◆単純比較は一種の極論であるという前提で
前回記事ですが、ご指摘の通り小銃の比較については無理がありました。ただ、本稿は現在の話をしていまして、この点を御理解いただければ、と。それでは続き。
南西諸島の防衛に関する特集記事の作成中、艦艇の値段を調べ驚いたことがあります。むらさめ型や、たなかみ型護衛艦のような大型護衛艦よりは、少し小型でも安価な艦艇を揃えたほうが、という事で少し小型すぎる気がしましたが、掲載当時最新型のシグマ級コルベットを比較対象と考え、費用を見てみますと3隻の契約で8億1600万ドルという数字が出ていました、2008年2月の契約ですが、邦貨換算で一隻当たり291億円、たかなみ型護衛艦は満載排水量6300tの建造費は650億円、対して2075tのシグマ級は291億円だったわけです。
そんな、いしかり型護衛艦は100億円しなかったぞ、と30年以上大昔の数字を一瞬思い浮かべましたが、まあ、これはさておき、建造時期が20年違うので比較数値にはなりませんが、満載排水量4800tの護衛艦うみぎり、あさぎり型護衛艦の最終艦で建造費が432億円、90年代に同艦との比較が行われた際にドイツ製輸出用MEKOフリゲイトならば200億円で買える、と提示されていただけに隣国オランダの輸出用であるシグマ級は排水量で半分、100億円とまではいかずとも150億円程度の費用ではないかと期待し、たかなみ型の四分の一程度だろうと考えながら調べると、建造費は半分弱程度、高さに驚きました。
外洋哨戒艦を、次いで調べてみますと、オランダ海軍のホランド級外洋哨戒艦が4隻を2005年に5億2960万ユーロで建造を決定しており、邦貨換算で181億円です。満載排水量は3780tで、はつゆき型護衛艦よりも小型、76mm砲と30mm機関砲を搭載し、ミサイルも魚雷もソナーさえも搭載せず、速力も21ノットと抑えられているのですが、C4ISR能力を付与し、対水上対空兼用のIM-400レーダーを搭載しているものが、181億円、それも国内向けの費用ということで、やはり比較しますとこれも驚く数字でしょう。
あきづき型護衛艦も比較すれば高い部類には入らず、イギリスの45型ミサイル駆逐艦デアリング級は建造費が一隻当たり9億7600万ドル、ただ、搭載するサンプソンレーダやアスター30艦対空ミサイルを比較する場合、アスター30とESSMの射程などで、確かに一つ上の艦と言えますが、あきづき型護衛艦のような運用を視野に含めていると考えられます、あきづき型の建造費は750億円、45型の満載排水量は7350tですが、あきづき型も満載排水量は7000tで、ほぼ、同じ大きさの水上戦闘艦ということが出来るでしょう。
イギリス海軍が計画中の26型フリゲイトGCSは建造費が2億6000万ポンドから3億5000万ポンドと見積もられ、この幅の大きさに少々疑問符を持ちつつも邦貨換算では400億円から630億円、あくまで単純比較ですが、ポンドの為替相場により随分違ってきますが提示されました。対して同時期に建造する平成25年度計画護衛艦25DDの建造費は701億円です。26型の満載排水量は5400tで、25DDは基準排水量が5000t、満載排水量で7000t程度となりますので一概に比較はできませんが、それにしても建造費では割高という印象には繋がりません。
ひゅうが型などは19000tでFCS-3とMK-41VLSを搭載し、僚艦防空として一定の艦隊防空能力を有しつつソナーを搭載した海外では全通飛行甲板型巡洋艦に区分されますが、建造費は約1000億円でした。ヘリコプター搭載護衛艦いずも、の建造費は1139億円であるのに対し、同時期の建造であるオーストラリア海軍のキャンベラ級強襲揚陸艦の建造費は13億ドル、建造費を観ますと、ともに一番艦、キャンベラ級はスペイン海軍の強襲揚陸艦ファンカルロス一世を原型とし一部再設計していますが、いずも、は、いずも型の設計費用を含めた建造費です。
