◆敢えて陸上装備を単純計算で比較する
装備品の価格は単純計算では比較できません、性能、運用基盤の有無、予備部品の費用、持続運用性と将来発展性、整備難易度と稼働率、生産期間と継続調達性、これらは一概に比較することはできないのです。
こうした事情はありますが、国産装備よりも海外製の方が安い、という通説は、昨今の航空自衛隊次期戦闘機F-35の選定により吹き飛ばされたのではないでしょうか。もちろん、F-35は第五世代戦闘機として国際共同開発が行われたものですが、機体価格は別として、総取得費用を取得機数で単純に割ると、400億円に迫る航空機となり、F-2支援戦闘機の費用と比べると、あくまで一世代前の機体との比較ですが、安いというものは幻想にすぎませんでした。
そして日本だけ高い機体を導入しているのではありません。F-35については、開発参加国は完成機を日本よりも確かに安価に導入しています。しかし、開発国は別途で開発費を分担しており、日本が導入する際の費用は既に開発国が負担している費用を後払いしているわけなのですから、安くはありません。このように単純計算や単純な理解では区分することが出来ないものが防衛装備品の価格です。
しかし、防衛装備品の比較は、一般の論調や一部識者の間で、単純計算で行われてきました。例えば89式小銃は年度ごとに費用が異なりますが、27万円程度です。89式は非常に高いのでカラシニコフならば30ドルで買える、とは門外漢の東大教授が民主党時代の事業仕訳で仰った迷言ですが、余りに適当すぎました。門外漢だから仕方ないのかもしれませんが、“政治が適当な判断をする”と“政治がテキトーな判断をする”の違いを民主党政権が見せつけた好例、といえたのではないでしょうか。
89式小銃よりもはるかに安い30ドルでカラシニコフが購入できる、しかしこれは30ドルで買えた時代まで遡ると1950年代のAK-47の費用です、日本の大卒月収と同程度の時代ですので、今の費用に換算すれば20万円程度でしょうか。これではあまりに意味が無いのではないでしょうか。そこで、具体的に海外製小銃の費用を見てみますと、ドイツ製M-4A1として知られるHK-416小銃が2005年の単価で3200ドル、米軍のM-4A1カービンは米軍納入価格が1500ドル程度ですが、不具合を改善したところこうした価格に。いきなりですが89式が安く見えるのは気のせいではありません。
小銃の比較を続けましょう。スイス製SG-550小銃は米国民間市場で9000ドル以上の費用がついていますが、1999年のSG-550狙撃仕様が法執行機関向けの費用として単価で4200ドルとして提示されています。ドイツ製G-36小銃は米国法執行機関向け費用で1200ドル、標準装備の光学照準器が400ドルで全体では1600ドルとなります。フランス製FA-MAS-F2小銃は3000ユーロ、FN-FNCは生産が終了していますが維新型のFN-SCARで費用は2500ドルというところ。もちろん安い小銃もありますが、長期間継続して調達する観点から、欧州のH&KやFN,それにSIGというメーカーを選べばこの通りになりました。
90式戦車や10式戦車、次は戦車の費用を国際価格と比較してみましょう。90式戦車は当初生産費用でこそ12億円といわれましたが、量産期間が長くなり、製造基盤が軌道に乗ると最終的に7億円台まで安くなりました。そしてその後継戦車である10式戦車は当初、年間51両を一括取得するならば7億円で生産できるとされています。ただ、自民党から民主党に政権交代し、防衛費の縮小を掲げた民主党はそれでは不透明、と少数長期間調達の維持へ転換し、取得費用は11億円で推移することとなたのは御承知の通り。
