北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

イギリス“EU脱退”を国民投票で画定!ヨーロッパのいちばん長い日と世界危機回避の協調

2016-06-24 23:30:04 | 北大路機関特別企画
■ヨーロッパのいちばん長い日
 本日、欧州連合EUからのイギリスの脱退がイギリスにおける国民投票の結果画定しました。

 マーストリヒト条約により成立した欧州での価値観の共同体と呼ばれた欧州連合は、初めての脱退国をその加盟国から出す事となりました。欧州連合は従来の経済統合を第二次世界大戦後に鉱業資源の共有化から端緒につき、その後経済統合を期した自由貿易協定や国境移動の自由と共に、制度面や人権と社会保障や財政政策、資源保護等の面での深化を続けてきました。そこからイギリスは脱退します。

 イギリスの欧州連合EUからの脱退討議は、イギリスへの東欧EU加盟国からの安い労働人口の流入が続き、イギリス国内の雇用へ影響しているとの批判、社会保障を伝統的に重視したイギリスは過度なグローバル化に際しては社会保障に限界のある諸国からの流入が続き、労働人口流入を社会保障の負担と見出す視点から、国境移動の自由をEUがシェンゲン協定により認めている実情から、脱退を求める声が続いてきました。

 脱退はイギリス経済にとり致命的である、という残留派の主張に対し、離脱派は離脱する事により経済政策や対外政策においてイギリスは主導的な選択を採る事により更なるイギリスの発展を実現できる、として反論、イギリス国民は後者の自決する権利を維持し、独力で欧州の外に出る事となりました。この国民投票は2013年にイギリス国内からの要請に応え実施が決定していましたが、結果を受け残留を主張していたイギリスのキャメロン首相は辞任の意向を示しています。

 今後のEUからの脱退ですが、イギリス政府はEU欧州理事会との間で離脱交渉を二年間の期限で実施します。EUから脱退の後、EUとの金融関係や関税協定、人的移動と財産保護、国境移動自由と欧州公務員制度、情報共有制度や共通安全保障制度との今後の関係、これらをどのように取り扱うか、欧州連合は今後の離脱国を抑制する観点からイギリスに対して、事実上の第三国扱いとして、これまでの関係をゼロベースから脱構築する厳しい交渉が待っています。

 影響は早速生じました、証券取引市場では東京市場では一挙に日経平均株価が1000円以上暴落する事となり、欧州では軒並み株価が10%から16%が下落、為替相場ではボンドが歴史的大暴落を遂げ一挙に1985年の水準まで減退してしまいました。日本円など安全資産へ流動資金が集中し1ドル99円まで円高が進むことで、イギリスEU脱退決議は僅か三時間でリーマンショックを越える経済恐慌の様相を呈しました。

 世界経済危機へ展開するのか。イギリス経済には非常に大きな危機が迫っています、イギリスは金融業を中心とした経済構造に移行した事で、重工業が大きく減退し、2007年にはイギリス最後の自動車産業が海外企業へ買収、イギリスでは最後の製鉄所もEU離脱機運の高まりと共にインドの親会社から閉鎖の決定を下されました。イギリスにおける重工業や先端工業はイギリスへ出資している多国籍企業の施設であるため、イギリス内需以外では関税障壁の無いEU域内への輸出を基本とした工場の多くは、基本的に人件費の安い中東欧諸国へ移動する事となるでしょう。

 イギリス経済は、金融業が破綻する懸念が高くなっています。イギリスはEU加盟国でありながら欧州共通通貨ユーロの導入をブレア政権時代に却下し、EU域内では資金の移動が自由である中でユーロに加入していないことで欧州中央銀行の取引規制を受けない為、金融取引手数料等を欧州のユーロ加入諸国よりも低く設定することで、欧州全域の金融取引を一手に引き受ける事が出来、薄利多売の構図にて金融業が基幹産業へと育ちましたが、今後はロンドンでの取引にはEU離脱後、EU域内からの資金移動に制限が加わる事となり、ロンドンに代わりドイツのフランクフルトが欧州の金融中心となります。

 BAE等イギリスの多国籍企業は、本社機能のみをイギリスに置き、生産拠点をEU域内へ移動する事でしか生き残る事は出来ません。暫定的に、国有企業化し保護するという選択肢もありますが、現在のイギリス与党である保守党は伝統的に産業自由化路線を示しているほか、労働党も1990年代に基幹産業国有化路線を党綱領から削除しているため、こうした選択肢を採る事は出来ず、その前途は明るくはありません。イギリス政府は今後、イギリス国内へ進出する多国籍企業、日系企業では日産や日立、東芝や小松製作所、松下電業、ソニーなど1000事業所を展開していますが、慰留を求められるものの、輸出できる見通しやポンド下落の影響が部品調達に及べば、維持できず、仮に工場を残した場合でも生産量へ栄養を避ける事は出来ません。

