴルフを優先させたのである。
この事例と同じことが今回のダッカ人質邦人等殺害テロ事件で菅義偉によって繰返された。
何と言う生命財産に関わる国民に対する立派な危機管理であることか。