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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

イギリス欧州連合離脱国民投票6月23日実施、その安全保障上のリスクを検証する

2016-06-16 22:20:42 | 国際・政治
■イギリス欧州連合離脱問題
 イギリス脱退はありえるのか、欧州連合からのイギリス離脱是非問題について今回は考えてみましょう。

 欧州連合からのイギリス離脱是非問題はいよいよ来週6月23日に国民投票となりますが、土壇場になって離脱派への支持が大きくなっているとの報道がでており、世界経済におけるイギリスリスクというものが現実味を帯びています、イギリスへ世界各国が投資する工場は、現時点で欧州へ関税を掛けず輸出する事が出来ますし、多国間国際分業による、欧州で製造した部品をイギリスで組み立てる、あるいはその逆の手法に関税がかかり、イギリス国内の欧州連合の一員としての地位が失われます。

 イギリス脱退か否かは結論を待たねばなりません。イギリスは、代わりの案を出していません、例えば英連邦諸国との貿易投資自由化協定やTPP加盟などの施策を採っていませんので、単純にイギリスからの産業が失われる危惧がある訳です、また、欧州通貨基金からの完全な遮断も大きな打撃となるでしょう。少し考えればわかるのですが、イギリスのEU脱退におけるリスクの最たるものは、EUに加盟したイギリスがポンドを維持しユーロを導入していない、為に欧州通貨基金の緊急帰還規制の枠外にいる、という点をイギリス刻印は其処からの恩恵を忘れている、というものです。

 欧州連合、イギリス脱退となればどうなるのか。欧州通貨基金に加盟するユーロ導入諸国は金融機関の自己資本比率規制や、金融取引における手数料規制などの監督を受けますが、イギリスはEUに加盟しており資本の移動が自由化されていますが、欧州通貨基金の規制を受けません、この為株式取引の手数料を欧州全域よりも若干低くすることで、欧州全域の金融取引拠点として金融業が製造業に代わる基幹産業となった訳でした、この利点が失われる、イギリス国民は今後、製造業へ後退し国家を支える必要が出てくる、このリスクを正しく理解させられるのかが、問題となるのではないでしょうか。

 一方、この問題を防衛安全保障問題としてとらえた場合のリスクですが、イギリス脱退と仮になった場合、EUは欧州共通安全保障政策として外交防衛分野での協力を展開しています、論理の上からはEUをイギリスが脱退する事で共通安全保障政策へ齟齬が生じるのではないか、というものは一応間違いではありません、ただ、欧州連合はその草創期こそ、欧州の普遍的な安全保障協力枠食い、NATOの代替としての枠組構築を志向した事はありますが、元々経済協力機構としての枠食いを基点に地域統合へ進んだ欧州連合と、同盟条約であるNATOとの機能の相違は大きいものでした。

 欧州連合は最終的に協力枠組みは軍事分野以外の要素が多く介在する事から合意形成や軍事指揮権への拡大への各国間の齟齬を克服する事は出来ず、当初構想されたEU緊急展開部隊構想も、部隊指定などは実施されたものの派遣や部隊運用への軍事参謀委員会設置や装備品共通化と訓練体系の共通化は実現していません、この枠組みを揃えているのはNATOであり、更にNATOは2002年よりPFP協定として加盟国以外との防衛協力枠組みを構築、オブザーバー国制度など拡大し、EUはこれに代わる方式を呈示する事は出来ていません。

 イギリスはNATO加盟国であり、イギリス国内ではNATO脱退の機運は生じていません。また、NATOの枠組は装備体系の共通化や弾薬規格の統一、部隊編制の共通化への促進の取り組み、共通兵站基盤の構築、指揮系統と軍事参謀委員会の設置、部隊訓練評価基準の共通化、常設待機部隊の維持、運用体系の多国籍化、など防衛政策へ深くコミットしている為、関与する事での利益の方が、特に規範や枠組み構築への関与の度合いを創設以来高く維持している関係上、大きい、という点がイギリスとNATOの関係を高めているといえるでしょう。

 それでは安全保障上の問題は全く皆無であるのか、と問われますと実は冒頭に記した介在上の変動、という部分が大きく影響を及ぼし、欧州の安全保障へ深い影を落とす可能性があります。具体的にはイギリスが景気後退に陥る、特に基幹産業である金融業での欧州通貨基金との関係が完全に途絶する事での激変がイギリス経済に2007年の金融危機以来の変動を与えるほか、イギリス国内の製造業の欧州域内移転等を経て、欧州地域での多国間国際分業体制への影響は確実にドイツなどEU諸国の製造業を直撃します。

 安全保障上への影響は、この景気後退が欧州地域全域へ波及する場合で、更にイギリスがEU脱退を掲げる最大の理由である、東欧からの安い人件費の労働力の流入が停止する事は、東欧地域での大規模な失業者の発生を意味します。そしてこの東欧地域は、現在、ロシアとの緊張関係の最前線であり、特にポーランドなどは防衛力の強化を進めています。この地域での大規模な景気後退の波及は防衛力整備への影響はどうしても避ける事は出来ません。イギリス脱退を回避できることに妥協案を模索できることを切に願うのですが、仮に離脱する場合ならば、離脱の手続きと共に影響を局限化するソフトランディングの枠組を構築する必要がある、といえますね。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (4)
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