北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

浮流機雷という危険性 台湾有事と在沖米軍海兵隊抑止力

2011-02-15 23:45:51 | 防衛・安全保障

◆台湾海峡有事の機雷、日本列島到達の可能性

 先日、鳩山前総理が普天間問題に関する抑止力という発言は方便だった、という発言をされまして、いろいろと論議を呼んでいるのですが、少し気付いた事があるので今回は南方の問題について。

Img_6006  在沖米軍海兵隊は台湾海峡有事の際に即応して台北に展開し、自国民救出に当たる事が出来る、これが中国に対して台湾海峡有事に際しての米軍介入の強力な根拠となり、言い換えれば巨大な通常戦力と核戦力を持つ米軍の介入という可能性を抑止力として台湾海峡有事を抑止している、と過去に書いているのですけれども、台湾海峡有事となれば、日本に対して今まであまり書かれていない事で非常に大きなリスクがある一点に気付きました。台湾海峡有事が日本にどう波及するか、と言えば中国軍が台湾海峡を潜水艦や機雷で封鎖するため日本のシーレーンが脅かされる、台湾が中国に占領されれば台湾を根拠地として中国軍が南西諸島への圧力を強めてくる等などの可能性があり、また、日本国内の米軍基地が攻撃目標となり得る旨過去に記載しているのですが、機雷、台湾の中華民国軍が台湾海峡を通行する中国軍上陸部隊を阻止するために敷設するという一点の評価、この波及を忘れていました。この一部が流失した場合潮流に乗って南西諸島や日本列島近海に到達する可能性があるのです。

Img_7642  台湾は1972年頃までアメリカより台湾本土上陸を阻止するために機雷を積極的に輸入していました。係維機雷や沈底機雷等種類は多種多様ですが、中華民国軍が旧式機雷を大量に廃棄しているという話には接しませんので、今でも多数を保有しているのだと推測することが出来ます。相当数この中で沿岸部に敷設するのが、係維機雷でこれは海底にアンカー部分を装着して浮力を持たせた機雷本体を鎖で係留する方式の機雷です。これが鎖の部分が掃海作業や腐食、破損により切り離されると浮流機雷となって漂う危険性があるのですね。浮遊機雷という敷設時から漂流して海域を封鎖する等の用途に用いられる機雷があるのですが、これは国際法上公海を危険にさらすことから一定時間での不活性化自壊装置の装備が義務付けられているのですが、浮流機雷になりますと、そもそも本来用途以外の不具合により漂流するのですから爆発する性能を持ったまま潮流に乗り日本列島に到達する危険性があるという訳で、これはどうしたものでしょうか。

Img_7808  一応海上自衛隊には少なくない掃海艇があり、数の上では世界有数の対機雷戦能力を有していまして、ヘリコプターによる航空掃海能力も有しているのですが、台湾海峡有事の際に数千やそれ以上の単位で機雷が敷設され、中国軍の掃海活動により係留鎖が切断された後で潮流に乗って流れ始めた、というようになればどうなるでしょうか。大型タンカーを始め日本近海は多くの船舶が行き交い、その海運により日本経済や社会生活が維持されているのですから、一隻でも被害に遭えば、またはその可能性が指摘されただけでどうなることか。機雷敷設は自衛権の行使ですから、日本から何とかしてくれ、というのは内政干渉です。中国軍も機雷を台湾の軍港封鎖などに用いれば、どちらの機雷が流出したのか、証拠をつかまなければ何とも言えないのですが、何よりもどれだけの数の機雷が流失したのか、どの海域が危険度が高いのか、これが分からなくなるという点が何よりも脅威になってしまうでしょう。こればかりは、在日米軍の抑止力に代わるものはありません。まあ、自衛隊を抜本的に強化してそれこそ台湾有事の際に瞬時に中国軍の行動を阻止可能であり、中国本土からの核攻撃に耐え得るだけの防衛能力を持つくらいしかないのですが、ちょっとそれは、某元航空幕僚長氏が構想する必要な自衛力×2くらいの能力が無ければ難しいのではないかな、と。

Img_8777  上記末尾は冗談ですが、台湾海峡有事の際の日本への機雷の脅威は現実です。海上自衛隊の掃海能力は非常に高いものである、と信じているのですが今回は機雷の数が多すぎます、そして同時に来ます、イギリス海軍はフォークランド紛争の際に航洋型掃海艦の不足を大型タグボートやトロール漁船への掃海機具装備による応急掃海艇で凌ぎましたが、なにしろ今回は比では無い数の機雷に向かうのですから、どれだけ必要になるかわかりません。また、太平洋戦争における日本へのシーレーン攻撃は当初は潜水艦によるものでしたけれども最後にとどめを刺したのは航空機や潜水艦から敷設された機雷であり、戦後には日本側が本土決戦に備えて敷設した機雷が長くシーレーンや漁業の障害となりました事を思い出さずにはいられないのです。もちろん、全く船舶が航行できないほどの浮流機雷により日本列島が封鎖される、という可能性は無いのでしょうけれども、例えば“沖縄近海に台湾海峡からの浮流機雷が10~100個程度到達した可能性がある”、という情報が流れた場合、日本国内の船舶交通はどのような打撃を受けるでしょうか、“一ヶ月程度で数不明の機雷が京浜沖に到達する可能性がある”となったらどうでしょうか。なにやら昨年の“探偵ナイトスクープ”で『石垣島の海中でダイビング中に落とした防水デジカメが四国沿岸に漂着したので持ち主を探して返してあげたい』、という企画があり大団円を迎えていましたが、そう、海はつながっているのですね、風評被害だけで済めばよいのですが、大きな問題となるでしょう。注意が必要なのは台湾有事の可能性がある時点で防御機雷原の敷設が行われた時点で日本近海に多数の機雷が投じられた事になり、これだけでシーレーンに対して非常なマイナス要素となってしまうという事。そして、有事や危機が沈静化した後でも全ての機雷を回収するか処分しない限り、危険性は数年単位で日本周辺を遊弋することになってしまいますので、これは避けなければならないでしょう。

Img_9812  これらを防ぐためには、抑止力で機雷が使われない、戦闘がおこらないようにする方策の模索しかありません。つまり、中国の台湾統一は民主的なもの、台湾からの主体的で民主的な同意のもとで行われるものを除き拒否する姿勢を日本はとらなければならず、台湾海峡の平和と安定というものを維持する死活的重要性を認識することが必要でしょう。アメリカ海兵隊を含め緊急展開部隊が沖縄に展開している事が、中国の軍事的冒険を抑止するということですけれども、台湾という地政学上の要件や、戦闘に伴うシーレーンへの影響だけではなく、浮流機雷の発生という危険が台湾海峡有事には含まれている、ということです。台湾による台湾海峡機雷封鎖、これも大きな日本への影響を及ぼすことになるのだなあ、と気付きました次第。この点からも抑止力は方便、といっている方が首相だったということは、なにか腑に落ちないものを感じます。機雷は静かな脅威、突如船舶が水柱に包まれて初めて分かる危険性です。

HARUNA

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