安倍晋三:従軍慰安婦強制連行否定2007年3月16日閣議決定 「政府が発見した資料の中には、軍や官憲がいわゆる強制連行を 直接示すような記述も見当たらなかった」とする “政府発見資料”とは如何なる資料か、公表すべき |
安倍晋三が4月22日、拉致被害者家族らと約1時間程面会し、その後東京都内開催の北朝鮮による拉致被害者家族会や支援団体「救う会」などが主催する「国民大集会」に参加、スピーチした。
面会でのスピーチと「国民大集会」でのスピーチが共に2018年4月22日付で、「首相官邸」サイトで紹介している。拉致に関わる発言の要所要所を取り上げてみたいと思う。
先ず拉致被害者家族との懇談でのスピーチ。
安倍晋三「先般、(4月)17日から訪米し、そして2日間にわたってトランプ大統領とじっくりと膝を交えて首脳会談を行ったところでございます。その際、北朝鮮の問題について日本の主張、立場をしっかりとトランプ大統領にお伝えしました。
特に拉致問題について、是非この千載一遇の機会を捉えて、この拉致問題について議題に乗せ、解決を強く迫ってもらいたい。正に千載一遇のチャンスと捉え、この初めての米朝首脳会談において、この問題について金正恩(キム・ジョンウン)委員長に、日本が考えた解決に向けて伝えてもらいたい、ということをお話しさせていただいたところでございます」――
米朝首脳会談の際に「拉致問題について議題に乗せ、(その)解決を強く迫ってもらいたい」、金正恩に「日本が考えた解決に向けて伝えてもらいたい」とトランプにお願いしている。
トランプができることは安倍晋三のこのような要請に応えて、金正恩に解決を迫るところまでであろう。なぜなら北朝鮮の核政策はアメリカにとっては最大の当事国であるが、拉致問題は当事国ではないからだ。当事国ではない者同士が解決そのものを議論するということはあり得ない。
対して金正恩は「解決に向けて日本政府と交渉に入るつもりでいます」以外の反応を示すことはできないだろう。
拉致問題をどう解決するかは米朝間の問題ではなく、当事国同士の日朝間の問題なのは断るまでもない。いわばトランプが解決に向けた日程や議論を支配できるわけではない。
但し金正恩がトランプに解決を請け合ったからと言って、直ちに全面解決に至るわけではないだろう。金正恩は最終的には非核化に応じないものの(このことは別の機会にブログに書く)、非核化に向けた見せかけの政策を時間をかけて様々に演じることになり、非核化という着地点を延々と先延ばししていくだろうから、安倍晋三が拉致解決よりも非核化が先という態度を取ったら、その姿勢が障害となって、解決に至らない迷路に足を踏み込まない保証はない。
安倍晋三がなりふり構わずに非核化は後回しでもいい、拉致解決が先という態度を取ることができれば、金正恩は金正日と小泉純一郎との間で一度は交わされた日朝平壌宣言を持ち出して、拉致解決の見返りにその履行を迫るのは目に見えている。
小泉訪朝の2002年9月17日に平壌で締結された日朝平壌宣言は、〈双方は、国交正常化を実現するにあたっては、1945年8月15日以前に生じた事由に基づく両国及びその国民のすべての財産及び請求権を相互に放棄するとの基本原則に従い、国交正常化交渉においてこれを具体的に協議する〉として、戦争賠償は行なわないとする一方で、〈双方は、日本側が朝鮮民主主義人民共和国側に対して、国交正常化の後、双方が適切と考える期間にわたり、無償資金協力、低金利の長期借款供与及び国際機関を通じた人道主義的支援等の経済協力を実施し、また、民間経済活動を支援する見地から国際協力銀行等による融資、信用供与等が実施されることが、この宣言の精神に合致するとの基本認識の下、国交正常化交渉において、経済協力の具体的な規模と内容を誠実に協議することとした。〉として、〈無償資金協力、低金利の長期借款供与及び国際機関を通じた人道主義的支援等の経済協力〉、〈国際協力銀行等による融資、信用供与等〉を以ってして戦争賠償に代わる過去の清算を約束している。
当然、過去の清算は戦争賠償額に匹敵する規模になるだろう。拉致被害者解放の見返りとなっているこの日朝平壌宣言の履行は北朝鮮の核政策が唯一トゲとなっていた。トゲを抜くには非核化しかないのだが、独裁体制であることが理由となって、金正恩にとって国家安全保障上、非核化は譲ることのできない一線となっている。