 離脱の最大の焦点、東欧移民はEUからの離脱により移動が制限される事となります。ただ、イギリス国内の人件費は高く、実際、東欧からの労働移民がイギリスの雇用を奪っているとの批判が集まる背景には、ハンガリーやポーランドからの労働移民がイギリス人最低賃金の四割程度の賃金で雇用されている為に過ぎません、この為、単純労働を中心にイギリスでは今後人件費が二倍以上に急騰する事を意味します。ただ、今後イギリス国内において人件費高騰に伴う物価上昇、インフレの長期化を避けるべきとの要求が高まれば、パキスタンやバングラディシュ、ナイジェリアやケニアなど英連邦からの出稼ぎ労働者がその需要を担う事となり、衝撃を緩和する事が出来るでしょう。

 安全保障面への影響ですが、北大西洋条約機構加盟国であるイギリスの地位は不変ですので短期的には生じません。しかし、長期的にはロシアとの関係においてEU全体の団結が試される事となります、特に東欧加盟国の経済的発展と欧州連合の関係は深く、EU加盟までは軽工業と無農薬野菜のみを輸出の軸においていた中東欧諸国は、今や人的供給の拠点と工業近代化を同時に実現しています。しかし、人的移動と大きな就労先であるイギリスの脱退は東欧諸国へ影響を及ぶことは否定できず、この地域での景気後退が及べば、防衛力近代化へ影響が及ぶことは容易に想像できます。

 安全保障面では付け加えて欧州の団結瓦解の端緒となる危惧があります欧州連合は、欧州経済共同体の時代からその加入へ厳しい制限がありました、具体的にはドイツとスペインの物価の統合さえも欧州連合条約採択の際には問題となりましたほどです。しかし、欧州連合の中欧諸国や東欧諸国加入を進める動きによりこの障壁は緩和され、更にEUへ他の加盟国がイギリスと同じように懐疑的な視線を突き付ける背景には、かつて欧州の壁、として欧州域内へ非加盟国国民が入る際の壁が非常に厳しく非難されていましたが、この壁を下げた事で、イギリスのEU域内移民ではなく、中東アフリカ難民が地中海沿岸のEU加盟国や北欧EU加盟国の一部から離脱の機運を高める事となりました。

 EU共通安全保障政策として安全保障面での協力関係や欧州常設軍等の構想は実現せず、安全保障面において特に防衛政策では北大西洋条約機構が大きな役割を担っている事実とは変わりありませんが、EU本部とNATO本部が同じブリュッセルに置かれているように人的交流や政策交流の幅が広いことも事実です。故に、欧州全体の団結、というものが今後危機に曝される事も否定できず、これを防ぐためにも、欧州連合とイギリスの脱退交渉では非常に厳しい、次の脱退国を生まない為の措置が含まれ、大きな摩擦となる事も否定できません。

 しかし、イギリスは英連邦の盟主としての地位がありますので、必ずしもこの危機を乗り切れないとも言い切れません。英連邦は、互恵的なものですが連邦市民権を認めており、法制度整備の協力や文化協力、英語の共通化等で協力関係を持っています。加盟国は個別に様々な経済統合や経済統合へ参加している為、これがイギリスの経済活動へ及ぼす影響は限定的ですが、少なくともアイディンティティを維持する事は、景気後退と貧窮が一定期間続いたとしても、精神的に乗り切る基盤となるかもしれません。

 英連邦はイギリスを盟主に欧州ではキプロスとマルタ、北米ではカナダとジャマイカやグレナダにドミニカ、セントルシア、バハマ、ベリーズ、トリニダートトバコ、バルバドス、セントビンセントグレナディーン、セントクリストファーネイビス、アンティグアバーブーダ、南米のガイアナ、太平洋ではオーストラリア、ニュージーランド、フィジー、パプアニューギニア、バヌアツ、トンガ、ナウル、キリバス、サモア、ツバル、ソロモン諸島、アジアではインド、シンガポール、パキスタン、マレーシア、スリランカ、バングラディッシュ、モルディブ、ブルネイ、アフリカではナイジェリア、ケニア、ウガンダ、カメルーン、ガーナ、シエラレオネ、ザンビア、ナミビア、ボツワナ、タンザニア、モーリシャス、モザンビーク、レソト、南アフリカ、と加盟国は多い。

 どのように表現しようと前途多難です。月曜日までにポンド暴落への世界主要国、G7の協調介入態勢を取らなければ、世界恐慌へ発展する可能性が否定できません。しかし、限られた報道でも、我が国をはじめ、世界はイギリス危機というべき今回のEU離脱による経済的影響をソフトランディングさせ影響を局限化する協力を開始しており、今後の展開を見守る事としましょう。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (2)
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