あの素朴さはどこへ行ったんだ? あの懐かしさはもう感じられないのか? コンサートを聴きながら私は独り昔を懐かしんでいた。しかし、彼女らは進化したのだろう。私の中だけきっと時間が停まっていたということなのかもしれない…。
それはもう9年も前のことになる。2013年5月12日、中央区とはいっても宮の森の奥まったところにある大乗院薬王寺というお寺の本堂で、歌旅座というグループが「昭和ノスタルジア」と題するコンサートがあり、私はそこに駆け付け彼らのコンサートを楽しんだ経験があった。コンサートは昭和の歌てんこ盛りで、それを素晴らしい歌唱力で披露するのだから私は多いに楽しんだことを憶えている。そのラインナップを転写すると…、
《第1部》
(1)時代 (2)君をのせて (3)ホームにて (4)恋人よ (5)テネシーワルツ ※ここから昭和道草ファイブが加わって (6)花嫁 (7)岬めぐり (8)太陽がくれた季節 (9)いちご白書をもう一度 (10)落陽 (11)ハチのムサシは死んだのさ (12)また逢う日まで (13)恋する夏の日 ※ここで第1部終了
《第2部》
(14)ゴンドラの唄 (15)月の砂漠 (16)蘇州夜曲 (17)胸の振り子 (18)まごころに生きる(南こうせつ作詞・作曲の漕洞宗の歌だそうだ。南こうせつは大分県の漕洞宗のお寺の息子さんである) (19)重ね日(オリジナル) (20)上を向いて歩こう ※ここから再び昭和道草ファイブが加わって (21)恋の季節 (22)青い山脈 (23)学生時代 (24)銀色の道 (25)虹と雪のバラード (26)明日があるさ (27)人形の家 (28)愛は傷つきやすく (29)愛の軌跡 (30)ナオミ (31)涙を超えて
※アンコールとして (32)青春時代 (33)一期一会の深き縁(オリジナル?)
といった具合で生粋の昭和っ子の私は大いに楽しんだ。
※ コンサートはもちろん写真はNGだった。しかし、幕間に出てきた司会太郎の場面はとっても良いだろうと考えシャッターを切った。
その歌旅座が正月早々、教育文化会館でコンサートをすると聞いて懐かしさもあって直ぐに飛びついた。そのコンサートが本日午後、札幌市教育文化会館小ホールで開催された。
教文会館の小ホールはキャパシティ360名ということだが、ほぼ埋まっていた。コンサートが始まってしばらく経った時、私はある種の違和感に包まれていた。コンサートのステージは洗練されていて雰囲気があの時とはまったく違っていたのだ。披露される曲はオリジナル曲とおぼしき曲ばかり、それもメインボーカルの吉田潤子(ステージ名 JUNKO)のソロライブの様相を呈していたのだ。曲目をメモしてきたので一応紹介すると…、
《第1部》
(1)明けない夜が長いなら (2)星の河を渡ろう (3)万華鏡の中で (4)お前野に咲くれんげ草 (5)前へ 前へ Just go! (6)青春の轍 (7)日々是乾杯 (8)もういちど教えてほしい (9)韃靼人の踊り ※ヴァイオリンソロ
《第2部》
(10)流されて伏古 (11)札幌ブルース (12)人生は虹色 (13)イヨマンテの夜 (14)北の暦 (15)虹と雪のバラード (16)大人のクリスマス (17)どさんこどんどん (18)12月の風 ※アンコールで歌旅座のテーマ曲「歌旅」で〆た。
第2部はカバー曲も含んだ構成となっていたが、ほとんど曲はメインボーカルのJUNKOが昨年暮れにリリースしたオリジナルアルバム「JUNKO 2021」に収録されている曲を中心とした構成だった。
※ ウェブ上にあったメンバーの紹介だが、佐久間千絵が抜けて代わりに中林圭太という男性がメンバー入りしていた。
ステージには、ヴァイオリンの高杉奈梨子が絶えず加わり、その他にザ・サーモンズと称する男性3人組が時折り加わってバックコーラスを務めた。しかし、前述したがステージは完全なJUNKOのワンマンショーといった趣だった。私が期待していたステージとはあまりにもかけ離れたものだった。私はがっくりしながらも歌唱力豊かなJUNKOの歌を聴いているうちに、「歌旅座としては当然の変貌なのかもしれない」と思い始めた。つまり彼女らは2009年に札幌市を拠点として現在のコアメンバーによって結成され、当初は北海道を中心にして各地でコンサートを行っていた。そして徐々に名が知られるようになり、現在では本州の各地においてもコンサートを実施しているという。彼女たちは知名度が高まり、自信も付けたことで徐々に路線を変化していったようだ。グループとしては結成14年を経て、ある種当然の変貌なのかもしれない。私一人が2013年当時の大乗院薬王寺のコンサートから時間が停まっていたということなのかもしれない…。う~ん、でもあの時に還ってみたかったなぁ…。