京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

 『とんび』

2010年01月21日 | こんな本も読んでみた
昨夜来の雨が残ったまま、暗い一日だった。
軒が低いから普通でも日差しが入りにくいけんね。まっくら“じゃったよ”。

昭和37年、28歳のヤスさんは父親になった。元気な赤ちゃんの名は旭。優しい素敵な美佐子さんと3人の幸せもアキラ3歳の時に暗転。崩れた木箱の山から子供をかばって美佐子さんは命を落としてしまう。
父一人子一人、「とんび」と「鷹」の長い旅路が始まる。重松清著『とんび』。

「…安全運転第一じゃけん」
「…一歩づつ、ゆっくりでええけん、気をつけて下りんといけんど」

会話文には、どこか馴染みのある言葉づかいだと感じつつ、それがいっそうこの作品への親しみとなっていく。著者は岡山県生まれである。

アキラは東京の私大へと進学し、やがて「冬休みはバイトで春休みに帰る…」と、よくある展開。
「いいよね?」「べつにどげんでもええわい」
……
「親父の初孫だよ」
「百まで長生きしんさいよ、あんたは。美佐子さんのぶんの寿命も生きてあげんさい」
会話文がいい。

自分は「親」だと思っていた。それが生きる支えでもあり、時には重荷にもなっていた。だが、自分は「子」でもあったのだ。今まで一度も意識したことはなく、戸籍の上でも親子のかかわりはなくなっていても、ヤスさんはずっと「子」だった。そして、その日々がもうすぐ終わる。…幼くして親と離別していたヤスさんは父に会いに行く…。

昨年の正月、帰省した息子が重松氏のものを読んでいたのは知っていた。
「感動する」…と漏らした一言が忘れられなくて、一年後に題名を確かめて…、このたび母親が読書開始。
父と子。息子の胸の内を少しのぞけただろうか…。やがて彼も親になる日が…。

私も(Jessie の)「親の親」。そしてまだ見ぬ孫のためにも長生きを…。
あらー、ヤスさんと同じ思いだわ…。
コメント (14)
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