■ストライカー/96式装輪装甲車
AFV比較論的なテーマだが、ストライカー旅団の主役がその名の通りストライカーであるのに対して、北方旅団の主役は軽装甲機動車なのか、96式装輪装甲車なのか曖昧である為、部隊比較の決定打とはならない事を先に述べておく。
さて、ストライカー装輪装甲車は、1999年10月に日系人として初めてアメリカ陸軍の参謀総長に就任したエリック・シンセキ陸軍参謀総長の発案によるものである。この目的は、M-1A2戦車やM-2装甲戦闘車を装備する重量級師団と、歩兵がハンヴィーや徒歩により任務を行う軽歩兵師団の中間を担う部隊として構想されたもので、当初は“Medium Brigade:中型旅団”構想といわれていたものである。こうした装輪装甲車主体の部隊編成への需要は、1993年10月3日に生起した、ソマリアの首都モガディシオにおける“ブラックシーの戦い”からである。これは映画『ブラックホークダウン』において詳しく描かれ、諸兄ご存知の方も多いと思うが、この戦闘で18名の戦死者を出したアメリカ軍は、緊急展開が可能で重火力を有する装輪装甲車への需要が大きく高まったと考えられる。
このように、本格的戦闘に耐えうる装輪装甲車を有しないことの不利を知ったアメリカ陸軍は、早急に部隊を編成する必要があり、当初は既存の装甲車を輸入し装備する事を想定、イタリアからチェンタウロ戦車駆逐車16輌、カナダからLAVⅢ32輌の貸与を受け、オーストリア製(製造は米国国内)パンドルを50輌調達して実験などを行っている。
このトライアルには、C-130輸送機に搭載可能であることが絶対条件に掲げられ、上記のほかドイツ製のフクスやフランス製VAB6×6、スイス製ピラーニアに加え、XM-8装甲機動砲やM-113の車体延長型MTVLなどが名乗りを挙げている。
結論として、モワク社の傑作装甲車ピラーニアⅢの改良型がストライカーとして正式化されるに至った。注目すべきは、同じピラーニアの派生型でアメリカ海兵隊が使用するLAV-25装甲車よりも5トン近く重量が大きい点で、LAV-25は25㍉機関砲塔を有するのに比してストライカーは軽量なラファエル遠隔武器操作装置と12.7㍉機銃を搭載し武装に関しては軽量かされているにもかかわらず重量が増加している点から、ストライカーは装甲防御力が強化されていると分析できる。車体全体が防弾鋼板で、更に追加式のセラミック積層装甲で防御され、14.5㍉機銃弾に耐えるとされている。加えて、車内には貫通した弾片拡散被害を防止する為のケブラー材による内張りがある。また、イラク治安作戦従事車輌にはRPG対策として鳥篭のようなスラット・アーマーが追加されている。
対して、96式装輪装甲車はどうなのだろうか。96式装輪装甲車は、1992年より開発開始、1994年より試作車が開発され、旧式化が進む60式装甲車の代替として開発が進められた。60式装甲車の後継が装軌式ではなく装輪装甲車となったのは、1991年の雲仙普賢岳噴火に伴い、第四師団を中心に島原災害派遣隊を1658日にかけ派遣したが、その際に派遣された82式指揮通信車の不整地突破能力が評価された事が挙げられる。また、1991年9月19日の『国際平和協力法案』国会提出(翌1992年6月15日に成立)により、自衛隊による海外でのPKO活動の可能性が現実化した事も装輪装甲車開発を加速した要素のひとつであろう。
陸上自衛隊装備の装甲厚については防衛秘密扱いであり、確証のあるデータは存在しないが、推定で防弾鋼板25㍉程度といわれ、12.7㍉程度の機銃弾への防御力を有しているとされる。同車はイラク復興人道支援任務にも派遣されているが、高機動車や73式大型トラック、軽装甲機動車が装甲防御力強化改造を施しているのに対して、96式装輪装甲車は銃座のある車長用ハッチ周辺に断片防御が加えられた程度であることから、陸上自衛隊の防御力に対して一定の自信が見て取れる。
車体下部の形状が地雷防御に適していない凹型であることが批判されるが、これは単に設計陣の経験不足から来るものなのか、何らかの別な対地雷防御が施されているかは、不明である。
攻撃力に関しては、特に夜間はラファエル遠隔武器操作装置を搭載するストライカーに利がある。しかし、モニターを介しての武器操作と、肉眼や聴覚・嗅覚などの五感による索敵との利点欠点には尚議論の余地があり、昼間戦闘での利点に関しては一概に結論はだせない。
96式装輪装甲車が73式装甲車や化学防護車のようにJ-1照準潜望鏡による車内操作方式を採用しなかったのは、使い難かったからなのか、コスト低減の為なのかは不明であるが、武装を使用する際には車外での操作が必要となる。しかし、イラク派遣車輌のようにハッチ周辺に防盾を設置すれば安全性はある程度確保される。
結果、装甲車同士ではストライカーが若干優れているといえる。では、コスト面などでの比較でこの軍配を挙げたい。
(続く)
執筆:HARUNA