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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

閉所戦闘訓練教材 89式小銃への一考察

2006-12-05 19:03:13 | コラム

■東京マルイ製 89式小銃

 モーターによりピストンを稼動させ、6㍉球状のプラスチックBB弾を発射する電動エアソフトガンは一種のスポーツ用品として、広範に販売されている。

89_0  今年、祇園祭の宵宵山の最中、京都市内の某ホビーショップにおいて、新しく発売された東京マルイ社製の新製品“89式小銃”が発売されたのは既報であるが、今回は、ほぼ実寸といわれ、陸上自衛隊においても閉所戦闘訓練教材として採用されている89式小銃を、道具としての観点から他の製品と比較したい。発射性能や反動は全く異なるものの、設計思想などの各銃の相違は正確に再現されており、諸外国へも玩具として輸出されている。

89_1  右側に安全装置が配置されるよう設計されているのがこの89式小銃の特色である。

 寸法は全長916㍉と実寸、重量はバッテリーや二脚、弾倉を含め3700㌘で実銃は弾倉を除けば3500㌘と近似値で、連射速度は毎分650~850発とほぼ実銃の性能に合致している。初速は0.20㌘BB弾を89.4㍍/秒で発射するが、実銃は当然大きく異なり、5.56㍉NATO弾を920㍍/秒で発射する。

89_2  アメリカ陸軍などが装備するM-4A1(マルイ製)と89式小銃の比較。近年では、米陸軍は市街地などでの近接戦闘の増加から、短く纏められたカービンに移行しており、フランスやイギリスは弾倉を握把(グリップ)部分後方に配置したブルパップ式小銃を採用、オーストリア製のブルパップ式小銃が広範に採用され、ドイツでは折畳式銃床(ストック)を装備したG-36小銃がスペインなどに採用され、ギリシャなども採用を検討中とされる。小型であれば、持ち歩く際の疲労度合も低くなるが、実銃の場合は銃身が短くなることで火薬の燃焼効率が低下し、射程の低さに影響される点が指摘される。この点から米海兵隊などは今なおM-16A2小銃を装備している。

89_3  M-4A1を持ち慣れた際に気付くのは、89式のグリップの太さである。写真では両銃のグリップ部分をアップに掲載しているが、素早く振り回すには手袋から滑りにくい小型のグリップの方が扱いやすいように感じた。

 なお、安全装置であるが、左側に配置した方が右手親指で人差指を引き金に掛けたまま操作できるとされるが、右側に配置されていても、半分握った状態でよければ片手で引き金に指を掛けたまま操作することも小生には出来た。しかし、実銃の場合はイラク派遣に際して左側安全装置が追加装備されたこともあり、東京マルイからも左側安全装置が安価に発売されている。

89_4  二脚(バイポット)をアップにした写真。二脚は実銃と同じようにワンタッチでレバーを解除し、取り外すことが出来る。

 この二脚はそれなりの重量があり、取り外すと大きく軽量化することが可能であり、取り回しや携行が楽になる。一方で、二脚自体は精密射撃や陣地固定のみならず例えば泥濘地などで銃を地面につけられない場合に役立つ。ストック部分などは、他の小銃よりも幾分短く、扱いが容易であるとされるが、伸縮式ストックであれば尚、個々人に合わせた運用が可能になったのではないかと思う、しかし、冷戦末期にデザインされた時代背景を考慮すれば致し方ないといえる。

89_5  照星(フロントサイト)部分、比較用に並べられているのはH&K MP-5PDW機関拳銃(東京マルイ製)である。89式は上部が開くように設計されているが、PDWはリング状となっている。89式のフロントサイトは蔦などに引っかかると、特に藪漕ぎをしている際に問題が指摘される。PDWのフロントサイトはG-3小銃と同型(G-3小銃の機関部を9㍉拳銃弾用にしたのがMP-5)である為、藪漕ぎをした際にはリング状のものであれば引っかかりにくいのかもしれない。また、出来が華奢なので、折損などの可能性は89式の方が高そうに見える。89式のフロントサイトの独特の形状は測距などには用いられるのだろうか、形状そのものはM-16などのAR-15系統も似ているが、剛性はAR-15系統の方が高そうである。

89_6  照門(リアサイト)部分のアップ写真、やはりPDWと89式を比較している。ダイヤル式で上げ下げする89式小銃とPDWのドラム式のリアサイトが対照的であるが、ドラムを回すことで四段階の照準調整を行うPDWに比べて、ダイヤルを回すことで任意の距離に合わせた照準が可能である89式小銃。しかし、落としたらばリアサイト部分が欠けてしまいそうである。英軍のL-85小銃なども、予備のスチールサイト部分が欠けてしまうことがあるようだ。大事に扱っているならばそうした事故はなさそうだが、それでも万一落としてしまった場合はどうなるのだろうか、AR-15系統などはリアサイト部分が頑丈なスチールで覆われており、PDWやG-3系統はドラム式の堅牢な基部を有している。

89_7  安全装置について、左右どちら側であるかについては見方により異なるが、それ以上に安全から連射、3点射撃、単発となる。その反対に安全から単発に操作することは出来ない。270°回転させなければ単発にはならないのである。これは弾道が不安定であるので連射しなければ当たらないエアガンを用いた訓練では都合はよいかもしれないが、AR-15系統やG-3系統は安全装置は、まず単発から、連射へと操作する方式である。この点で89式小銃は特異であるといえるのだが、例えば弾数制限のあるサバイバルゲームや、若しくは実銃の場合は無用な連射を行う結果となるような気がするのだが、どうなのだろうか。

89_8  PDWと89式小銃。やはりグリップ基部は89式小銃のほうが太い。しかし、滑り止めの形状はしっかりしており、落とすことの無いように一応の配慮は為されているというべきか。なお、弾倉着脱釦(マガジンリリースボタン)は、89式が剥き出しになっているのに対して、AR-15系統やPDWなどG-3系統は溝に囲まれ、誤って押すことが無いようになっている。パウチなどの装具に当たり誤って押すことは無いのだろうか、やや心配にならないでもない。なお、安全装置であるが、PDWは左右に全く同じものが装着されており、閉所戦闘に際しての左右操作性が高い。

89_9  M-203擲弾発射機(東京マルイ製)を装着したM-16A2小銃(東京マルイ製)。マガジン装着部分の深さが89式は浅いことが判る。これはPDWと比較した場合も同様だ。また、AR-15系統は装着部分がラッパ状に広がっており、装着性が高いように思える。

 以上は、訓練により補えるものであるが、もう一工夫あれば非常に使いやすいものとなる可能性を示している。89式小銃はスマートなデザインや頬付し易いストック、持ちやすいハンドガード形状などがあり、幾つかの改善部分を経れば、運用性能は大きく向上するように思う。以上が、東京マルイ製の89式小銃を操作する上で、気付いたことである。

HARUNA

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