戦車で世界最高性能と呼ばれるのは年々進化を続けるドイツ製レオパルド2、戦車の調達費用、国産装備が高いのかは、まずこの有名どころを比較してみましょう。今年2013年にその最新型であるレオパルド2A7がカタールにより62両が採用された際、契約総額は23億4800万ドルと発表され、単価で割ってゆくと3787万ドル、何かの間違いではないかという金額が発表されています。ドイツ連邦軍が戦車勢力を350両まで縮小する方針を定めて以降、千両以上が余剰となりレオパルド2の中古車両は輸出市場の値段を大きく下げていますが、中古車両と新型車両は経年劣化と予備部品確保で同列には扱えません。
新車は高くレオパルド2A5をスペイン軍が2003年に219両を導入する際、ライセンス生産を行ったため219両に22億ドルが必要となり、単価は1005万ドルとなってしまいました。スウェーデン軍が120両をStrv.122として1996年に導入した際にも6億ドルを要し、これは単価換算で500万ドル、約10年前の取得費用でこの状態です。イギリス製チャレンジャー2主力戦車は海外輸出実績で1997年に20両がオマーンへ売れましたが、契約金額は1億7200万ドルで単価は860万ドル、このほか、フランス製ルクレルク主力戦車、自動装填装置を採用し第三世代戦車では後発であった点など90式戦車と共通点が多いのですが、こちらのフランス国内向け調達費用が740万ユーロ、とのこと。
実戦性能で世界最強となったアメリカ製M-1A2戦車は2006年にサウジアラビアが導入した際に58両が10億ドルで契約され、単価は1724万ドル、前期仕様のM-1A1もサウジアラビアが同じく2006年に315両を導入した際の費用は19億ドルであり単価では603万ドルです。また、2004年にオーストラリアがM-1A1を導入した際には51両が4億100ドルで契約され、こちらは単価で786万ドル、邦貨換算では8億5400万円、やはり取得費用では全く安くは無いことが分かるでしょう。
装甲戦闘車の取得費用を比較しますと、89式装甲戦闘車、35mm機関砲と熱線暗視装置に79式対舟艇対戦車誘導弾を搭載し、普通科部隊の火力支援と機動打撃への随伴を担った装甲車で、既に2004年に生産が修了し最終期は最後の四年間の生産が年1両と極少数を生産していたものが生産費用で6億円程度、7億円以下でした。さて、比較対象ですが、スウェーデン製CV-90装甲戦闘車はフィンランドが2008年に57両を導入した際の契約が2億5000万ユーロ、一両あたりは442万ユーロ、同年の円ユーロ為替は概ね130円なので邦貨換算で5億7500万程度です。
89式装甲戦闘車の費用は、他の車両と比較した場合でもドイツ製プーマ重装甲戦闘車が開発国であるドイツ国内向けの調達で2006年に405両が30億ユーロで調達されることが決定しました、これは一両当たり740万ユーロで邦貨換算では1両8億円となります。これで国内向けということですので輸出市場ではさらに高く、しかし防御力が大きいとはいえ、当初興味を示していたオランダも辞退、装甲戦闘車にそこまでの予算をつぎ込み調達しようという国は現れていません。
装甲戦闘車について、イギリスは戦車と既存装甲車に工兵車両等を一挙に置き換える将来装甲車としてアスコッドSVを選定しました。アスコッドはスペインとオーストリアが共同開発した第三背愛戦車への随伴が可能な機動力と防御力を有し30mm機関砲を搭載する装軌式装甲戦闘車ですが、この装甲と武装の強化型を導入することとなりました。費用は当初20億ポンドで580両を調達する計画でしたが、この場合単価は4億8000万円程度になるものの開発費の高騰と欧州通貨危機の影響を受け、40億ポンド相当まで費用は高騰、結果、邦貨換算で9億6000万円の装甲車を導入することとなっています
装輪装甲車ですと、陸上自衛隊の96式装輪装甲車が量産と共に1億1000万円から9000万円台へ下がっています。これを比較してみますと、アメリカ製ストライカーICV装輪装甲車はストライカー旅団構想が出された際の生産費用が130万ドル程度、原型のピラーニャⅢは機銃搭載型では2003年のデンマークの調達時が91両を1億500万ドルで調達しており、こちらの単価は115万ドル程度、逆に機関砲塔を搭載する最新型のピラーニャⅤの場合、ベルギーの2006年契約時の費用で242両が6億400万ドルで契約されており、単かは244万ドルとなります。
