■不思議な概算要求の背景とは
防衛予算、コロナ禍下の概算要求は現在の厳しい国際情勢を反映させたものとなっています。

領域横断作戦における必要な能力の強化における優先事項。防衛省では新防衛大綱における多次元統合防衛力整備へ宇宙やサイバー空間を横断する領域横断作戦能力構築を進めています。一方で、これは比重の問題であり、従来の領域における能力の強化も併せて要求されています。ただ、重装備については一部、不思議な部分がありました。この点を。

来年度予算概算要求、興味深いのは10式戦車と軽装甲機動車と96式装輪装甲車の調達が行われないことです、なぜなのでしょうか。これは幾つか理由があり、10式戦車については二カ年度分を今年度に一括調達しており、来年度は戦車の調達が行われない年度となっています。三菱重工では柔軟な戦車製造体制を構築しており、無理が通るという構図だ。

10式戦車、そしてその前の90式戦車の時代から既に生産ラインというものはありません、74式戦車の時代には月産5両という体制であったため、もちろん直ぐには完成しませんので完成度ごとに戦車を分けて相模原工場に製造ラインを構築していました、しかし年産20両まで下がった90式戦車では特注扱い、もはや生産ラインは成立しなくなったのですね。

三菱重工では工場の中央部に戦車を置き、少しづつ組み上げる方式に移行しています。これにより、なにぶん毎年の調達が大量生産を想定していませんので、防衛装備品を担当する汎用機特車事業部がその都度柔軟に生産しています。ただ、これでは工芸品であり、戦車定数300と教育所要が精々50両、それならば十カ年一括発注が望ましいとは思います。

96式装輪装甲車。こちらが調達されないのは何故でしょうか、即応機動連隊所要がありますし、北部方面隊の総合近代化師団総合近代化旅団には普通科中隊一部が装甲化されているため、やはり装輪装甲車は必要です。しかしこれも事情は簡単でして、96式装輪装甲車が製造終了となっているためですね。現在は国産と海外、後継車を選定中となっています。

小松製作所。96式装輪装甲車は小松製作所が製造していますが、この後継となる装輪装甲車(改)の開発に際し、日本の道路運送車両法車両限界に適合する小さな車体に自衛隊が要求した防御力は厳しいものでした。防御と、特にIED簡易爆発防御が強く要求されたために完成した車体は一説には車高が高くなり、不整地特に転覆限界に悪影響を及ぼした、とも。

防衛省は実用に適さないとして採用しませんでしたが、開発失敗にともなう開発費返還を示唆したことで小松製作所は防衛産業撤退を決定、少なくとも新規の防衛装備品開発からの撤退を決定します。そして96式装輪装甲車は製造終了となっているため、防衛省は次期装輪装甲車を国産とともに海外製装備導入視野に情報収集を実施しています。まさにいま。

三菱重工の機動装甲車、フィンランドのパトリアAMV装甲車、スイスのピラーニャLAV.6装甲車。防衛省はこの三車種を念頭に調達費やライフサイクルコストなどを調査中であり、この決定までは装甲車調達は再開されません。なお、機動装甲車というのは現在の16式機動戦闘車車体を人員輸送型に改め、一部には機関砲砲塔などを搭載できるようしたもの。

国産装備に決まりで後は当て馬だろう、こう思われるかもしれません。しかし防衛省では防衛産業集約を求める意見がある一方、逆に三菱重工に過度に調達が集中し寡占状態となることへの危機感があることも事実なのですね。すると海外製装輪装甲車を選定し、小松製作所、場合によっては日立製作所などにライセンス生産させる可能性も、あるのですね。

来年度予算に装甲車関連の要求が無いのは、こうした後継装備を選定中という理由があります。三菱の機動装甲車は16式機動戦闘車との整備や運用互換性がありますが、パトリアAMVもLAV6.0も優れた車両でして、調達方式も必然的に転換しますので、どの車種が選定されるにしても自衛隊の転換期と成り得ます、来年度以降の選定結果が興味深いですね。

軽装甲機動車については後継装備開発が14億円、来年度予算概算要求に盛り込まれました。毎年150両から200両程度が製造された軽装甲機動車は必要数を充足したとして製造が完了していますが、調達開始は2000年、そろそろ老朽化が進み後継装輪装甲車が必要となります。防衛省のイメージ図では軽装甲機動車の車体が延伸された図絵が記載されています。

14億円は開発費とともに参考品の調達費用、と位置づけられていまして、フランスのPVP/VBM軽装甲車やイギリスのジャッカル警戒車両のような海外製装備を比較検討することも念頭に置いているのでしょうか。小松製作所の防衛産業新規撤退を発表しており、例えば海外製装備の日立製作所等へのライセンス生産などを考えているのか、関心事です。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
防衛予算、コロナ禍下の概算要求は現在の厳しい国際情勢を反映させたものとなっています。

