◆新型機新規開発の時間的余裕無し
本格的に老朽化が進むOH-6観測ヘリコプター、その後継機についての話題です。現在展開中の伊豆大島災害派遣でも情報収集はUH-1多用途ヘリコプターが実施しており、この分野を統合することはできないものでしょうか。
特科火砲、長大な射程を有する最大の打撃力を行使する陸上自衛隊遠距離火力の中枢ですが、目標を直接見ることなく長距離射撃を行う間接照準装備であるため、例えば前進観測班か、航空観測を行い、射程に対応する着弾修正をおこなう必要があります。対砲兵戦では対砲レーダ装置などの活躍する部分が広くなっていますが、その他の面では今なお、空中観測の重要性はなくなりません。将来的には無人機に置き換えられる分野ではありますが、MQ-8に代表される全天候運用が可能な無人機への導入までまだ時間を要することも否めません。現時点では、いっそのことCH-47JA等に小型無人前進観測車両を大量に搭載し、最前線後方50km圏内で着陸し多数ばら撒き、無人自走して山頂部などの観測地点まで展開する、という用途の方が、まだ航空法の管制と平時は演習場までを有人機で輸送するのですから、平時の道交法の影響を受けません。
観測ヘリコプターの運用は、双眼鏡を携行する着弾観測員が同乗し、着弾数秒前まで着弾点を観測できる距離を隔てた稜線付近に飛行し暴露を避け、着弾の寸秒前に稜線よりも上に浮揚し、双眼鏡で着弾点を確認、どの程度の誤差があるのかを瞬時に把握し、音声情報により後方に通知します。浮揚し着弾観測を行う猶予はわずか数秒で、実態を聞きますと成程職人技だと考えさせられるもの。少々古典的な方法ですが、実施されています。しかし、この任務に当たる観測ヘリコプターが老朽化の進捗度合いが大きくなりすぎてしまいました。正直なところ、MD-500のライセンス生産再開なども考えねばならないところです。
後継機としてOH-1観測ヘリコプターが開発され、250機が調達される計画でしたが、冷戦終結と共に配備計画も九割近くが削られ、結果近代化改修予算も組みにくくなったため、性能的にデータリンク時代から取り残されつつあります。そこで、観測ヘリコプターと多用途ヘリコプターを統合し、多用途ヘリコプターへ極超望遠カメラを搭載、着弾観測を行うことはできないでしょうか。OH-6のような双眼鏡による目視の着弾観測航空機と比べれば機体が大型化しますので、秘匿性の面で非常に不利ではありますが、近年はカメラの性能が大きく向上しており、30km以上の距離を以ても対応が可能でしょう。
30km以上の距離、といいましても余り不可能な数字ではありません、例えば福島第一原発事故に際してNHKは陸上自衛隊のCH-47輸送ヘリコプターによる冷却放水の様子を、原子炉から30km以上の距離を隔てて中継、世界にその重要な瞬間を伝えました。30km以上、というのは30kmなのか35kmなのか、疑問符は残りますが、火砲の最大射程に匹敵する距離で中継に成功しており、これは多用途ヘリコプターへこの種のカメラを搭載した場合の能力に対しても一石を投じたのではないでしょうか。
観測ヘリコプターの任務、将来的には無人機により置き換えることが望ましいことは確かですが、観測ヘリコプターには前述の通り情報収集能力も求められるため、必要であれば即座に例えば災害時等、市街地上空を飛行しなければなりません。例えば陸上自衛隊がOH-6の後継機にMQ-8ファイアスカウトのような無人ヘリコプターを導入する可能性がるかと問われれば、可能ではあるのだけれども、例えば伊丹空港近くの千僧駐屯地、第3師団司令部記念行事などへ、無人ヘリコプターが八尾駐屯地を離陸し伊丹管制空域へ飛行する、というのが中々想像できません。もっとも、駐屯地祭に富士総合火力演習のようなオーロラビジョン大画面を持ち込み、駐屯地から離れた高高度より、行事の様子を無人ヘリコプターが空撮し、同時中継する、という参加方式はありそうにも思うのですが、ね。
さて。MQ-8は高度6000mで最大三時間の滞空飛行が可能で、戦闘行動半径は200km、一定以下の高度であれば100km先において五時間の監視飛行が可能ですので、八尾駐屯地から千僧駐屯地まで展開し、祝賀飛行に参加したのち周辺空域で待機し、伊丹空港発着旅客機を航空管制に従いやり過ごし、続いて訓練展示へ参加、実弾は撃たないまでもRQ-8の発展型だるMQ-8は攻撃任務の一端も担えますので、その旨を紹介し、帰投する、もしくはその後の装備品展示へ参加することも可能でしょう。
元々MQ-8はシュワイザー330、その原型は陸上自衛隊がかつてTH-55練習ヘリコプターとして運用していた航空機ですし、性能としては充分耐えるとは思うのですが、我が国で無人機の運用を大きく制限している航空法の問題を差し引いても大都市上空を、観測ヘリコプターに求められる能力、災害時の情報収集へ平時から訓練として飛行することが出来るのか、少々疑問符が残ります。海上自衛隊の艦艇から運用するならば、別ですが。この分野、市街地上空でも無人機運用は、警察の交通監視や追跡用途、報道ヘリコプターの空撮などで先鞭をつけてもらわねば、苦しいところ。また、観測ヘリコプターとしてのOH-6は軽輸送任務等への汎用性もあり、もちろん無人ヘリコプターには物資輸送能力を有するものもありますが、日本国内での運用という側面から、有人ヘリコプターの様々な汎用性というものは捨てがたい。