また、トランプにしても、安倍晋三が拉致解決を優先させて、非核化を後回しにすることは許さないだろうし、安倍晋三自身、非核化を目的に圧力一辺倒の政策を取ってきた関係から、非核化優先の外交姿勢を見せざるを得ず、結果的に拉致解決を二の次へと迫られることになるだろう。
要するに拉致解決に向けた日程や議論の支配は、これまでもそうであったように安倍晋三は場外に置かれて、金正恩の一手に握られる可能性も生じかねない。
このような経緯を取る可能性を予想もせずに安倍晋三の外交能力の程度が言わせるのだろう、トランプが解決に向けた日程や議論を支配できて解決してくれるようなおんぶに抱っこの他力本願な発言を曝け出している。
安倍晋三「(トランプは首脳会談で)安倍さん、しっかりと皆様(拉致被害者家族)の気持ちを私は受け止めている、という話をしてくれました。そして、記者会見において、昨年皆さんとお目にかかった際、記憶を思い出しながら、できる限り早期に御家族の再会を望む、拉致被害者の帰国に向け、可能な限り全てのことをし、彼らを日本に帰国させる、あなたに約束する、こう記者会見において明言してくれたところでございます」
トランプが拉致被害者を日本に帰国させると安倍晋三に約束した、記者会見でそう明言してくれたと拉致被害者家族に伝えた。拉致解決が自分の手から離れて、トランプの手に委ねたような言葉となっている。
北朝鮮が相手だから、解決は簡単なことではないと断りながら、お定まりの能書きのご披露に及んでいる。
安倍晋三「全ての拉致被害者の即時帰国。正に皆様が皆様の手で御家族を抱き締める日がやってくるまで、私たちの使命は終わらないとの決意で、そして安倍内閣においてこの問題を解決するという強い決意を持って、臨んでまいりたい」
解決をトランプの手に委ねながら、拉致解決に向けた安倍内閣の責任を堂々と言う。この矛盾に本人は気づいていない。要するにトランプがさも解決してくれるかのように見せかけたことで拉致被害者家族の期待を繋いでいるだけなのだろう。
次に「国民大集会」でのスピーチ。
安倍晋三「(拉致被害者)御家族の皆様の切なる思いを胸に、17日から20日にかけまして米国を訪問し、トランプ大統領と会談を行ってまいりました。初日の最初の2人だけの会談、そして少人数の会談においては、そのほとんどを北朝鮮の問題について費やしました。
特に2人だけの会談においては、この拉致問題について、この重要性について、トランプ大統領にお話をさせていただきました。トランプ大統領も昨年来日した際、御家族の皆様の声を聞き、皆様の気持ちをよく理解しておられました。
この問題を解決するために、是非とも協力してもらいたい、いかに御家族が苦しい思いをしているか、ということを申し上げました。トランプ大統領も、身を乗り出して私の目を見ながら、真剣に聞いてくれました。
そして、米朝首脳会談で拉致問題を提起する、そしてベストを尽くす、と力強く約束してくれました。そして記者会見においても、昨年来日した際に、皆さんと対面されたことを思い浮かべながら、できる限り早期に御家族の再会を望む、拉致被害者の帰国に向け可能な限り全てのことをし、彼らを日本に帰国させる、あなたに約束する、こうテレビカメラの前で表明をしてくれました」
拉致被害者家族との懇談でのスピーチとほぼ同じ趣旨となっている。トランプは「米朝首脳会談で拉致問題を提起する」ことはできるだろう。金正恩に拉致解決を約束させることもできるだろう。但し拉致解決に向けて日本政府と話し合いましょう程度の範囲の約束から出ないことは目に見えている。
安倍晋三がどこでどうスピーチしようとも、拉致解決は日本政府と北朝鮮政府の話し合いで決めていかなければならないし、決まっていくにも関わらず、トランプが米国政府と北朝鮮政府の話し合いで決めることができるかのように発言したことになっている。
事実そのように発言し、そのように約束したとしても、北朝鮮の核問題と違って、当事国ではないトランプに委ねていいわけではないし、その約束を保証付きで喋ってもいい事柄でもないはずだ。
