◆行進間射撃が可能、車幅は2.98m
報道によれば本日、相模原において機動戦闘車の試作車が公開されました。
正直なところ、当方の予想は完敗でした。報道と同時に陸上自衛隊は動画を公表、10式戦車遺体の衝撃で、陸上自衛隊は平時運用の車幅という法律の壁よりも実用性を重視した装備を完成させています。八輪式の車体は車体前部に発動機区画を配置し、車体中央後部寄りに105mm砲塔を搭載、車幅は大きいのですが行進間射撃が可能、として完成していました。
機動戦闘車は全長8.45m、全幅2.98mで105mm砲を搭載、100km/hでの機動が可能です。これは87式偵察警戒車の車幅2.48mよりも大きく、道路運送車両法に基づく車両制限令に明示された一般車両の車両限界寸法を50cm近くも越えていますが、行進間射撃が可能で、これが全ての運用制限を打ち消したといえるやもしれません。
陸上自衛隊が公表した動画では、旋回しつつ側面方向に射撃を行う動作がありました。走行しつつ射撃を行う車両は、例えば米軍のストライカー装甲機動砲もイタリアのチェンタウロ戦車駆逐車も前進しつつの行進間射撃が可能ですが、旋回しつつの射撃や側面への行進間射撃はなかなか聞かず、同軸の連装銃を使用するくらいです。
性能か車幅か、実は陸上自衛隊が第二次大戦中の師団特科火砲を置き換える次期火砲選定を行った際、FH-70榴弾砲とともにスウェーデン製FH-77榴弾砲、アメリカ製M-198榴弾砲が候補とされました。特に重視されたのは短時間での効力射能力とされ、この中でFH-77が最も高い評価を受けたのですが、牽引時の全長が大きすぎ、結果FH-70が採用されています。
この点、当方の最大の関心事は、機動戦闘車が車幅2.5m以内に収められるのか、それとも大型化とともに行進間射撃能力を付与するのか、というところで、逆に言えば、元々軽量な装輪装甲車を用いて大口径火砲の行進間射撃を行うことの難しさを正攻法で克服するのか、断念するのか、という一点に帰結されたのかもしれません。
実のところ、2.5mの車幅以下で大口径火砲を搭載している装甲車はフランスのパナールERC-90空挺突撃砲くらいで、逆に言えばフランス軍が大量に装備した105mm砲搭載のAMX-10RC装甲偵察車でも車幅は2.95mあるものの、停止射撃が基本となっています。ただ、74式戦車のように砲安定装置を搭載しつつも停止射撃を行う車両も多いのですが。
こうした半面、行進間射撃能力があれば、戦闘時の被弾確率が格段に低下しますので、重量と共に制限される防御力の補完に機動力を必要とするこの種の装輪装甲車には望ましいものでした。この打開策として、フランスのスフィンクス装甲偵察車のように大口径機関砲を搭載し、命中精度を補う、という構想もありますが、射程ではどうしても限界がある。
こうして一つの論点ともなっていた車幅か戦闘力かですが陸上自衛隊の要求にC-130輸送機での輸送が盛り込まれていませんでしたので、19tの搭載が可能なC-130での輸送を想定しない程度に重量は大型化することがある程度は見込まれていたといえるでしょう。
特に、諸外国の装備で空輸を想定する装備は全て世界の標準輸送機と言えるC-130輸送機への搭載能力を念頭に開発されますので、より大型のC-2輸送機を開発した我が国としては、諸外国よりも高性能なものを開発し、世界標準よりも優れてしまう、所謂ガラパゴス化で防衛力を構築できる強みがあります。
そして結果、行進間射撃能力を以て開発されたわけで、正直なところ、無理に2.5m以下という車両制限令車両限界という難題を、敢えて国内での平時の長距離機動能力を犠牲として制式化した、という点は、言い換えれば制限があっても有事を重視しよう、という現れといえるかもしれません。
実際問題として車幅の大きさは余り馬鹿にできません。片側一車線道路では僅かな車幅の超過でも対向車と衝突する可能性があるためです。運転技量が如何に高くとも、センターラインを乗り越えて走行する車両はこちらが歩道に乗り上げでもしない限り回避が難しく、これは言い過ぎとしても道路を所管する警察や国土交通省としては励行はできない。
平時の移動ですが、機甲部隊駐屯地であれば演習場と隣接しているので平時の訓練へはそのまま演習場へ展開すれば問題ありません。しかし、演習場に隣接している駐屯地は意外と少なく、重機関銃など屋内射撃場以外で実弾射撃する際には遠距離を展開しなければならないという部隊が実質、殆どです。
夜間に所轄警察署から許可を受けて駐屯地から演習場へ移動する必要があります。千歳市内などは戦車が日常的に移動していますが、千歳市HPにその移動予定などが出されており、いつも気ままに展開できる、というわけではありません。
車幅については、機動戦闘車が非常に多きことだけは確かです。74式戦車の3.18mよりは小さいですが、路上走行状態の94式水際地雷敷設車でも2.48mで、機動戦闘車はこれよりも0.5mも大きい訳で、路上で走行している状態での圧迫感は凄いという事は分かるでしょう。
また、03式中距離地対空誘導弾は車幅が2.5mで、ぎりぎり適合のように見えますが、結局は制限を受けるため、その運用には制限が付きます。FH-70等であれば、昼間でも走行でき、96式装輪装甲車や82式指揮通信車もこれに当たるのですが、機動戦闘車は03式中距離地対空誘導弾や戦車と同じく、これはできません。
一方で公的に評価したいのは、車両制限令よりも戦闘能力を重視するという前例が生まれたことに他なりません。例えば、開発が開始された火力戦闘車などは車幅の制限の有無により性能が大きく左右されてしまうのですが、機動戦闘車ほどの車幅が認められたならば、柔軟性は大きう広がります。
火力戦闘車は、自動装填装置を搭載するのか、それとも野砲を重装輪回収車にそのまま搭載し射撃時はジャッキアップする必要があるのか、これも興味深いところなのですが、車幅の制限を乗り越える覚悟という点が今回示されたところは非常に勇気づけられるところ。
この趨勢がこのほかの例えば装輪装甲車に対しても適用されるのか、という興味もあるのですが、そろそろ本腰を入れて幹線国道の拡幅を期待したいところです。もっとも、これは長物船便コンテナなどの横転事故事案を受け、検討されていることではあるようですが、2%の幹線国道の拡幅に5兆円がかかったという事ですので、その50倍、これは厳しいかもしれません。
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