こうして考えますと、当面の無人機による着弾観測は、駐屯地から野整備支援を経て第一線へ自力で展開するものではなく、前進観測班が携帯式無人機と共に第一線普通科部隊に随伴し直掩火力を求める際など、いわば第一線まで携行できる部隊が展開している場合に暫く限られるのではないでしょうか。以上を踏まえれば観測ヘリコプターの必要性は当面残りますが、新機種を選定し量産したころにはMQ-8の時代が到来しそうで、すると、多用途ヘリコプターに観測ヘリコプターとしての能力を付与する必要性は出てきます。併せて、現行の双眼鏡による空中着弾観測任務は、観測距離に限界があり、射程の延伸と共に、第一線後方への着弾観測へは、第一線へ接近する必要が出てきます。こうしますと、第一線へ展開している敵防空火器の脅威下に接近する事を意味し、非常な危険に曝されてしまうでしょう。
個人的には米軍のように無人機の管制と情報伝送をAH-64Dに任せれば解決する部分が大きいと思うのですが、予算面で考えた場合の最良案は多用途ヘリコプターへ30km以上の距離を隔てて、極超望遠カメラを搭載し、着弾観測を行う必要性に繋がります。最大30km以上の距離での着弾観測を行うのであれば、我が方の高射特科部隊により支援下で観測を行えるため、相手が第一線に相当な長距離地対空誘導弾を配備していない限り、対応可能です。もちろん、民生品をそのまま搭載することは対妨害性の観点から不可能ですし、双眼鏡よりは観測器材が高くつきます。しかし、それ以上に意義があることも確かです。
今回、こうした論点を強調したのは、次期多用途ヘリコプターの開発が難航していると共に、観測ヘリコプターがOH-1の生産中止に伴い、現行のOH-6観測ヘリコプター後継機が調達でk無くなっていることに起因し、共に重要な装備品であることから同時に後継機の大量調達が必要となっているものの、二機種を同時に調達することは難しい、その反面、片方を先行し片方を後回しとするほどの時間的余裕の無さから提示しました。もちろん、空中着弾観測を遠距離のものとする前提を提示していますので、純粋な意味での観測ヘリコプターではなく、多用途ヘリコプターの多用途任務に観測を付与できないか、という意味にもつながっているのですが。
ただ、以上の点を踏まえると、例えばBK-117をそのまま転用するべき、とか、BK-117にOH-1のローターシステムを移植して、と書かれる方がいるかもしれませんが、BK-117は胴体延伸型のBK-117C2でも乗員の他輸送できる兵員が9名で、UH-1Jの11名と比較しても少なすぎます。また、UH-1に代えて陸上自衛隊がUH-60を導入したのは機内容積が不足しているためで、どうしてもBK-117では容積が足りません、胴体を1m程度延長できれば、問題は無いのですが、それは新型機に他なりません。実は10年近く前までは当方もここまでUH-Xが難航するとは考えず、暫定的にOH-6の後継にBK-117の派生型は考えられるのではないか、と考えたのですが、現在これを行ってしまうと、OH-Xではなく予算面でUH-Xの予算を齧ってしまう可能性が否定できません。
米軍では使用しているではないか、という批判があるかもしれません、確かに米陸軍はBK-117の派生型をUH-1に代わる軽多用途ヘリコプターとして運用していますが、これは約2000機のUH-60が米陸軍に装備されているため、導入できたわけで、仮にBK-117をそのまま多用途ヘリコプターとして導入した場合、中隊規模の空中機動には現行の機体と比較し、非常に難易度が高まってしまうのではないか、と考えます。もちろん、別途陸上自衛隊が多用途ヘリコプターを導入し、観測ヘリコプターと併せ、大量導入する、というのならばはなしは別なのですが。
必要な観測ヘリコプターは150機、多用途ヘリコプターは150機、300機程度が比較的早い時期に必要となります。しかし、これを10年間で調達するとしても、二機種を各15機調達し、併せて他の何時様なヘリコプター、輸送ヘリコプターや戦闘ヘリコプターの調達を重ねて行うことは余りに現実的ではありません、仮に劇的に景気が回復し再度高度経済成長が低いインフレ率と共に起こらないでもしない限り。せめて、BK-117原型が開発中止となった三菱重工のMH-2000と同程度の機内容積を確保できていれば、BK-117Cにあたる胴体延伸型の機体規模がUH-60程度になれた、とも思うのですが、まあ、これを行うとBK-117の機体規模所以の誌上需要に対応できなかった可能性も高いですね。
さて、話を本題に戻しますと、仮に多用途ヘリコプターに観測器材を搭載した場合、大規模災害時の情報収集任務に無人機とともに活躍しますし、必要であれば多用途ヘリコプターとして人員輸送任務にも対応します。かつて師団飛行隊に観測ヘリコプターは10機配備されていましたが、仮に観測ヘリコプターを兼ねる多用途ヘリコプターを10機、前後配備できれば、師団飛行隊や旅団飛行隊の能力は大きく向上するでしょう。
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