装輪装甲車、他にはフィンランドのパトリアAMVの場合、自国向けの2004年発注が62両を1億2600万ドルで契約しており単価は203万ドル、スウェーデンが2010年に113両を契約した際には3億2000万ドルで調達したため、単価では283万ドルとなっています。上記は機関砲搭載型を含んでいますが、ポーランドが機関銃搭載型を2004年に658両調達した際には10億ドルで契約しているため単価が151万ドルまで下がりました、もっとも2012年に機関砲塔搭載型をポーランドが200両調達した際には契約は6億3000万ドル、単価は315万ドルまで高くなっていますが。
重装輪装甲車として知られるドイツオランダ共同開発のボクサー装甲車の費用は特筆すべき高さで、ドイツ軍が自国向けに調達した272両は2006年の契約で9億1000万ドル相当の契約、戦闘重量は33tと防御力を重視しているものの、機関砲塔を搭載しない、装甲人員輸送車、つまりAPCに区分される車両が単価で334万ドルというのは驚きです。機関砲を搭載する装輪装甲車ですと、89式装甲戦闘車と比較できるほどに高く、例えばフランスがAMX-10Pの後継として導入したVBCI装輪装甲戦闘車は2008年に三次計550両の調達が決定し、31億8000万ユーロが計上されました、車両単価で450万ユーロ、邦貨換算では5億5000万円というものです。
軽装甲機動車をほかの小型装甲車と比較してみましょう。軽装甲機動車は量産により当初調達価格は3500万円程度でしたが、2700万円程度に下がっています。これに対して、米軍の小型装甲車M-ATVを見てみますと、2009年の契約分でM-ATVは2244両が10億ドルで発注されており単価は44万5000ドルです。2011年の最終契約分は400両が2億1868万ドルで調達されていますので単価は量産効果が若干下がり54万6700ドル、どちらにしても軽装甲機動車よりは高い。
続いて軽装甲車の代表格といえるフランスのVBL小型装甲車は、2011年の段階でVBL-Mk-2を生産した場合、500両で2億6000万ドルとされており、単価は52万ドル、量産最盛期は単価4000万円と日本で紹介されていましたが、安くはならなかった模様です。イタリア製小型装甲車イヴェコLMVをもう一つ見てみると、2005年にベルギーが導入した際には440両を880万ドルで契約でき、単価は20万ドルと非常に安かったのですが、その後順調にあがり2007年の140両をスペインが導入した際には5000万ドルと単価で35万7000ドルへ跳ね上がり、2009年にオーストリアが150両を導入した際には1億3800万ドル、つまり単価で92万ドルになっています。
自走榴弾砲を比較します。ドイツ製PzH-2000自走榴弾砲は、今年2013年のカタールへの輸出契約が24両で1億6500万ドルで、これは車両単価が687万5000ドル、イギリス製AS-90自走榴弾砲の英軍向け費用が300万ポンド、陸上自衛隊の99式自走榴弾砲が9億4000万円程度で前後している状況を見ますと、この点では諸外国の装備でも安価なものがある、と言えるかもしれません。
ただ、155mm自走榴弾砲は2002年に米軍がXM-2001クルセイダー自走榴弾砲を高コスト過ぎる、として中止しています。結果、旧式のM-109A6自走榴弾砲が近代化され、M-109をM-109で置き換えるという大阪環状線の103系電車のようになっています。
装備品の価格は単純計算では比較できません、性能、運用基盤の有無、予備部品の費用、持続運用性と将来発展性、整備難易度と稼働率、生産期間と継続調達性、これらは一概に比較することはできないのです。


























北大路機関:はるな
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)