いずも、と比較したキャンベラ級は、共に戦力投射艦という、かつての軽空母と強襲揚陸艦の中韓を担う艦艇として同列に語られることがあるので、比較対象として並べましたが、全通飛行甲板型船型を採用し満載排水量で27851tですが、速力は20ノットと機関出力なども抑えられています。いずも、の満載排水量は27000t、同じく全通飛行甲板構造を採用し、OPS-50対空レーダーや個艦防空装備を有すると共に、速力は護衛艦として用いるため30ノットを発揮、機関出力も11万2000馬力と大きいのです。強襲揚陸艦と護衛艦を比較すれば速力が小さな揚陸艦の方が安くて当然だ、と反論しようとした方、よく見たら護衛艦の方が安いではないか、と驚かれたことでしょう。
潜水艦を続いて比較してみましょう。そうりゅう型潜水艦の建造費は570億円程度です。日本の潜水艦は大型で、そうりゅう型の水中排水量は4200t。潜水艦についての比較は難しいですが、これも総じて我が国の潜水艦が高いという印象は受けません。比較が難しいというのは、海上自衛隊の潜水艦は任務範囲が非常に広いため航続距離の大きさを求められ、言い換えれば海上自衛隊の運用するような大型通常動力潜水艦で比較できるものが非常に少ないのです。ただ、単純比較をするならばこの限りではない、と少々乱暴な論理を。
そうりゅう型と212A型、比較軸には以上の通り無理があるという前提を挙げ、こうしたうえで比較しますと、ドイツ製212A型AIP潜水艦で水中排水量が1830tに対し建造費が初期で4億800万ドル、輸出市場では5億ドルとなっています。確かに日本の潜水艦よりも安いのですが、4200tの潜水艦と1830tの潜水艦の比較であり、しかも日本の防衛警備海域の面積を哨戒するには、航続距離の違いにより必要な隻数が違ってきます。簡単に比較できないのですが、国産が高すぎるという結論にだけは至りません。
航空機ですが、哨戒機で比較しますと海上自衛隊のP-1哨戒機は最初の調達が4機を679億円で調達しています。双方とも洋上哨戒機ですが、対潜哨戒機としての性質が強いP-1と洋上哨戒を軸に置いた警戒管制機的な運用も視野に入れるP-8の比較は難しい、と前置きしつつ、アメリカ製P-8哨戒機はインド海軍への輸出費用で8機が21億ドルとなっています。ただ、インド海軍はこれ以上出さないという契約で取得するため、開発費が高騰したP-8Aに対し、インド海軍仕様のP-8Iは電子行きの一部が簡略化されることとなりました。もちろん、個々の性能で差異はありますが、入手できる哨戒機で比較すると海外製は非常に高くなってしまうことが分かるでしょう。
航空自衛隊装備ですが、C-2輸送機は今年度予算で2機が333億円で調達されています、初期生産費用は高くなりがちですが、エアバスA-400M輸送機はフランスのF2ニュースでは昨日遂に空軍へ納入されたと報じられ、漸く戦略展開能力が、と喜びの声が伝えられましたが、単価が現時点で1億3600万ユーロ、ただし開発期間の延長と共により高くなる可能性があります。このほか、生産が終了するC-17輸送機は2009年の米空軍向け生産費用で15機が29億ドルですので1億9330万ドルとなりますので、そこまで高いのか、というところ。
戦闘機ですが、海外製は高い、という印象、F-35戦闘機の導入で固まりました、が、国産で第五世代戦闘機を用意する場合、開発費が想像できない水準となります。このため、90億円のF-2支援戦闘機と比較する事しかできないのですが、韓国空軍が暫定契約しその後白紙撤回したF-15SE戦闘機は7260億円で60機を導入する、という契約でした。なお、ボーイング社はF/A-18E戦闘機よりはF-15SE戦闘機の費用を抑えているとしていたので、F-2とよく比較されるF/A-18Eはもう少し高くなります。
