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私の札幌生活も17年目を迎えました。これまでのスタイルを維持しつつ原点回帰も試み、さらなるバージョンアップを目ざします。

北東アジアシンポジウム Part Ⅱ

2022-04-07 15:39:27 | 講演・講義・フォーラム等

 気鋭の国際政治学者である中山俊宏慶大教授は舌鋒鋭く米中問題に切り込んだ。アメリカの対中政策は時の政権に微妙な食い違いを見せたことで中国から見透かされてきた点があったのでは、と指摘した。

 

 中山氏は松本氏(昨日レポしたJETROアジア経済研究所主任研究員)とは反対にアメリカ側から見た米中対立について論じた。中山氏は最近テレビにも積極的に顔を出し、その精悍な表情に相応しく鋭く国際政治について論じる国際政治学者として知られる人である。

    

 この日は「バイデン政権と米中対立」と題して原稿なしで持論を展開した。中山氏の言葉で印象深かった言葉は、「国際間の問題においては、国内の警察にあたる仕組みが無い。そのことが今回のウクライナ問題のようなことが生起したときに手の打ちようがない状況を生み出している」と指摘した。世界はこの20世紀末から21世紀にかけて、今回のような剥き出しの暴力が露出するのを曲がりなりにも抑えてきたのだが、ロシアはそうした国際間の現状の弱点を突くかの如く戦争を仕掛けたと指摘した。(このお話は3月17日時点での発言である)ただ、中山氏はロシアはエネルギーだけが頼りの国で、いずれ衰退する国家と呼び、この時点で大きな問題とは認識されていないかのような印象を受けた。

 さて、アメリカ側から見た米中対立であるが、アメリカとしては冷戦終了後において中国はいずれ共産党体制が崩れて民主化されると期待していた向きがあったとした。この点については、私も月刊「文藝春秋」の読者として何度も中国の国家体制が早晩崩壊するとの言説を何度も目にした記憶がある。しかし中国は強かだった。昨日のレポでも紹介したように「二十一字方針」でも分かるように「対抗せず、冷戦せず、開放を継続し、国家の核心的利益は譲歩しない」との方針のもと、開放という資本主義の果実は求めるものの、国家の核心(共産党体制の維持)は譲歩しないと謳い、アメリカが期待していた方向には事態は進展しなかったのがこの十数年の動きである。

 そうした中で登場したのがオバマ政権だった。当時中国は経済的に躍進を続ける一方、政治的には一筋縄ではいかないことにアメリカは気付き始めた時期だった。そのことを察知したオバマはアメリカの対外戦略の重点を中東からアジア・太平洋地域に移す「ピボット戦略」に着手した。つまり中国を明確に対立国として位置付けるとともに、経済力を付けた東アジア・オーストラリアなどの国々との連携を強化する戦略だった。しかし、その時代でもアメリカは、いずれ中国は良い方向(アメリカなど西側世界にとって)に変わっていくのではないかという期待を抱いていたという。

 そして登場したのがトランプ政権である。トランプの登場によってアメリカの対中政策は一気にハードなものになったと中山氏は指摘した。トランプは「中国は望ましい国へと誘導することが可能な国ではない」としてこれまでのアメリカや西欧諸国の歩みを全否定する「ビッグリセット」を行った。ところがここがトランプのトランプたる所以であるが、彼は権威主義的な性向があり、当時の西側諸国の首脳とは肌が合わず、むしろ習近平やプーチンなどといった権威主義者との親近感を打ち出すなどして、西側諸国と連携するどころかアメリカファースト路線を突っ走った。ただ、コロナ期に入り中国を徹底的に敵視することにはなったのだが…。

 トランプの4年間を経て登場したのがバイデン政権である。バイデンは「ミドルクラス外交」を標榜した。「ミドルクラス外交」とは、ごくごく簡単にいうと、アメリカの中間層に益する外交とも言え、トランプ時代に彼の攻撃の矢面に立たされた中間層の復興を最優先課題として、外交においては「積極的に力で対抗するような政策を展開しない」とのメッセージを世界に向けて発したという。こうした姿勢が今のウクライナ問題(戦争)においてもアメリカの対応として表れていると言えそうなのだが、もっと深いわけがあると中山氏は言う。つまりウクライナはアメリカにとって利益を得るに足るクラスAではないという。したがってアメリカがウクライナ戦争に積極的に関与することはないという。対して東アジア・太平洋地域の国々は今や世界経済のエンジンとしてアメリカにとってもなくてはならない地域となっているとウクライナとの違いを指摘する。さらにこの地域では中国、北朝鮮を除き、日本、韓国、オーストラリアをはじめとしてある程度民主的な基盤も出来つつある国であり、アメリカとして大切にしなければならない国々だという。だからアメリカはこれらの国々を「MNNAMajor non-NATO ally)」に指定している。「MNNA」とはNATOの加盟国ではない密接な関係を有する同盟国のことで、軍事的、財政的に優遇を得る国々だという。つまりアメリカにとってクラスAであるこれらの国々がコトある場合はウクライナとは違い、積極的な関与をしてくるであろうとして話を締めた。

 中山氏のお話をどれだけ咀嚼してレポすることができたかというと疑問であるが、私なりに理解できたことを中心にお話をまとめてみた。中山氏のお話は、3月17日の時点ではあったが国際政治を専門とする中山氏にとっては米中問題の先にあるウクライナ問題のことが喫緊の課題であるから話の矛先がそこへ向かうのは当然と思われた。そのウクライナ問題(戦争)であるがお話のあった3月17日からおよそ一か月が経とうとしているが一向に終焉の兆しが見えない状況である。その間に民間人の犠牲者がどんどん増えているとニュースは伝えている。世界は過去に幾多の犠牲を払いながら21世紀を迎えたが、今もってこうした残虐行為を阻止できない状況にあることに慄然とする思いである。これが人間の弱さ、限界だとは思いたくない。なんとか今の状況を一日も早く終息することを願うばかりなのだが…。