安倍晋三「この日米首脳会談の共同記者会見においては、米国でもCNN等で全国にライブで放映されるわけであります。そしてそれは北朝鮮の人々も見ている。正に世界に向かって米国の大統領がこの問題を解決する、被害者を家族のもとに返す、ということを約束してくれたと、こう思います」
何という楽天主義なのだろう。トランプが世界に向かって約束しようが、全宇宙に向かって約束しようが、拉致はアメリカの国益に絡んでいないのに対して絡んでいるのは日本と北朝鮮であって、しかも北朝鮮にとっては最重要な国益として位置づけている核保有程ではないにしても、多分、経済的には死活的な国益として絡んでいる関係から日朝の今後の重要課題と位置づけて、トランプの約束には距離を置かなければならないはずだが、逆に安倍晋三自身と拉致解決の間に距離を置いた情けない愚かしいばかりの発言となっている。
安倍晋三「しかし、問題は首脳会談が行われ、そこで米国から提起されても、北朝鮮がどのように受け止め、実際に行動していくかであります。そしてこの拉致問題は正に日本の問題であり、日本が主体的に行動を取っていかなければならない問題であろうと、こう思うわけであります。今後一層、日米で緊密に連携しながら、全ての拉致被害者の即時帰国に向け、北朝鮮への働きかけを一層強化していく考えであります」――
「問題は首脳会談が行われ、そこで米国から提起されても、北朝鮮がどのように受け止め、実際に行動していくかであります」
この発言は「できる限り早期に御家族の再会を望む、拉致被害者の帰国に向け可能な限り全てのことをし、彼らを日本に帰国させる、あなたに約束する、こうテレビカメラの前で表明をしてくれました」と発言したことと矛盾する。
矛盾するだけではない。拉致の解決は北朝鮮の行動にかかっていることの極々当たり前の常識に初めて立ち返ることができた鈍感さを曝け出している。
勿論、北朝鮮が簡単に非核化に応じれば、連動して拉致は解決に向かうだろうし、応じなければ、日本政府は拉致の解決を先にするか、非核化を先にするか、優先順位を問われることになり、優先順位を後者とした場合は拉致解決は遠のくことになる日本側の態度にもかかってくることになる先の展開を読むべきなのに、読むだけの認識能力は持ち合わせていないようだ。
安倍晋三「この拉致問題は正に日本の問題であり、日本が主体的に行動を取っていかなければならない問題であろうと、こう思うわけであります」
トランプが金正恩との首脳会談で可能とする拉致問題での限界を弁えずにトランプが解決を約束してくれたとおんぶに抱っこの他力本願状態であったにもに関わらず、最後になって「拉致問題は正に日本の問題」だ、「日本が主体的に行動を取っていかなければならない問題」だと突然目覚めたかのようなことを言う。
安倍晋三が真に「拉致問題は正に日本の問題であり、日本が主体的に行動を取っていかなければならない問題」だという認識を徹頭徹尾常に保持していたなら、トランプができる限界を弁えた発言をすることができたろうし、できたなら、トランプの「彼らを日本に帰国させる」との約束の言葉に対しても一歩も二歩も距離を置いた紹介の仕方をしただろうし、記者会見の様子が全国にテレビ放映されたことや、例え北朝鮮国民がそれを観ていたとしても、それらに期待をかけることは拉致解決が非核化をも含めた金正恩の態度一つにかかっていることの自覚から離れずにさして意味のないこととして扱うことができたずだ。
だが、終始真逆の態度、真逆の発言となっている。
安倍晋三「まずは南北(首脳会談)、そして米朝首脳会談の際に拉致問題が前進するよう、私が司令塔となって、全力で取り組んでまいります」
「南北(首脳会談)、そして米朝首脳会談の際に」安倍晋三が「拉致問題前進」の「司令塔」にどうなれるというのだろうか。これまでも何ら司令塔の役目を果たしていないし、司令塔の役目に就くこともできなかった。言葉だけが勇ましく踊っていて、言っていることは支離滅裂、所詮は拉致被害者家族に期待を抱かせることを狙った発言の羅列だから、拉致解決の鍵を握っているのはトランプだとばかりにおんぶに抱っこの他力本願なトランプに対する万能視、ヨイショとなったのだろう。
この責任放棄のような態度からは自尊心も何も窺うことができない。いや、責任放棄と自尊心欠如は相互に照射し合う。