ユーロファイタータイフーンは開発国へは邦貨換算で70億円程度で供給されていますが、これは開発費として開発国は先払いしているため取得できる費用とされ、トランシェ1のサウジアラビア輸出価格が190億円程度、この機体のトランシェ3への改修費用が42億円程度、インド空軍へのトランシェ2のライセンス生産費用が230億円程度、とされています。また安い安いといわれたF-16戦闘機もBLOCK60以降は当初のハイローミックス路線は忘れ去られ鷹のように高性能化が進み、調達費が110億円以上となっており、実のところF-2支援戦闘機の納入費用よりも大きくなってしまいました。
しかし、ここまで比較軸がおかしいのではないか、と考えられた方もいるのではないでしょうか。これは国産装備が高いという視点に対して、国産装備は高くない、という視点に基づき指摘に選択肢をしている主観は、否定しません。すると、結局のところは装備の費用は、比較できるものもあるように見えるけれども、高価な装備をライセンス生産して取得するならば、それは無駄が生じているだけなのか、それによって稼働率が上がることで取得しなければならない総数が変化しているのか、という視点も踏まえると、比較することそのものは意味があるように見えてそこまでおおきくないのではないか、という視点に至らないでしょうか。
初度調達部品を含めた値段と既に量産され配備されている機体の価格比較は埠頭ではないか、とか、初度調達品の価格を含めれば安価と言われるスウェーデン製JAS-39戦闘機でもタイ空軍向けが6機で610億円になるので、どんな機体でもF-2より高くなるのは当然だ、とか、いやロシア製のSu-27やMiG-29ならもう少し安そうな、待て待てロッキードは30年運用の総合費用でF-35の方がJAS-39よりも安くなるという数字を出している、いや長期間運用しない前提のJAS-39を無理やり30年運用させるのなら維持経費が大きくなるのは当然で恣意的な数字だ、等などの反論はあるでしょう。
つまりは、国産兵器が高い/国産兵器は安い、という一方が極論を出して反論を締め出してしまうと、対論も極論で印象付けたのちに、理論展開を組み立てる構図が成り立ってしまう、ということ。兵器の価格比較では、例えば国産装備へ懐疑的な識者が見解を示す場合には、国産価格が最も大きい時期の数字を出して費用の大きさを批判する事例、海外装備の輸出費用を無視し自国向け費用と国産費用を比較した事例、海外装備でも軍事援助の費用を加えて援助の意味で装備品を安価に友好国へ供している事例と国産装備の国産費用を単純に比較するという事例があります。ただ、当方の数字も実のところ、全ての輸出事例を比較するのではなく、比較対象は実際の費用を示しているのですが、網羅はできていません。
これは数字のトリックというべきでしょうか、即ち背景を無視したもので、もちろん、これを網羅し、装備品の輸出価格と対外援助、勿論初度調達部品や維持費用の面を踏まえどう影響しているのかを明示すれば、政治過程論や合意形成過程と外交関係の事例研究と併せる事で、誰かの修士論文にはなるかもしれませんが、結局のところ数字は引用者の主観を織り交ぜただけで違う結論に導くことも可能であるわけです。国産装備よりも海外製装備の方が安い、という論点には以上の通り注意が必要、という事を忘れてはならないでしょう。
冒頭に記したとおり、これは単純に比較できるものではないのですが、単純に海外製装備が輸出され、導入されている費用と、我が国が国内で生産し導入している費用を観た場合、比較軸を最大限合わせた事例でも、決して国産装備は高くない、ということはできないでしょうか。随分と遠回りをしましたが、結局のところ、海外製は安く国産は高い、というのは数字と条件をどう取り出すかの比較であり、我が国の選択肢は結局良いものを安く導入し防衛費を最も効率化しようとした場合、安易に海外製を探すことは必ずしも得策ではない、といえるのかもしれません。極論を以て前回と今回の比較を行いましたが、高くは無い、という視点を示しつつ、極論だけではなく、過去の27回とともに、その背景を提示しました次第です。
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