ケイの読書日記

個人が書く書評

アルベール・カミュ  宮崎嶺雄訳 「ペスト」 新潮文庫

2021-01-15 10:29:18 | 翻訳もの
 この世界的名作を読み終えて、もっと哲学的な感想を持つのかと思いきや、自分の受けた印象がすごく現実的だったので、自分でも驚いた。

 194*年、アルジェリアのオラン市でペストが発生した…という設定。私、この本を読むまで、ペストってペスト菌保菌ネズミが人間に噛みついたり引っかいたりして人間にペストをうつすと思ってたんだけど、そうじゃなくてネズミに寄生しているノミがペスト菌を保菌していて、まず最初の犠牲者はネズミなんだ。
 大量のネズミが、ノミからペスト菌をうつされ、血を吐きながら、ぴくぴく痙攣しながら、断末魔のキイキイ鳴き声を喚きながら、死んでいく。道路でも、公共の建物でも、家の中でも、ネズミの死骸がゴロゴロ転がっていて、元気なネズミの姿が見えなくなってから、ノミにかまれた人間が原因不明の熱病にかかり死んでいく。
 医者たちは、ひょっとしたら…と疑いを持ちながらも、「いや、そんなはずはない。ペストは数十年前から気候の温暖な地域では姿を消しているはずだ。ペストのはずはない」となかなか認めようとしない。
 そうだよね。ペストだったら大パニックになるし、町を封鎖しなくてはならない。

 どんな病気で死ぬのも嫌だが、ペストって本当に苦しそう。高熱にうなされ、リンパ腺がはれ、そこが裂けて膿が流れ出し、悪臭の中で患者は死ぬ。身体全体に黒い斑点が現れ、全身黒ずんで。ああ、恐ろしい。

 オラン市は封鎖された。中の人たちは様々な行動をとる。医者たちは闘うし、その医者を助けようとボランティアに志願する人、淡々と嵐が過ぎ去るのを待つ人、封鎖を機に密輸めいた事をやって儲ける人、なんとか外に出ようと門の守衛たちにお金を渡す人。もちろんペストで相当数の死者が出る。

 私は、画期的なワクチンができて、人間がペストに勝利するというストーリーだろうと思っていた。だが違った。ペストは突然、その力を弱め消滅したんである。4月半ばごろから流行し、猛威をふるいピークに達し、1月になると減退し消滅したように見え、2月に封鎖は解除された。こんなことってある?

 でも考えてみるに、医学的な治療が無かった昔、ペストや天然痘は、その猛威が治まって通り過ぎていくのを待つしかなかった。台風みたいに。これって一種の集団免疫ができたって事かなあ。

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