領域横断作戦における必要な能力の強化における優先事項。防衛省では新防衛大綱における多次元統合防衛力整備へ宇宙やサイバー空間を横断する領域横断作戦能力構築を進めています。一方で、これは比重の問題であり、従来の領域における能力の強化も併せて要求されています。ただ、重装備については一部、不思議な部分がありました。この点を。

来年度予算概算要求、興味深いのは10式戦車と軽装甲機動車と96式装輪装甲車の調達が行われないことです、なぜなのでしょうか。これは幾つか理由があり、10式戦車については二カ年度分を今年度に一括調達しており、来年度は戦車の調達が行われない年度となっています。三菱重工では柔軟な戦車製造体制を構築しており、無理が通るという構図だ。

10式戦車、そしてその前の90式戦車の時代から既に生産ラインというものはありません、74式戦車の時代には月産5両という体制であったため、もちろん直ぐには完成しませんので完成度ごとに戦車を分けて相模原工場に製造ラインを構築していました、しかし年産20両まで下がった90式戦車では特注扱い、もはや生産ラインは成立しなくなったのですね。

三菱重工では工場の中央部に戦車を置き、少しづつ組み上げる方式に移行しています。これにより、なにぶん毎年の調達が大量生産を想定していませんので、防衛装備品を担当する汎用機特車事業部がその都度柔軟に生産しています。ただ、これでは工芸品であり、戦車定数300と教育所要が精々50両、それならば十カ年一括発注が望ましいとは思います。

96式装輪装甲車。こちらが調達されないのは何故でしょうか、即応機動連隊所要がありますし、北部方面隊の総合近代化師団総合近代化旅団には普通科中隊一部が装甲化されているため、やはり装輪装甲車は必要です。しかしこれも事情は簡単でして、96式装輪装甲車が製造終了となっているためですね。現在は国産と海外、後継車を選定中となっています。

小松製作所。96式装輪装甲車は小松製作所が製造していますが、この後継となる装輪装甲車(改)の開発に際し、日本の道路運送車両法車両限界に適合する小さな車体に自衛隊が要求した防御力は厳しいものでした。防御と、特にIED簡易爆発防御が強く要求されたために完成した車体は一説には車高が高くなり、不整地特に転覆限界に悪影響を及ぼした、とも。

防衛省は実用に適さないとして採用しませんでしたが、開発失敗にともなう開発費返還を示唆したことで小松製作所は防衛産業撤退を決定、少なくとも新規の防衛装備品開発からの撤退を決定します。そして96式装輪装甲車は製造終了となっているため、防衛省は次期装輪装甲車を国産とともに海外製装備導入視野に情報収集を実施しています。まさにいま。

三菱重工の機動装甲車、フィンランドのパトリアAMV装甲車、スイスのピラーニャLAV.6装甲車。防衛省はこの三車種を念頭に調達費やライフサイクルコストなどを調査中であり、この決定までは装甲車調達は再開されません。なお、機動装甲車というのは現在の16式機動戦闘車車体を人員輸送型に改め、一部には機関砲砲塔などを搭載できるようしたもの。

国産装備に決まりで後は当て馬だろう、こう思われるかもしれません。しかし防衛省では防衛産業集約を求める意見がある一方、逆に三菱重工に過度に調達が集中し寡占状態となることへの危機感があることも事実なのですね。すると海外製装輪装甲車を選定し、小松製作所、場合によっては日立製作所などにライセンス生産させる可能性も、あるのですね。

来年度予算に装甲車関連の要求が無いのは、こうした後継装備を選定中という理由があります。三菱の機動装甲車は16式機動戦闘車との整備や運用互換性がありますが、パトリアAMVもLAV6.0も優れた車両でして、調達方式も必然的に転換しますので、どの車種が選定されるにしても自衛隊の転換期と成り得ます、来年度以降の選定結果が興味深いですね。

軽装甲機動車については後継装備開発が14億円、来年度予算概算要求に盛り込まれました。毎年150両から200両程度が製造された軽装甲機動車は必要数を充足したとして製造が完了していますが、調達開始は2000年、そろそろ老朽化が進み後継装輪装甲車が必要となります。防衛省のイメージ図では軽装甲機動車の車体が延伸された図絵が記載されています。

14億円は開発費とともに参考品の調達費用、と位置づけられていまして、フランスのPVP/VBM軽装甲車やイギリスのジャッカル警戒車両のような海外製装備を比較検討することも念頭に置いているのでしょうか。小松製作所の防衛産業新規撤退を発表しており、例えば海外製装備の日立製作所等へのライセンス生産などを考えているのか、関心事です。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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