全身状態は安定したが相変わらず認知症の症状は持続した状態で数週間が過ぎた。ある日、娘さんという人が突然私に面会を求めてきた。私は直接主治医ではなかったので特にお話をするような機会はない。ところが私を名指しで面会を希望されている。まあ救急医として現場での活動は当然のことであるので今更挨拶されることも自分は望まない。しかしどうも雲行きがおかしいのだ。しょうがない、会って話を聞くことにした。「はじめまして、○○の娘です」 初対面のこの娘さんの表情は明らかに私に謝意をのべるようなものではなく、少し敵意すら感じられるものであった。通常、初対面の場合、「お忙しいところお時間頂き・・・」とかの前振りくらいはあるだろうが、そうではなかった。「事故の状況なんですが・・・」といきなり用件が切り出された。嫌な予感がした。